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災禍の獣と骸の竜  作者: nauji
六章 三周目 魔術局
44/97

37 STEP2

「どうしてそうなりますかね」


「いやいや、こっちのほうがどう考えても簡単だろ」



 新たな魔術の習得は叶った。


 しかし、求められているモノとはズレていたが。



「覚えるべきは念話のほうであって、遮断するほうではありません」


「分かってる。ちゃんと覚えるっての。だからそう睨むなよ」


「……本当ですか? ワザと嫌がらせしているのではありませんか?」


「そんなつもりはない」



 ただし、念話が鬱陶しいから、こっちを優先したってのはあるが。



「むやみに遮断を使わないように。指示が伝えられませんので」



 沈黙で返す。



「……もう、そんなに念話が苦手なんですか?」


「それはそうだろ。頭の中に直接声が響くってのは、どうにも不快だ」



 そう、とにかく不快。


 言葉では表現し辛いが、本能的な忌避感が拭い去れない。


 何かを思い起こしそうにもなる。


 それがまた不快感を助長させもするわけで。



「慣れてください」


「おい」


「こればっかりは、まかり通りません。遮断を使用するようなら、念話の出力を上げるまでのこと。より不快だと思いますよ?」


「……チッ」


「舌打ちしない」


「分かった分かった」


「ハァッ、まるで手のかかる弟のようですね」


「頼むから、家族扱いするのは止めてくれ」



 どうしてこう、どいつもこいつも、他人を家族扱いしたがるんだか。


 家族はもう死んだんだ。


 他の誰も代わりになんて、なれやしない。



「失礼。この手の話題は苦手でしたね。軽口が過ぎました。では、引き続き念話の習得に励んでください」






 やってることは変わらないってのに、こうも感じ方が変わるもんかね。


 運動をしてるこの僅かな時間が、今では丁度良い息抜きになっている。


 まあ実際のところ、息を切らしているわけなんだが。



「ぜェ、ハァ、ぜェ、ハァ」


「ウンウン、最近は熱が入って来た感じだね。そんなにボクとの時間が楽しいのかい?」


「ぜェ、ハァ、ちげぇ、ぜェ、ハァ、よ」


「それは残念! ボクはとっても楽しみさ! ハハッ!」



 悪い奴ではない。


 それは分かる。


 分かるが、ウザい。



「体も仕上がってきてるし、そろそろ戦闘訓練に移行しても良さそうだね」



 戦闘訓練ねぇ……。


 学院でもそうだったが、意味なんてあるのか?



「ボクが思うに、キミは結構動けると思うんだよね。何て言うか、もう既に経験を積んでるような、そんな印象を時々受けるんだ」



 分かるものなんだろうか。


 学院での戦闘訓練に、戦士団での活動をこなしてはいる。


 もっとも、全ては過去の記憶……みたいなものに過ぎないが。



「キミと一緒なら、より高みを目指せると思うんだ」



 俺は目指してないな。



「明日からは、もっとハードになるよ。覚悟しておいてくれ」


「程々でいいんだよ」


「それでは筋肉たちに失礼だ! キミには聞こえないのか? もっと酷使してくれという叫びが!」


「あいにくと、耳は正常なもんでね」


「おいおい、何を見当違いなことを言ってるんだい。筋肉は耳に付いてるんじゃあない。全身に付いているんだよ」



 ダメだな。


 話が通じやしない。


 コイツに研究職なんかが勤まるのか?



