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災禍の獣と骸の竜  作者: nauji
三章 一周目 戦士団
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11 子供の処遇①

 獣人を抱き上げ、洞穴を後にする。


 空の色が変わり始めてもいるし、さっさと宿を取らねば。



「──な⁉ いったい何処に居たのです⁉」


「木箱ん中だ。他は空箱だったがな。どうやら、売っぱらわれる寸前だったらしい」


「箱の中って、人を物みたいに! あんまりじゃない!」


「ワタシの確認不足ですね。すみません」


「この子を一旦、預かってくれねぇか。伸びてる連中に話がある」


「それは別に構いませんが」


「少し離れてろ。ソイツらの内の誰か、もしくは全員が精神魔術師の疑いがある」



 獣人をエルフに渡し、つたで拘束され並べられた4人へと近づく。


 精神魔術師相手でも、気絶してれば効果はあるか?


 もしも相手の力量のほうが上なら、俺が操られたりするかもな。



「俺が操られるかもしれねぇ。様子がおかしいと判断したら、気絶させてくれ」


「そんときは、思いっきりやってあげる」


「……いや、手加減はしといてくれ」



 まずは一人目。



 ≪催眠ヒュプノシス



 精神魔術の初級。


 端から順に魔術をかけてゆく。


 チッ、眠気が出てきてるな。


 そろそろ魔術の使用は控えたいとこなんだが。


 この段階じゃ、まだ掛かったか分かんねぇな。


 とはいえ、全員を一度に起こすのは危ねぇか。


 時間は掛かっちまうが、一人ずつ起こしていくか。






 一人目は違った。


 が、二人目で引っ掛かった。


 読みどおり、精神魔術師だったらしい。


 だが、学院出身者じゃねぇようだ。


 つまりは、学院以外で魔術を教えてる輩がいるのだろう。


 まあ、今はそれはいいか。


 別に何に違反してるってわけでもねぇ。


 学院入りは権利であって義務じゃねぇしな。


 中級以上の魔術師がいるなら、魔術局が血相を変えそうでもあるが。


 やはりと言うべきか、西区の商会と通じていた。


 残念ながら、獣人を攫う理由までは知らねぇみてぇだ。


 攫った他の獣人たちは、数日前に移送した後。


 想像以上に組織化されてやがる。


 大元を潰さない限り、人攫いは続けられるかもな。






「この者以外は連れて行かれた後でしたか」


「酷い連中よね。こんなのがまだいるってのが、さらにムカつくわ」


「それで、これからどうしますか?」


「取り敢えず、コイツらは鼻と口以外はつたで覆って、街道に運ぶのは一人だけにしとこうぜ。後は憲兵に任せりゃいいだろ」


「全員運べばいいじゃない」


「無茶言うなっての。チビ助は体格的に獣人も犯人も運べねぇだろ。2人じゃ、大人4人なんぞ運べるかよ」


「す、すみません」


「それならそうと、先に言いなさいよね」



 コイツに構ってるのは時間の無駄だな。


 少しでも明るい内に、街道に出ておきたい。



「すみません、犯人たちの拘束を強めようにも、まずはこの子を預かっていただきたいのですが」


「おっと、そうだったな」



 再び腕に抱く。


 しっかし、全然起きねぇな。



「この子、幾つぐらいかしら」


「そうだな……5歳前後ってとこじゃねぇか」


「はあぁ? そんなわけないでしょ。流石にもっと大きいでしょ」


「あ、あの、獣人は人族に比べて成長が早いんですよ」


「あのねぇ、いくら早いって言っても、限度があるでしょ」


「マジだっての。人族の2倍近く成長が早いんだよ」



 その弊害なのか、寿命も半分ぐらいだがな。



「……ホントにぃ~?」


「ほ、ホントですよぅ」



 加えて、獣人は繁殖能力も高い。


 攫ったのは、労働力目当てなのか?



「そういえば、モフモフがどうとか言ってたわよね。折角だし、本物の感触を確かめさせて頂戴」


「おい、加減を間違えるなよ? 今起きられても面倒だ」


「分かってるってば」



 慎重に耳へと手を伸ばしてくる。



「ん? んんん?」


「ど、どうですか? も、モフモフですか?」


「んー? こういうもんなのかしら? 犬猫のほうがよっぽどな気がするけど」


「あ、あれぇ? そ、そんなはずは……」


「……そんだけ、酷い扱いだったってことだろ」


「「あ」」



 二人共が押し黙る。


 抱いてみりゃ分かるが、随分と軽い。


 見た目に反して軽過ぎる。


 この服とは名ばかりのボロ布といい、どうにも嫌な想像ばかりが浮かぶ。


 攫われる前から、碌な扱いを受けてなかったんじゃねぇか?


