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災禍の獣と骸の竜  作者: nauji
四章 一周目 禁忌
22/97

18 準備x4

 ようやく動けるようになり、出発のための準備を整えてゆく。


 組合か憲兵の詰め所か。


 どちらを先に済ませるか迷ったが、後者を選ぶ。



「どのようなご用件でしょうか?」


「商会の一件に関わった戦士団なんだが、捕まってる奴と話がしたくてね」


「……左様ですか。担当者に確認してみますので、少々お待ちください」



 受付の人が、すぐ後ろの部屋へと引っ込んだ。



「何するつもりなわけ?」


「馬車の手配……の前準備だな。誰と何処で取引してんのか、把握しとかねぇと」


「聞いて分かるもんなの?」


「運んだ当人を特定できりゃ、そいつに案内させるさ」


「買い手が直接こっちに来てたらどうすんのよ」


「……なるほど、そういう可能性もあったか。頭が回ってねぇな」


「やっぱり、まだ本調子じゃないんじゃない?」


「心配してくれんのか?」


「当たり前でしょ」


「お、おう。そうか」



 冗談なのか本気なのか、偶に判断をミスるよな。


 最近は素直になってきたってことなのかねぇ。



「──お待たせいたしました。すぐに担当者が参ります」



 受付の人が部屋から戻ってきた。


 そのすぐ後、通路から担当者とやらが現れた。



「キミ! もう動いて大丈夫なのかい⁉」


「えっと……?」



 ……随分と馴れなれしいが、誰だコイツ?



