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災禍の獣と骸の竜  作者: nauji
六章 三周目 魔術局
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34 拉致監禁

 体を何かで拘束されたうえ、目隠しに口枷までされて、強制連行された。


 途中、便意を催した時は、中々に危うかった。


 体をよじり、うめき続けることで、何とか伝わったらしい。


 トイレ休憩以外を、恐らくは馬車で昼夜を問わず移送され続けた。


 この間、不思議なことに、魔術が一切使用できなかった。


 知らない魔術か技術があるのか。


 そうして、体感的にもあまり懐かしくはない学院へと戻って来た。






 目隠しと口枷を外された。


 見覚えのない、窓も机も無い無機質な室内。


 相変わらず妙な物で拘束されたまま、ご丁寧に椅子に固定されて。


 照明が申し訳程度に灯る正面、引率の女教師、いや、四大しだいの魔女の異名で知られる女魔術師が椅子に腰かけている。



「そろそろ意識もハッキリしてきたのではありませんか?」


「まあな」


「結構。では、こちらの質問に答えていただきましょう」


「答えるのは構わない。が、その前に、あの商会の顛末を聞かせてもらえないか?」


「……年相応の言動ではありませんね。この状況を前に、落ち着き過ぎでしょう」



 そういや、体は10歳なんだったな。


 感覚的には、もう幾つなんだか知れやしない。



「そんなことが重要か?」


「まあいいでしょう。ではまず、その商会についての話から始めましょうか。アナタはあの商会について、何を知っているのですか?」



 はてさて、どうしたものか。


 この状況は、ある意味で理想的ではある。


 用があるのは学院ではなく魔術局。


 その長を務めるのが、眼前の人物。


 中級魔術が使えると知れれば、強制的に魔術局入りはできる……とは思うのだが。


 今は良からぬ嫌疑をかけられているわけで。


 話の展開によっては、どのような扱いをされるかも不明。


 かと言って、正直に話しても信じてもらえないことは、前回で嫌と言うほどに知り得ている。



「どうしました? アナタが振った話題のはずですが」



 正直に話すべきか、誤魔化すべきか。


 前回の失敗は何だった?


 自分だけが過去に戻り、この先に起こることを知っている、みたいなことを告げたはず。


 怪物の存在といい、証明できるすべを持ち合わせていなかった。


 ならば、今回はどうだ?


 前回との違いは、既に中級魔術を扱えること。


 これが証明足り得るだろうか。



「黙秘することは、アナタにとって不利益にしか成り得ませんよ」



 人身売買の件を知り得ていることはどうだろうか。


 これもまた、未来を知っていればこそとは言えまいか。


 どうせ、上手い口実も思い浮かばない。


 ここは、正直に話してみるか。



「混血の獣人をさらい、貴族や北区の戦士団に売りさばいてたんだろ」


「……何ですって?」


「ん?」



 何か、思ってた反応と違うな。



「そのような話、どうやって知り得たのです」


「質問は何を知ってるかだったはずだが」


「答えなさい」


「以前に戦士団の依頼で関わったんだ。王都近郊で獣人の誘拐が報告されてないか? それを解決したら、西区の商会に辿り着いたわけだ」


「戦士団? アナタがですか?」


「ああ。とはいえ、過去の出来事じゃなく、未来の出来事にはなるがな」


「まともに答えるつもりはないと?」


「正直に答えたさ。で、商会はどうなったんだ? 地下室や倉庫の獣人は助け出せたのか?」


「数人が救出されたとは聞き及んでいます。その他の事情については知りません」



 俺が気絶してた時間は、そう長いもんじゃなかったのか?


 事情が判明するより前に、学院まで戻って来たのか。


 残る気がかりは、北区はどうなるかと、誘拐されなかった場合の獣人の子供がどうなるかだが。


 いや、もう一つ大事なことがあったな。



「そうかい。そういや最初に確認しとくべきことがあったのを忘れてた。アンタの娘は無事だったんだよな?」


「ワタシたちのことも知っているのですね」


「無事なんだよな?」


「ええ、無事です。騒ぎを聞きつけた住民の方が保護してくださいました。遅れて、憲兵やワタシが到着した流れですね」


「そうか。巻き込んで悪かった。娘さんにも謝っておいてくれ」


「……まあいいでしょう。次の質問に移りましょう。アナタは魔術が使える、これは確かですか?」


「ああ。精神魔術だけな」


「誰に習い、どの程度の種類を習得しているのです?」


「習ったのは王立学院でだ。中等部の卒業までは届かなかったが」


「またしても虚言を弄するつもりですか」


「今のところ、嘘を吐いてはいないが」



 中級魔術が使える程度じゃ、信用してもらえないか?


