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災禍の獣と骸の竜  作者: nauji
四章 一周目 禁忌
19/97

15 カチコミ

 寄り道せず宿屋へと戻り、2人と合流する。



「よぅ、待たせたな」


「いえ、それほどでもありません」


「場所は確認してきた。突入前に憲兵を呼んどいたほうが、逃がす心配をせずに済むだろう」


「中を確認してからじゃなくていいの?」


「魔術で自白させてんだ。連中は怪しいんじゃねぇ。連中が犯人なんだよ」


「では当然、容赦の必要はありませんね」


「いや、事情を知らねぇ連中もいるかもしれねぇ」


「それは重要ですか? 自覚が無ければ罪ではないと?」


「む」



 そう言われちまうと、反論はし辛いな。


 主観では違っても、客観では同じこと。


 連中がどう思っていようとも、犯罪は犯罪だ。


 裁かれるべきには違いねぇ。



「罪を裁くのは俺らじゃねぇ。憲兵に任せるべきだろ。やむを得ない場合を除き、気絶に留めとけ」


「……どうにも手緩いですね」


「それにだ、関係者を吐かせたり、箱が最終的に何処に行き着くのか、聞き出す必要もあるしな」


「はあ? だから、この町に運んでるんじゃないの?」


「此処が終着点かは分からねぇだろ。商売ってことは、買うだけじゃなく売ってもいるはずだ」


「そ、そうですよね。ひ、人を売り買いするだなんて、許せません」


「そのとおりです。断じて許すべきではありません」



 またぞろ正義に火が点いちまったか。


 このまま議論を続けてると、首狩りが発動しそうだな。


 色々考えずとも、さっさと強襲して吐かせちまえば終いか。



「外は憲兵に囲ませて、俺らが突入って形にしとくか」


「それで構いません。むしろ、ワタシ一人でも構わないぐらいです」



 いや、それじゃあ誰も生き残らんだろ。



「アタシも構わないわよ。10人も潜んでやいないでしょうしね。楽勝よ」


「油断すんな。判明してない以上は、楽観視は禁物だぞ」



 とはいえ、俺も油断してたな。


 せめて、窓の数ぐらいは確認しとくべきだったか。


 あの規模からいって、部屋数は10もあるまい。


 上下合わせて8部屋と仮定して、1部屋につき4人ぐらいは寝泊まりできるか?


 30人前後か……流石にそこまで多くないとは思いてぇが。


 10人を想定するのと、30人を想定するのとじゃ、おのずと覚悟も変わってくる。


 ……考えを改めるか。



「方針を少し変える。もし敵の数が多いようなら手加減は無しだ。最悪、一番偉そうな奴さえ生きてればいい」


「もとよりそのつもりです」


「つまり、思いっきりやっていいのよね」


「仲間には当てるなよ」


「そんなの、避けられないほうが悪いわよ」


「全くです」



 コイツらからは離れておくべきだな。



「んじゃ、準備を終えたら出発するぞ」






 まずはチビ助の実家へと向かう。



「……きっと大きいのよね」


「だろうな」


「はい? 何の話ですか?」


「見りゃ分かるさ」



 店があの大きさだ。


 流石に店よりかは小さいとは思うが。


 進むにつれ、次第に町並みも変わってゆく。


 豪邸、豪邸、そして豪邸。



「……随分と大きな家ばかりがのきを連ねているのですね」



 もしかしたら実家は普通の民家かもなどと、そんな考えはもう潰えた。


 実家は豪邸だ。


 間違いない。



「と、到着です」



 家が……遠い!


