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災禍の獣と骸の竜  作者: nauji
七章 四周目 騎士学校
48/97

40 交換留学

『我が元へ来たれ』


『我を滅せよ』






 不快に過ぎる声。


 いつだかも聞いた声。


 そうか、これだったのだ。


 念話を不快に感じる理由が、やっと分かった。


 意識が覚醒すれば、いつもの川岸。


 これで四度目。


 見飽きた場面に、見知った人物たち。


 またこうして、俺だけが戻って来てしまったのか。


 討伐は目前だった。


 まさか怪物が魔獣を大量に発生させてみせるとは、誰が予想できようか。


 王国の戦力では、あの物量には到底対処しきれまい。


 局長と会話している、全身赤色の帝国騎士へと視線を向ける。


 死の直前まで見ていた光景を思い出す。


 圧倒的だった。


 あのような状況にさえおちいらなければ、魔獣相手に不覚など取らなかったことだろう。


 彼のような存在が、もしまだ居るのであれば。


 帝国の協力は必要不可欠。


 ……ではあるのだが、どうやって繋ぎを付けたものか。


 いや待て、局長に経緯を説明しておくのが先だよな。


 色々と準備を整えてもらわないとだし。


 幸い、念話を使えば、前回よりも格段に事情を伝え易い。


 後やっておくべきことは……。


 そうそう、忘れずに例の商会を潰しておかないとな。






 所変わって、辺境伯の館。


 はてさて、今回はどう対処したものか。


 前回のやり方はマズかった。


 アイツを巻き込んでもしまったしな。


 とはいえ、手数はほぼ増えてないに等しい。


 覚えた魔術と言えば、念話と遮断のみ。


 一応、上級の仕組みを教わりはしたが、習得までには至らなかった。


 結局のところ、仕組みは中級と似たようなモノ。


 組み合わせか強化、これに尽きる。


 まあ、それができないのだから、言うは易しに過ぎないのだが。


 そういえば、念話は効果範囲に優れていた。


 上手く応用できれば、前回のように態々出向かなくとも、遠距離から事を済ませられるかもしれない。


 念話で相手の脳に直接干渉し、そこに暗示でも施してやれれば。


 待てよ……干渉できるってことはつまり、接触しているのと同じことなのか?


 なら、初級を併用できるか?


 初級と中級の応用、か。


 あの一番偉そうな奴に自供させれば、案外すんなり解決しそうに思える。


 懸念材料は俺自身。


 この時点で扱える魔力など、ごく僅か。


 前回は、複数人を操ろうとして失敗した。


 失敗は活かしてこそ価値が生まれる。


 生徒たちから離れ、何となくの方向へと手を伸ばす。


 目を閉じる。


 思い浮かべる。


 あの家を、あの部屋を、あの人物を。


 どれもが過去の記憶。


 忌まわしい所業を弾劾してやろう。


 見えない手を、目標へと伸ばし続けるように。


 暗闇の中を、ひたすらに進む。



「ねぇってば! どうかしたの? 大丈夫?」


「うおッ⁉」



 背中への衝撃と至近からの声で、魔術が霧散する。



「……ハァッ、またオマエか」


「また? またって何よ? アンタとは初対面なんだけど」



 特徴的な黒髪に交じる赤色の一房。


 いや、髪色など関係ない。


 声だけでだって、判別できる。



「俺は大丈夫だ。皆の所へ戻れ」


「やっぱり話を聞いてなかったのね。もう移動よ。さっさと来なさいよね」


「あ、おい、引っ張るなっての」



 チッ、タイミングの悪いことで。


 また離脱を図っても、コイツが付いて来そうなもんだしな。


 どうしたもんかね。


 ……いや、何も俺が仕掛ける必要もないのか?


 念話で局長に事情を伝えれば、対処してもらえるんじゃないか?


