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災禍の獣と骸の竜  作者: nauji
七章 四周目 騎士学校
52/97

43 護送中?

「──ううッ⁉」



 酷く頭が痛む。


 寝起きの割に、妙に気怠い。


 ってか、此処は何処だ?


 見覚えのない場所……だよな?



「ようやっと目覚めたようじゃな」



 ……誰だ、この爺さん。


 見覚えは無い……よな?



「アンタ誰だ? 此処は? 何がどうなってる?」


「ヒョホホ、元気なもんじゃ。では順番に済ませようかのう。我輩は医者……というよりかは研究者と言ったほうが相応しいじゃろうな。此処は宿屋。現在、城へと赴くべく、移動の最中に宿泊しておる」


「城……? 確か、騎士学校に行ったはずじゃ……?」


「左様。闘技場での一件、とっくりと観戦させてもらったわい。いやはや、実に興味深い」



 とうぎじょう?


 最近、聞いたような気が……するような、しないような。



「よもや王国に現れておるとは意外じゃったが、態々留学生として見舞えるとはのう。これは思わぬ拾い物じゃったわい。ヒョホホホホ」



 何だ? 何を言ってる?



「もしも陛下の御裁可を賜れた暁には……ヒョホ、ヒョホホホホ」


「分かるように説明しろ」


「いかんいかん。年甲斐もなく、ついはしゃいでしもうたわい。して、何を知りたいんじゃ?」


「俺が此処に居る経緯は?」


「はて、覚えておらんのか? 干渉による副作用じゃろうか……いやしかし、彼我の距離を鑑みれば……」



 ブツブツと、何を言ってるんだ?



「おい! 爺さん!」


「おっと、ついつい思案にふけってしまうわい。知りたいのは経緯じゃったな。どれ、ざっと説明してしんぜよう」






 そう、そうだった。


 試験とやらで、強制的に戦わされたんだったな。


 確か最後に銀髪の少女と戦って。


 それで……それで、どうしたんだ?



「最後はどうなったんだ?」


「勝敗という意味か? であれば、引き分けになったわい」


「引き分け?」


「左様。共に気絶しおったからのう。嬢に何が起こったのやら」



 気絶した?


 それから今の今まで、気を失ってたってことか?



「ふぅ、喋った所為か、ちと喉が渇いたのう。どれ、水を貰ってくるとしようか」


「あ、ならついでに俺の分も頼む」


「良かろう。大人しゅう待っておれ」



 ……出て行ったか。


 随分と奇妙な爺さんだったな。


 気怠さはあるものの、手も足も問題なく動く。


 頭痛も多少は治まってきた。


 窓から見える様子からして、もう夜みたいだな。


 さて、これからどうしたものか。


 聞いてた感じ、騎士学校では無いらしいが。


 何か、城に行くみたいなことも言ってたよな。


 試験には不合格だったってことか?


 いやでも、それなら城に連れていかれる理由は何だ?


 局長からの注意も空しく、これ以上ないぐらいに目立った。


 とはいえ、状況から言って仕方がなかったが。


 負けたら殺されるか、何かの実験体にでもされそうな雰囲気だったしな。


 ……いや待て。


 あの爺さん、研究者だとか言ってなかったか?


 これは……割とマズい状況か?


 魔術を使えば逃げるのは容易いだろうが。


 その後をどうしたものか。


 帝国まで来ておいて、何も成せずに帰るなんて選択肢は当然却下だ。


 いっそのこと、城の誰かを操って、滞在するってのもアリなのか?


 今、皇帝を操っても、時機が早過ぎる。


 まあ、魔獣の数を減らしておくことは、後々意味を持ってはくるかもしれないが。


 結局のところ、あの怪物が自在に魔獣を生み出せるなら、事前に数を減らしておくことには、あまり意味が無いようにも思える。



「ヒョホホホ。結構結構。逃げずにおったようじゃな」



 戻ってくるなり、随分な言い様だな。


 退出して見せたのは、わざとだったのか?