 いやまあ、それもそうか。


 逆の立場でも信用はしないだろうしな。


 何かもっと、明確に未来を知ってると伝えることはできないもんか。



「何なら、使ってみせようか?」


「できるものならどうぞ」



 ……どうなってる?


 魔術が使えないどころか、そもそも魔力が集まらない。


 枯渇してるって感じでもない。


 それなら、眠気があってしかるべきはず。


 何なんだ、この妙な感覚は。



「部屋か椅子か拘束具か。何か仕込んであるのか」


「お得意の未来の出来事からでは、分からないのですか?」


「生憎とな」



 まず怪しいのは、この妙な拘束具なわけだが。


 取り付けられてるのは、もしかして魔石か?


 薄っすら光って見える。



「まさか、魔石が魔力を吸収してるのか?」


「その情報までは、外部に漏れてはいないようで何よりです」



 そうか、だから魔術師が持つと光るってわけか。


 ならやはり、魔獣は魔術師を狙ってそうだな。



「外部に知られるのはマズいってことは、俺はもう外には出られないわけか」


「どの道、そうなるでしょうね」


「なあ、どうせなら魔術局で働かせてくれないか? どっかに拘留しとくよりかは、よっぽど建設的だと思うんだが」


「素性も得体も知れないアナタを? あり得ませんね」



 信用されるどころか、増々怪しまれてるな。


 だが、悠長に初等部から始めてたんじゃ、間に合うわけがない。


 現時点で魔術局に入るべきだ。


 死ぬ前に見た爆発、アレが魔術局に関わりのあるものなら、尚のこと……。



「魔術局で、何か爆発するようなモノを作ってるのか?」


「何ですかいきなり」


「魔術局と学院を消し飛ばしたのを見た」


「……頭部の怪我は、完全には治らなかったようですね」


「魔術か道具なんじゃないのか?」


「アナタの妄想に付き合うつもりはありません」


「いや、あれはそもそも爆発だったのか? 白く光ったと思ったら、魔獣も建物も、地面ごと抉れて消えて無くなってた」


「──消滅現象? いやまさか、あり得ない。知り得るわけがない。アレはまだ……」



 これか⁉


 ようやく反応があったな。


 やっぱり、魔術局絡みの何かだったんだな。



「何を何処まで知っているのです。全て話しなさい」



 おっとマズい。


 想像以上に、ヤバい何かだったのか。


 何らかの魔術を発動するつもりなのか、立ち上がった魔女の周囲がバチバチと音を立て発光している。



「言っておくが、前回のアンタは信じなかった話だぞ。それでもいいんだな?」


「前回? アナタとまともに話をするのは、これが初めてです」


「長い話になるし、ざっくりと済ませる。取り敢えず、その痛そうなのは食らいたくないな」






「──信じられません」


「だろうな」


「頭部の怪我による後遺症と考えるのが、一番道理に適っています」



 繰り返される、俺の状況。


 いずれ現れる怪物。


 包み隠さず、全てを話してみせた。



「ですが、知り得るはずの無い情報を知り得ているのはれっきとした事実」


「俺が知りたいのは、あの爆発が任意に起こせるのかどうか。いては、怪物に対して使い物になる代物かどうかってことだ」


「この場で答えられる内容ではありません。以降、今した話の一切は他言無用です」


「つまりは、信じてもらえたってことか?」


「少なくとも、アナタを他の施設で収監することが危険なのはハッキリしました」



 前回は相手にもされなかった。


 だが、今回は違ったらしい。


 それだけ、あの爆発っぽいのが、重要だったんだろう。



「移送します。大人しくするように」


「抵抗はしない。好きにしてくれ」



 再び目隠しと口枷を装着され、連れて行かれる。






 何処をどう歩いたのか。


 随分と歩かされた。


 やたらと長い階段を下りた気がするが。



「アナタたちは退出を。部屋の外で待っていなさい」


「「ハイ」」



 ようやく到着したのか?



