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災禍の獣と骸の竜  作者: nauji
五章 一周目 故郷
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28 仲間の想い

「もう! こんな時間まで、何処ほっつき歩いてたのよ!」


「随分と捜したのですよ。詰め所に行っても、行き先までは知らないと言われてしまって」


「……そうか。心配かけて悪かったな」



 宿に戻るなり、皆に囲まれた。


 一緒に戻ってきたはずの先生は、いつの間にか姿が見えなくなっている。


 多分、いらん気を回したんだろうな。



「だ、大丈夫ですか?」


「あいぉうう?」


「ああ。少し散歩してただけだ」



 獣人の子供の頭を撫でてやる。


 コイツの家族のような真似は、ぜってぇにしねぇ。



「……本当ですか? あまり顔色が優れないように見受けられますが」


「夜風に当たり過ぎたのかもな。風呂に入ったら、さっさと寝るさ」


「本当に大丈夫なのね?」


「ああ」


「では、詰め所での話を聞かせてもらえませんか? 何故か、憲兵に尋ねても答えてはもらえませんでしたので」



 そりゃあ、俺が口止めしといたからな。


 子供にあんな真実など語るべきではあるまい。



「もう夜も遅い。それについては明日にしねぇか」


「ですが……」


「それよか、明日からの予定について、先に決めちまいてぇんだが」


「ならばなおのこと、詰め所での話を聞かねば、決められないではありませんか」



 チッ、流石に強引過ぎたか。



「──騒々しいと思って見に来てみれば、こんな所に集まってどうした?」


「さ、騒がしくしてしまって、すみません」


「先生」



 先に部屋に戻ったのかと思ってたが、近くで隠れてやがったのか。



「ほう、小僧が戻ったのか。仲間に心配をかけるでない」


「ああ」


「早く寝ないと、明日に響くぞ。もし起きられねば、置いていくからな」


「……え? 王都で別れるって話じゃなかった?」


「そうなのか? 先程小僧と──」


「ゴホゴホ! あ”ー、体を冷やし過ぎたかもしれねぇな。喉が変な感じだ」



 あれほど念押ししといたってのに、口を滑らせやがって!


 相変わらずの忘れ癖かよ!


 これ以上は、本当に余計なことまで喋りかねん。


 さっさと解散させねぇとマズい。



「うー! あいぉうう いあう!」


「あ? 何だって?」


「大丈夫、違う、と言っています」



 えぇーとつまり?


 大丈夫ってのを否定してるってことか?



「何だ小僧、体調が優れんのか?」



 ……アンタの所為で、そういうことになった感じだよ。



「あーもう! 結局、何をどうすればいいわけ⁉」


「あ、あんまり大声出すのは。ほ、他の方の迷惑になりますよぅ」


「仕方ありません。大事を取って、明日もう一日、王都に滞在を──」



 この流れはマズい!


