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災禍の獣と骸の竜  作者: nauji
七章 四周目 騎士学校
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45 竜の御子

 皇帝との謁見を終えると、爺さんにまた別の部屋へと案内された。


 来客用の部屋なのか、高級そうな机と椅子があるのみ。


 机を挟んで着席すると、おもむろに爺さんが口を開いた。



「最初こそ肝を冷やしたが、よく最後まで口を開かなんだな。褒めてやるわい」


「そりゃどうも。ただ、そもそもが何を話してるのかサッパリだったってのもあるけどな」


「じゃが、陛下の勅命を賜っておる以上、無知というわけにもゆかぬでな。色々と説明してやろう」



 そいつは願ってもない。


 訳の分からない単語が、幾つか出てきてもいたしな。



「それなら、みこ、ってのは何だ? 俺のことを言ってたんだよな?」


「そう焦るでない。順を追って話して聞かせてやるわい」






「まずはそうじゃな……其方そちは人族は何から生まれたか知っておるか?」


「……どういう意味だ? 人族同士の交配でって意味じゃないんだよな?」


「左様。竜が人を、精霊がエルフを、そして魔獣が獣人と魔族を生み出したのじゃて」


「はあ? 何だよそりゃ? そんなもん、習ったこともないぞ」


「それはそうじゃろう。其方そちはまだ碌に学徒として学んでおらんのじゃからな」


「いや、そういう問題じゃ……」



 こちとら、王国では学院どころか魔術局にまで入って学んでたんだぞ。


 だっていうのに、そんな話、例え伝承でだって見聞きした覚えがない。


 伝承では、魔獣によって竜や精霊が滅ぼされた後、どうやって人種ひとしゅが生まれてきたのかってのは、疑問には思ったが。



「これはれっきとした事実じゃ。異論を挟む余地などない」


「どうしてそう言い切れる? 長命なエルフだって、そんな長生きはできないはずだろ」


人種ひとしゅでは無理じゃな。とは言え、今へと伝えたのは人族には違いないがのう」



 何を言ってるんだ?


 まさかとは思うが、魔術の後遺症で頭がイカれてるわけじゃないだろうな。



「遥かな昔より存在し、伝えるモノがおったのじゃよ」


「まさか……それが竜なのか?」


「ほう、少しは物分かりが良いようじゃな。左様、伝承にある竜は実在しておる。いや、正確には”いた”と表現するべきじゃろうな」


「帝国の騎士が竜って呼ばれてるのも、当然関係してるんだよな?」


「それも知っておるのか。ふむ、それもそうか。学院には王宮付きの魔女がおったんじゃったな」



 局長以外は知らないことなのか?



「ちと話が逸れたかの。竜は確かに実在しておった。現在も残っておるのは、骸だけじゃて」



 竜が実在してたからどうだって言うんだ?


 もうとっくの昔に死んでるってことだろ。



「じゃが、流石は竜と称するべきか。骸となり果ててなお、その魂は健在のようでな。その力と知恵を、人族に分け与えたことで、今の帝国があると言っても過言ではない」



 ……何だ?


 何かが引っかかる。


 そんなような話を、いつだか聞いた気が。



「誰あろう、初代皇帝こそが竜の御子みこじゃったわけじゃ」



 そうそう、初代皇帝が魔獣をたおして、帝国を築き上げたとか何とか。


 あれは、誰に聞いた話だったか。


 っと、そんなことよりも、だ。


 やっと”みこ”ってのが出てきたな。



「それだそれ。”みこ”ってのは何なんだよ」


「ええい、そう慌てるでない。人族は皆、竜の因子を生まれながらに備えておる。ただし、エルフや獣人との混血では、その因子は失われてしまうようじゃ」


「いんし?」


「そうじゃのう、分かり易く表現するならば、竜の痕跡、とでも言えば伝わるか?」


「あー、まあ、何となくだが」


「その因子がより色濃く引き継がれておる者ほど、人族の祖たる竜に近しい力を発揮できるというわけじゃ。騎士(しか)り、魔術師(しか)りな」



 魔術の資質自体が、その”いんし”ってモノの所為ってわけか?



「そして竜の御子みことは、竜と意思を通わせることのできる者のことを表しておる。つまりは竜の代弁者じゃな」


「意思を通わせる……? じゃあまさか、あの頭の中に響いてくるのは」


「ヒョホホホホホホ。やはり聞こえておったようじゃな」


「だが、あれは……あの言葉は……」


「我を滅せよ、じゃろう?」


「──ッ⁉」



 不意を突かれた。


 あの声が、また頭の中に響いたのかと身構えてしまった。



「そうかそうか。相も変わらずのようじゃな」


「どうして知って……いや、そうか。他にも”みこ”ってのが居るわけか」


「正確には、居たじゃがな。何せ、御子みこは希少な存在でな。如何な帝国であっても、必ず生まれてくるというわけではないのじゃ」


「単に見付けられてないだけじゃないのか?」


「毎年、全国民に対し、城に来ることを義務づけておるのじゃよ。そこで反応を窺っておれば、おのずと察しは付く」



 じゃあ何か?