 獣人は基本、同族意識がことほか強い。


 が、中には例外だっているんだろう。


 もしくは、親が既に亡くなってるか。






「終わりました」


「おう、お疲れさん」


「あの、もう一度抱かせていただけませんか?」


「お、おう、構わねぇぜ」


「……何で、変な反応してるわけ? さては、いやらしいことでも考えたんでしょ」



 今のは、主語を省くのが悪いだろ⁉


 豊かな胸を凝視など、断じてしていない!


 しっかし、自ら懇願してくるとはな。


 学院にいたころは、獣人に対して偏見を持っていた風だったが、実際に目にすると印象も変わるのかねぇ。



「そんなことより、お腹空いたわ。喉も乾いたし」


「洞穴内の樽に水が入っちゃいたが、コイツらが口を付けてるだろうな」


「そんなの飲まないわよ」


「なら王都まで我慢しろ」



 今回はちっとばかし強行軍が過ぎたか。


 そういう準備も、今後しとかねぇとだな。



「んじゃ帰るか」



 洞穴から松明を探し出し、明かりを灯しておく。


 こうしときゃ、憲兵も見つけやすいだろ。



「アンタが犯人を運びなさいよね」


「わーってるっての。周囲の警戒は頼んだぜ」


「任せときなさい」






 途中で日が沈んじまったが、街道の明かりを頼りに、どうにか抜け出した。



「──キミたち! 無事に戻ったか!」



 律儀に待っていたらしく、数人の憲兵と馬車が待機していた。



「おう。んじゃ、コイツを頼むぜ。っと、直接体には触るなよ」


「どういう意味だ?」


「魔術師なんだよ。触ったり触られたりすると、魔術を掛けられるぜ」


「それでこの状態なのか。気を付けるとしよう」


「こっから南東に洞穴がある。そこに3人同じ状態で転がしてあるから、回収しといてくれ。目印に道中の枝を折ってある」


「そちらに関しても了解した。その抱いている子が被害者か?」


「はい。あまり栄養状態が良好ではないようです」


「そうか。他には居なかったんだな?」


「ああ。っとそうだ、洞穴内に木箱がある。それも回収しといたほうがいいぜ」


「……まさか、この子が中に?」


「そういうこった」


「酷いことをする。生きて保護できただけでもマシなのか。事情を聞いたり、身元を確かめたりする必要がある。こちらで保護しよう」


「お願いします──あ」


「おや?」



 遣り取りが中断された。


 どうしたのかと見やると、子供の手がエルフの服を握り締めていたようだ。



「……憲兵は男所帯だ。子供を怯えさせないとも限らない。どうだろう、キミたちさえ良ければ、今夜一晩、預かっていてもらえないだろうか」


「どうしましょう?」


「好きにすりゃいい」


「う、ウチは賛成です!」


「ちゃんと体を洗ってあげて、本物のモフモフを実感したいしね」



 一名、微妙な理由の奴が混じってやがったな。



「明日、改めて詰め所まで連れて来てくれ。場所は──」


「大丈夫よ。アタシたちが呼びに行ったんだから」


「そうだったな。失礼した。それでは、協力に感謝する。ゆっくり休んでくれ」


「ああ。そっちも頑張ってくれ」



 5名ほどが分け入って行く。


 後始末は任せて、さっさと宿を取らねぇとな。






 食事もそこそこに、さっさと部屋に引っ込む。


 一人部屋は妙に新鮮だ。


 寮では二人部屋だったからかもな。


 廊下を挟んだ向かいの部屋からは、結構な音量の泣き声が聞こえてくる。


 子供が起きてしまったらしい。


 ならば、明日に備えて、俺ぐらいは寝ておくべきだろう。






 一階の食堂で、皆と合流する。



「……オマエら、ちゃんと寝たんだろうな?」


「あー、うー」


「ふわあぁ~」


「…………」


「おい、チビ助がまだ寝てんぞ」



 子供の服装が変わっていた。


 チビ助の服なのか、それとも、態々夜中に買いに走ったのか。


 しかし、女の子だったとは、昨日は気付かなかったな。


 俺に気付くなり、エルフの背にサッと隠れてしまう。



「怖がらなくても大丈夫ですよ。悪い人ではありません」


「う」


「……ま、取り敢えず食事にしようや」



 随分とエルフに懐いたな。


 いや、懐いたのとは違うのか?



