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災禍の獣と骸の竜  作者: nauji
四章 一周目 禁忌
18/97

14 西区到着

 3日かけて、ようやく街道を抜ける。


 久しぶりに目にする町。


 西区へと到着したのだ。


 意外にも、獣人の子供はよく歩いてくれた。


 お蔭で、想定以上に早く到着できたぐらいだ。


 幸いなことに、盗賊とやらにも遭遇はしなかったしな。


 ずっとそばに居たからか、それとも皆の献身の賜物か。


 随分と俺たちに慣れた気がする。


 何よりの変化は、表情が豊かになったこと。


 笑うようにもなった。


 馬車でさっくりと移動してしまっては、こうはいかなかったかもしれない。


 ならば、これで良かったのだろう。






「道中でも思ったけど、馬車の往来が激しいわよね」


「で、ですかね」


「いいですか? 決して手を離してはいけませんよ? あと、馬車に気を付けましょう」


「あい」


「返事は”はい”、ですよ」


「う」


「喋れるように頑張りましょう」


「あい」



 随分とエルフの様子が変った気がする。


 物腰が明らかに柔らかくなった。



「変われば変わるもんね」


「い、いいことですよね」


なごむのは後だ。用事を済ませておくぞ」


「何だっけ? 組合に寄るんだっけ?」


「まずは憲兵の詰め所に行って手紙を渡す。その次が組合だ」


「どっちも場所が分かんないわね」


「う、ウチが案内します」


「地元だもんな、頼むぜ」


「待ってください。街道とは違って町中を歩くのは危険過ぎます。この子を連れ回すのは反対です」



 普通は街道のほうが危険だと思うんだがな。


 まあ実際、街道とは違って人通りは多いし、馬車もそこかしこから走ってきている。


 加えて、此処には人攫いの元凶が居るはず。


 下手に出歩いてるよか、安全ってのはあるかもな。



「先に宿を取れってか?」


「お願いします」



 今回、荒事に巻き込まないため、チビ助を一時的に実家に戻らせ、獣人も同行させるつもりだったが。


 どの道、俺たちが泊まる場所は必要になる。


 流石に、チビ助の実家に泊まるのは図々し過ぎるだろうしな。



「分かった。先に宿を探すか」






「いや、たけぇよ」


「そう? 別に普通じゃない」



 アホか!


 一泊で銀貨取られてちゃ、すぐにも干上がっちまうぜ。



「せめて銅貨で泊まれる宿はねぇのか」


「お、表通りでは多分無理ですぅ」



 表通りでは?


