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災禍の獣と骸の竜  作者: nauji
三章 一周目 戦士団
17/97

13 行き先

「何も、俺の部屋に集まらんでもいいだろ」


「いいでしょ別に」


「一人部屋に5人とか、狭いんだよ」



 ベッドを占領され、止む無く椅子に座る。



「あとこれ、あんまり美味しくないんだけど」


「で、ですよねぇ」


「生意気に文句言ってんじゃねぇよ」



 差し入れた昼食がお気に召さないらしい。


 金持ち連中ってのは、無駄に舌が肥えてていけねぇ。



「そうですか? ワタシは美味しいと思いますが」


「あぅ」


「ほらな? コイツらを見習え」


「どうやってよ! 意味分かんないわよ!」



 っと、こうして図らずも集まってんだ、時間を無駄にすべきじゃねぇな。



「今後の予定を話し合いたいんだが、構わねぇか?」


「そうそれ。結局、この子のこととか、どうなったわけ?」


「連れてくことにした。憲兵にはもう伝えてある」


「あ、あのぅ、戦士団に加えるんですか?」


「いや違う。同行者扱いだ」


「そうは言ったって、いっつも一緒ってわけにいかないでしょ」


「だな。戦闘なんかにゃ連れてけねぇ。誰かが面倒を見てる必要がある」


「どうすんのよ」


「選択肢は3つ。1つ目は東区へ向かい、親を捜してやる。2つ目は西区へ向かい、誘拐の主犯を捕まえる。3つ目は王都に残って親が見つかるのを待つ」


「1つ目って、何か根拠があって言ってるわけ?」


「どういう意味だ?」


「東区に親がいるって話よ」


「分からん。が、獣人が一番多いのは東区だ。あと、俺が世話んなった養護院もあるしな」


「まさか、預けるつもりなんですか⁉ 面倒を見るとは嘘だったのですか⁉」


「うぅ」


「落ち着けよ。とにかく、子供を最優先するって選択肢だと思ってくれ」



 大声に驚いて身を震わせた子供に気付き、慌てたエルフが抱きしめてみせる。



「危険なのは、どう考えても2つ目よね」


「で、ですよねぇ。け、けど、ウチはできればコレがいいかなって」


「はあぁ? 危ないって理解してる?」


「う、ウチも商家の娘です。お、同じ業種の者の非道は見過ごしたくありません」


「ワタシも同意します。悪は誅されるべきです。とはいえ、この子を危険に巻き込むのは心苦しいくもあります」


「安定は3つ目だろうな」


「アンタはどうなのよ?」


「2だ。実は依頼を受けてもある。が、強制ってわけじゃねぇ。此処で出た結論に従うつもりだ」


「エルフは? 結局、どうしたいの?」


「ワタシは……」


「う?」


「この子の親を捜してあげたい。ですが、この子のような目に遭っている子を、放ってもおきたくありません」


「2が多いわけね。なら、西区行きでいいんじゃない」


「オマエの意見はどうなんだよ。4でも5でも、意見があるなら出してくれていいんだぜ」


「別に無いわ。決まったことに従うだけよ」



 そういやコイツ、退学する時も俺任せだったよな。


 肝心なとこを他人に決めさせるってのは、どうにも気に入らねぇ。



「オマエのやりてぇことはなんだよ。逆に、ぜってーやりたくねぇことでもいいが」


「何よ急に」


「賛成でも反対でもよぉ、とにかく自分の意見を言えっての」


「アタシは……アタシにはやりたいことなんて無いわよ」


「ま、まぁまぁ、揉める必要もないですよ」


「この子も怖がってます。できれば控えてください」


「へいへい。んじゃ、西区行きで構わねぇんだな?」



 3人が頷きを返してきた。


 スッキリとはしねぇが、一応、決定は決定だ。



「っと、もう一つ」


「まだ何かあるわけ?」


「これで最後だ。子供の面倒は他人任せにせず、全員で持ち回りてやろうぜ」



 結局は分担になりそうだが、最初にそう宣言するとサボる奴が一名、確実に出るだろうしな。


 椅子から立ち上がり、ベッドから獣人を抱き上げる。



「う」


「てなわけで、今日はオマエが面倒を見ろ」



 完全に油断してる膝に乗せてやる。



