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災禍の獣と骸の竜  作者: nauji
五章 一周目 故郷
32/97

27 家族

 チビ助の両親に会うことも叶わぬまま、先生たちに合流し西区を後にした。


 ほろ馬車は2台。


 後方に先生の戦士団2名と、護衛対象の獣人5名、加えて子供の獣人に獣人大好きのチビ助が。


 前方に先生や俺たちという、明らかに1台余分な編成である。



「あの子が馬車の揺れで気持ち悪くなってはいないでしょうか」


「偶には子離れしたら?」


「何を言うのですか。既に3日ほども離れていたばかりなのですよ」


「はいはい、そうだったわね」



 端に腰かけ、しきりに後ろを気にするエルフ。


 そちらを、興味深そうに眺めている先生。



「随分と子供にご執心のようだな。エルフにしては珍しい」


「やっぱ、そういうもんなのか?」



 最初に会ったころを思い出す。


 エルフは獣人を快く思っちゃいねぇ印象はあったが。



「昔、南にも行ったことがあるが、中々に酷い言われようだったな」


「昔って、いつのことだよ」


「小僧と会う以前の話だ。先代に連れられ、色々と見て回っていたからな」



 元々戦士団の長は先生の父親だったはず。


 ってか戦士団自体が、父親のハーレムっつってたか。


 んで、死んだ父親の代わりに、母親が長になって、それが先代だったよな。



「北区の話も、そんときのか?」


「そうだ。先代が現地の戦士団の代表と一戦交えた」


「……いや、その話は聞いてねぇな」



 戦士団の代表って、例の最強云々のヤツだよな?


 時期的に考えて、野郎とは別人かねぇ。



「先代が勝てなかったのは、かしら以来のことでな。危うく弟か妹ができるところだった」



 何だそりゃ、話の展開に付いてけねぇんだが。


 かしらってのは、父親のことだよな?