 そうだな、そうしとくか。






「さて、呼び出された理由について、説明する必要はありますか?」


「いえ」



 この部屋を訪れるのも、随分と久しぶりだな。



「結構。例の商会については、手配しておきました。近日中には対処されることでしょう」



 近日中、か。


 あの時、邪魔が入らなきゃ、すぐにも助けられただろうにな。



「ありがとうございます、局長」


「……どうにも、生徒からその呼び方をされるのは、妙な気分ですね」


「すみません、つい習慣で」



 流石に8年も魔術局に勤めてたからな。


 もう局長呼びが定着してしまった。



「……まあいいでしょう。本題に入りましょう。移動中に見せてもらった映像、それについての詳しい説明をお願いします」


「分かりました」






「……にわかには信じ難いですね」


「でしょうね」


「とはいえ、部外者が知り得ない情報も多い。そしてあの映像。妄想と断じることはできませんか」


「どうか、今から準備のほどを、よろしくお願いします」


「いいでしょう。備えておくことに否やはありません。むしろ問題になるのは、アナタの処遇についてのほうでしょうね」


「どういう意味でしょうか?」


「アナタは既に中級魔術を習得している身。魔術局で管理されるべき人材に他なりません」



 魔術局でやれることなど、そう多くはあるまい。


 それよりも、帝国に対して何か行動を起こしたほうが、より有意義だろう。



「できれば、自由に行動させていただきたいのですが」


「自由に、ですか。何をしようと言うつもりです?」


「怪物と戦うには、帝国の協力が不可欠と考えます。ですので、帝国へどうにか交渉しに行けないかと」


「帝国……」



 指が数度、机を叩く音だけが響く。



「入国には様々な手続きが必要になります。加えて長期滞在など、要人や商人ですら容易く認められるものではありません」


「そう、ですか……」


「ですが一つだけ、方法が無いこともありません」


「それはいったい?」


「生徒の交換留学制度です」


「……あ」



 そういやあったな、そんな制度。


 誰が利用するんだとか、思ったもんだが。


 よりにもよって、俺がやることになるのか。



「魔術局に勤めていたならば、教養という面では申し分ないでしょう。年齢にそぐわぬ点については……そうですね、ワタシの内弟子としておけば誤魔化せるでしょう」



 前回もそんな肩書だったよな。



「魔術が気掛かりではありますが」


「どうしてですか?」


「帝国に魔術師は存在していません。もっとも、資質を備えた者が存在している可能性は、十分考えられますが」


「つまり、悪目立ちすると?」


「それだけで済めば良いのですが。魔術師がどういう扱いを受けるか、知れたものではありません」



 おいおい、じゃあ何だって、交換留学だなんて制度があるんだよ。



「アナタも見たはずです、彼の竜の圧倒的な強さを。帝国は、ワタシたちの知り得ない事情を抱えているように、思えてなりません」


「竜って、騎士のことですよね?」


「一般の騎士とは隔絶した強さを誇っています。そして、帝国は常に竜と呼ばれる騎士を従えていると聞き及んでいます」



 常に……?


 魔術師みたく、何か資質があって、それを育てているとかか?



「伝承の竜と関係があるんですか?」


「分かりません。ですが、全ての騎士が竜と呼ばれるに至っていないことを鑑みると、条件はあるのでしょう」



 魔術師の数を考えれば、竜と呼ばれる騎士は少な過ぎるよな。


 10人もいれば、魔獣ぐらい殲滅できそうなもんだが。



「現状、存在を把握しているのは、赤竜と黒竜の2名です」



 赤竜ってのが、助けに来てくれた赤装束の騎士のことで間違いあるまい。


 ただ、黒竜って奴は、未だに見たことも無い。



「赤竜は国境警備を、黒竜は皇帝の警護に就いています」



 なるほど、それで見たことが無いのか。



「遭遇する機会があるとは思えませんが、くれぐれも用心するように」


「では、交換留学生として行ってもいいと?」


「失敗を繰り返すなど愚考の極み。より確実な方法を選ぶべきだと、ワタシも考えます」


「ありがとうございます」


「留学先は騎士学校。もしかしたら、他の竜が在籍していないとも限りません。重ねて言いますが、用心してください」



 ここに来て、また生徒になるわけか。


 生徒の立場から、どうやって騎士の派遣までこぎつけたもんかね。



「交換留学が成されたとして、その後にどうやって連絡を取ったものでしょうか」


「手紙ではダメなんですか? 中を確認されたりしますかね?」


「確かに、検閲される可能性もあり得ますね。加えて、届くまでの時間も問題でしょう。交易とて自由に行き来できるわけではありません。ましてや一般の手紙となると、届くのはいつになることやら、知れたものではありません」



 手紙が使えないとなると、念話か直接会うぐらいしか、方法が無いんじゃ。



「年に一度、帝国の城内にて会談が執り行われています。その際に、アナタとも連絡が取れれば良いのですが」


「ちなみに、留学先はどの辺りにあるのでしょうか?」


「騎士学校は、帝都南部に位置しています」


「城には近いんでしょうか? もし副局長も同行されるなら、念話での遣り取りが可能かもしれません」


「なるほど、その手がありましたか。ですが、あいにくと距離があり過ぎますね。馬車で3日は掛かりますから」



 そうそう上手くはいかないか。


 まあ、連絡が必須というわけでもないけどな。


 いざとなれば、精神魔術を使って、都合のいいように指示をださせれば、騎士の派遣ぐらいならできそうに思える。



「彼女だけでもアナタとの連絡が取れるよう、何か手を考えておきましょう」


「無理はしなくても大丈夫ですよ。自分だけでも、どうにかしてみせます」


「魔術を使ってですか? 気を付けるように言ったはずですが」



 流石に見破られてるか。



「魔術は防ぐこともできるのです。頼みにし過ぎれば、いざ通用しなかったときに、困ることになるでしょう」



 まあ確かに、困るだけじゃあ済まないだろうな。



「そもそもの疑問なんですが、王国出身の者が帝国騎士に成れるんでしょうか?」


「前例はありませんね。交換留学の制度自体、建前のようなものでしたし」


「建前とは、どういう?」


「王国が魔術の存在を秘匿しているわけではない、ということです」



 ふーん、政治だか外交だかが関係してるのかねぇ。


 ……ん? ってことは、帝国だって騎士に関しては、同じように対応しているわけだよな?



「今更ですが、向こうの対応如何では、この話は立ち消えとなります」


「それはまあ、そうですね」


「数日では決まることは無いでしょう。それまでの間、アナタには魔術局で生活を送ってもらいます」


「……えっと、それだと交換にならないのでは? 交換が成立した場合、騎士がこっちに来るんですよね? 怪しまれませんか?」


「ですが……いえ、そうですね。入学してすぐに出席していないのでは、不自然に違いありません。しばらくは学院で過ごしてもらいましょう」


「分かりました」


「ならば、今日の内に副局長に会わせておきましょうか。事情を説明してもおきたいですし」


「はい、構いません」



 帝国行きがどうなるか。


 結局は、向こうさん次第ってわけか。


 もしも叶わなかった場合は……どうしたもんかね。






ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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