「あ、アタシぃ~⁉」


「明日、宿を引き払って出発するぞ」






 ゾロゾロと退出してゆく面々。



「で? 何でオマエは残ったんだよ。さっさと帰れよ」


「子供の面倒なんて見れないわよ。アンタが代わってよ」



 膝上の子供を抱くでも無く、むしろ距離と取るように上体を逸らしている。


 逃れたいのは子供からか、それとも責任からなのか。



「これはオマエのためでもあるんだぜ。どうにも責任感やら決断力やらが足りてねぇ。これを機会に養え」


「なッ! そんなこと」


「母親の真似でもいいさ。分からないことがあれば、俺や他の奴を頼ればいい。だから逃げんな」


「どうしてそう、アタシには意地悪なのよ」


「そんなことはねぇだろ。被害妄想過ぎやしねぇか?」


「うぅ」


「大丈夫だ。オマエは何も心配しなくていい」



 獣人の頭を軽く撫でてやる。


 心なしか耳が垂れた気がする。



「……子供には優しいわよね」


「悪いことや危ないことをしたときは、叱ったりもするさ」


「もう既に、どうすればいいか分かんないわよ」


「目を離さずそばを離れず、話し掛けたり触れたりしてやれ」


「アタシだと、怪我させちゃうかもだし」


「甘えんな。加減を覚えろ」


「さ、さっき頼れって言ったじゃない」


「ただの丸投げを頼るとは言わねぇだろ」



 溜息を堪えつつ、続ける。



「コイツがまだ喋れないのは、言葉を聞く機会に恵まれなかったからかもしれねぇ。なるべく話し掛けてやってくれ」


「うー」


「う~?」


「気を付けねぇと、子供は何でも真似するぜ」



 口からの異音が止む。



「抱き上げるのって、どのぐらいの力なら大丈夫なの?」


「オマエが経験した中で、一番脆い物を想像してみろよ。んで、それを壊さないように扱え」



 恐る恐る手が伸びてゆく。


 横から伸びてきた手を見て、子供が硬直する。


 泣き出さないだけマシか。



「そ、それで、どこを持てばいいわけ?」


「脇の下だな」



 やれやれ、こりゃあ思った以上に手が掛かりそうだ。






 宿を出ると、1人だけゲッソリしていた。


 これはまあ、予想どおりか。



「忘れ物はねぇな?」


「はい」


「は、はいですぅ」


「あーうー」


「今日はチビ助が担当か」


「が、頑張ります」



 体格的に抱き上げるのは無理だ。


 必然的に手を繋いで歩くしかない。


 昨日と同じく、子供は通行人に怯えているように見える。



「街道に出るまでは抱き上げてやるよ」


「え、えっとあのぉ」


「街道からは任せたぜ」


「は、はい」



 今日の目標は、宿に到着することだな。


 子供を抱え、西門を目指す。



「背負っている物は何ですか? 以前は持っていませんでしたよね」


「保存のきく食料やら水やらが入ってる」



 組合を出た後、買い揃えておいた物だ。


 どうせ、王都での待機は選ばれないだろうと思ったしな。



「随分と小さいようですが、足りるのですか?」


「これで野宿しようってんじゃねぇんだ。念の為の備えだよ」


「野草の類いであれば、ワタシが見分けられますよ」


「ほぅ、なら今度、小さい鍋でも買い足しておくか」


「草なんか食べるわけ?」


「野菜と大差ねぇだろうが」


「全然違うでしょ⁉」


「う、ウチもちょっと……」



 この2人はアレだな。


 贅沢から離れさせ、質素で素朴なものを味合わせてやる必要があるのだろう。


 野宿となると、天幕がありゃ楽できるんだが。


 もし俺が入れたとして、結構なデカさが必要だ。


 高いし重い。


 手頃な洞穴でもあればってとこか。



「ん?」



 視界に入ってきたのは、ヒョコヒョコと動く耳。


 昨日とは違って、周囲の様子を窺っているらしい。


 多少は慣れてきたってことか。


 もっとも、抱いてるからこその余裕かもしれないが。



「今日は随分とご機嫌だな」


「はぁ? 何よ急に」


「オマエのことじゃねぇよ」



 行き交うのは人族ばかり。


 エルフも獣人も見掛けない。



