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災禍の獣と骸の竜  作者: nauji
六章 三周目 魔術局
45/97

38 STOP

 魔術の覚えが良いと見なされ、魔術開発に回された。


 上級はそもそも未収得のため、中級ないし初級の、新たな精神魔術の構築が課題となるわけで。


 中級は初級の複合、または、初級の強化が主。


 よって、新たな初級を見出すことが、より重要になってくる。


 とはいえ、だ。


 主だった感情や本能に作用する精神魔術は構築済み。


 即ち、新しい魔術とは、新しい感情にも等しい。


 既知のモノを覚えるのと、未知のモノを創り出すのとでは、難易度が違い過ぎる。


 こればっかりは、過去の経験を活かせもしない。


 あれほど長く感じた一日が、瞬く間に過ぎてゆく。


 何も成せないままに、貴重な時間だけが失われ続ける。


 自分に起こっている現象こそ特殊と言えるが、俺自身は凡人に過ぎない。


 せめて、過去に目新しい何かを見知ってさえいれば。


 何かしらの貢献はできたのかもしれないのだが。


 今までが順調に感じていた分、何の成果も出せない状況は殊更に堪える。


 停滞が続く。






『うがー、何も思い浮かばねー』


『あーでもない、こーでもない』


『オレの考える最強の精神魔術~、みたいなのでいいんだよ。何か思い付けよ』


『ごめんなさいごめんなさい。何も思い付かなくてごめんなさい』



 独り言ならぬ、念話の乱放出。


 これが余計に思考を乱してくる。



 ≪遮断ブロック



 精神魔術の中級。


 周囲の局員から無駄に発せられる念話を遮断する。


 まったく、息苦しいったらない。


 ここのところ、念話をしてなくても頭痛がする始末。


 こうも閉じ籠ってばかりいては、同じ考えしか思いつかないだろうに。


 フラフラと研究室から出る。


 廊下に出ても、気分は晴れやしない。


 外の空気が吸いたい、景色が見たい。


 痛む頭をさすりつつ、階段を目指す。






 ズン。


 ……揺れてる、のか?


 階段を上る途中、微かな揺れを感じた。


 念の為立ち止まり、様子を窺う。


 10、20、30と数え続けても、何も起こらない。


 歩みを再開する。



『今何処です⁉ 何故研究室に居ないんですか⁉』


「──あがッ」



 遮断を突破して、念話が届く。


 堪らず壁に寄り掛かり、強烈な頭痛に耐える。



『無事なら返事をしてください!』


『うるせえよ。頭痛で死にそうだ』


『良かった、無事だったんですね。今何処に居るのです?』


『階段だよ。息抜きがてら、外に出ようかと思ってな』


『そちらは揺れなかったのですか?』


『少し揺れたな。なあ、無駄に世話を焼くのは止めてくれ。もう気は済んだろ』


『少し? こちらはかなりの揺れでした。本当に無事なんですね?』


『こっちは何ともないが……おい、そっちこそ大丈夫なのかよ』


『……上階のほうが揺れが少ない? では念の為、地上まで出てください。くれぐれも、地下には戻らないように』


『お、おい! そんなにヤバいのかよ⁉』


『心配無用です。それでは』



 アホか!


 心配しか覚えないだろ!