「もっとも、宿周辺には騎士を配しておるでな。大人しゅうしておるのが、身のためじゃろうて。ほれ、水じゃ」


「……どうも」


「安心せい、毒など盛ってはおらんよ。何なら、代わりに飲んでみせようか?」


「いいや、その必要はない」


「良いのか? 毒入りじゃぞ?」


「おい、どっちなんだよ」


「ヒョホホホ。其方そちをより深く知るために、城に着くまでの間、色々と試させてもらおうかと思ってな」



 取り敢えず、コイツから提供される物を口にするのは、止めておいたほうが良さそうなのはハッキリしたな。


 仕方ない、自分で取りに行くか。



「おや、今更逃げ出すつもりか? 先程も言ったが──」


「何処にも逃げやしない。水が欲しいだけだ」


「何じゃ。折角持ってきてやったものを、飲まんのか?」


「まあな」


「して、この宿の水が何故安全だと思うんじゃ?」



 ……ったく、このジジイ、いちいち面倒臭い奴だな。



 ≪念話テレパシー≫ ≪催眠ヒュプノシス



 精神魔術の中級と初級の複合。


 手を触れずに、暗示を施す。



「真実のみを語れ」


「──はい」


「この宿の水は安全か?」


「──安全、です」



 ハッタリかよ!


 色々と聞き出したいことはあるが、今は喉の渇きをどうにかしたい。


 さっさと水を貰ってこよう。



「この部屋を動くな」


「──はい。分かり、ました」



 チッ、また頭が痛みだしたな。






「──逃亡?」


「うおッ⁉」


 銀髪の少女!


 コイツも居たのかよ!


 一階の食堂に、他の騎士の姿は見当たらない。


 他の連中は外なのか?


 少女が食事の手を止め、こちらに向き直る。


 途端、戦った時と同様に、あの嫌な感覚が戻ってくる。



「待て待て、俺はただ水を飲みに来ただけだ」


「……そう」



 剣呑な気配が霧散してゆく。


 もうこちらに興味は失せたのか、食事を再開した。


 ……妙に素直な奴だな。


 一応警戒しつつ、水を貰いに奥へと向かう。



「すまない。水を貰いたいんだが」


「ああ、構わないよ。コップがいいかい? それとも瓶かい?」


「それじゃあ、瓶で頼む」


「あいよ。ほら、どうぞ」


「ありがとう、助かるよ」



 さっそく口をつけ、喉を潤してゆく。



「おいおい、そんなに勢いよく飲んじまって大丈夫かい?」


「──プハァッ! ふぅ、大丈夫だって」


「そうかい? ならいいんだが」


「あーそれと、何か食べらるか?」


「……確認しとくが、アンタ、うちの宿泊客なんだよな?」


「ああ、そのはずだ。寝てる間に爺さんに連れて来られた」


「さっきのお爺さんのお連れさんだったのかい。なら座っとくれ。すぐに用意するよ」


「よろしく頼む」



 念の為、少女とは離れた位置に腰かける。


 まあ、距離を取ったところで、意味は無いかもだが。


 戦った際に見せた動きを思い出す。


 尋常ならざる速さだった。


 そして、容易く金属製の盾を切断してみせる技量。


 彼女もまた、竜と呼ばれる騎士の1人なのだろうか。


 もしくは、彼女こそが黒竜なのか。


 あの時、最初の一撃が横薙ぎではなく突きだったなら。


 きっと無事には済まなかった。


 まさか、初日に遭遇するだけでなく、戦う羽目になろうとは。


 早々に死ぬところだったぞ。


 考えてみれば、あの怪物に殺される以外の要因で死んだ場合、また繰り返すことが可能かも不明なのだ。


 怪物をたおせば、この繰り返しから解放されるのか?