「いちいち、呼び方がややこしいんだよ」


「ふむ? そうか? ワシは気にならんが」


「そりゃそうだろうよ」


「まあなんだ。家族としてよりも、戦士団としてのほうが馴染み深いからな」


「先生の母親は元気にしてんのか?」


「無論だ。今回の目的地も、先代の所だしな」


「……マジかよ」



 先生に輪をかけて豪快な人だからな。


 弱ってる獣人を連れてって大丈夫なのか心配なんだが。



「養護院の真似事でもしてんのか?」


「うーむ、違うと思うぞ。アレは先代を慕った連中が集まってできた、集落みたいなものだろう」



 学院に行ってる間に、そんなヤベェ勢力が形成されてやがったのか。



「んな場所に連れてって大丈夫なのかよ」


「カカカ。おかしなことを言う。ワシの戦士団よりも余程に強かろう。つまりは、それだけ安全というわけだ」


「そこに強さは必要か?」


「呆けたか、小僧。あそこは死地だ。強さなくして、生き延びることは叶わん」



 ……そうか、そうだったな。


 死と隣り合わせ、それこそが日常だった。



「わりぃ、間の抜けたことを言っちまった」


「分かったならいい。もし戻るつもりがあるなら、努々忘れぬな」


「ああ」


「今度は小僧の話を聞かせてくれ。学院とやらに行っておったのだろう?」


「大した話はねぇぜ」


「それでも構わんさ」


「そうかい。なら、そうだな……ああ、そういや、最初にドギツイのが──」



 院外学習の話から始まり、決闘やら、今の仲間たちとの出会いらやを語ってゆく。


 日々の殆どは授業。


 特別な出来事など、ほんの僅か。


 たかが5年分なんざ、思ったよりも呆気ねぇもんだ。


 それでも、先生やマザーと過ごした期間よりも、ずっと長い。


 こいつらと過ごした時間のほうが長いなんて、妙な感覚だ。



「──んで、戦士団を結成して初の依頼が、子供の救出だったわけだ」


「随分と背負い込んだな」


「あ? 子供のことか?」


「違う。仲間全員のことだ。小僧の浅はかな考えに、皆を巻き込んだその責、理解しているのか?」


「……浅はかな考えってのは、壁のことを言ってんのか?」


「それだけではない。戦士団のこともだ。聞くが、小僧が仲間を守れるのか?」


「何だよ急に」


「即答できんか。だろうな。強さも覚悟も無いのだろう」


「別に戦うために結成したわけじゃねぇよ」


たわけ。命を懸ける覚悟も無しに、安易に選択などするな」



 偉そうに説教かよ。


 ったく、めんどくせぇな。



「他者を頼みとはしないのだろう? ならば、自ら石を積み上げ、壁を築け」


「チッ」


「苛立つのは図星を突かれたが故。もう一度、何をすべきかよく考え直すことだ。取り返しのつかぬ事態を招く前にな」



 睨み付けてやるも、動じるはずもない。



「あのさー、何か雰囲気悪いんですけどー」


「すまんな。つい熱が入ってしまった」


「いえ、家族を心配するのは当然かと」


「家族ではない。それを互いに望まんかったからな」


「おい! 余計なことまで口走んな!」


「……とまあ、事情が複雑でな。どうしても知りたければ、小僧の口を割らせることだ」


「ふーん、よく分かんないわね。まあいいわ。それより、昨日の続きを話してよ」


「昨日? はて、何を話したんだったか」


「彼の子供のころについて、大変興味深いお話を聞かせていただきました」


「そうだったか?」


「……ホントに覚えてないの? つい昨日のことなのに?」


「重要なことは忘れん。だが、それ以外はサッパリだな」


「そ、そう。周りが苦労しそうね」


「皆には苦労をかける。が、ワシは皆のために動く。家族というなら、戦士団こそが家族だ」



 そうだ。


 俺たちは家族なんかじゃねぇ。


 俺の家族はもう死んだんだ。


 代わりなんかいねぇし、要らねぇ。






 夜になり、街道の馬宿に泊まる。


 食事や風呂を終え、扉をノックする。



「──誰だ」


「俺だよ。今、話せるか?」


「小僧か。構わんぞ」



 了承を得てから、部屋へと入る。



「他の連中は?」


「ワシの仲間のことか? 念の為、保護した者たちの見張り番にな」


「んだよ、逃げ出すとでも思ってんのか?」


「備えに過ぎん。それで、何を話す?」



 外に声が漏れぬよう、扉から極力離れた場所に椅子を移動させ座る。



「……聞かれてはマズい話か」


「なあ、攫われた獣人に共通点はあったか?」


「全員に確認は取れておらん」


「あるのか、ねぇのか、どっちなんだよ」


「聞いた限りではあったな」


「混血か?」


「……そうだ。よく気が付いたな」



 やっぱりか。


 だがそうなると、分からねぇことがある。


 連中はどうやって混血を見極めてたのかってことだ。


 獣人に限った話でもねぇが、純血も混血も、見た目に違いはねぇってのに。


 そもそも、街道で攫うって手法で、俺たちの偽装にすら引っ掛かってたぐらいだ。


 判別なんざ、できてねぇはずなんだが。



「なあ、獣人同士なら、混血かどうか見極められるのか?」


「無理だな。当然、自分で気が付くことも不可能だ」



 王都で尋問してみねぇと、これ以上は分かりようもねぇか。



「おい小僧。これ以上、この件に首を突っ込むな」


「あ?」


「小気味良い話ではない。恐らくは、な」


「そりゃそうだろ」


「知れば要らぬ傷を負う」


「……何か、思い当たるふしでもあんだな」


「忠告はした。くれぐれも選択を誤らぬことだ」



 つまり、喋るつもりはねぇってわけかよ。



「王都に着けば、すぐに分かるこった」


「やはり、そのための王都行きだったか。ならばせめて、独りで調べることだ」


「それも忠告ってわけかよ」


「明日はワシらも王都で一泊しよう。全てを知り得たなら、また訪ねてこい。まあ、言わずとも来るだろうがな」



 回りくどい真似しやがって。


 そんなに言い辛い事情があんのか?