 まだ痛む頭をさすりながら、上ではなく下を目指す。






「──おい! 無事か⁉」



 できるだけ急いで研究室へと戻って来た。


 部屋の中では、書類や機材が床にぶちまけられている。



「ほらね、やっぱり戻って来たでしょう?」


「何だかんだ言いつつ、主任のことが心配なんですってば」


「だなー。はたから見てる分じゃ、まるきり姉弟のそれだ」



 いきなり随分な言われようだった。


 局員は落ち着き払っており、特に慌てている様子もない。



「もう……何で戻って来るんですか」


「あんな意味深なこと言われて無視できないだろ。誰も怪我はしてないのか?」


「ええ。というか、忘れていませんか? ワタシを含めて、この研究室には治癒魔術師が複数名居るんですよ」


「だからって、怪我しないわけじゃないだろ」


「それもそうですけど。ご覧のとおり全員無事です。今は、万が一に備えて、必要最低限の資料なんかを選別していたところです」


「避難するのか?」


「ええ。状況がハッキリするまでは、そのほうが良いでしょう。ですから、外に行くように伝えておいたのに」



 言葉が足りないにも程があるだろ。


 にしても、此処は結構揺れたみたいだな。


 階段でこれだけ揺れてたら、結構危なかったかもしれない。



「なあ、さっきみたいなのって、割とよくあることなのか?」


「いいえ、そんなことはありません。もしかしたら、最下階で何らかの実験が行われたのかもしれませんね」



 そういや、最下階には行ったことがないな。



「最下階には何があるんだ?」


「二階層分、吹き抜けの実験場となっています」


「……随分な広さだな」


「外に出せないモノもありますからね。普段使っている階段とは反対側に、貨物用の昇降機が設置されています」


「しょう……何だって?」


「昇降機です。歩かなくても昇り降りできる便利な装置なんですよ」



 そんなもんまであったのか。


 意外と知らないもんだな。



「──主任、そろそろ」


「忘れ物はありませんか?」


「はい」


「大丈夫です」


「問題ありません」


「あのー、自室に寄ったりとかは」


「却下です。では、皆は慌てず地上に避難を。ワタシは局長と連絡を取ります」


「来ないのか?」


「ワタシは副局長の任を預かる身です。局長に何かあれば、ワタシが全体指揮を執らねばなりません。さあ、キミも行きなさい」


「……分かった。気を付けてな」


「ええ。キミも」






 以降、何度か揺れが起こった。


 それっぽい別れの演出をしてはみたものの、いずれも微々たるもの。


 揺れの原因は、やはり最下階での実験によるものだったらしい。


 翌日、局長の部屋へと呼び出された。



「改めて尋ねたいことがあります」


「何だ?」


『敬意! 何でそう言葉遣いを改め──』



 ≪遮断ブロック



 精神魔術の中級。


 同席している眼鏡女の念話を遮断する。



「アナタの目撃したと言う消滅現象。規模はどの程度でしたか? できるだけ正確に教えてください」



 何だってまて、そんな話を蒸し返してくるのやら。


 ええっと確か、あの時は王宮のある高台から見下ろしていたはず。


 魔術局と学院に、魔獣が群がっていた。


 白い発光。


 その後、建物は跡形も無くなり、地面も抉れていた。



「正確にって言われてもな。魔術局と学院は無くなってたのは確かなんだが。それ以上となると、判断がつかないな」


「魔術局の地下はどうでしたか?」


「……いや、覚えてないな。そもそも地下があるとも思ってなかったしな」


「そうですか」


「それがどうかしたのか?」


「昨日、とある実験……いえ、事故が起こりました」


「……おいおい、穏やかじゃないな」


「幸い、死傷者こそ出ませんでしたが、施設の一部が消滅しました」


「それってつまり……」


「魔石の消滅現象です。臨界点を見誤り、複数同時に消滅した結果、単体では起こり得ぬ規模の消滅現象が発生したのです」



 眼鏡女が騒がないってことは、事前に知らされてたってわけか。



「アナタの目撃したと言う消滅現象は、その規模から察するに、大量の魔石による反応と見て、まず間違いないでしょう」


「魔石が多ければ多いほど、規模が増すってことか」


「いえ、単純に数を揃えれば良いという話ではありません。接触した状態、且つ、同時に臨界を迎えること。それが条件のようです」



 昨日、何度か揺れたのは、それを検証してたってわけかよ。



「そんな話、俺に聞かせて良かったのか? 結局、携われてやしないんだが」


「次回への備えです」


「は? どういう意味だよ?」


「全てがアナタの言うとおりだとすれば、今回失敗した場合、次の機会があるのはアナタのみ。ならば、できる限りの情報を引き継いでもらう必要があります」



 おいおいおいおい。


 勘弁してくれ。


 俺だけずっと、繰り返してろってのかよ。



「次があるとは限らないだろ」


「無いとも限りません。今回の一件、ワタシたちは知り得ない現象でした。それを予見してみせたアナタの言は、さらに信憑性が上がったわけです」


「なあ、まさかとは思うが、今のままじゃたおせないのか?」


「以前話に上がった、転倒させるという案。アレが成功すれば、頭部か魔石を消滅に巻き込むことは可能でしょう」


「……難しいのか?」


「そうですね。正確な体長が不明なため、備えるにしても限界があります。現場での判断が成否を分けることになるでしょう」



 北壁ほくへきや王宮よりもデカいのは確かなのだ。


 けどまさか、正確な大きさが必要になってくるとは思わなかった。


 前回、それを測れなかったことが悔やまれる。



「今回でおおよその計測結果は導き出せるでしょう。そうすれば、次回こそは」


「待ってくれよ。帝国は頼れないのか?」


「当然、要請はします。しかし、出現するのを待たなければ、了承を得ることは困難と言わざるを得ません」


「なら、活動し始める前に、怪物を見付けられれば」


「魔族領をですか? その前に、魔獣の掃討をしなければ無理でしょう」


「何か、何か手があるだろ」



 納得できるわけがない。


 次回がある保証なんて、どこにもないだろ。


 今回を犠牲にして次回に託す?


 そんなわけにいくかよ!



「もちろん、諦めているわけではありません。まだ時間はあります。ですがもしもの時は、アナタに望みを託します」



 何かできることは無いのかよ……。



「あの、念話を使ってはどうでしょうか?」


「どういう意味です?」


「念話は言葉だけでなく、映像も送ることが可能です。それを利用すれば、彼の見た光景をワタシたちも見ることができるのではないかと」


「……なるほど確かに。どうでしょう、できそうですか?」


「映像の伝達はまだあまり上手く無いんだが……取り敢えず、やってみるよ」






ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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