 チッ、そうか、狙いの客層は帝国か。


 交易してる関係上、帝国の者も泊まりにくるのだろう。


 そもそも物価が違うんだ。


 向こうさんにとっちゃ大した金額にもなるまいが、俺たちには痛手過ぎる。



「お母様から貰ったお金もあるけど? 使う?」


「節約しろ節約を。金があるからって使いまくってたら、すぐに金欠だぞ」


「ぎょ、御者ぎょしゃが利用する宿なら、もっと安いかも」


「そっちで頼む。案内してくれ」


「は、はいですぅ」



 この様子じゃ、表通りでの買い物は厳禁だな。


 ぜってぇーぼられる。



「この宿が不正でも行っていたのですか?」


「バカか、余計なこと言うんじゃねぇよ」



 従業員からの視線が痛い。


 逃げるように宿を出る。






 どうにか手頃な宿を見つけ、2部屋借りる。



「2人部屋よね? アンタ、どこで寝るつもりよ」



 当然の如く、俺は弾かれたらしい。



「チビ助。久々の故郷だろ? 折角だし、実家で泊まれよ」


「え?」


「んで、子供も預かっててくんねぇか」


「どういうつもりですか?」


「荒事に巻き込めねぇだろ? かといって、宿に残してくわけにもいかねぇ」



 表情からして完全に納得はしてないようだが、反論は無かった。



「あー、いやでも、各所を案内もしてもらわねぇとか」



 何とも手際が悪いな。


 どうしたもんか。



「ワタシがこの子と宿に残ります。所用を済ませ次第、宿で合流し、ご実家に向かいましょう」


「それって、アタシたちも行くってこと?」


「当然です。2人で行かせるのは危険ではありませんか」


「んじゃ、そうすっか。チビ助もそれで構わねぇか?」


「あ、あのぅ、全員で泊っても大丈夫ですけど」


「そこまで世話にはなれねぇさ。それとも、実家に何か問題でもあったか?」


「い、いえ、実家が嫌なわけじゃないんです。た、ただ、帰れると思ってなかったので、ちょっと戸惑ってるだけです」


「そうか?」


「は、はい、大丈夫です」


「んじゃ、2人は宿で待っててくれ。すぐに済ませてくる」


「はい」


「あい」


「か、可愛いですぅ」


「はいはい、ちゃっちゃと行くわよ」






 まず向かうのは憲兵の詰め所。


 王都とは違って、衛兵はいないらしい。


 そういや、東区もそうだったかもしれねぇな。



「外観は似たようなもんだな」


「それはそうなんじゃない?」



 角ばった石造りの建物。


 用途重視で見た目など気にしてないのかね。


 大した感慨も浮かばず、さっさと中に入る。


 正面の受付で事情を説明し、手紙を渡す。



「──分かりました。まずは待機している者に周知しておきます。後ほど、組合には受領の旨、伝えておきます」


「ああ、よろしく頼むぜ」



 次は組合だな。



「……え? これで終わり?」


「此処はな。次行くぞ次」


「は、はいですぅ」






「本当に此処で合ってんのか?」


「そ、そのはずですけど」



 一見すると、ただの酒場。


 王都にあったような、工房が併設されていない。



「……そんだけ、魔獣の被害がねぇってことか」


「何か言った?」


「いや、何でもねぇ」



 もしかしたら、南区も同じような造りなのかもな。


 王国内じゃ、あそこが一番安全だろうし。


 ……いや、よくよく考えてみりゃ、王都にだって魔獣は現れねぇよな。


 だが、工房内には魔獣の死体があった。


 北や東からでも運び込まれてんのか?