「ふぅ、これだけ人が多いと、歩くだけでも疲れてしまいますね」


「そ、そうですかね」


「西区はどうなんだ?」


「そ、そうですねぇ。ば、馬車が多い印象です」


「そうか。子供が出歩くには、ちと危ねぇな。いいか、絶対に手を離すんじゃねぇぞ」


「何でアタシを見て言うのよ」


「心配だからだ」


「あ、アンタに心配されなくたって──」


「アホか。オマエが心配なんじゃねぇよ」


「──ッ⁉ わ、分かってるわよ!」


「わ、わわわ⁉ こ、子供を抱いてるんですから、暴力はダメですよぅ」


「子供に暴力を振るおうとは、非道に過ぎます。斬りますよ?」


「斬るな。あと抜くな」



 腕の中でモゾモゾと動き出した。


 様子が気になるのか、肩越しに覗き込んでいる。



「は、はうぅ。か、可愛過ぎますぅ」


「これは確かに……妙な高揚感を覚えますね」


「……アンタ、すっかり獣人を受け入れたのね。学院では散々言ってたくせに」


「過去は過去です。日々は常に学びに満ち溢れています。成長したと言ってください」



 実際、結構過激なことを言ってたしな。


 チビ助のお蔭もあるんだろうが。



「な、何か、ジッと見られてると落ち着かないわね」


「し、幸せですぅ」


「耳が、耳がピョコピョコと。何故だか無性に触りたくなってきます」



 仲良くする分には結構なことだ。






 ようやく西門に到着し、地面に下ろしてやる。



「いいか? 絶対に手を離すなよ」


「わ、分かってます」


「街道を通る馬車は当然として、街道脇の草木にも気を配れよ」


「アンタって、割と心配性よね」


「そうか?」



 いざ手元を離れると、不安にもなる。


 が、確かに色々と口を出し過ぎているかもしれん。


 こっちでも気を配ってやればいいだけか。


 獣人の歩幅に合わせ、歩く速度を調整する。



「不審な輩は斬ります」


「斬るな。抜くな」


「そう言えば、盗賊退治とかの依頼もあったわよね。ついでに受けとけば良かったかしら」


「ついでに退治したところで、憲兵を呼びに行くのも手間だろ」


「それもそうね」


「王都のそばだと言うのに、何故、こうも治安が優れないのでしょうか」


「そりゃオマエ、王都しか守ってないからじゃねぇか」


「……どういう意味でしょうか?」


「は? いや、そのまんまだよ。憲兵も衛兵も、王都の治安維持が務めなんだろ。一歩でも出ちまえば管轄外なんだろうさ」



 当然、街道を見回ったほうが、治安は向上するはず。


 だが実際問題、東西南北の街道を常に見回るのは、相当の手間だろう。


 そうして見回ったとしても、悪さをする輩は出る。



「人員が不足しているのですか?」


「どうだろうな。実際のとこは俺にも分からん」



 学院の卒業者が増えて、衛兵だけで王都の治安が守れるようにでもなれば、憲兵が街道の見回りに従事することもできるのかもな。



「なればこそ、見つけ次第、成敗してゆきましょう」


「自衛する分には構わねぇが、疑わしいってだけでちょっかいかけるなよ?」


「ねぇねぇ、今更だけど、何で馬車を使わなかったわけ?」


「あ」



 そういやそうだったな。


 別に歩きに拘る理由は無い。


 それこそ、盗賊退治をするってわけでもねぇんだしな。



「まあ何だ、アレだアレ。運動も必要だろ」


「……ま、いいけどね」


「そ、そうですよ。あ、歩くのはいいことです」


「アンタの場合、獣人と歩けてるからってことでしょ」


「は、はうぅ」



 馬車の値段より、宿の値段のほうが高いわけで。


 歩きの分、宿に泊まる回数が増す。


 いや、金だけの問題じゃねぇ。


 痩せ細った体で歩かせるとか、俺も考えが足りてねぇな。


 馬車に乗せたら乗せたで、揺れで酔うかもしれねぇが。


 色々と子供目線で考えてやらねぇとな。






ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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