「──アンタを最初に見付けてくれた憲兵さんよ。治癒魔術師の手配とかもしてくれたの」



 戸惑いを察してか、素早く耳打ちしてくれた。



「どうやら、アンタには世話になったらしいな。礼を言わせてくれ。ありがとう、お蔭で助かった」


「いや、我々が不甲斐ないばかりに、あんな怪我をさせてしまったんだ。むしろ謝りたいぐらいだよ」


「気にしないでくれ。どうするか決めたのは俺だからな。悪いってんなら、それこそ犯人共のほうだろ」


「違いない。さて、犯人に会いたいとのことだったが、まずは事情聴取に協力してはもらえないだろうか。地下室の状況が状況だったんでね」



 コイツが一緒に居るが……まあ、ある程度はボカして伝えても通じるだろ。



「ああ、構わないぜ」


「ありがとう、助かるよ。では、部屋に案内しよう。付いて来てくれ」






「──なるほど、状況は概ね把握したよ。しかし、随分と無茶をしたものだ」


「全くよ」



 まあ何だ。


 今にして思えば、冷静さを欠いてはいたかもな。


 憲兵に任せりゃ楽はできただろうが、その場合、監禁されてた女性たちに被害が出ていた可能性もある。


 俺が単独で向かったからこそ、相手は油断したのだろうし、女性を人質としたりもほぼされなかった。


 惜しむらくは、下手を打って怪我したことに尽きる。



「聞くにつれ、魔術とは恐ろしいモノだな。っと、魔術師のキミを前にして、この発言はあまりにも失礼過ぎるな、すまない」


「気にしちゃいねぇよ」


「もっとも、考えようによっては、我々にとって有益なのは確かだ。学院に卒業生を斡旋するよう、打診を検討する余地は十分にあるだろうな」



 それはまぁ、学生たちにとっちゃ、良いことではあるのかね。


 進路が一つ増えるわけだしな。


 学院側、もっと言えば、魔術局側がどう考えるか次第だろうが。



「寄付金ぐらいは要求されそうだがな」


「ハハハハハ、確かにそうだな。そこが世知辛いところでもある」



 別段ウケを狙ったわけでもなかったのだが。


 余程に可笑しかったのか、目尻を拭ってみせた。



「さてと、次はキミたちの用事を済ませる番なわけだが……」



 妙な溜めが入る。



「頼んでばかりで恐縮だが、キミたちが何をしようとしているのか、先に説明してはもらえないだろうか」


「何だよ、そんなことかよ」



 てっきり拒否られるのかと構えちまったぜ。



「別に構わないぜ。実は──」



 昨日の夜、話し合った内容を話して聞かせる。



「また随分と危険な橋を渡るつもりらしいな」


「そうか?」


「そうよ」



 オマエが同意すんのかよ。



「依頼には含まれていないのだろう? 無報酬でそんな危険を犯すのか?」


「ま、そうなっちまうわな。仕方ねぇさ」


「何が仕方ないよ。余計な真似に決まってるじゃない」


「……どうにも、未だ同意は得られていない様子に見受けられるが」


「今更ごねるなよ」


「フン」


「是非とも今回の一件を教訓として、仲間と協力して事に当たって欲しいものだ」


「勝手するつもりはねぇよ」


「すまないが、キミたちが犯人と面会する間に済ませておきたい仕事ができた。他の者に案内をさせるから、帰る際、受付に声を掛けるのを忘れないでくれ」


「ん? まあ構わねぇが」






 例によって、魔術で口を割らせる。


 取引相手とは、現地で落ち合っていたようだ。


 荷物と共に、連中も数人付いて行くのが通例らしい。


 検品やら金の遣り取りやらをするそうだ。


 取り敢えず、普段利用している馬車の店は特定できた。


 これで向かう方法の目処は立った。


 犯人を連れて行かずとも、取引場所は分かるはず。


 後は木箱を手に入れないとな。



「あの、帰りに声を掛けるよう言われたんですが」


うけたまわっております。こちらをお渡しするよう、言付かっておりました。どうぞ、ご確認ください」


「え? あ、ああ、分かったよ」



 紙が複数枚手渡される。


 えぇっと何々……押収品の持ち出し許可、ってのは木箱のことか。


 北区の憲兵充ての手紙に、こっちは依頼書か?


 最後のは、馬車の店への命令書?