「さっきから何してんの? 入らないの?」


「ああ、わりぃ。少しばかり考え事をな」



 今優先すべきは、商会へのカチコミ。


 魔獣のことなど、気にしていても意味がねぇ。


 中に入ると、内装は似たような感じ。


 が、割と昼間っから人が居る。



「おいおい、ガキが女連れかよ」


「なあ嬢ちゃん、こっち来て酌してくれや」



 酒くせぇし。


 子供を連れて来なくて正解だったか。



「何なのよコイツら」


「ただの酔っ払いだ。構うな」


「んだとコラァ?」


「──オイ、暴れるってんなら外でヤレ」


「わ、悪かったよ。そう睨まんでくれ」



 組合の受付らしき人物の一声により、すぐさま野次が止んだ。


 王都にいたオッサンよりも数倍(いか)つい。


 その隙に奥まで進む。



「ここらじゃ見ない顔だな。余所もんだな?」


「ああ。王都から来たばっかりだ」


「一般の戦士団か。何用だ?」


「依頼を遂行中でね。っと、登録時の用紙と、依頼書の控えだ。確認してくれ」



 腕組みを解いて書類を手にし、目だけが素早く動いてゆく。



「こいつぁまた、随分な厄ネタだな」


「この町に獣人は?」


「とんと見かけねぇな」


「商会については? 何か知らねぇか?」


「……そこは前々から不審がられてはいたがな。まさかとは思いたいが」



 この町でも浮いてるって感じかね。



「この町じゃ、辺境伯様に次いで、商会こそが力を持ってる。勘違いってんなら、タダじゃ済まされねぇぞ」


「そうかい。だが、やることは変わらねぇよ」


「間違っても、帝国の連中とは揉めるなよ」


「そんなつもりはねぇよ。けど犯人の一味ってんなら、そうも言ってらんねぇがな」


「帝国は関係ないと思うがな。亜人とは関わらんだろう。ともかく、忠告はしたぞ」



 亜人、ね。


 随分と帝国寄りな物言いだな。


 此処にエルフと獣人を連れて来るのは、控えたほうがいいかもしれねぇ。



「そんじゃ、銀貨の用意を頼むぜ」


「抜かせ」



 登録時の用紙だけ回収し、受付を後にする。



「──それと、女を連れて歩くつもりなら、夜に来るのは避けとけ」


「ああ」



 背に掛けられた声に、軽く返しておく。


 やれやれだ。






「んじゃ、宿に戻るか──いや、先に商会の場所を案内してもらっとくか」



 宿屋へ向かおうとする足を止める。



「も、もう行くんですか?」


「商会の連中に、獣人を連れてるとこを見られたくねぇしな。宿に戻ったら、2人を連れてオマエの実家に直行しようぜ」


「わ、分かりました。え、えっと、確か北のほうだったはずです」


「なーんか、感じ悪かったわよね」


「で、ですねぇ」


「そうか? あんなもんじゃねぇか」


「全然違うわよ。王都じゃ、もっと丁寧だったじゃない」



 王都は貴族の子女も多いしな。


 下手な言動は、騒動の元なんだろう。


 が、やたら女に反応してはいたな。


 人通りを見るに、女が少ないってわけでもなさそうだが。



「なぁチビ助。夜と女って聞いて、何が思い浮かぶ?」


「は、はいぃ⁉ え、えっと、そうですねぇ………………あ」


「何だ?」


「お、往来で口にするのはちょっと」



 ……なるほど。


 娼婦とかって意味合いか。


 そういや、王都じゃその手の店を見かけなかったかもな。


 なら、女連中にゃ、夜に出歩かせないほうがいいか。



「何よ、教えなさいよ」


「あ、あうぅ」


「社会勉強は後回しだ」


「はあ? 何よそれ」



 教えれば騒ぎ出すに決まってる。


 事を起こす前に、悪目立ちしたくはねぇ。



「んで、例の商会ってのは、デカいのか?」


「ど、どうでしょう。そ、そんな印象はありませんけど」


「ふーん」



 まあ、扱ってる品を周知してねぇぐらいだしな。


 目立たせたくなきゃ、店を豪華にはしねぇか。



「も、もしかしたら、今は大きくなってるかもしれません」



 そういや、学院にいたチビ助が知ってるぐらいなんだ。


 必然的に、商会の活動はそれ以前からってことになるよな。


 ……チッ、胸糞のわりぃこった。






「此処ぉ? 周囲と比べて、随分とちっちゃくない?」


「おい、あんま大声出すな」


「た、多分、倉庫を別で構えてるんだと思います」



 確かに、看板には木箱の印字と同じ模様がある。


 とはいえ、一見するとただの二階建ての民家って感じだ。


 普通の店みたく、ガラズ張りってわけでもねぇし。



「倉庫か。なら木箱はそっちだろうな」


「た、多分ですよ?」


「ま、何処で何してようが、連中に吐かせれば済む話だがな」


「……アンタのほうが、よっぽど悪人に見えるわね」


「場所は確認したしな。一度、宿に戻ろうぜ」



 外観からじゃ、内部の様子が窺い知れない。


 規模からして、大した人数は潜めないとは思うが。


 カチコミの際、逃げられるほうがマズい。


 2人は外で待機させ、俺だけ中に入るか?


 荒事専門だろうと、接触さえすれば魔術が効く。


 狭さもこっちには有利だ。



「なーんか、思ってたのと違ったわね」


「そうか?」


「もっとこう……そう、こういう大きい店にさ、乗り込んでって大暴れするのかなって思ってたんだけどね」



 仮想敵とされた憐れな店舗は、貴族の豪邸もかくやというデカさ。


 とてもじゃないが、俺らの人数じゃ対応しきれまい。



「や、止めてください⁉ う、ウチの店じゃないですか⁉」


「「──え?」」



 思いがけない言葉に、同時に足が止まる。


 デカい。


 バカデカい。


 此処までに見て来た店と比べても、明らかにデカい。



「マジで?」


「な、何がですか?」


「オマエの商会って、結構凄かったりする感じ?」


「ど、どうでしょう。か、各区に支店はありますけど」



 なるほどな。


 そりゃあ、貴族並みの金銭感覚にもなるわな。






ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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