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災禍の獣と骸の竜  作者: nauji
四章 一周目 禁忌
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24 ただいまとおかえり

「態々家の前まで送ってもらって悪かったな」


「なあに、これぐらい構わんよ。これに懲りず、また利用してくれ」


「ああ、機会があればな」



 軽く手を振り、ほろ馬車を見送る。


 同時に、最早我慢できぬとばかりに、エルフが玄関へと駆け出していった。



「何だか、あっという間だったわね」


「まあな」



 残された者同士、というわけでもないが、その背を追うようにのんびりと歩く。



「ホントに帰ってきちゃって良かったの?」


「どういう意味だよ」


とぼけないで。北区のアレよ。全部任せてきたようなものじゃない」


「いい加減、蒸し返すなよな。散々馬車で話し合っただろうがよ」


「だって……」



 言ってる間にも、玄関から騒がしい声が聞こえてきた。



「おあえい!」


「はい、ただいま帰りました」



 いじらしくも、獣人の子供が出迎えてくれたようだ。


 離れていたのは、丸三日ほど。


 それでも、両者にとっては長い時間だったのか。


 感動の再会とばかりに、抱き合ってる姿が見て取れる。



「が、頑張ってお出迎えの挨拶を覚えたんですよ。ね?」


「あい!」


「フフッ、偉いですね。ちゃんといい子にしてましたか?」


「あい!」


「お、お二人も、お帰りなさい!」


「おあえい!」


「ただいまー」


「……ああ」



 何となく、ただいま、と言うのを躊躇ためらってしまった。


 まったく、つまらん拘りだな。



「アタシ、もう一回寝直すわね」


「お、お疲れ様です」


「……何か、そう言われると、妙にむず痒いわね」


「す、すみません」


「ゴメンゴメン、気にしないで。じゃ、また部屋を借りさせてもらうわ」


「は、はい、もちろんどうぞ」


「ありがと」



 先程の会話を続ける気は既に無いのか、さっさと廊下を歩いて行ってしまう。


 と、不意に服を引っ張られた。


 視線を向ければ、いつの間にか獣人の子供に服を掴まれていた。



「どうした?」


「おあえい」


「ああ、もう聞いたよ」



 灰色の髪に手を乗せ、撫でてやる。


 が、予想に反して、耳や尻尾はピクリとも動かない。



「お・あ・え・い!」


「ん?」



 何だって、こうも連呼してくるんだ?



「ただいま、と言ってくれるのを待っているんだと思いますよ」


「……マジか」


「あ、あはは、ウチがそう教えちゃいました」


「さあ、妙な意地を張らずに、大きな声で」


「うー」



 んな目で見んなよな。


 ……ったく、しゃあねぇなぁ。



「──ただいま」


「あい!」



 たったそれだけのことで、途端に破顔してみせる。


 耳や尻尾が盛大に動き出す。



「満足したか?」


「あい!」


「そうかい」


「え、えへへへへ、何だかほっこりしました」


「やればできるではありませんか。後、そろそろ返してください」



 まるで俺から庇うようにして、抱き去って行った。


 流石に、その反応はねぇだろ。






 宛がわれた部屋に荷物を置き、再び家を後にする。


 向かう先は憲兵の詰め所。


 一応は憲兵からの依頼だったわけだし、軽く報告がてら。


 加えて、使いとばかりに手紙を預かってもいる。


 つっても、大した内容は書かれてねぇかもだが。



「よう、手紙を預かってきたぜ」


「どのようなご────え?」



 おっと、先走りが過ぎたか。



「北区での依頼を済ませてきたぜ。んでもって、向こうの憲兵からの手紙を預かってきた」


「承知しました。担当の者に確認いたしますので、少々お待ちください」


「ああ」



 手紙を受け取ると、後ろの部屋へと入ってゆく。


 そう間を置かず、受付へと戻って来た。



「すぐに担当の者が参ります」


「──やはりキミか。随分と早かったな。さ、こっちに来てくれ」



 割り込むように見覚えのある憲兵がやってきた。



「あ、ああ、分かった」



 以前にも入った部屋へと案内される。


 椅子に腰掛けるなり、身を乗り出してきた。



「それで、どうなったんだい⁉」


「落ち着けよ。手紙は読んだのか?」


「おっと、そうだった。まずは手紙に目を通すべきだな、少し待っててくれ」



 ……やれやれだ。


 ま、熱意が無いよかマシなんだろうがね。






「──保護できたのは5人か」


「ああ」


「しかし分からないな。健康状態は良好と書いてある。取引相手の目的は何だったんだ?」



 やはり、そこら辺は伏せられたままか。


 なら、俺も喋らんほうがいいんだろうな。



「いずれ続報が入るんじゃねぇか? すぐに帰ってきちまったから、取り調べやらも大して済んじゃいねぇんだろ」


「……それもそうか。ともかく、受け入れの準備は進めておこう」


「そういや、前に保護した獣人たちはどうしてるんだ?」


「ありがたいことに、辺境伯様の館を一部お借りして療養中だよ」


「へぇ」



 随分と気を回してくるもんだ。


 いや、この場合は手を回してくるが正しいのか?



