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災禍の獣と骸の竜  作者: nauji
七章 四周目 騎士学校
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44 謁見

 箱馬車の中で異変が起きた。


 強まり続ける頭痛。


 やがてそれは、耐えられないほどに悪化する。



「ぐッ……がぁッ……」


「ほう、もしや頭が痛むのか? まだ城まで随分と距離があると言うに、もう反応しおるのか。素晴らしい、実に興味深いのう。ヒョホホホホホホ」



 何だってこうも頭が痛むんだ⁉



「あがァーーーッ!」


「ドクター、これはいったい? 何か処置を施さなくて大丈夫なのですか?」


「構わぬ。しばらく放置しておけ。良い気味じゃて、ヒョホホホホ」


「お言葉ですが、陛下にご覧いただくまでに何はあっては……」


「……ぐむぅ、それもそうじゃな。致し方ないのう」



 痛い痛いイたイ痛い痛いイタい痛い痛いいタイ痛い痛い。


 頭が……割れちまう!



「ほれ、これを首に下げておれ。多少はマシになるじゃろうて」



 何かが頭に触れる。


 するとどうしたことか、激痛が鈍痛ぐらいにまでやわらいでみせた。



「がはッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ」


「ほれほれ、しっかり身に着けておかんか。外れるとまた同じ目に遭うぞい」


「……これ、は?」



 随分と昔に、似たような物を見た覚えがあるような……?



「なあに、城に着くまでの辛抱じゃて」



 城に着いたら、どうなるって?


 くそッ、頭が回らねぇ。



「ドクター、彼女は大丈夫でしょうか?」


「問題無い。他の者には影響せん」


「そうでしたか。失礼しました」


「よい、気にするな。どれ、もう半日もせず城に着いてしまうのう。色々と試せんで残念じゃわい」



 あー畜生、頭がいてぇ。






 窓の外をぼぅっと眺める。


 極力何も考えないように。


 少しでも、頭痛をやわらげようと苦心する。


 徐々に視界を埋めてゆくのが、目的地の城なのか。



『──我を滅せよ』


「ぐあぁッ⁉」



 またかよ!


 何なんだ、この声は⁉


 頭の中に、直接声が響きやがる。



「む? もう干渉してきおったのか? 御者ぎょしゃを急がせい。もう緩和する手段は持ち合わせておらんぞ」


「は、ハイ!」


「未だ力は健在か。結構結構。そうでなくては困るというものよ。ヒョホホホホホ」






 どうしたことか。


 あれほど強烈だった頭痛が、ピタリと止んだ。


 僅かな疼きさえ感じられない。



「さてと、まずは風呂と着替えじゃな。支度は任せるぞい。準備が整い次第、連れて来るようにな」


「「かしこまりました」」



 箱馬車から降ろされた先は、もう城の内部のようだった。


 待ち構えていた女性たちによって、何処かへと連れて行かれる。


 此処が帝国の城ってわけか。


 今まで見たどの建物よりも、高くて大きくて広い。


 ただの廊下ですら、馬車が余裕ですれ違えるぐらいはある。


 さてと、半日ぶりぐらいに頭が回るようになったことだし、色々と考えないとな。


 周囲に居るのは、気配から察するに、騎士じゃあない。


 雑用なんかをする一般人なのだろう。


 離脱するのは容易いが。


 これ見よがしに、廊下には等間隔に騎士が配されてもいる。


 逃げ出せば、すぐ騒ぎになること請け合いだ。


 しかし、このままってのもマズい気がする。


 あの爺さんの物言いからして、碌な目に遭わされそうもない。


 だが同時に、情報を得る機会とも言える。


 俺の知らない情報を、色々と握っていそうな雰囲気を、これでもかと漂わせてた。


 この場所でなら、頭痛に悩まされることも無さそうだ。


 動くなら、この場を於いて他にあるまい。



「こちらになります。どうぞ、お入りください」


「ん?」



 開かれた扉の先からは、かなりの湿気を感じた。


 そういや、風呂がどうとか言ってたか?



「すぐに替えのお召し物をお持ちいたします。それまではどうか、ゆるりとおくつろぎくださいませ」


「あ、ああ、どうも」


「では、失礼して」


「お、おい⁉ 何で服を脱がしてくるんだよ⁉ 自分で脱げるっての! もう世話は必要ないって!」


「湯あみのお手伝いを」


「いらねぇ!」



 次々と伸びてくる手を躱す。



「ですが」


「要らん世話だ! 外で待っててくれ!」


「そうは参りません。仕事をまっとうせぬ侍女になど、如何程の価値がありましょうか」



 んなもん、俺が知るか!






 しばしの押し問答の末。


 結局、退出させることは叶わなかった。


 こんなところで、無駄に魔力を消耗するわけにもいかない。


 衆人環視の中、脱衣と入浴を強要される。


 と、首に下げられた物に気が付いた。


 そういや、何か渡されたんだっけか。


 よくよく観察してみると、団証に似ている。


 それも、討伐組の物に。


 印章こそ刻印されてはいないものの、骨のように見受けられる。


 これが頭痛を緩和してみせたってのか?