「筋肉たちも明日が待ち遠しくて仕方がないらしい。ボクはもう少し運動していくことにするよ。キミは先に戻るといい。では、また明日」


「ああ」



 筋肉野郎が魔術局の建物の壁をスルスルと登ってゆく。


 アレをやらされなくて良かった。






『こうか?』


『そうそう、いい感じです』


「プハァッ! もう限界だ」



 念話に集中しようとすると、どうしても無意識に息を止めてしまう。



「慣れですよ慣れ。次は言葉ではなく、何か物を伝達してみてください」


「待て待て。少し休憩させてくれ」


「情けないですね。運動するときは、もっと頑張ってみせるではありませんか」


「一緒にすんな。消耗する箇所が違うんだよ」



 変な頭痛もしやがる。


 後遺症とかあったりしないだろうな。



『泣き言禁止。口頭での会話まで禁止されたいですか?』


「だから止めろっての。頭痛がしてくるんだよ」


「何故でしょう。他の魔術師ならいざ知らず、精神魔術師なら、ある程度の耐性はあるはずなんですが」


「オマエが出力の調整をミスってるんじゃないのか?」


「ほぅ……」


「あ、いや待て。今のは言い過ぎた。だから──」


『制裁‼』


「ギヤャャャーーーーーース!」



 頭の中で大音量が響き渡った。


 堪らず床を転げ回る。



「あのぉ主任……できればもう少しだけでも静かにしていただけると、大変ありがたいのですが……」


「す、すみません。ほら、キミも謝って」


「アガァーーーーー!」


「こ、こら! いえホント、騒いでしまってすみません」






「進展はありましたか?」


「申し訳ありません。研究については未だ成果は上がっておりません」


「……そうですか」



 随分と久しぶりに訪れたのは、最上階にある局長の部屋。


 階段を辛いと感じない辺り、運動の成果は出ているのだろう。



「彼についてはどうです?」


「念話と遮断は習得済みとなります。運動についても、指導員からは問題無いとの報告を受けています」


「そうそう、運動で思い出しました」


「何かありましたか?」


「壁をよじ登るのは止めさせるようにお願いします」


「は?」


「次は感電程度では済まさないと伝えておいてください」


「は、はあ……承知しました」



 筋肉野郎のことか。


 そういや、そんなことしてたな。


 魔女の魔術を喰らって、よく生きてたなアイツ。



「勉強にある程度の目処がついたとの報告は受けたのは、ひと月程前のことでしたか。随分と早いですね」


「理解は早いほうかと。態度のほうは相変わらずですが」


「一年余りでよく成長したものです。頑張りましたね」


「どうも」


『敬意!』


「……ありがとうございます」


「ワタシ相手に畏まる必要はありません。もちろん、他に人が居ない場合に限っての話ですが」


「それは助かる」


「ハァーッ」


「アナタと共に過ごしていたならば、娘はどのように変わっていったのでしょうか」


「さあな。もう随分と前のことなんでね」


「……せんの無いことを言いました。忘れてください」



 俺が連れ出したばっかりに、あんな最期を迎えさせたのだ。


 悔やんでも悔やみきれない。


 もう二度とはすまい。



「来たるべき日に備え、魔石の収集を各所に依頼してあります。とはいえ、想定される全長は数百メル。今のままでは通用しないでしょう」


「……意外だな。信じて無いとばかりに思ってたんだが」


「誰にとっても次の機会などあり得ません。備えられるだけ備えておかねば」


「上級魔術なら、成体をたおせるとか言ってたよな」


「確かに言いましたね」


「魔石の消滅現象とやらと上級魔術なら、どっちが強いんだ?」


「消滅現象でしょう。現状、防ぐすべはありません」


「魔術なら防げるのか?」


「魔獣が、というわけではなく、魔術師相手ならば、という意味ですが」


「ほら、遮断と同じことですよ」


「ああ、そういやそうだな」


「加えて、魔石の大小によって変わるのは効果範囲のみ。威力に差異はありません」


「魔術では術者の力量に左右されてしまいますからね」



 使い手を選ばないで済むってわけか。


 その分、巻き込む相手すら選ばないわけでもあるんだろうがな。



「アレは二足歩行していやがった。足を消滅して転倒させられれば、頭部や魔石を狙えもするだろ」


「言うは易しですね。魔石が臨界を迎えてから消滅するまではおおよそ10セド。例え消滅範囲から逃れられたとして、倒れ来る巨体からは逃げおおせないでしょうね」


「魔石は硬いんだろ? なら、投げ飛ばせばいい」


「戦場に於いて、そうも冷静でいられるかは疑問ですね」


「む」



 そう言われると、困っちまうが。



「とはいえ、投射するというのは良い案に思えます。そういった装置を用意できれば、個々の技量に左右される心配も払拭できるでしょう」


あらかじめ場所を特定できているならば、敢えて足元を狙わずとも、進路上の地面を掘るなどしておけば良いのではありませんか?」


「……確かに、それもそうですね。その分、魔石も温存できますし」



 なるほどな。


 だが、どっちにしろ、問題はありそうだが。



北壁ほくへきが壊されれば大惨事だ。実際、戦士団だけじゃ魔獣に対処できずにって状況だったしな」


「かと言って、壁の外側での迎撃は困難を極めるでしょう。事前の準備すら、満足に行えません」


「そうなると、内側に誘き寄せてから、ですか?」


「怪物が壊さない保証がないだろ」


「それもそうですね」


「接敵場所も重要ということですね。魔術師や魔石に反応して進路を変えるのであれば、誘導も可能に思えますが……いえ、今そこまで考えても仕方ありませんね」



 仕切り直すように、手を軽く叩いてみせる。



「余裕のあるうちに、できるだけ多くの魔石に魔力を注入しておくことにしましょう。より効果的な利用法を実験したくもありますが、そのために消費し過ぎてしまっては、元も子もありませんしね」


「別に小さい魔石なら構わないんじゃないのか?」


「ひとまずは、検討に留めおきましょう。いつどんな妙案が思い付くとも限りません」



 何とも歯痒いもんだ。


 結局は未だ、たずさわれてやしないわけだしな。


 前回よりかは、格段にマシな状況ではある。


 だがまだだ。


 まだ足りやしない。


 確実にたおせる方法を、どうにか捻り出さなくては。






ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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