 ……とにかく、家族を捜すためには、情報が必要だ。






 ああ、くそったれ!


 そういうことかよ!


 それで捜索の依頼が無かったのか?


 どんだけクズなんだ!


 どいつもこいつも、気に入らねぇ!


 夜気は熱を冷ましてなどくれやしない。


 宿に戻る気も起きず、当所あてどもなく町を彷徨う。


 人を避けて歩き続ける内に、いつしか街道にまで出てしまっていた。


 これからどうする。


 関わった連中を見つけ出して捕まえるのか?


 要らぬ傷、か。


 それをすれば、子供も傷付ける。


 どうすりゃいい。


 何をしてやれる。



「──どうした。全て投げ出して、独りで逃げ出すつもりか?」


「放っといてくれ。今は先生とも話したくねぇ」


「帰りが遅いと、娘共が心配しておったぞ」


「そうかよ」



 互いに無言。


 距離は変わらず、時間だけが過ぎてゆく。



「人一倍家族想いだからこそ、知るべきでは無いと思ったのだ」


「うるせぇ。帰れ」


「ワシは家族ではない。仲間でもない。ただの他人だ。何を気遣う必要がある? 全て吐き出してしまえ」



 この感情をぶつけるべき相手は、先生じゃねぇ。


 離れるために、奥へと足を進める。



「やれやれ、ワシからも逃げるつもりか」



 とにかく遠くへ。


 今、口を開けば、何を言い出すか知れねぇ。



「忘れたか? ワシからは逃げられん」


「俺に構うな!」



 正面に立ち塞がった人影に向け、叫ぶ。



「此処ならば、誰に聞かれることもない。安心しろ」


「俺は、俺は、先生にだって……」


「もう気を張る必要はない」


「あんなこと……していいはずが……」


「そうだな。全く酷い話だ。だが、そういう者も現実として存在する。悲しいことだがな」


「くそッ……ちくしょうッ……」


「小僧は間違ってなどおらん。そのいきどおりは正しいとも。きっと、ご両親も誇りに思っておられる」


「ぢぐじょう……ぢぐッ、じょッ……えぐッ、うぐッ」


「さあ、吐き出してしまえ」






「……悪かったな」


「気にするな。ワシは気にしておらん」



 何ともバツが悪い。



「特に人族が母親の場合に多いのだ」


「…………」


「己が子を、どうしても愛せない、とな」


「……くそだな」


「親とて所詮はただの人だ。好悪こうおも当然ある。問題はその後の対応だろう」



 人攫いなんか無かったのだ。


 全ては仕組まれていたこと。


 子を不要に思う親と、そこに付け込んだ奴等がいただけ。


 獣人の子供を連れて、街道を歩くこと。


 それが合図だったのだそうだ。


 俺たちが襲われたのは、チビ助を子供と誤認したらしい。



「身勝手が過ぎるだろ」


「親になるのは簡単だ。しかし、親を務めるのは容易なことではない。とまあ、ワシも親になったことは無いがな」


「なあ、人族が悪いのか?」


「いいや、そんなことはない。獣人が母親の場合でも、あり得るようだしな。歪な家族としてあるよりかは、先代のように受け入れてやるのが良いのかもしれん」


「家族ってのは、そんなもんじゃねぇだろ」


「間違いはあっても、正解は無いのかもしれん。人の数だけ家族の形もあろう」


「んな言葉で納得できっかよ」


「そうだな。何とも軽い言葉だ」



 あの日、助け出した姿を思い出す。


 瘦せこけた体に、ボロボロの服。


 あんな風に接するのが家族だと?


 ふざけんな!



「問題はこれからだ。子供を手放す手段が無くなったと知れば、次に何をするか」


「チッ、くそったれな連中ばっかりかよ」


「悪態ばかりか。何の解決にも繋がらんな」


「……そうだな。わりぃ」


「子供のいる家族に対し、何かしら対応をせねばなるまい」


「できんのかよ」


「困難ではあっても不可能ではない。小僧の言う壁の建造とて、同じことでは無いのか?」


「何でもかんでも、一緒にすんな」






ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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