 ……こりゃまた、随分と気を回してくれたらしい。



「確かに受け取ったぜ。ありがたく使わせてもらうよ。あーそれと、倉庫の場所を教えて欲しいんだが」






 倉庫に馬車にと、用事を済ませてゆく。


 そうして最後。


 予定よりも大分遅れたが、戦士団組合へと辿り着いた。


 そろそろ、歩くのも辛くなってきたな。



「ふぅ」


「少し休憩したら? 体力が戻ってないんでしょ」


「此処で最後だ。そしたら休憩を入れるさ」


「ど、どうしてもって言うなら、肩ぐらい貸してあげてもいいわよ」


「そいつはどうも。無理そうなら頼らせてもらうさ」



 三日寝てただけでこのザマか。


 体ってヤツは面倒なもんだぜ。


 また絡まれても詰まらねぇ。


 精々、虚勢を張って用事を済ませるとしよう。


 が、前回とは違って、客は一人も見当たらない。


 妨害に遭うことも無く、すんなりと受付へ。



「おう、しばらくぶりだな。怪我したって聞いてたが、もう動けるようだな」


「ああ、まあな。今日は随分と寂れてるみてぇだな」


「お蔭さんでな。随分と稼がせてもらってるぜ」


「あ? どういう意味だよ」


「辺境伯様直々のご依頼でね。例の一件に関わった貴族の家宅捜索ってだけじゃなく、他の商会に関しても手入れするってんで、皆出払ってる」


「そりゃ大事おおごとだな」



 家探しついでに、色々と物が無くなりそうにも思えるがね。



「王国はエルフも獣人も差別なんかしねぇ。帝国にも示しがつかんからな。関わった貴族が褫爵ちしゃくされるってもっぱらの噂だ」


「ちしゃくってのは何だ?」


「爵位を取り消されるってことよ。辺境伯にその権利は無いから、単なる噂に過ぎないと思うけど」



 流石は貴族。


 そういった知識はちゃんとあるんだな。



「王都からも近々役人が来るそうだぜ」


「……それなら、割と深刻かもね」


「まあそれについてはいい。依頼の報酬を貰いに来たってのと、憲兵から新たな依頼書を預かってきたぜ」


「ほう、見せてみな」



 手渡してから、そう間を置かずに突っ返された。



「は? 何だよ?」


「こいつは北区の組合充てだ。ちゃんと確認してこなかったのか? 雑な仕事してっと、折角の評判を落としちまうぜ」


「……マジか」



 戻って来た依頼書を慌てて確認する。


 ……書いてあったわ。



「すまねぇ。早とちりだったらしい」


「しっかりしてくれよ? 後は報酬だったな。依頼書を剥がしてこよう」


「貰った依頼書って、どんな内容なのよ?」


「そういや見せてもなかったか。ほらよ」


「…………ふーん、獣人の保護か。戦士団を捕まえろってわけじゃないのね」


「組合の協力求む、とはされてるがな」


「……ねぇ、まだ生きてると思ってる?」


「連中の目的次第だろうな。だが、定期的にってことは、向こうで増え続けちゃいねぇんだろう」


「なーんか、暗い話題ばっかりよね。気晴らしがしたいわ」


「そうだな。次はそうすっか」


「──おう、待たせたな。憲兵からの報告書もどっかに……お、これだこれ。手紙の配達分と、商会関係者の人数が……」






 そういや、依頼には保護した獣人分の報酬は記載されてなかったか。


 まあそれでも、大銀貨5枚ってのは十分過ぎるがな。


 贅沢さえしなきゃ、当分は余裕ってもんだ。


 問題は、贅沢しがちなのが2人もいることか。



「ねぇねぇ。これってアタシのよりも多いの?」


「いいや。オマエの手持ちのほうが多い」


「随分と人数がいたもんだな。殆どをオマエらだけで倒しちまったんだろ? ヒョロっこい見た目の癖に、腕は立つようだな」


「仲間が優秀でね」


「そうね。アンタは5人ぐらいしか倒してないはずだものね」


「ってことは、そっちの嬢ちゃんが強いってわけか。若いのに大したもんだ」


「ま、まあね」


「あんまおだてんな。調子に乗っちまう」


「何よ! アンタは褒めなさいよ!」


「仲が良さそうで結構なことだ。またいつでも利用しに来てくれよ」


「ああ。機会があればな」



 最初とは随分と対応が違ったな。


 少しは信用されたってことかね。






「──で、結局、家に戻って来たってわけ。いい加減、休憩しなさいよね」


「今日はもう出歩かねぇよ。ゆっくり休むさ。出発は明日だ」



 今日中にチビ助の両親に挨拶できればいいんだが。


 組合で聞いたみたく、対応に追われてりや、まだ当分は忙しいままかね。



「しっかし、どうにも慣れねぇな」


「何がよ? 突っ立ってないで、さっさと入るわよ」


「こんな豪邸で寝泊まりしてたんだと思うとつい、な」



 宿泊費を請求されでもすりゃ、折角受け取ったばかりの報酬が一瞬で消え去りそうだぜ。


 あり得ねぇとは思いたいが。


 分不相応過ぎて、気が休まりゃしねぇ。



「やっぱ暮らすんなら、こぢんまりとした家が落ち着くんだろうな」


「ふーん」


「……何だよ」


「べっつにぃ~。誰と暮らすつもり、とか思ってませんけどぉ~」


「思ってんのかよ」


「大は小をねるって言うじゃない。ほら、もし仮に子供が増えても安心だし」


「おいおい、何か妄想がだだ漏れてんぞ」



 聞いちゃいないのか、ブツブツと言い続けている。


 よって放置し、さっさと家に入る。



「お帰りなさいませ」


「お、おぅ、ど、どうも」



 玄関で待ち伏せ。


 家事なんかを請け負う人を、何人も雇い入れるらしい。


 ……のはいいのだが、どうにも慣れねぇし落ち着かねぇ。


 気付くと居たりするから、心臓に悪いんだよな。


 逃げるように、宛がわれた部屋へと急ぐ。


 世話になっておいてなんだが、宿のほうが気が楽だぜ。


 準備は済ませた。


 明日にはおさらばできる。


 もう一晩の辛抱だ。






ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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