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災禍の獣と骸の竜  作者: nauji
三章 一周目 戦士団
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10 木箱

 死体はまあ動かねぇから良しとして、気絶してる連中をどうしておくべきか。


 拘束する道具なんかを用意しとくの、すっかり忘れてたしな。


 まだねぐらにどんだけ残ってるかも分からねぇし。


 あんま魔力を消費したくはねぇんだが。



「これからどうするのですか? 尋問はしないのですか?」


「それを今、考えてるとこだ」


「悩む必要がありますか? 先程、命がどうのと言ってましたが、攫われた者の安否をこそ、優先して考えるべきでしょう」


「ま、そりゃそうなんだが」



 意識が戻ったら面倒だしな。


 仕方ねぇ、3人共に魔術を掛けておくか。


 まずは一人目。


 頭に手を当て、魔術を行使する。



 ≪催眠ヒュプノシス



 精神魔術の初級。


 使用には色々と制約が課せられてる類いの魔術だが、今回は構うまい。


 相手は男だし、人命が懸かってもいる。



「今の魔術、人に暗示をかけるモノでしたか」


「一応は授業を聞いてたんだな」


「失敬な。そう言っていたではありませんか」



 気絶してる状態でも、掛かるとは思うんだが。


 残りの二人にも魔術を施しておく。


 精神魔術の効きは、結構個人差があるようだ。


 ただ、意識のある状態よりも、ない状態のほうが効きがいい。


 注意すべきは、痛みや衝撃で解除されること。


 順番に軽く肩を揺すってやり、緩やかな覚醒を促す。



「手緩いですね。起こすならば、もっとこう──」


「だぁーもう、余計なことすんな! オマエは大人しくしてろっての!」



 鞘ごと振り上げやがって。


 魔術が解けちまうだろうが。



「う、うぅ……」



 3人のうち、俺が草むらで気絶させた奴が声を漏らし始めた。


 取り敢えずはコイツから聞き出すか。






「……この者たちの証言を信用するのですか?」


「魔術は解けてねぇんだ、嘘はつけねぇはずだぜ」



 それこそ、強制的にエロい真似もできるって魔術なんだ。


 魔術師ならともかく、一般人が抗えるはずはねぇ。


 3人共が同じ証言なのだ、確定とみていいだろう。



「ん? ありゃ憲兵か? それとも商人か?」


「……恰好からして、憲兵でしょう」



 俺には馬しか分からん。


 王都側から馬車が一台近づいて来ていた。


 すぐそばまで来ると停車し、数人の憲兵と共に、呼びに行った2人も降りてきた。



「倒れてるのが犯人で間違いないか」


「ああ」


「キミたちはどうだ?」


「ええ。間違いないわよ」


「そうか。それで、攫われた者は?」


「今からねぐらに向かうとこだよ。コイツらを放置もできなかったんでね」


「場所は分かっているのか?」


「おいおい、質問ばっかだな。続きは犯人に尋問してくれ」



 日が暮れる前に、ねぐらに到着しておきたい。



「ああそれと、強めに叩き起こしたほうがいいぜ」



 何せ催眠状態のままだからな。



「そいつらを移送したら、またこの場所に馬車を寄越しておいてくれ」


「残党がいるのか」


「そうらしい。んじゃ、俺らは行くぜ」


「……分かった。くれぐれも気を付けてくれ」






 聞き出した情報を元に、街道から逸れ、南東を目指して草木の中を進む。



「エルフだけ先行してくれねぇか? オマエ、断トツで足速いしよ」


「それは構いませんが」


「首尾よく見付けたら、一旦知らせに戻って来てくれ。くれぐれも、勝手におっぱじめるなよ」


「約束はできかねます。状況次第では、そのまま制圧します」


