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災禍の獣と骸の竜  作者: nauji
三章 一周目 戦士団
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12 子供の処遇②

 勢い込んで出て来たはいいが、肝心の詰め所の場所を聞き忘れた。


 繋いだ手からは、震えが伝わってくる。


 視線の先にあるのは俺……ではなく、周囲に対してか。


 王都の人通りは多い。


 人を怖がってるのか。


 歩かせるのは諦め、抱き上げる。



「あ」


「これなら安心か?」


「う」


「そうか。ならこれで行くか」



 昨晩とは違い、泣き喚くことは無い。


 安心させられてないのか、不安でそれどころじゃないのか。


 この感じ、養護院を思い出す。


 昨日通った時には気が付かなかったが、東門付近に行けば詰め所ぐらいすぐ見つかることだろう。






 門のすぐそばに詰め所はあった。


 憲兵のじゃなく、衛兵のだったが。


 仕方なく衛兵に場所を尋ね、再び歩き出す。


 抱えている獣人の子供は、周囲を眺めるでもなく、むしろ隠れるようにして胸に顔を押し付けている。


 どんな生活を送って来たのか。


 コイツの親は、ちゃんと育てていたのか。


 喋れないこともそう。


 ショックで一時的に喋れないだけなのか、耳が聞こえないのか、もしくは言葉を覚えられる環境にいなかったのか。


 色々と考えさせられてしまう。


 ……ったく、くだらねぇ。


 俺まで悲観的になってりゃ世話ねぇっての。


 どう見たって幸福じゃねぇなら、これでもかってぐらいに、これからを幸福にしてやれば済む話だろうが。


 俺が助けられたように、俺も助けてやればいい。



「心配すんな。俺が居てやる。女連中もだ」


「う」



 こっちの声に反応はする以上、耳が聞こえないわけじゃないんだろう。


 意味が伝わってるのかが問題ではあるが。



「朝、あんま食ってなかったろ。もっとしっかり食わねぇとな」


「う」


「叱ってるわけじゃねぇさ」



 アレをやれ、コレをやれってんじゃ、息が詰まるか。


 焦らずいかねぇとな。






 石造りのやたらと角ばった建物。


 此処で合ってるんだよな?