 最大級の眼力で以て、先生へと目配せする。



「……ふむ? お、おお、そうだった。同胞の家族を捜すならば、先代を頼るといいだろう」


「はぁ、そうなのですか? ……それで、せんだいとは?」


「先生の母親のことだ。馬車で聞いてなかったか? 何でも、獣人の集落みてぇなのを、東区で形成してるらしい」


「先代を慕う者は多い。同胞を捜すとなれば、必ずや力になるだろう」



 まあ実際は、もう捜すつもりはねぇんだが。


 子供を捨てるような輩は、親でも何でもねぇ。


 ただのクズだ。


 集落に留まることを望むか、俺たちと居ることを望むか。


 コイツの選択次第で、身の振り方も変わってくる。


 とはいえ、当初の目的地は東区だったわけで。


 壁を建造する目処が立つまでは、離れるつもりはねぇがな。



「じゃあ、南行きは取り止めて、東行きに同行するってこと?」


「最短はそれだろうな」


「まあ、早く見つかるに越したことはないと思うけど」


「何か隠しごとをしていますよね?」


「……まだ言ってねぇことはある。今度話すよ」


「フゥ―。明日また馬車での移動が待っているというなら、そろそろ寝たほうが良いですね」


「な、なら東行きで決定ですかね」


「もうそれでいいんじゃない。少しでも寝ておきましょ」


「えう?」


「はい、もう寝ましょう」



 どうにか切り抜けられたか。


 ……明日、馬車の編成を変えてもらって、話をしとくべきか。


 やれやれ、今から胃が痛いこった。



「おやすみ~」


「おやすみなさい」


「おあうい」


「お、おやすみなさいですぅ」


「ああ、おやすみ」


「うむ。夜這いなどせんようにな」


「アホか。一言余計なんだよ。っと待ってくれ、明日の馬車なんだが──」






 ほろ馬車の中には、獣人の子供を除いた仲間全員が集まっていた。


 チビ助をこっちへ、先生には後ろの馬車へと移動してもらった形だ。



「あーあ、今日は話を聞けそうにないわね」


「オマエなあ。人の過去を娯楽にすんな」


「何よ、別にいいじゃない。減るもんでもないでしょ」


「なら、オマエの母親から、子供のころの話を聞かされてるのを、黙って見てられるか?」


「嫌よ!」


「分かったか? そんな気分なんだよ」


「アタシじゃなきゃ構わないわ」



 理不尽極まりねぇな。



「この顔ぶれということは、詰め所での話を聞かせてもらえると考えて良いのですよね」


「……ああ、そのつもりだ。あらかじめ言っとくが、気分のいい話じゃねぇぞ」


「は、はうぅ、緊張してきました」


「フン、そんなの、昨晩の様子から何となく察してたわよ」


「ですね。それほどまでに、アナタの表情は優れませんでしたから」


「オマエら……」


「す、すみません、ウチは気が付いてませんでした」


「気にすんな。んじゃ、話すぞ」






 話し終えると、馬車の発する音とチビ助の嗚咽だけが残った。


 母性を発揮したらしいエルフが、抱きしめてあやしている。


 誰も何も言わず、時間だけが過ぎてゆく。


 昼休憩として、馬宿で停車するまで、その状態が続いた。






「随分と暗いな。話したのか?」


「ああ」



 馬宿で昼食を取る際、先生と少し離れた位置へ座った。


 獣人たちのほうが、余程元気に見えるぐらいだ。



「優しい娘たちだな。良き母になってくれることを、願うばかりだ」


「何目線だよ」


「小僧も他人事ではあるまい」


「あ?」


「男としてのケジメはつけろよ」


「アホか。んな関係じゃねぇって言ってんだろ」


「自分はそう思っていても、相手までそうとは限らん。今は違っても、この先のことは分からんさ」


「いらん世話まで焼いてくんな」


「養護院に顔を出すつもりがあるなら、精々気を引き締めることだ」


「何でだよ」


彼奴あやつの前では態度が露骨に過ぎるからな」


「は、はあ⁉ な、何言い出してんだよ⁉」


「ほれみろ。容易く狼狽うろたえおってからに」



 いやいやいやいやいや。


 マザーに惚れてるとか、そんなことはねぇ……はず……だよな……多分。



「そ、そんなわけねぇだろ。それこそ、親子ほども歳が離れてるっての」


「やれやれ、これは重症だな。娘共も苦労することだろう」


「勝手に決めつけんな!」


「まあ、それはいい。どうするかは話し合えたのか?」


「いや、話し終えてから、まだ一言も会話してねぇよ」


「流石にまだ難しいか。夜には話を聞いてやれ」


「わーってるよ」


「本当に分かっておるか? 一人ずつだぞ? 皆の前では吐き出せぬこともある」


「へいへい」



 昔はこんなに干渉してこなかったよな。


 いやまあ、物理的には過剰だったわけだが。


 獣人は成長が早い。


 逆を言えば、見た目に反して、精神的には未熟ってことになるわけか。


 これも成長ってヤツなのかねぇ。



「……何だ、その無性にムカつく目付きは」


「いや別に」


「全く。彼奴あやつの前では、別人のように振る舞いおる癖に」


「それをイジるのはもう止めろ」






「大丈夫か?」


「何がよ?」



 馬宿から少し離れた夜の街道。


 先生からのありがたい忠告に従い、個別に話を聞いてみることに。


 が、予想に反して、反応は淡白なモノだった。



「人攫いの件だよ。あれからずっと黙ってただろ」


「だって、話をするような雰囲気じゃなかったし」



 そういやコイツ、雰囲気を気にすることが多いよな。



「こう言うのは不謹慎かもだけど、別世界の話って感じがしたわね」


「そうなのか?」


「だって、アタシの当たり前とは全然違うんだもの。酷いとか可哀想とかも思うけど、一番はやっぱり、理解できないってことかな」


「そういうもんかね」



 自分の環境とは余りにも違い過ぎて、想像が働いてねぇ感じなのか?


