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災禍の獣と骸の竜  作者: nauji
五章 一周目 故郷
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25 不意の再会

「何よ、どっか出掛けるの?」



 玄関を出ようとしていたところで、背後から声が掛けられた。



「まあな」


「何処行くの?」



 暇なのか?


 まあ、そりゃそうか。


 依頼の一つも受けとくべきだったかね。



「憲兵の詰め所にな。辺境伯の館へ入れるよう、手配してもらってんだよ」


「何でそんなことしてんの?」


「……オマエなぁ、質問攻めすんなよ」



 何々とばかり言うんじゃねぇよ。



「じゃあ、どうしろって言うのよ」


「暇してんなら、付いて来るか?」


「え、う、うん。別に構わないけど。いいの?」


「ダメなら誘わねぇよ」


「そ。仕方ないから、付いて行ってあげるわ」


「……そうかい」



 爆発する前に処理するのも、段々と手慣れてきたな。


 つーか、コイツの母親だったら、辺境伯の館ぐらい、すんなり入れたよな。


 とはいえ、その娘をダシにってわけにはいかねぇだろうが。


 どうにも、ままならんね。


 扉を押し開き外へ出る。



「──むぐッ」



 は? 何が起きたんだ?


 いきなり視界は真っ暗だし、息まで苦しいんだが⁉



「──随分な歓迎ぶりだな、小僧」


「むごむごッ⁉」



 こ、この声は……⁉


 それにこの硬い感触は、まさか⁉



「昔と少しも変わらんな。未だに胸の脂肪が好きなのか?」


「むごーッ!」



 捏造が悪質過ぎるだろ!



「ちょっと、いつまで人様の胸に顔突っ込んでんのよ! さっさと離れなさいよね!」



 首を強引に引っ張られる。



「──ぷはぁッ!」



 好きで突っ込んでたわけじゃねぇ!


 あの胸とは名ばかりの胸筋に、無理矢理拘束されてたんだっての!


 って、んなことよりも。


 オレンジがかったボサボサ髪に少ない布地から覗く浅黒い肌。


 そして、これでもかというほどの筋肉。



「せ、先生⁉」


「久しぶりだな。やはり小僧だったか。どうだ? ワシの勘は中々のものだろう?」


「姉御の奇行はいつものことですが、まさか本当に居るとは……」


「奇行とは酷過ぎんか? 昔から迷子になった小僧を見付けるのは、ワシが一番早かっただろう?」


「いえ、大抵の場合、迷子ではなく姉御から逃げていただけかと」


「ならば、あれは家出というヤツだったのか?」


「ええまあ、そうとも言えますかね」



 筋肉の後ろにも筋肉が。


 先生だけじゃなく、戦士団の皆まで?



「本物か? 何で此処に?」


「仕事だ。獣人の護衛を引き受けた」


「あ!」



 昨日、憲兵が言ってたアレか!


 嫌な予感が的中しやがったのかよ!