「うぅ」


「用事を済ませたら、すぐに出る。少しだけ我慢してくれ」



 無骨過ぎる外観が、子供には受けが良くないのか。


 中に入ると、意外と中は明るい。


 正面に受付。



「何かお困りごとですか? あー、もしかして迷子かな?」


「いや違う。昨日、誘拐犯を捕まえた戦士団なんだが」


「ああ、キミがそうなのか。話は聞いてるよ。少し待っててくれ」



 そう言うと、すぐ後ろの扉へと入って行く。


 が、またすぐ出てきた。



「右の通路の一番手前の部屋で待っていてくれ。すぐに人を行かせる」


「分かった」



 まだ怖がってるらしい獣人をあやしつつ、言われたとおりに部屋へと入る。


 これまた無機質な部屋だ。


 壁の上のほうに、採光と換気用っぽい鉄格子。


 来客用じゃなく、尋問室だなこりゃ。


 申し訳程度に置かれた机と椅子。


 こういう場合は奥側に座るべきかね。


 まずは獣人を椅子に座らせてから、隣に椅子を持ってきて座る。






「──すまないが、扉を開けてくれないか。両手が塞がってるんだ」



 扉の向こうから声が掛かる。



「ああ」



 返事をしつつ、立ち上がって扉を開けてやる。



「ありがとう」


「別に、これぐらい構わねぇよ」



 トレーの上に人数分の飲み物と、紙の束が載せられていた。



「椅子は足りてるな。今日は2人だけで来たのかい?」


「ああ。他の連中は寝不足気味でね。今も宿で寝てると思うぜ」


「そ、そうか。ま、まぁ、なんだ。仲が良くて何よりだな」


「……あ?」



 どういう意味──。



「アホか。妙な勘繰りしてんじゃねぇよ。明け方までコイツの世話を焼いてたってだけだ」


「そうだったか。いや済まない」



 椅子に座り直し、相対する。


 持ってきた飲み物を配り終えると、咳払いを一つ挟んで話が始まった。



「それじゃあ、話を聞かせてもらっても構わないかな?」


「っと、そうそう、コイツは喋れねぇみたいなんだ」


「……そうなのかい?」


「う」


「一応、聞こえてはいるみたいなんだがな。コイツからの聞き取りは諦めてくれ」


「そうか……しかしそうなると、親御さんの捜索も難しいな」


「後もう一つ。コイツは俺らが預かることに決めた」


「……キミが連れてきたから、てっきり預けに来たとばかり思ったんだが」


「悪いな。ただ、親の捜索はそっちでも進めてくれると助かる」


「もちろんだとも。なら、キミから昨日の話を聞きがてら、その子の似顔絵を作成してしまおう」






「──西区の商会、か」


「ああ、らしいぜ」


「区外となると、我々では動き辛いな」


「ま、そっちも何とかなるかもな」


「……と言うと?」


「まだ仲間と相談したわけじゃねぇが、その商会に行ってみるつもりだ」


「如何に戦士団とはいえ、好き勝手に振舞えるわけじゃない。下手をすればキミたちが捕まるだけだ」


「接触さえできれば、洗いざらい吐かせるのは楽勝だ」


「どういう意味かな?」


「拷問って意味じゃねぇぜ。魔術を使うってだけだ」


「なるほど、キミは魔術が使えるのか。そうだな……ならば、追加で依頼を出そう。それと、西区の憲兵充てに一筆書いておこう。それである程度は自由に行動できるはずだ」


「おいおい、まだ行くと決まったわけじゃねぇんだぜ」


「おっと、そうだったな。だが、行くつもりなんだろう?」


「親探しを優先するなら、東区行きになる可能性もある。まだ分かんねぇよ」


「それならそれで構わないさ。依頼も無駄になるわけじゃない」



 ふと隣を見やれば、子供がウトウトし始めていた。


 夜まで寝てたとはいえ、逆に夜は起きてたんだから、今頃眠くなってきたのか。


 椅子をくっつけ、体をこちらへと寄り掛からせる。



「う?」


「眠っちまっていいぜ」


「……失礼な物言いだろうが、少しばかり意外だな」


「あ? 何がだよ?」


「キミの振る舞いだよ。何というか、見た目に反して手慣れてる感じがしたのでね」


「養護院育ちなんだよ。ガキの面倒なら見慣れてる」


「……そうだったのか、やはり失言だったな。すまない」


「別に気にしてねぇさ。単なる事実ってだけだ」


「そうか。キミは立派だな」


「……何だよ急に。気持ちわりぃな」


「その歳で──いや、キミの年齢は知らないのだが、他人を気遣える者は、そう多くはない」


「買い被り過ぎだろ。アンタが悪人を見過ぎてるってだけじゃねぇのか?」


「ふっ、かもしれないな。人の悪意というものには際限がない。これからどうするにせよ、十分に気を付けたまえ」






 すっかり寝入ってしまった子供を背負い、宿を目指す。


 組合で報酬を受け取ったり、旅装を整えたりもしたかったが、仕方がない。


 アイツらが起きて来てから、行動するとしよう。


 にしても、随分と物分かりのいい奴だったな。


 子供に関しちゃ、もっと揉めるかと思って、女共は置いてきたんだが。


 まあ、面倒事にならずに済んで良かったか。


 さっさと東区に行きたい気もするが、どうなるかねぇ。






 宿に戻り、ひとまずは自室に入る。


 皆を起こすのも何だしな。


 獣人はこのまま此処で寝かせておいてやろう。






 扉をノックする音で、考えごとを中断する。


 戻って来てから、大して時間は経ってない。


 もう誰か起きたのか?



「──開いてるぞ」


「入っても構いませんか?」


「ああ」



 入って来たのはエルフのみ。



「他の奴は?」


「まだ寝ています」


「オマエは寝てなくていいのか?」


「えっと……その子が気掛かりでしたので」


「まさか、寝てねぇのか?」


「いえ、少しは眠りましたよ」


「おいおい、そんなんで大丈夫かよ」


「そんなことよりも、その子のことです。どうなりましたか?」


「身柄は俺らが預かるって話をつけてきた」


「ッ⁉ そうですか!」


「おい、大声出すな。起きちまうだろうが」


「す、すみません。つい」


「いいから、戻って寝とけ。まだ酷い面してるぜ? 他の連中が起きるまで、俺がコイツを見といてやるからよ」


「……意外ですね」


「あん?」


「アナタです。もっと悪人だと思ってました」



 ……それはつまり、まだ悪人だとは思ってるってことか?