 どういう理屈だ?



「──差し出がましいようですが、やはりお手伝いが必要なのではありませんか?」


「あ? いや、必要ないって」



 首飾りを外すことは躊躇われたので、他を全て脱ぎ去り、さっさと湯に浸かる。


 何故だか、残念がるような声が背後から聞こえた。






「お召し物のご用意が整いました」


「ああ、どうも」



 めっちゃ見られてる。


 服を置いて下がる様子もない。



「服は置いておいてくれ」


「それではお召し物が汚れてしまいます」


「いや、床じゃなくて、棚の上とかで構わないから」


「そういうわけには参りません」


「……じゃあ、せめて拭く物を」


「こちらにご用意しております。すぐにお拭きいたしますので、ご安心くださいませ」



 大人しく湯に入らせたのは、これを見越してのことだったのか。


 ずっと湯に浸かっているわけにもいかない。


 色々と諦めて、身を委ねることにした。






 羞恥を味わった末に案内されたのは、一際大きな扉の前。


 両脇に控える騎士とは別に、爺さんが苛立たしげに待ち構えていた。



「大変お待たせいたしました。準備万端、整いましてございます」


「ようやく連れて来おったか。逃げられでもしたかと勘繰っておったところじゃ。それにしても、随分と時間がかかったものだのう」


「申し訳ございません」


「おい、うざ絡みするなよ。俺がもたついてただけだ。文句なら俺に言え」


やかましいわい」


「騒いでんのはそっちだろ」


「何じゃとぉ?」


「静粛に願います。既に陛下が中でお待ちです」


「ぐ、むぅ。ええい、いつまではべっておる。さっさと元の作業に戻らんか」


「「はい、それでは失礼いたします」」



 深々と頭を下げると、音も無く立ち去ってゆく。



「世話になった。ありがとな」



 その背に、感謝の言葉を告げておく。


 と、その足を止めて、態々頭を下げてきた。



「とんでもございません。僅かでもお役立ちできたのであれば、是幸いにございます。また、何なりとお申し付けください」


「ええい、早う下がらんか」


「はい」


「ふぅ。さてと、其方そちに言うておくことがある。中に入ったら、決して陛下に視線を向けてはならぬ。声も発するな。受け答えは全て我輩がするでな」


「そうかい」


「本当に分かっておるのか? 陛下のご不快を買えば、即命を落とすと心得よ」


「そいつはおっかないな」



 この扉の先に、皇帝が居るってわけか。


 何だって、単なる留学生風情に会うつもりになったんだかな。



「準備はよろしいか?」


「ああ、よろしく頼むぞい」





 これまた無駄に広い空間。


 床には、縦長の絨毯が壇上へと続いている。


 人影は三つ。


 壇の下に立つ二人と、壇上に座す一人。


 その内の一人には、見覚えがあった。


 制服姿から白装束へと変わってこそいるものの、今朝ぶりに見る銀髪の少女。


 もう片方は見覚えの無い、黒装束を身に纏ったガタイのいい男。


 もしかして、アイツが黒竜なのか?


 そういや、皇帝ってのはどんな奴──。



「──れ者めが、顔は下を向けておかぬか。視線は足元に固定せい」



 爺さんが小声で指示を与えてきた。


 無駄に逆らうことはせず、言うとおりに従っておく。



「──そこで止まれ。片膝立ちの姿勢で頭を下げておれ」



 へいへいっと。



「皇帝陛下に於かれましては、ご健勝のこと祝着至極に存じます」


「爺よ、挨拶は省け。結果だけ報告せい」



 声の感じからして、皇帝ってのは、結構若い男らしい。



「ハッ。これなる王国からの留学生、まず間違いなく、御子みこの資質を有しているかと」


「ほぅ、王国になんぞに御子みこがな。まことの話とすれば、彼奴きゃつめ、いよいよ以て手段を選ばぬとみえるな」



 みこってのは何のことだ?


 また俺の知らない情報かよ。



「それだけではございません。騎士学校にて、干渉を受けてもいた様子でして」


「……確かか? 随分な距離のはずだが」


「この目でしかと。つきましては、陛下にお願いいたしたく」


「またいつものように、検体に寄越せ、か?」


「いえいえ、滅相もございません」


「ならば要らぬと申すか」


「い、いえ」


「今回は検体は無しだ。別の使い道を思いついた」


「……と、仰いますと?」


「骸探しだ」


「おお! なるほどなるほど、流石は陛下。ご慧眼けいがん、感服いたします」


「無為な追従ついしょうはよせ。各地を巡らせ、新たな骸を探させろ」



 むくろ?


 何かの死骸を探せってことか?



「では、騎士学校は如何いたしましょうか」


「些末事だな。問題か?」


「各地へ赴かせるとして、少なからず人目につきましょう。王国の者に見つからぬとも限りませぬ」


「面倒なことだ。ならば不信を抱かせぬ程度に済ませよ。差配は任せる。ついでだ、白銀はくぎんを護衛とするがよい」


「御意に。全ては陛下の御心のままに」


「これからは余の帝国のため、忠心を尽くすがいい、竜の御子みこよ」






ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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