 まあコイツの場合、母親からの愛情は注がれてた感じではあったか。



「だから、アタシなんかに構ってないで、他の子の所へ行ってあげなさいよね」


「……無理はすんなよ」


「平気、とは言えないけど、アタシは独りで大丈夫」


「何かあれば部屋を訪ねて来いよ」


「行かないわよ! 何されるか分かったもんじゃないわ」



 それは流石に酷くねぇか?






「次はワタシの番というわけですか」


「次って何だよ。俺を監視でもしてんのか?」


「やはり、最初ではなかったのですね」


「……余計な鎌かけは止めろ」


「アナタがあのような表情をしていて良かった」


「あ? 突然何だよ」


「あのような事実、耳にするだけでもおぞましい。それに嫌悪を抱かぬ人ではないと分かって、少し安心しました」


「今までどんな風に……いや、聞かねぇほうが精神衛生上良さそうだな」


「答えてあげても構いませんが?」


「要らねぇよ」


「そうですか。それは残念です」


「それで、少しは落ち着いたのか?」


「まさか。今でも怒りでどうにかなってしまいそうです」


「俺はもう、家族を捜すつもりはねぇ」


「何故ですか⁉ しかるべき罰を下すべきです!」


「罰はあるべきなんだろう。だがそれは、俺やオマエが下すもんなのか?」


「では誰がやると言うのですか! 親たる資格の無い連中など、全て斬り捨ててしまえばいいのです」


「……まあ、偉そうなこと言っといてなんだが、俺も似たような考えは持ったがな」


「では!」


「なんつうか、それでも親は親だろ。何かするってんなら、俺たちじゃなく、実の子供がやるべきじゃねぇのか。とはいえ、別に殺せって意味じゃねぇがな」


「あの子に、いえ、彼ら彼女らにそのような真似はさせられません。その事実すら知るべきとは思えません。ただ傷付くだけではありませんか」


「実際、どうしたもんか悩んでもいる。どうするか選ぶのは本人だ。知った上でこそ、選ぶべきなんだろうが」


「あのような事実を知らせると言うのですか⁉」


「今の状態じゃ無理だろ。せめて、もっと言葉を理解できるようになるまでは待たねぇと」


「……それまでの間、あの子は?」


「例の集落で預かってもらうか、俺たちが面倒を見続けるか。ま、本人次第だな」


「それも選ばせると? あの子に?」


「何が幸いかは、本人にしか分からねぇ。一応言っとくが、これは俺の意見だ。勝手に決めたりはしねぇさ」


「ワタシは反対です」


「それならそれで構わねぇさ。但し、親を殺しに行くってのだけは無しだ」


「確約はしかねます。もしまたあの子の前に姿を現わすようなことがあれば、その時は……」






「少しは落ち着いたか?」


「は、はい」



 あの後も泣いたのだろう。


 この分じゃ、明日にも瞼が腫れあがってるな。



「い、今でも信じられません。し、信じたくありません」


「そう思って当然かもな」


「ひ、酷過ぎます、あんまりです」


「そうだな。知らねぇなら、知らねぇままのほうがいいのかもな」


「あ、あの子は知ってるのでしょうか」


「……どうだろうな。もっと会話が通じるようになれば、確認のしようもあるが」



 碌に喋れない状態から察するに、会話は余り行われていない環境が想定できる。


 5年前後、か。


 ずっとそうだったかまでは分からねぇが、あの痩せ具合だ。


 もしも状況を理解していたなら……。



「う、ウチたちにできることは、あるんでしょうか」


「人身売買のルートは潰せた……はずだ。親たちへの対応は、先生のほうでも動いてくれるみてぇだが」


「し、商会がもっとちゃんとしてれば」


「俺が無理矢理に連れてきちまったわけだが、オマエはどうしたい?」


「え? ど、どういう意味ですか?」


「今後についてだ。壁に関しちゃ、魔術を実演してみせなくても、説得ぐらいは何とかなんだろ」


「じゃ、じゃあ、ウチは必要ないってことですか?」


「そういう意味じゃねぇ。協力してくれるなら大助かりだ。けどな、これは俺のやりたいことだ。オマエのやりたいことを潰してまで、すべきことじゃねぇ」


「う、ウチのやりたいこと……」


「ああ。商会について思うところがあるなら、やってみりゃいい。別に追い出すって意味じゃねぇぞ」


「す、すぐには考えが纏まりそうにありません」


「それもそうだな。すまねぇ、話を聞いてやるつもりが、余計悩ませちまったか」


「い、いえそんな」


「いつでもいい。結論を出す前に相談だって聞いてやる。ただ、よく考えておいてくれ」


「が、頑張ってみます」






ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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