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災禍の獣と骸の竜  作者: nauji
四章 一周目 禁忌
25/97

21 圧倒

 外もすっかり暗くなり、ロビーにて待機する。


 待ち人は未だ現れず。


 徐々に不安が増してゆく。



「ホントに来るんでしょうね?」


「どうだかな」



 酔っ払いの戯言……という印象は受けなかった。


 まともに会話は成立していたような気はする。


 まあ、気はするだけなんだが。



「やはり待つだけというのは、どうにも性に合いません」


「ワシが言えた義理でもないが、少々落ち着いてはどうかな」


「今この瞬間にも、命が失われようとしているかもしれません。どうして冷静でいられましょう」


「そ、そうだねぇ。すまなかったよ」


「おい、絡むな。俺らだけじゃ助け出すのは無理なんだ。いい加減、理解しろ」


「ですが!」


「あーはいはい、アタシらで揉めても仕方ないでしょ」


「……ふぅ。少し近くを見て回ってくる。場所が分かってねぇ可能性もあるしな」


「ならばワタシも。ジッとなどしていられません」


「いやいや、顔も知らねぇだろうが」


「構いません。気分転換がしたいだけです」


「アタシだけ置いてくつもり? 連れてきなさいよ」


「全員で出てったら、入れ違いになるかもしれねぇだろうが」


「行ってきなさい。ワシが残っておるよ。もし訪ねてきたら、引き留めておくから」


「悪いな。頼むぜ」



 2人を引き連れて宿を出る。



「──おう、女連れとは、これからデートか? 何とも間が悪いな」


「やっと来たのかよ。随分と待ったぜ」



 数歩もせず、バッタリと出くわした。



「……ちょっと、何者よコイツ」


「力量がまるで測れません……これは想像以上に……」


「あ? 2人してどうしたんだ?」


「どうする? しばらく時間を潰してきたほうがいいか?」


「何言ってんだよ。アンタを待ってたっつったろうが。ちょうど探しに行こうとしたとこだったんだよ」


「そんなに遅れたか? まだよいの口だと思うがな」


「つーか、ホントに一人で来たんだな」


「そう言っただろう。オマエさんの連れには、警戒されてるみたいだがな」



 振り返ってみると、2人の表情が強張っていた。


 よく見れば、薄っすらと冷や汗すら滲んている。



「……どうしたんだ?」


「とんだ化け物よコイツ」


「ですね。ワタシたちよりも、遥かに格上なのは間違いありません」


「随分な言われようだが、まあ、褒められたと思っておくか」


「……そんなに強いのか?」


「普通、どんな奴だって、何となく強さが分かるものよ。けど、コイツの場合は……」


「さっさと向かわなくていいのか? それとも、まだ続けるか?」


「いや、さっさと済ませちまおう。一旦、憲兵の詰め所に寄ってから、取引場所に向かう」



 コイツが強いのは当然のこと、分かり切ってる。


 何せ討伐組なのだ。


 俺らからすりゃ、魔獣と同じぐらいの脅威に違いねぇ。


 問題なのは、他の討伐組と比べてどうかってとこなんだろうが。






 夜道を揺られながら進む。



「憲兵と一緒じゃなくて良かったのか?」


「連中がいても邪魔なだけだ。保護はともかく、捕縛には役に立たんさ」



 コイツを見た瞬間、憲兵の態度が一変しやがった。


 組合の時といい、知名度は高いらしい。



「それよりも、さっきの話だ」


「どれのことだよ?」


「木箱にオマエさんが潜むってヤツだ。止めとけ、どうせ無駄だ」


「んだよ、次から次へと却下かよ」


「触れた相手に魔術を掛けるつもりだったんだろ?」


「……ああ、そうだよ」


「経験を積んでる連中ほど、そういったもんには敏感になる。初見殺しにこそなっても、二度目以降は通用しないってのは覚えとくべきだぜ」



 相手が触れてくること前提だったからな。


 そもそもが警戒されて触れて来ないってんなら、話は変わってくるんだろうが。



「けどよ、獣人は魔術を使えないってのは常識だろ? なら、偽装さえしてれば、触れて来るんじゃねぇのか」


