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災禍の獣と骸の竜  作者: nauji
六章 三周目 魔術局
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35 消滅現象

 白い部屋から、個室へと移された。


 ベッド、机、椅子、以上という簡素具合。


 廊下もこの部屋も、共通しているのは窓が無いこと。


 もしかしなくとも、地下施設に居るのか。


 学院から魔術局まで移動する際、外に出た感じがしなかったのも、地下に通路があるのかもしれない。


 建造されたのは学院のほうが何十年も前のはず。


 元々は学院しか無かったのだから、後から改築を加えたのか。


 他に気になったことと言えば、部屋まで案内してくれた職員、いやこの場合は局員と呼ぶべきなのか、その局員の恰好。


 兜……なのだろうか。


 頭部を覆う金属製の物を装着していた。


 違和感を覚えたのは、学院とは異なるが、体は制服っぽい服装だったこと。


 他の局員も同じ格好なのだとすれば、頭部も含めての制服なのか。


 頭だけ殊更に防護する意味とは何だ?


 地下だから、崩落する懸念があるとか?


 頭を守るぐらいなら、建物を補強しそうなものだよな。


 魔女は教師の服装のままだったが、あれは単に着替える時間が無かっただけか。


 俺もアレを被ることになるのか?


 だとしたら、格好だけで言えば、学院の生徒のほうがまだマシだな。


 魔術師を外に出さないとか言っていたし、ある種の枷だったりするのかもしれない。


 とまあ、それはいい。


 こうして魔術局には来れたわけだ。


 次はどう動くべきか。


 どうにも、あの魔女は俺を自由にするつもりは無いらしい。


 というか、俺の話をあまり信じてはいない風だった。


 信じ難い話では勿論あるのだが。


 エルフの言っていたあの言葉。


 書物に載っていないということは、他種族に伝えてはマズいモノなのではなかろうか。


 もしそうなのだとすれば、咄嗟の思い付きだったとはいえ、話の信憑性の裏付けぐらいにはなってくれると信じたい。


 ……いや、どうだろう。


 精神魔術で聞き出したとか、疑われるだけか?


 あまり上手い考えではなかったのかもな。


 実は秘匿性の高い情報過ぎて、エルフから命を狙われたりしなければ良いが。


 他に魔女の興味をく事柄とはなんだろう。


 怪物、魔獣、魔術、道具。


 未知の情報と言えるのは、やはり怪物のことに他なるまい。


 が、存在を証明できるのは8年後のこと。


 今すぐ信用を得るには、相応しくない。


 これから起こる出来事。


 やはりこれに尽きるか。






 恐らくは翌日。


 魔女との再会は、思いの外早く訪れた。


 相変わらず変な恰好をした局員に案内されたのは、長い階段を上り続けた先。


 窓がある。


 地上まで出たらしい。


 そのままどんどんと上り続け、最上階の一室まで到着した。



「ご苦労様でした。帰りの案内は不要です。持ち場に戻ってください」


「「失礼します」」



 案内の局員が退出するまで待って、視線がこちらへと向けられる。


 宛がわれた部屋の数倍もあろう室内には、俺と魔女の他に、もう一人知らない人物が居た。



「空いてる席へどうぞ。座って話をしましょう」


「分かりました」



 正面に魔女、左手に知らない女性。


 取り敢えず、一番近い椅子に座る。



「さて、まずは彼女を紹介しておきましょう。魔術局の副局長を任せています」


「……どうも」


「キミが局長の内弟子ですか……どうにも冴えませんね」


「コホン」


「……すみません。失言でした」



 青みがかった髪を首の後ろ辺りで切り揃えた、眼鏡をかけた年若い女性だ。


 知的美人って感じか。


 あまり良く思われていなさそうなことだけは理解した。



「彼女を同席させたのは他でもありません。今後は彼女の元に着き、行動を共にするように」


「は?」


「え?」


「何か?」



 いやいや、何かじゃねぇだろ。



「せんせ──コホン、局長、どういうことでしょうか?」


「特例として、彼女には例の話をして構いません」


「えっと……あの……?」


「それはつまり、俺の話を信じてもらえたってことでいいのか?」


「あの言葉は、エルフにとっての禁忌に相当すると伺いました。そう容易く知れるモノではないとも」


「あのぉ……」


「俺が魔術で聞き出したとは考えないのか?」


「可能性としては、僅かながらあり得ます」


「僅か? 何でだ?」


「エルフは必ず魔術の素質を有しています。詰まるところ、魔力に晒され続ける環境にあるとも言えるわけです。そうして魔力に晒されることで、魔術への耐性も高まります。世代を重ねたエルフは、高い魔術耐性を生まれながらに有しているわけです」


「へー、そいつは初耳だ」


「あのー! ワタシには何が何だかサッパリなんですがー! 説明! 説明を求めまーす!」



 ……コイツ、見た目の割に、実は残念な奴か?