「今から拘束を解きます。しばらく目は閉じていたほうが良いでしょう」



 口枷、目隠し、体の拘束の順に解放されてゆく。


 確かに、やけに眩しい。


 薄目を開けても、真っ白で何も見えやしない。



「さて、もう一度念を押しておきますが、先程した話は他言無用です。いいですね?」


「それはどれのことだ? 魔術云々は?」


「アナタの見聞きしたという経験の一切です。魔術に関しては……そうですね、ワタシの内弟子という扱いにしておきましょう」



 それはまた、一学生から随分な扱いに変わったもんだ。



「アナタは学院には通ってはいなかった。いいですね?」



 少なくとも、此処は学院では無いってことか。


 外に出た感じはしなかったが。



「分かった。余計なことは言わないよう気を付ける」



 にしても、こうも言い聞かせてくるってことは、誰かと会話する機会があるってことだよな。


 やっぱり、魔術局に連れて来られたのか?



「後程、別に部屋を用意させます。これからは、そこで寝起きしてもらいます」


「それは助かる。こうも眩しいのは勘弁して欲しい」



 少しずつ目を開けてみる。


 が、やはり白い。


 床も壁も天井も、全てが真っ白い部屋。


 発光もしているようで、今も眩しい。



「何だよ此処……随分と悪趣味な部屋だな」


「悪趣味かは分かりかねますが、生活するには適さないことは事実でしょうね。問題を起こした者に反省を促す場所です」


「……それはまた、エグいことで」


「他から見られず、防音性も優れているので、こうした話には適していると言えるでしょう」


「俺と二人っきりってのは、危なくないのか?」


「もし仮に、アナタが上級魔術を扱えるとしても、ワタシには通用しません」


「力尽くなら?」


「……この体格差で、ですか?」



 おっと、今は10歳だったか。


 しかも、まだ碌に肉も付いてやしない。



「悪かった。今のは忘れてくれ」


「あまり失言はしないように。魔術局に居るのは、全て中級以上の魔術師なのですから」



 やっぱり此処が魔術局だったか。



「魔術局で働かせてもらえるって理解でいいのか?」


「良くありません」


「は?」


「自分の年齢を考えてみてください。研究や開発に、役立てると思いますか? 周りの者と、上手くやっていけるとでも?」


「それはやってみないと分からないだろ。そりゃあ、何が作れるってこともないが、何かの刺激とかには成り得るだろうさ」


「希望的観測に過ぎません。むしろ事故を招く恐れのほうが高いぐらいでしょう」


「じゃあ、俺は何をすればいいんだよ」


「取り立てて何も」


「……おいおい」


「冗談を言っているのではありません。アナタは未だ部外者。要注意人物であればこそ、余所ではなく此処で身柄を預かったまでのこと」


「話を信じてもらえたってわけじゃないのかよ」


「当り前です。あんな話、荒唐無稽に過ぎます」



 これじゃあ、魔術局に来た意味が無い。


 後8年しかないんだ。


 もう、無為に時間を過ごすつもりはない。



「仲間や恩人を救いたい。あの怪物にむざむざ殺されるなんてのは許せない。その邪魔になるなら、例えアンタだろうと」


「どうするつもりです? 暴れたところで、状況は悪化するばかりに思えますが?」


「アンタの娘は、俺のすぐそばで魔獣に食われたんだぞ!」


「所詮はアナタの妄想に過ぎません。あの川岸での魔獣との遭遇が原因なのは明らか。単なる記憶の混乱でしょう」



 このままじゃマズい。


 爆発の話題以外で、興味を惹くには何か無かったか。


 っと、そうだ。



「魔術局に純血のエルフは居るか?」


「ええ。それがどうかしましたか?」


「”さいかのけもの”って言葉について、尋ねてみてくれ」



 学院の図書室にあった書籍には、そんな記述は無かった。


 なら、エルフの口伝でのみ語り継がれているモノな可能性が高い。


 後は、それがどれぐらいの価値を有しているかだが。


 そればっかりは、賭けてみるしかない。



「……いいでしょう。娘を助けようとしたのも事実。それぐらいならば、大した手間にもなりません」



 どうにか最悪の状況には陥らずに済んだか?



「とは言え、その結果如何で、アナタの処遇が変わるとも思えませんが」






ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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