「そうかい。なら、俺に襲われない内にさっさと部屋に戻れ」


「……此処で寝てはいけませんか?」


「……オマエ、俺の話聞いてたか?」


「但し、触れられたと判断次第、潰します」



 何を、とは聞くまでもないんだろうな。



「この子のそばに居てあげたいのです。いけませんか?」


「ああもう、好きにしろよ」



 ベッドから離れた位置に椅子を置き、腰掛ける。



「ありがとう」



 ったく、んな顔されちゃ、断れねぇだろうが。






 ドタドタ音がし出したと思ったら、扉が激しく叩かれた。



「この変態! さっさと2人を返しなさい!」



 しかも、大声で叫びやがった。



「──あのバカ女はよぉ」



 寝不足が解消された途端にこれか。


 まあ、そろそろ昼時だし、見張りを交代させるか。


 立ち上がって扉へと向かう。



「いちいち騒ぐな。うるせぇんだよ」


「やっぱり戻ってたのね! 2人は中⁉ そこに居るの⁉」


「居るよ。どっちも眠ってる。だからギャアギャア騒ぐんじゃねぇ」



 そこまで言って、扉を開けてやる。


 すかさず拳が見舞われた。



「っと、危ねぇな」


「──チッ」


「どんだけ狂暴なんだよオマエは」


「2人は無事なんでしょうね?」


「少なくとも、ベッドに入ってからは触っちゃいねぇ」


「な」


「いや待て、言い方が悪かった。何もしてない。マジで」


「……それはアタシが見て判断するわ。退きなさい」



 再び見舞われた拳を躱し、壁際へと逃れる。



「で、何でエルフまでこっちで寝てるわけ?」


「心配だったんだとよ。一応、戻るようには言ったぜ」


「魔術を使ったわけじゃないのね?」


「ああ」


「ホントにホント?」


「しつけぇっての」



 ベッドで寝入る二人を見て、ようやく勢いが弱まる。



「どうすることになったの?」


「個別に説明すんのは面倒過ぎんだろ。また夜にでも話そうぜ」


「ちょ、ちょっと、何処に行くつもりよ⁉」


「昼飯を調達ついでに、雑用を済ませとこうと思ってな。留守番……って表現が正しいのかは分からねぇが、後は任せたぜ」



 身代わりも用意できたし、晴れて自由の身だ。


 とにかく金が無い。


 見る見る銀貨が消え失せてゆく。


 昼飯はアイツらの分も買って帰るとして、できるだけ安いので済ませとくか。


 そうなると、飯は後回しで、先に組合に行っとくか。






「よっす」


「何だ、独りか? もう喧嘩別れでもしたのか?」


「ちげぇよ。依頼の報酬を受け取りに来たんだよ」


「そうかい。依頼番号は?」


「えっと──」



 番号を伝え、手続きを済ませてゆく。



「えらくすんなり解決したんだな」


「……いや、まだ解決ってわけじゃねぇんだがな」


「そうなのか? 憲兵からは犯人は捕らえたって聞いたが」


「ま、色々とな」


「報酬だが、犯人1人につき大銅貨1枚。救助者1人につき小銀貨1枚とある。犯人は9人で、救助者は1人。間違いないか?」



 街道で戦ったのが5人、洞穴周辺で4人だったはず。



「ああ。間違いねぇ」


「小銀貨1枚と大銅貨9枚。確かめてくれ」


「おう、ちゃんとあるぜ」


「依頼書を剥がしてくる。指印を押したら完了だ」



 にしても、報酬が少ねぇ。


 あの耳飾り二つ以下かよ。


 完全に赤字だぜ。



「そうそう、憲兵から追加の依頼があったんだが」



 もうかよ!


 手際が良過ぎだろ!



「何でも、前金で旅費をつけるとさ。但し、先着一組に限るそうだがな。受けるか?」



 どうにも見透かされてる気がするぜ。


 今は少しでも金が欲しい。



「前金だけ貰うって手もアリなんだよな?」


「そりゃあな」


「なら受けるぜ」


「一応、依頼内容には目を通しておけよ」


「わーったよ」



 オッサンの居る壁際まで移動する。



「ほれ、そいつだよ」



 ……ふーん、なるほどね。


 西区の憲兵に手紙を届けるだけでも、少額だが報酬は貰えるらしい。


 しかも、商会関係者の身柄は、1人につき小銀貨1枚。


 これは結構稼げるかもな。



「中々上手い話だろ」


「だな」


「実際、オマエらに最初に見せるよう、言付かってたしな。受けてくれて助かるよ」


「そうだったのか」


「登録時にも言ったが、区外に行くなら、書類を持っていくのを忘れるなよ」


「ああ」


「では、残りの手続きを済ませてしまおう」






ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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