「此処に獣人を助けた者が滞在していると聞いてな。同胞の礼をと訪ねてみたが、途中から小僧の匂いを嗅ぎ取ったんでな。おると踏んでおった」


「姉御……さっきは勘って……」


「む? そうだったか? 些末事など気にするな」


「先生って何? 知り合いなの?」


「ほう、いっちょ前に女を囲っておるのか」


「え⁉ いやあの、別に彼女ってわけじゃ──」


「……にしても小僧、趣味が変わったのか? 随分と貧相なナリだが。特に胸が」


「なんですって! どういう意味よ!」


「おい⁉ 何で今の流れで俺に絡むんだよ⁉」


「カカカ! 中々に良い気迫の娘だ。いいだろう、小僧の嫁として認めてやろう!」


「ふぇ⁉ な、ななな、何言ってんのよ⁉」


「振るな! もげる! 頭がもげちまうっての!」


「騒々しいと思って来てみれば……これはいったい、どういう状況ですか?」


「見てないで助けろ!」






 さっさと追い返せばいいものを、態々室内にまで招かれていた。



「すまんな、家にまで上げてもらうつもりはなかったんだが」


「なら出てけ」


「どうしてそう攻撃的なのですか」


「フン」


「色々と積もる話もあるが、長居はできない。仕事で来ているからな。仲間に任せきりにもできん」


「あ、あのぅ、お二人はどういったご関係なのですか?」


「一時期、ワシが小僧の面倒を見ておった」


「確か、ご両親は既に……」


「魔獣に襲われた時に助けられたんだよ。んで、養護院に預けられるまでの間、世話になってた」


「では尚更、態度を改めるべきでしょう」


「良い良い。慣れておる。小僧は単に照れておるだけだ」



 やりづれぇ……。



「時に、その灰狼はいろうの子供はどうした? 同胞と共におらん子供は珍しい」


「王都のそばで誘拐されかけてたのを助けたんだよ。今は家族を捜してる最中だ」


「……なるほど、此処での騒動もそれ絡みか」


「まあな」


「此処では捜し終えたのか?」


「いや、まだだ。もしかしたら辺境伯に保護されてる中に居るかもしれねぇ」


「ならば一緒に来るがいい」


「は?」


「ワシはこれから、その辺境伯の館に行く。そうと知っておれば、さきほど仲間と共に同行させたのだがな」



 そうか、獣人の移送を依頼されてんなら、当然、出入りも可能ってわけか。


 昨日からの俺の苦労はいったい……。



「こっちとしちゃありがてぇが、いいのかよ? 許可とかいるんじゃねぇのか?」


「構わん。同胞を助けるのは当然だ。協力は惜しまん。それに、ワシを前にして、どうして悪さができる」


「しねぇよ」


「……しかし感慨深いな。小僧が人助けか」


「うっせぇ」


「エルフの娘はともかく、他は小粒揃い。成長して好みが変化したのか。昔は随分と──」


「黙ってろ、くそババア!」


「──ほう、口の悪さは治らんかったか」


「ぐッ⁉」



 向かいに座っていたはずが、背後から首を掴み上げられていた。



「ワシを呼ぶときは、どうしろと教わった? ん?」


「せ……せん、せい」


「それでいい。忘れるな、ワシは小僧の親代わりではない。最低限の礼儀はわきまえろ」


「──ゲホッ、ケホッ。わーってるよ」


「さて、では行くとするか」






 言い出した当人は、場所を知らないときたもんだ。


 こういうところも、相変わらずだな。


 戦闘以外だと、割と抜けてやがる。



「案内助かる。幼いのに大したものだ。褒めてやろう」


「あ、あのぅ、ウチも皆さんと同い年なんですが」


「そうなのか? ならばもっと沢山食べることだ。栄養が足りてないぞ」


「うぜぇ絡み方すんなよ」


「何だ。構って欲しいのか?」


「言ってねぇし、思ってもねぇよ」


「やれやれ。昔は胸に挟んでやれば、すぐ大人しくなったものだが」


「あれは窒息しかけてたんだよ。いい加減、その話は忘れろ」



 アレは脂肪ではなく筋肉の塊だ。


 昔、果実やら木の実やらを、挟んで粉砕するのを見せられた。


 自分の馬鹿力を理解してねぇのが、尚更(たち)わりぃ。



「どうにも、仲がいいのか悪いのか、判断に迷ってしまいます」


「じゃれておるだけだ。そう心配するな」


「ねぇねぇ、何で先生なの?」


「ふむ? そんなことが気になるのか?」


「そりゃあね。関係がよく分かんないし」



 余計なことは言うなと、視線で制する。