 門の先に道が続いており、その両脇には庭が広がっている。



「ふ、ふーん。アタシの家ほどじゃないけど、中々に立派じゃない」


「あ、ありがとうございます」


「おっいい!」


「ええ、そうですね。しかし、正しくは”大きい”ですけどね」


「う」


「頑張って言葉を覚えていきましょう」



 驚きよりも子供への教育で頭が占められてやがる。


 事前に構えていた割に、結構な衝撃を食らった俺がバカみたいだぜ。



「で、では、この子はウチが預かりますね」


「ああ。久々の実家だろ。こっちのことは気にせず、ゆっくりしてくりゃいい」


「そ、そういうわけにはいきませんよ! し、心配するに決まってるじゃないですか!」



 珍しく声を張り上げて反論してきた。


 どうにも余計な一言だったらしい。



「うぅ」


「あ、あわわ⁉ お、大きな声を出してすみません」



 怯えてみせた子供に対し、ペコペコ頭を下げている。



「ダイジョブ、ダイジョブ。ちゃちゃっと終わらせてくるってば」


「会えるのは明日なのですね……ならば、すぐにも終えて眠ってしまいましょう」


「何かあれば宿屋に来てくれ。一応、明日は迎えに来るつもりだ」


「わ、分かりました。み、皆さん、くれぐれも気を付けてくださいね」






「さあ! さっそく退治に──ひゃぅ⁉」


「先に憲兵を呼ぶっつったろうが」



 今にも駆け出しそうなエルフの首根っこを摑まえる。


 そもそもコイツは目的地を知らねぇだろうに。



「──びっくりしたぁ。もしかして首弱いの? ちょっと、いつまで触ってるのよ! さっさと放しなさいよね!」


「お、おう。何かすまんかったな」


「い、いえ。ですが、もう触らないでください」



 その言い方は、少し傷付くんだが。



「すーぐいやらしいことするんだから、この変態!」


「言い掛かりはやめろ。迷惑被るのは、俺だけじゃねぇんだぞ」



 閑静な住宅街に、要らぬ誤解が広まっちまうだろうが。


 俺らはともかく、チビ助やその家族にまで及んだら事だ。



「さっさと憲兵の詰め所に行くぞ」






「──事情は概ね理解しました。手紙の件もあります。できる限りの協力はいたしましょう」


「助かるぜ」


「しかし、我々は包囲を敷くだけで構わないのですか?」


「どうせ大勢が突入できるほどの規模じゃねぇしな。逃げられるのが一番厄介でもある」



 別途、倉庫があるとして、そっちに向かわれたくねぇ。


 証拠隠滅を図らねぇとも限らんしな。



「最初は隠れといてくれ。突入前に警戒されたくはねぇしな。俺たちが突入してから、周囲を固めてくれ」


「なるほど」


「内部の制圧が済んだら呼ぶ。そんときは捕縛を頼むぜ」


「分かりました。少々お時間をください。最低限の人数を残し、装備を整えて出動します」


「ああ、頼む」






「……ふぅ、いよいよですね」


「何よ、緊張してるの?」


「オマエは緊張しとけ。見た目一般人でも、油断すんなよ。魔術師って可能性もあるんだからな」



 裏口は無い。


 窓の数から察するに、部屋数は6。


 後は、中に何人潜んでいやがるかだが。


 こればっかりは、分かりようがねぇ。



「行くぞ」



 バカ正直に扉を開けたりなどせず、思い切り蹴破る。


 ……はずが、思いの外硬かった。


 扉は今なお健在。


 くそッ、足がいてぇ。



「……何やってんだか」


「ワタシが吹き飛ばします」



 風が収束してゆくと、宣言どおり、爆音と共に扉が屋内へと吹っ飛んだ。



「──グべッ⁉」


「うおぉッ⁉ な、何だぁ⁉」


「おい、入口を見ろ! 誰か入ってきてんぞ!」



 声は3人分、内1人は扉の犠牲になったか。



「──ガハッ」


「──グフッ」



 と、その2人も早々に倒されていた。


 俺を置き去りに、女たちが駆ける。


 遅れて、ようやく俺も屋内へと侵入。


 一階で悲鳴が連続する。


 此処は任せて、二階に向かうとするか。






 二階の一番奥まった部屋。


 質素な家の外観とは違って、様々な調度品が飾られている。


 部屋の隅、これまた豪華な椅子に、太ったオッサンが座っていた。


 身なりからして、下っ端では有り得まい。



「ガキだとぉ? この騒ぎはオマエの仕業だよなぁ! ただで済──ガッ⁉」



 取り敢えず、盾をぶん投げて黙らせておく。


 意識がハッキリしてないほうが、魔術の効きが良い。


 無造作に歩み寄り、盾を回収しつつ、触れたくもない体に触れる。



 ≪催眠ヒュプノシス



 精神魔術の初級。


 さて、色々と聞かせてもらおうか。



「捕えた獣人は何処にやった、答えろ」


「──地下、と、倉庫、に、隠し、てる」



 地下だと?