「……アンタは元気そうね」


「そりゃ、寝たからな」


「うう……こっちは大変だったんだから。今日はゆっくりしましょう。むしろ一日寝かせてぇー」


「ぐぅー」


「仕方ねぇなぁ。んじゃ、もう一泊してくか」


「さんせー」


「実は、ひとつ問題がありまして」


「……喋れないのか?」


「え、あ、はい、そうみたいなんです」



 やっぱりそうか。


 泣き声しか聞こえてきやしなかったしな。


 親を呼ぶことすらしねぇってのは、妙だと思ったんだ。



「このような状態で、憲兵に預けても良いものでしょうか」


「だからって、俺らで面倒見るってのか?」


「それは……」



 親が生きてるのかも不明。


 問いただすこともできやしねぇ。



「うぅ」


「ワタシは……ワタシには、子供を見捨てることなどできません」



 膝に乗せた獣人を、後ろから抱きしめてみせる。



「勝手を言ってすみません。戦士団を抜け、この子の親を捜します」


「ハァー、ったく、どうしてオマエは、相談をすっ飛ばして勝手に結論を出しちまうのかねぇ」


「そうよねぇ~。読み書きできないくせして、ふわぁッ、どうやって捜すつもりなのよぉ~」


「……食事は諦めて、寝て来いよ」


「うー、そうするー」


「ついでにチビ助も連れてけ」


「しょうがないわねぇー。ほら、行くわよー」



 いやいや、引きずるんじゃなく、抱えてやれよな。



「……続きといくか。アイツも言ってたが、読み書きできねぇのは厄介だと思うぜ」


「ならば、ワタシが頼めば、手伝ってくれるのですか?」


「どうせ元から東区には向かうつもりなんだ。そこで捜すぐらい、別に苦でもなんでもねぇよ」


「では──」


「待て。もしもだ。もし親が見つからなかったらどうするつもりだ?」


「……助けると決めたからには、ワタシが最後まで面倒をみます。力不足であれば、母様かあさまを頼ります」



 随分と背負い込んでやがんなぁ。


 実際のとこ、どうしたもんかねぇ。


 一番良さげなのは、世話んなった養護院に預けるって手に思えるが。


 ガキにガキの面倒は見れやしねぇ。


 俺もチビ共の面倒を見てたつもりではいたが、あれだってマザーがいてくれたからこそできたことだ。


 融通の利かねぇコイツじゃ、ガキのほうが苦労するってもんだ。



「オマエはオマエが思ってるほど完璧なんかじゃねぇ。全然だ。全然ダメだ」


「……何ですかいきなり」


「そんなオマエがまともに子供を育て上げられるわけがねぇ」


「な」


「子供から目を離せばすぐはぐれる。手を繋いでりゃ片手が塞がる。抱き上げりゃ両手ってな具合だ。片時も目を離さず、世話を焼き続けるってのは、想像以上に難しいし、何より疲れる」


「何が言いたいんですか」


「オマエには余裕がねぇんだ。他人の面倒を見られるほどの余裕がよぉ。ま、俺も人のことをとやかく言える立場じゃねぇがな」


「そうだとしても、諦める理由にはなりません」


「だが現に、もう寝不足なんだろ? 寝てる間の世話はどうする」


「それは……」


「てなわけで、だ。寝てる間は俺が面倒みとくさ」


「……は? え? な、何を言って……?」


「これでも養護院育ちだ。ガキの面倒はオマエよか上手いだろうぜ」


「う」


「……この上なく怯えているように見受けられますが」


「見くびるなよ。泣かしたことはあっても、泣かれたことはねぇんだ」


「意味が分かりません」


「詰め所には俺が連れてく。話も俺がつけといてやるよ。だからオマエは寝てろ」


「そう言って、憲兵に引き渡すつもりなのではありませんか?」


「信用ねぇなぁ。んなことすりゃ、戻ったら袋叩きだろうが」


「いえ、斬ります」


「斬るな。つうか、オマエを連れてったら間違いなく揉めるだろ。むしろ邪魔なんだよ。飯食ったら寝とけ」


「──本当ですか? 本当に信じてもいいんですか?」


「任せとけって」






ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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