 分からない。


 そもそも、あの怪物が原因なのかすら、定かじゃない。


 少なくとも局長が知らない以上、王国に情報は無さそうだ。


 帝国でなら、何か分かったりしないだろうか。



「──はいよ、お待ちどうさん」


「あ、ああ、ありがとう」


「寝起きみたいなことを言ってたから軽めにしといたよ。足りなかったら言っておくれ」


「分かった」



 まあいい。


 怪物を確実にたおせる方法さえ見出せれば、例え何度繰り返そうが、それをなぞれば済む話。


 その後でゆっくりと、繰り返しを脱する方法を探すだけだ。


 もしかしたら、怪物をたおせば、そっちも解決するかもだしな。






 部屋に戻ると、まだ爺さんは棒立ちしたままだった。


 まあ、別に座らせなくてもいいか。


 消耗させておいたほうが、今後も何かとやり易いだろうしな。


 よく分からん実験に付き合わされたくもない。


 ベッドに腰かけ、何を聞き出すべきかを考えてみる。


 まず気になるのは、このままだとどうなるかってとこだよな。



「質問に答えろ」


「──はい」


「俺を城へ連れていって、どうするつもりだ?」


「──陛下へ、ご報告、を」


「何を報告する?」


「──王国、留学生、監視、結果、干渉、因子、可能性、興味」



 おいおい、いきなりどうしたんだ?


 妙に断片的な内容に変化しやがって。



「もっと正確に報告内容を答えろ」


「──お、おうこ、く、あ、あああ、おうこ、く、ああ、おう、こく、あああ」



 ったく、何なんだよ。


 爺さん相手に使ったら、マズい魔術だったのか?



「あああ、ああああああ」


「チッ、もういい。別の部屋へ行け」


「あああ、あああ、あああ」



 ヨロヨロと扉へと歩いてゆく。



「黙って動け」



 ようやく、不快な声を発しなくなった。


 そのまま廊下へと姿を消す。



「ふぅ、やれやれだ」



 放置し過ぎたのが悪かったのか?


 それとも、体だけでなく、魔力も強まってるとかか?


 寝るように指示を与えなかったから、効果が切れるまで、ずっと立ち尽くしてそうだが。


 明日になっても元に戻ってなかったらどうしたもんか。


 ……まあ、明日考えればいいか。


 取り敢えず、寝ておこう。






 のんびり朝食を取っていると、爺さんが少しふらつきながら食堂に姿を現わした。



「我輩に何をしおった! 白状せい!」



 ふむ、どうやら正気には戻れたらしい。


 機嫌は最悪のようだが。



「どうかしたのか、爺さん」


とぼけるでない! 昨晩、何かしおったじゃろう!」


「おいおい、こりゃあいったい、何の騒ぎだい?」


「騒がしくしてすまない。どうやら爺さんがボケちまったらしい」


「何じゃと! 言うに事を欠いて──」


「あんまり興奮すると、頭の血管が切れちまうよ、お爺さん」


「ええい、やかましいわい! 凡夫風情が気安く触れるでない!」



 流石に宿にも他の客にも迷惑過ぎるか。


 とっとと出たほうがいいな。



「ご馳走さん。美味かったよ」


「お、おう、そいつはどうも。って、そんなことよりも──」


「ああ、分かってる。おい爺さん、これ以上は迷惑になる。外に行こうぜ」


「何をぬけぬけと! そもそも其方そちが──」


「あーはいはい、続きは外でな」



 喚き散らす爺さんを拘束すると同時、隣に気配が生じた。



「……おいおい、此処で暴れてくれるなよ? 俺はただ、外に出るだけだ」


「出すなと命令。行かせない」



 気配が強まる。


 全身が逃げろと訴えてくる。



「そうかい。俺は遠慮なく爺さんを盾にさせてもらうが、それでもいいんだな?」


「ん」


「ま、待て、止さんか! よい、命令は撤回じゃ。外へ出るぞい」


「了解」



 どうにも先行きが不安で仕方がないね。






ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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