「場所は何処だ」


「──場所、は、此処、と、北、の、建物」



 此処?


 この家に地下室があんのか?



「地下室の入り口は何処だ」


「──入り口、は、階段裏、の、隠し扉、の、奥」



 倉庫は場所を聞いたとこで、土地鑑が無きゃ分からんしな。


 誰かに案内させる他ねぇか。


 先に地下室とやらを見付けよう。



「地下から外へ抜ける道はあるのか」


「──無い。部屋、が、ある、だけ」



 ならいい。


 地下に残ってる奴が居たとして、騒ぎを聞かれて逃げれちゃいねぇはず。


 後、聞いとくべきことは……。



「獣人を誰に売った」


「──北、の、戦士団」



 ……なん、だと?


 どうして戦士団が絡んできやがる?



「目的は何だ!」


「──金、欲しい」


「オマエのじゃねぇ! その戦士団の目的だ!」


「──知ら、ない」



 チッ、肝心なとこで使えねぇ。



「他には誰に売った」


「──貴族、に、高く、売れた」



 そっちも碌な目的じゃ無さそうだな。


 憲兵じゃ、捕まえるのは難しそうか?


 チビ助の親ならば、どうにかできねぇだろうか。


 組合の話じゃ、この町では商会の力が強いらしいしな。


 ダメもとで頼んでみるか。


 今後、こんな輩が出ないよう、商会同士で見張り合ってくれりゃ助かるんだが。



「此処を動くな。憲兵が来たら洗いざらい全て話せ」


「──分かり、ました」



 聞くべきことは聞いた。


 地下室とやらに向かおう。






「アンタ、見かけないと思ってたら、こんなとこに隠れてたの?」


「隠れてねぇよ。んで、制圧は済んだのか?」


「まだ見てないのは、アンタが出てきた部屋だけね」


「なら、この部屋の確認はいい。憲兵を呼んで来てくれ」


「何よ、それぐらい自分でやりなさいよね」


「まだやることがあんだよ」



 確か、階段裏とか言ってたよな。



「ちょっと! ちゃんと説明しなさいよね!」



 一階に下りると、結構な人数が倒れていた。


 マジで想定数ぐらい潜んでやがったのか?


 それをまぁ、あっさりと。


 街道や洞穴の時といい、随分と手応えがねぇな。


 悪いこっちゃねぇんだが。



「──こちらは一通り済みました」


「みてぇだな」


「? まだ何かあるのですか?」



 階段裏へと回る。


 すると、2人して後を付いて来る。


 獣人が居るらしいことから察するに、よろしくない状況な気がしてならねぇ。


 あんま、見せたくはねぇんだが。



「地下室があるんだとよ」


「そうなの? けど、階段なんて見当たらなかったと思うわよ」


「ワタシも見掛けていません」


「隠し扉がここら辺に……あるはず……なんだが……」



 壁や床を軽く叩いて回る。


 うーむ、分からん。


 面倒臭いが、もう一度聞きに戻るか。



「退いてください」


「あ?」



 振り返った横を、素早く何かが通り過ぎて行った。


 恐る恐る正面へと向き直る。



「なるほど、確かに隠し部屋がありましたね」



 階段の真下。


 壁と思われたそこに、小さな空間が現れていた。


 床には地下へと続く梯子も確認できる。



「今、斬りやがったな⁉ 危ねぇだろうが!」


「静かに。まだ誰か、下に居るようです」



 っと、こりゃマズい。


 倉庫と分けてるぐらいだ、用途自体が違う可能性が高い。



「下には俺が行く。オマエらは早く憲兵を呼んで来い」






ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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