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災禍の獣と骸の竜  作者: nauji
五章 一周目 故郷
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30 一緒に暮らす?

 大人しく帰路に着く……とはいかなかった。


 沈黙はすぐに破られる。



「あれで良かったの?」


「何がだよ」


「あっさり帰ってきちゃったじゃない。もっと話したいことがあったんじゃないの?」


「長居はできねぇだろ」


「どうしてよ」


「今までが無事だったからって、これからも無事とは限らねぇだろ。俺たちが居ることで、ヤツらを呼び寄せちまうかもしれねぇ」


「なーんだ、そんな理由? てっきり、アタシが一緒だったからかと勘繰っちゃったわ」


「おい、そんなって言い方はねぇだろ」


「だってさ、あの場所で暮らす限り、ずっと話せないってことじゃない」


「ああそうだよ」


「アンタさぁ、バカバカしいとは思わないわけ?」


「懸かってるのは俺だけの命じゃねぇんだ。んな身勝手な真似、できるかよ」


「ハァーーーーーッ」



 呆れたと殊更主張するように、長い長い溜息を吐かれた。



「だったら手紙の一つでも書いて渡してあげなさいよね。あの人、寂しそうにしてたわよ」



 ……手紙か。


 僅かな会話でも、俺には十分過ぎると思ったが。


 確かに、そんな手法もアリだったか。


 どうせ此処に来るだろうってのは、はなから分かり切ってたってのにな。


 どうにも頭が回ってねぇな。



「ハッキリ言って、勝手に悲壮ぶってるようにしか見えないのよね」


「……そうかよ、そりゃ悪かったな」


「悪いわよ。悪いにきまってるでしょ。危険な場所に居て、また会えるかも分からないっていうのに、何なのよあの態度は」


「何でオマエが怒るんだよ。関係ねぇだろ」


「あるわよ! 関係ならあるわ! アタシだって仲間じゃない。違うの?」


「おい、声を抑えろ。ったく、仲間だから何だってんだ。他人は他人だろ。人の事情に首突っ込むなよ」


「他人のことには干渉するくせに、自分が干渉されると拒むわけ?」


「……別に、そんなつもりはねぇが」


「つもりが有ろうが無かろうが、相手がそう感じたら同じことでしょ」



 すげぇ理屈だな。



「大切に想うなら、ちゃんと伝えてあげなさいよね」


「ああ。そうするよ」


「大切に想うなら、ちゃんと伝えてよ」


「何で二度も言うんだよ」


「──フンだ」



 やれやれだ。


 俺なんぞの何処を気に入られたのやら。


 だがな、俺にそんな余裕はねぇんだ。


 借りがある。


 でっけぇ借りだ。


 命を救ってもらった。


 心も救ってもらった。


 マザーにも、先生にも、その借りを返さねぇことには、他の何にも向き合えねぇ。






 宿のロビーに着くと、仲間がこちらに気が付いた。



「随分と戻りが早いようですが、まさか、向こうで何かあったのですか?」


「ふ、ふえッ⁉ そ、そうなんですか⁉」


「心配すんな。ちゃんと会ってきたさ」


「そうですか。それならば良いのですが」


「良くない。全然良くないから。ちょっと聞いてよ、実は──」


「蒸し返すなよな。散々文句を聞いてやっただろうが」


「うっさい! 邪魔しないでよね」



 どうやら、この先の展開は回避不可能らしい。


 色々と諦めて、ロビーの椅子に腰かける。



「おあえい!」


「ああ、ただいま」



 俺を責めねぇのは、オマエだけだな。


 ワシャワシャと頭を撫でてやる。



「あうー」



 しかし、何だってまたロビーなんかで待っていたのだろうか。


 まさかとは思うが、子供の家族を捜していたとかじゃあるまいな。


 道中、獣人の姿をチラホラと見かけもした。


 他の町では、まずあり得なかった光景。


 それはいい、それはいいのだが、その結果が望まれぬ混血の子供なのだとしたら、複雑に感じてもしまう。


 コイツが状況を理解できるまで面倒を見てやるとして、いつまでも宿に泊まるってのも、金がかかり過ぎる。



「どっか、良さげな場所に腰を据えてみるか」


「あぅ?」






「で、アタシは考えたわけよ」


「はぁ、何をでしょうか?」


「中央って、それはもう極端に廃墟だらけなわけ」


「そ、そうなんですねぇ」


「こっちとの境界が明確なほどよ? たった一歩の差で違うのよ? バカバカしいと思わない?」


「そう、ですか?」


「そうよ! だから、境界ギリギリにある中央の土地なら、安全かつ安いんじゃなかってね!」


「ああなるほど、それを考えたというわけですね。それで、それがどうかしたのですか?」


「養護院もアタシたちの拠点も、まとめてそこにしちゃえば良くない?」


「──あ? 突然、何言い出してんだ?」



 聞き耳を立てていたら、とんでもないことを言い出していた。



「あ、あのぉ、ウチもよく理解できてないんですが」


「ずっと此処に住むつもりですか? その養護院の者たちも共に?」


「何よ皆して。反対するわけ?」


「いやまあ、どっかに腰を据えて動くべきかとは思ってたとこだがよ」



 名案っちゃ名案なのかもしれねぇ。


 養護院に関しては、だが。


 俺たちまで一緒に住むってのはどうなんだ?