「復調した者から順に、近日中にも東区へと移送する手筈となっているよ」


「……西区にいたほうが安全だと思うがね。もしくは南区とかよ」


「かもしれないが、家族も心配しているだろうしね」


「……それもそうだな。今のは忘れてくれ」



 俺たちが保護してる子供の家族についても、捜してやらねぇとな。



「キミの心配も分からなくはないさ。東区は魔獣による被害が深刻と聞き及んでいるからね」



 廃墟に瓦礫。


 絶叫に悲鳴に泣き声。


 ああ全く、酷い有様だろうさ。



「向こうから迎えが来る予定でね。何でも、獣人だけで構成された戦士団だとか」


「──ブッ⁉」


「大丈夫かい?」


「あ、ああ、そいつは安心だな」



 ……まさか、な。


 先生が直接出向くはずもあるまい。


 いやいや、ビビってどうするよ。


 東区に行けば、おのずと会う確率も高くなるだろうによぉ。



「顔色が悪いように見えるが」


「気の所為だろ」


「そうかい? 今更になるが、キミたちに怪我は無かったのかい?」


「ああ、幸いな」


「それはなによりだ。戦士団との戦闘になるのではと心配していたが」



 実際なってたけどな。


 手紙の内容が分からん以上、下手なことは言えねぇが。



「こっちの状況はどうなってるんだ?」


「現在は貴族たちへの調査は一段落し、商会への調査が主となっている。もし良ければ、キミたちも依頼を受けてくれると助かる」


「考えとくよ」






 王都から続いた事件は、ひとまず解決したってとこかね。


 実際はまだ、西や北で調査が進んでもいるわけだが。


 商会の調査っつってもなぁ。


 それよか、子供の家族を見つけてやるほうが、優先度は高そうに思える。


 見つかったらどうするのか。


 見つからなかったらどうするのか。


 色々と揉めそうではある。


 保護した時の状態が悪かったしな。


 どうにも碌な家族じゃねぇ気がする。


 養護院か、それとも先生を頼るべきか。


 いや、他者を頼みとするのは性分じゃねぇ。


 ……家かぁ。


 幾らぐらいするもんかねぇ。






「おあえい」


「お、おう…………ただいま」



 戻ったら待ち伏せに遭遇した。


 覚えたての言葉を使いたい年頃なのか?


 毎回言わされるとか、勘弁して欲しいんだが。



「なるほど、急に走り出したと思ったら、お出迎えがしたかったのですね」


「あい」



 追い駆けてきたらしいエルフと手を繋ぎ、ご満悦な様子。


 玄関で待機してたお手伝いさんだかが、苦笑してるんだが。


 そういや以前、戻る度に挨拶されてた気がするな。



「用事は済んだのですか?」


「ああ」


「新たな依頼を受けたりは」


「してねぇよ。そろそろ本腰入れて、コイツの家族を捜してやらねぇとな」


「……そう、ですね」


「反対か?」


「いえ、決してそういうわけではありませんが」



 浮かない表情を、全く取り繕えてねぇし。


 随分と情が移っちまったろうしな。


 いざ家族と再会できたとして、果たしてどう転ぶやら、だ。



「あいおう?」


「ええ、大丈夫です。心配してくれてありがとうございます」



 いつも思うんだが、どうやって言葉を判別してんだか。


 エルフだからって可能性もあんのか?


 読み書きを禁じてる分、口語の理解に長けてたりすんのかね。



「まさか西区には居ねぇと思うが、チビ助にでも知恵を借りてみっかね」


「以前保護した方々の中に居たりとかはしませんか?」


「あー、どうだろうな。それは思いつかなかったな」



 しくじったな。


 憲兵の詰め所で、保護した獣人たちへの面会を取り次いでもらうべきだったか。



「辺境伯の館で療養中だってのは聞いてきたが」


「では、訪ねてみましょう」


「待て待て。流石にいきなりは無理だろ。相手は領主だぞ」


「はい? それがどうかしましたか? その辺境伯にお会いするわけでもありませんし、大丈夫なのではありませんか?」


「面倒臭い段取りってのが必要なんだよ。いきなり訪ねたって、門前払いがオチだ」


「そういうものですか。では、諸々についてはお任せしますね」


「あ?」


「ワタシでは分かりかねますし」



 め、めんどくせぇ。


 俺だって、やり方なんぞ知らねぇっての!


 チビ助なら知ってっか?


 いや、憲兵のほうが手っ取り早いかもしれねぇな。


 ったく、どうしてこう、他者を頼みにしねぇといけねぇんだかな。






ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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