 俺みたいに、苦しみだした奴がいたら、ってわけかよ。



「悪趣味だな」


「先も言ったように、そうそう見付かりはせん」


「そもそも、その”みこ”ってのを探す理由は何なんだ?」


「無論、竜の意思を確かめるためじゃて」


「我を滅せよ、ってヤツをか? 何のために? いや、意思を知っていながら、叶えてはやらないのかよ?」


「ヒョホホホホホホ。竜の権能は絶大じゃ、容易く居なくなってもらっては困るわい」



 いや待てよ。


 もう死んでるって話だったよな。


 魂がどうとかって。


 我を滅せよってことは、単純に殺せって意味じゃあないのか。



「オマエら、竜の死骸に何かしてるのか?」


「……さてな。其方ソチが全てを知る必要などあるまい。その資格も無いしのう」



 竜の死骸について、存在を否定しなかったな。


 初代皇帝が力を借りたみたいなことを言っていたが。


 帝国が建国されたのは、おおよそ千年前だったか。


 なら、そのころから、朽ちることなく存在し続けてるわけで。


 その死骸から、初代皇帝と同じように、力を借り続けてやがるのか?


 ”いんし”ってのが強さと関係してるとも言ってた。


 つまり、”いんし”を意図的に操作できる?


 ってことは、竜と呼ばれる騎士は、その産物か?



「竜と呼ばれる騎士は何だ? ”みこ”ってのとは違うのか?」


「あの者らは、力に特化した存在じゃ。御子みこではない」



 つまり”みこ”ってのは、竜の意思を確認するために必要な存在。


 竜と呼ばれる騎士は、竜の力が発現した存在ってわけか。



「その連中はどうやって見付けてるんだ? 竜の意思とやらは受け取れないんだろ?」


其方そちに関係あるのは、御子みこについてじゃ。その力、帝国のために役立ててみせい」



 どうやら、教えたくないらしい。



「なら、”みこ”には他に何か特別な力とかは無いのか?」



 そう、例えば、死んでもまたある時点から繰り返す、というような力が。



「あるやもしれん。が、何せ調べるための検体は、常に不足しておる状態じゃ。遅々として解明は進んでおらんな」



 そういや、俺を研究しようとしてたっぽかったな。


 現状、”みこ”が俺一人なんだとして、竜と呼ばれる騎士は、恐らくあの少女も含めると、三人もいるわけだ。


 ”みこ”は希少な存在。


 対して、竜と呼ばれる騎士は、局長の話だと、帝国に常に存在し続けているとか。


 騎士はある程度意図的に生み出せても、”みこ”はそうもいかないってことか?



「で、俺に何をしろって?」


「陛下のお言葉を、もう失念しおったのか?」


「……そういや、骸を探せとか言ってたか」


「命が惜しくば、言葉遣いには努々気を付けることじゃ。其方そちが如何に希少な存在とはいえ、替えが効かぬわけではないのじゃからな」


「ふーん、命令されてたのは、俺だけじゃあ無かったと思うがね」


「つまらぬ挑発じゃな。説明は終いじゃ。騎士学校へ向かうぞい」


「さっきので城での用事は済んだってわけか」


「皆、歓迎してくれることじゃろうて。其方そちも楽しみであろう?」



 入学試験とやらの雰囲気から察するに、間違いなく目の敵にされるだろうな。


 やれやれだぜ。



「予定を組み上げるまでの間は、騎士学校で生徒として過ごすがよい」



 予定ねぇ。


 竜の死骸を探せってわけか。


 ……待てよ。


 ”みこ”を判別するために、城に呼び寄せるとか言ってたよな。


 それはつまり、この城に竜の死骸があるってことか。


 ……いや、それはそれでおかしい。


 ならなんで、頭痛が消えてるんだ?



「なあ、もう一つ聞きたいんだが」


「説明は終いじゃと言うたばかりじゃろうに。ほれ、行くぞ」


「城に入った途端、頭痛が止んだのはどういう理屈だ? この団証に似た首飾りも、関係あるんだよな?」


「……質問が二つに増えておるようじゃが」


「ケチ臭いこと言うなよ」


「ならば、これが最後じゃ。よいな?」


「分かったよ」



 立ち上がりかけたのを止め、再び座り直してみせた。



「よっこらせと。まあ話は単純なもんじゃわい。城の建材にも、その首飾りと同じ物が使われておるというだけのことじゃて」


「魔獣の骨か」


「何じゃ、知っとるのではないか」


「戦士団の団証と同じだからな」


「同じじゃと? 凡夫どもの猿真似とか? 抜かしおるわい」


「あ? どういう意味だ?」


「こちらが本家本元じゃ。アレは真似ておるだけに過ぎん」



 団証がこの首飾りを真似た物?



「今でこそ希少な御子みこじゃが、かつてはもっと数がおったという。その者らが身に着けておったのを、次第に他の者まで身に着けるようになり、今ではお守りとして、帝国民の殆どが身に着けておる」


「それを王国が真似したってのか?」


「帝国から独立した奴等めが、意味も知らずに形だけ真似たんじゃろう」



 ふーん、そんな経緯だったのか。


 っと、それよりも、肝心の話が聞けてないな。



「魔獣の骨に、竜の意思とやらを遮る力があるのか?」


「そのようじゃな。偶然か意図してか、初代皇帝はたおした魔獣どもを使い、この城を造りあげたわけじゃ」



 何と言うか、とんでもないな。


 この城の規模からして、数百単位だろうに。


 恐るべきは、それだけたおされてもなお滅びていない魔獣の繁殖力か。


 それとも、そんな魔獣の死骸を利用してみせる、人の所業こそか。



「ふぅ、喋り続けた所為で、喉が痛くて敵わん」


「そうかい。そいつは結構。帰りの道中は静かに過ごせそうだ」


「所用を済ませたら、すぐに出立する。それまでは、この部屋で待機しておれ」



 どうせなら、城を見て回っても良さそうだが。



「侍女を寄越す。何か不手際があれば、その責は侍女に向くじゃろうな」


「チッ、大人しくしてればいいんだろ」


「左様。道理を弁えておればよい」






ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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