「こう言っては何ですが、そこまでする義理がありますか?」


「なら、エルフも見てくればいいわ。あんな場所で暮らすなんて、あんまりだもの」


「む」


「え、えっと、決定なんですかね?」



 うーむ、どうしたもんか。


 移住させたいとは考えてたが、一緒に暮らすって発想は無かったからな。



「何でアンタは喜ばないわけ」


「いきなり、んなこと言われてもなぁ。金だってねぇし」


「あるわ。お母様から預かったお金がね」


「おいおいおいおい」



 コイツ、何を言い出して──。



「使い道なんて無いもの。どうせなら、善いことに使いたいじゃない」


「それはオマエのための金だ。いざって時のために取っとけ」


「いいじゃない、どう使おうとアタシの勝手でしょ」


「ワタシたちにも関係することです。勝手はさせられません」


「お、落ち着いて考えましょうよぅ」


「そうだぞ。あんま暴走すんなよ」


「ちゃんと考えたわ! なのに、何で反対ばっかりするのよ!」



 コイツも相談せずに決断するクチか。


 まあコイツの場合、ここまで我を通すのも珍しいっちゃ珍しいが。



「助けてくれようって気持ちは、正直ありがてぇと思ってる。だが、それが最善とは限らねぇだろ。可能かどうかもまだ分からねぇしな」


「う、ウチ、支店に行って、お金のこととか聞いてみます!」


「チビ助まで同調すんなよ」


「皆に聞きたいのですが、今後も戦士団としての活動を続けてゆくつもりはあるのでしょうか?」


「……どうだかな。金を稼ぐ手段であって、戦士団としての活動自体を目的とはしてねぇからな」


「アタシは……皆が一緒なら続けるのも悪くないって思ってるわ」


「う、ウチは、将来的には商会に戻りたいかなって」


「ワタシは定住するよりも、各地を見て回りたい。しかし、子供を連れてとなると、それも難しいでしょう」



 こうしてみると、皆結構バラバラなのかもな。



「定住する、というのは難しいかもしれません。ですが、帰る家としては、悪くない考えかもしれません」


「──え? それって」


「戦士団を続けるにしても、解散し個人となっても、そういう家があっても良いのではありませんか」


「そうかぁ? どうせならもっと安全な場所のほうがいいんじゃねぇか?」


「場所については、もっと安全が確保されているほうが望ましいとは思います。ですが、ワタシたちの行動が、他の者たちへも影響を与える可能性はあります」


「どういうことだ?」


「じゅ、需要と供給ですね!」


「あ?」


「ち、地価が安いなら、住みたいと希望する人は他にもいるかもしれません」



 どうだろうか。


 少なくとも、魔獣の被害に遭った連中は、そんな風には思うまい。


 だが、余所から来た連中なら、値段でしかモノを考えねぇ可能性はある……か?



「それがどうしたよ。俺たちが住むって理由にはなんねぇだろ?」


「これは一緒に住む前提での話ではありますが、養護院の方々に留守を任せることもできます」


「ね? ね? イイ考えでしょ」


「ハァーッ。何でそんなに乗り気なんだよ」



 養護院や俺にとってはイイ話なのだろう。


 だが、仲間たちにとってはどうだ?


 どんな利点がある?


 結果、此処に縛り付けるだけじゃねぇのか?



「やっぱりさ、不安なのよね」


「何だよ急に」


「これから先、どうなっちゃうんだろうとか、色々と考えちゃうわけよ」


「わ、分かる気がします」


「そうですね。いざ学院を出てしまうと、行くべき場所、帰るべき場所を迷ってもしまいます」


「そうかぁ?」



 コイツら全員、家も家族もあるじゃねぇか。


 何を不安に思うことがあるってんだ?



「”アタシたち”の帰る場所が欲しいわけよ。安心したいわけ。分かんない?」


「……正直なとこ分からん」


「あっそ。他の皆はどう?」


「な、何となくですけど、分かる気がします」


「欲を言えば、定住先は自然の多い場所が望ましいですが」


「ある意味、自然は多いわよ」


「ほう?」



 ……オマエはアレを自然と言い張るつもりかよ。


 単に浸食されてるだけだぞ。



「なぁ、マジで言ってんのか?」


「お金が足りればね」



 帝国銀貨なら、王国の小金貨と等価のはず。


 安い家ぐらい買えそうには思えるが。



「アタシたちと一緒に暮らすのは嫌?」


「嫌ってわけじゃねぇんだがな……」



 あまりにも都合が良過ぎる。


 そう思えてならねぇ。


 この不快感は、他者を頼みとしてるからなのか。


 俺自身ができなかったことを、コイツがしてみせようとしていることへの反抗心やら嫉妬心やらなのか。



「なら決まり! なるべく、そのまま住めそうな建物だといいんだけど」


「と、とにかく、ウチは支店に行って調べてみますね」


「お願いねー。なら、アタシたちは良さげな物件を見定めに行きましょうよ」


「危なくはありませんか?」


「流石に境目をうろつくぐらいなら大丈夫なんじゃない? あ、でも、勝手に住み着いてる連中ぐらいなら居るかもしれないわね」


「不法滞在であれば、見過ごせません」


「おえあえ?」


「む、そうでしたね。危険な場所に連れて行くのは避けるべきでしょう」


「面倒見ててやるから、行ってこいよ」


「……いいのですか?」


「ああ」



 まあ、なるようになるか。


 これ以上悩むのもめんどくせぇ。



「えぅ?」


「オマエは俺と留守番だ」


「うー」


「散歩はまたの機会にな」






ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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