「……ワシが語ることでもない。気になるなら、小僧から聞くのだな」


「ですってよ。さあ、教えなさい」


「黙って歩け」


「何よ、ケチぃー」


「何か事情があるのでしょう。無理に詮索するものではありません」


「ほうほう。エルフの娘は随分と気配りができるようだな。気に入った、小僧を婿にやろう!」


「はあぁーーー⁉ アタシはどうなったのよ⁉」


「ふむ? 何か問題があったか?」


「よ、嫁がどうのって言ってたじゃないのよ! 忘れたの⁉」


「……諦めろ。大抵のことは、歩いたら忘れちまうんだよ」


「そんなことはない。仕事のことは忘れていない」


「そうかい。そりゃあよかったな」


「……そういえば、どうして一緒に付いて来ておるんだ?」


「獣人の子供の家族捜しだ」


「おお! そうだったな!」


「……大丈夫なの、この人」


「無害じゃねぇな。割と実害をこうむる」


「仲間は迷わず着けただろうか。心配だな」



 ま、心配してんのは、向こうの連中だろうがな。






 そういえば、来るのは二度目になるのか。


 周囲の建物と比べても、明らかに規模が異なる。


 パッと見、学院ぐらいはある……ってのは流石に言い過ぎか。



「ここら辺の建物は、どれもデカいのばかりだな」


「そ、そうですかね」


「これも平和な証拠か。良いことだ」


「そうか? 無駄に広過ぎると思うがな」


「う、うぅぅ、そんな風に思われてたんですね」


「あ、いや、今のは何つうか……」


「アホね」


「こんな幼子を悲しませるとは、感心せんな小僧」


「う、ウチは幼くないですぅ」


「む?」


「おいおい、悲しませるのは感心しねぇんじゃなかったのか?」


「──ゴホン! 此処は領主たる辺境伯様の住まわれる邸宅。用の無い者は直ちにお引き取りを」



 門前で騒いていたら、門番に注意を食らってしまった。



「これは失礼した。ワシは此度、獣人護衛の依頼を受けた者だ。通してもらいたい」


「証明できる物はお持ちですか?」


「確か書類の類いが…………む? 無いな。はて、どうしたんだったか」


「お持ちで無いなら、此処はお通しできません」


「なあ、先に戦士団が到着してなかったか?」


「確かに、お通しした方々はいらっしゃいますが」


「呼んできちゃもらえねぇか? 関係者かどうかは、それですぐ分かるはずだ」


「小僧、賢いな。褒めてやろう」


「やめろ! 毛が抜けちまう! つうか、余計な手間かけさせんな!」


「……分かりました。確認してみましょう」


「ああ、頼む」



 門番の1人がデカい門の脇にある扉から、中へと入って行った。



「……ふぅ、これでどうにかなるでしょうか」


「あいいぉう?」


「ええ、大丈夫です。心配させてごめんなさい」


「……妙だな。それほど幼いとも思えないが。まともに話せないのか?」


「あ? ああ、まあな。これでも、喋れるようになったほうだぜ」


「どうやら、家族に詳しく話を聞く必要がありそうだ」



 ……先生も虐待の線を疑ってんのか?


 他にも、孤児って理由も考えられる。


 如何せん、当の本人がまだ満足に喋れねぇから、本当のところは分からねぇが。



「姉御ぉー! 迷子にならずに来れたんですね!」


「失礼な奴め。誰が迷子になどなるものか」



 いや、なってたようなもんだろ。



「いてッ⁉ んだよ突然⁉」


「口に出さぬのは褒めてやる。だが、表情に出しては無意味だ」



 理不尽過ぎる!



「同じ戦士団の方で間違いありませんか?」


「はい。うちの団長がお騒がせしました」


「いえ。では通用口からお通りください」



 んだよ、このご大層な門は開けねぇのか?



「この程度の高さ、跳び越えても行けるがな」


「止めろ。無駄にややこしい真似すんな」


「ふふん、小僧には真似できまい」


「そうだな。俺にはそんなバカな真似はできねぇな」


「減らず口を」


「いへぇーっへ、ひっはふあ!」


「プッ、アンタもこの子と同じね」


「おんあい?」


「ダメですよ。アレの真似をしてはいけません」






ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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