「そうでしたね。では、掻い摘んで話をしましょう」






「えぇっと……何かの冗談でしょうか?」


「全ては可能性の話です。起こるかもしれませんし、起こらないかもしれません」


「はぁ……あの、局長はこの話を信じておられるんですか?」


「いいえ」


「ですよね。安心しました」


「しかし、妄想とは断じられない事実が幾つかあります」


「消滅現象ですよね」


「そのとおりです」


「それ、昨日も言ってたよな」


「説明を」


「え? あ、はい。消滅現象というのは、魔石に魔力が蓄積され続けた結果起こる事象のことです」


「魔石? 魔術や道具とかじゃなくてか?」


「はい。魔術師が普段身に着けている程度では、臨界までには至りませんが、意図的に魔力を込めた場合、白く発光し、その後に周囲の空間を巻き込んで消滅してしまうのです」



 俺が見たのはソレだったのか。



「魔石ってのは、魔獣の心臓みたいなもんなんだろ? 奴等は爆発──いや、消滅はしないのかよ?」


「魔獣の体積と魔石の体積は比例関係にあります。しかしながら、魔石に魔力を加えても、体積は変化しません」


「……だから?」


「魔石の成長と魔石の消滅現象は、同義では無いということです」



 んんん?


 分かったような、分からんような。



「つまり、魔獣の体内にあるうちは、魔石は消滅現象を起こさないのだと考えられます」


「放置しといても、勝手に死んではくれないってわけか」



 魔獣の体内にある魔石に魔力を注いで消滅させる、ってのは難しいんだよな。


 それこそ、魔術師を栄養源とか思ってそうだしな。


 一瞬で接近されて喰われるのがオチか。



「とはいえ、魔石が危険なことには変わりありません。魔術局が回収に努めています。戦士団組合から買い取るという形式で」



 魔女からの補足に納得する。


 どおりで店売りされてないわけだ。



「例えばだ。魔獣に魔術を放ったとして、それで魔石が消滅現象ってのを起こしたりはしないのか?」


「検証してみないことには何とも。ですが、非効率的なのは間違いないでしょうね」


「何でだ?」


「魔術でたおすほうが、遥かに容易いですから」



 流石は魔女、言うことが違う。


 そんな真似こそ、普通はできないだろう。



「それが可能なのは局長だけです」


「そんなことはありません。上級魔術であれば、成体であろうとたおせます」



 川諸共に幼生体を氷漬けにしてみせたヤツか?



「……まだ使えなくてすみません」


「気に病むことはありません。アナタの魔術適性は後方支援向きです。引き続き、治癒魔術の開発に努めてください」


「ハイ!」


「ちょっと待て、治癒魔術だと? この女なんかと組まされて、俺に何しろって言うんだ。その消滅現象ってのに関わらせてくれよ」


「こ、この女……なんか……ですって……?」


「アナタの知識は中等部までなのでしょう? 当面の間は主に勉強です。彼女はその監督役のようなものと思ってください」


「エェッ⁉」



 俺よりか、眼鏡女のほうが驚いているようなんだが。



「午前と午後に分け、適切な知識を与えるように。ある程度身に付いたなら、携われることも増えるでしょう」



 マジかよ。


 ここにきて、また勉強とか。


 いやまあ、今の俺に何ができるってわけでもないのは確かなんだろうが。



「ああそれと、運動もしたほうがいいでしょう。人選は任せますので、指導させてください。但し、他の者と接触させる場合、必ずアナタが監視するように」


「えー」


「──何か?」


「いえ、分かりました。ですがその分、進捗は落ちてしまうと思われるのですが」


「構いません。ワタシもこちらの業務を優先するように心掛けておきます」


「ッ⁉ そ、そうですか。でしたら、お手伝いいたします。いえ、させてください!」


「……ではその分の時間を、進捗に当ててください」


「うぐッ」



 なるほどな。


 魔女に憧れを抱いてるクチか。


 学院の生徒にも、何人か居たな。


 見た感じ、教師と生徒って関係だったのかもしれないな。



「では早速、午後から勉強を開始するように。いいですね?」


「はい、承知しました」


「……へいへい」


「キミ! 返事はちゃんとしなさい! 局長に失礼です!」


「あ”?」



 何で俺がテメェなんぞに指図されなきゃなんねぇんだ?


 こちとら、やりたいことがやれず、やりたくないことばっか増えて、イライラしてんだが?



「怖ッ! 局長、ご覧になりましたか⁉ この子供、狂暴です!」


「魔術局に勤める者たちは皆、アナタの先達です。最低限、敬意は払うように」


「……分かったよ」



 正直なとこ、もう学生ごっこは飽き飽きだ。


 結果に繋がらない、あらゆることが無意味過ぎる。


 さっさと勉強を終えて、怪物退治の方策を練りたい。


 前回よりも、格段に前進はできてはいるはず。


 それでも、確実にたおせるすべは未だ見出せてはいない。


 悠長に構えてはいられない。


 今回こそ、今度こそは。






ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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