「組合でも話したろ? この地区で、獣人を丁重に扱うはずもない」


「そうかい、わーったよ」



 所詮は浅知恵だったわけか。



「オマエさんたちは、御者ぎょしゃの護衛をしてくれるだけでいい」


「そうはいきません。相手の数が不明な以上、予想よりも多ければ──」


「ならハッキリ言おう。足手まといだ。大人しくしててくれ」


「アンタ、随分な自信よね」


「信用できないか?」


「そうね。一人で敵うのかっていうのもあるし、どうして協力してるのかも分からないわ」


「他区から来た御上おのぼりさんは、大体が先達からの手痛い洗礼を受けるからな。いわゆる老婆心みたいなものだよ」


「せんれい? どういう意味よ?」


「この地区に来る戦士団は、大抵が魔獣討伐目当てだ。そして、これまた大抵の連中は実力を伴っていない。結果、先達からは煙たがられるわけだ」


「邪険にされるってこと?」


「ガラの悪い連中も多い。目の届かないところで何をしているやら、さ」


「随分と治安が悪いみたいね」


「必然的に古参の戦士団が幅を利かせることになる。無駄な自尊心ばかりが膨れ上がってるのかもな」



 しっかし、物怖じしない奴だよな。


 不信は抱いてるみてぇだが。


 エルフなんざ、睨んですらいるってのに。



「──もうすぐ着くよ。準備しといてくれ」



 さて、いよいよ一連の事件の決着かね。


 王都から、随分と振り回されてきたんだ。


 いい加減、終わりにしたいもんだぜ。






 到着したのは、町外れもいいとこ。


 周囲には、ある一つを除いて建造物すら見当たらない。


 その唯一の建造物が、煌々と辺りを照らし出している。



「此処は……第一門辺りか?」


「何よそれ?」


北壁ほくへきには第一から第五まで門が設置されてる。第一は西、つまり帝国領側に当たる」



 これが北壁ほくへき


 何を想定しているのか、どれだけ高いか窺い知れない。



「そんなに門があって、強度的に大丈夫なわけ?」


「むしろ必要なんだ。魔獣を防ぐだけでなく、定期的に減らさなければ、それこそ壁が破壊されてしまう」


「門に警備は就いてねぇのか?」


「居るはずだ。それも昼夜問わずにな。第一門は他と比べて、魔獣の襲撃回数が異常に多い。それだけ待機してる連中も多いはずだ」


「こんだけ明るきゃ目立つよな。ホントに場所合ってんのか?」


「この先に洞窟があるんだよ。取引場所はそこだよ」


「洞窟だと? まさか、こんな壁のすぐそばに廃坑道があるのか?」


「そう言えば、鉱山業が盛んだって習ったわね」


「珍しく覚えてたんだな」


「珍しくとは何よ!」


「大声は控えろ。既に監視されてる」


「……そう? アタシは何も感じないけど。エルフはどう?」


「ワタシにも感じられません」


「視線が増えたな。どうやら、場所に間違いは無いらしい」


「ワシを疑っておったのか?」


「可能性なら幾らでもある。まだ内通者って線も残ってる」


「おいおい、勘弁しとくれ」



 揺れが酷くなる。


 この辺りは道が整備されてねぇのか。


 明かりから遠退いているのだろう、次第に暗さを取り戻してゆく。



「あ」


「む」



 不意に、2人が声を上げた。



「確かに居るわね」


「ええ。人数は……5人でしょうか」


「残念。それだと最初に監視してた連中が漏れてるな。外に居るのだけで8人だ」



 ……俺にはサッパリ分からねぇんだが。



「なら、監視してる奴らはどうするんだ? 逃げられちまわねぇか?」


「この距離でか? それはあり得んさ」



 いや、どの距離だよ!


 分かんねぇっての!



「──馬車を止めろ」






 外から聞き覚えの無い男の声がした。


 すぐに馬車が止まる。



「此処に来た目的は何だ」


「へぇ、ワシはただ荷を運べと言われただけでして」


「何を運んでいる」


「木箱です。中身は知らんです」


「ならば、荷を置いて立ち去れ」



 ……これは、本当にいつも行われている取引なのか?


 何だったら強盗の類いに思えるんだが。



「後、馬車内に潜んでいる連中。オマエらも出て来い。命が惜しくば、妙な真似はしないことだ」



 野郎に視線を送ると、黙って頷かれた。


 取り敢えずは、大人しく指示に従っとけばいいらしい。


 と、外へと真っ先に跳び出して行った奴がいた。



「キサマら! 獣人を何処へやったのですか! 事と次第によっては、キサマらこそ命が無いと思いなさい!」



 ──な⁉


 あのバカエルフが!


 勝手な真似しやがって!



「……いつもの付き添いじゃあないな。やはり別口か。余計なことまで知ってるらしい」


「やれやれ。こうなっては仕方がないね」



 のっそりと野郎が馬車を出てゆく。


 瞬間、空気が変わったのを感じた。


 酷く息苦しい。



「よう。随分と勝手な真似をしているらしいな」


「な」


「どうやら、オレの顔ぐらいは知ってるようだね。結構結構。では、これからどうなるかも見当が付くはずだな?」


「に、逃げ──」


「わけがないだろ」



 どうにか外に出ると、既に1人が倒された後だった。



「全員、その場を動くな。動けば殺す」



 さらに息苦しさが増す。



「……やれやれ、監視してる連中も含んでるに決まってるだろう」



 跡形も無く、姿が掻き消えた。


 監視してるって連中のほうへ向かったのか?


 が、その瞬間を狙ってか、全員が動いた。



「逃がしません!」



 遅れてエルフが動く。


 体を押し退けるような強風が吹き荒れ、これまた姿が掻き消えていた。


 慌てて姿探す。



「コイツ、エルフか!」



 声に視線を向けると、一瞬で接敵を果たしたのか、剣戟が始まっていた。


 いつまで無事に済むかも分からない。


 その上、他の連中は散り散りに走り去ってしまった。



「ど、どうすんのよ、これ⁉」


「おっと、聞き分けのない連中だな」


「うおぉ⁉」



 いつの間にか、野郎が戻って来ていた。


 地面には3人の体が横たわっている。



「エルフの嬢ちゃん、まさか魔術を使ってやしないか? マズいな、壁に近過ぎる。先に止めるか」



 も、もう居やしねぇし。


 次いで、剣戟の音が止む。



「悪いな。気絶してもらった」



 再び現れたと思ったら、ぐったりとしたエルフが担がれてた。



「ちょっとアンタ! 仲間に何してくれてんのよ!」


「説明は後だ。救助まで間に合うか、微妙なとこなんだ」



 そして再び姿を消す。


 いやもう、常人離れし過ぎだろ。


 地面に置き去りにされたエルフへと駆け寄り、状態を確かめる。



「……気絶してるわね。何なのよアイツ。訳分かんない」


「そりゃ俺も同じだ」



 言うだけあって、アイツの強さは尋常じゃなかったらしい。


 先生並みか、もしかしたらそれ以上か。


 随分と久しぶりに、帝国の騎士を思い出したほどだ。



「だがまあ、マジで1人で全滅させちまうな」


「みたいね。正直な話、アイツが一番の脅威に思えるわ」



 アイツが特別なのか。


 それとも、あんな手合いが大勢いやがんのか。


 そう考えると、生きた心地がしねぇな。



「──待たせたな。外は片付いたぜ」



 最早、驚く気も失せた。


 声に振り返ってみたが、逃げた奴等を連れてはいなかった。



「残りは廃坑内の奴だけだ。気配からして、そいつが頭だろう。僅かだが他の気配も感じる。まだ助けられそうだ」



 んなことまで分かんのかよ。


 何でもアリだな、コイツ。


 ……いや待て、残りは、だと?



「オマエさんたちは、馬車の木箱を除けといてくれないか? 救助した連中を乗せたら、すぐに此処を離れよう」


「倒した奴等はどうしたんだよ? 置いてきたのか?」


「事情を把握してる奴を1人でも連れ帰れば十分だろう」


「放置はできねぇだろ。逃げられちゃ意味がねぇ」


「なら、コイツらも殺しておこう」


「は? おい待──」



 呆気なく踏み潰されてゆく頭。



「すぐに戻る。いつでも出発できるようにしていてくれ」


「な、何してんだよアンタ!」


「時間が無いんだ。もうすぐ魔獣の群れが押し寄せてくる」






ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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