「待て。殺しは無しだ。さっきの奴等はねぐらしか知らなかったんだ。攫われた連中の行方を、聞き出す必要がある」


「……分かりました。剣は抜きません。では行きます」



 すぐに背中すら見えなくなった。


 道標代わりに都度枝を折りつつ、慌てずに進む。



「ホントに速いのね」


「だろ? 大森林にいるエルフなら、もっと凄いのかもな」


「でも驚いたわ。躊躇なく首を斬るんだもの」


「──おい、今は止せ」



 チビ助の様子は、あまり改善してそうにない。


 態々エルフから離してやったってのに、また意識されちゃ敵わん。


 なるだけ、この手の話題は避けたほうが良いだろう。



「しっかし、間の抜けた連中だったな。あんな耳でまんまと騙されるとは」


「あと、妙に弱かったのよねぇ」


「ああ、それは俺も思ったな。てっきり、人違いかと疑ったぐらいだぜ」


「そういえば、どうやって話を聞き出したのよ?」


「あー、まー、なんだ」



 果たして、正直に話して良いものか。


 ……いや、今下手に隠すほうが、後々面倒事になりそうな予感もするな。



「魔術を使ったんだ」


「アンタの魔術って、眠らせるんじゃなかった?」


「他にも使えるっての」


「ふーん。さっき、言い淀んだわよね。具体的にどんな魔術なわけ?」


「暗示をかける魔術だよ。それでねぐらの場所も聞き出した」


「何よそれ⁉ アンタのほうがよっぽど危険じゃない!」


「バカッ、大声出すな」


「うッ……け、けど、今のは仕方ないでしょ。アタシに使ったら承知しないわよ」


「しねーよ。そんな反応されるのを承知で、正直に話したんだぜ」


「アンタと二人っきりになるのが危険だってことは、よーく分かったわ」


「そうかいそうかい。だが冗談抜きに、魔術が使えねぇオマエは、特に気を付けとけよ」


「やっぱり何かするつもりなのね」


「ちげぇっての。他の魔術師にって意味だよ。中級以上は魔術局入りしてるはずだが、俺らみたいに初級が使えるって連中ならいるだろうからな」



 魔術師なら、ある程度は魔術への耐性が備わってもいるらしい。


 が、コイツだけは魔術が使えねぇからな。



「知らない奴には近づくな。初級なら、接近されなきゃ使われる心配もねぇ」


「わ、分かったわよ」


「あと、単独行動もなるべく控えろよ」


「う、うん、気を付ける」



 ……何だコイツ?


 急に大人しくなりやがったな。



「ふ、ふふふ」



 ん? 今のはチビ助か?



「どうした?」


「い、いえいえ、可愛いなぁって」


「……誰がだ? ──いてッ⁉」


「声が大きいわよ」


「オマエが急に殴るからだろ」


「あ、あわわ、仲良くしてください」






「止まって」



 唐突な声と共に、隣の足が止まった。


 遅れて、俺とチビ助も足を止める。



「──誰か居るわ」


「エルフが戻って来たんじゃねぇのか?」


「違う……と思う。気配はあるのに姿を見せないのは妙でしょ」



 気配、ねぇ。


 んなもん、俺に分かるかっての。



「あ」


「今度は何だよ」


「気配が消えたわ」


「……それってマズい状況か?」


「こっちに気が付いて気配を消したんだとしたらマズいわね」



 チッ、動きを封じられるのは痛い。



「相手の位置が分からねぇなら、ジッとしてても始まらねぇ。移動しようぜ。先頭はオマエ、真ん中にチビ助、ケツは俺の順だ」


「──警戒の必要はありません。ワタシが倒しましたから」


「「ッ⁉」」



 至近からの声に、全員が体を震わせた。



「お、オマエなぁ……」


「何か?」


「び、びっくりしましたよぅ」



 エルフが誰かの首根っこを掴んで立っていた。



「ふーん、やるじゃない。褒めてあげるわ」


「はあ……それはどうも」


「で? 場所は分かったってことだよな?」


「はい」


「そいつはどうしたもんかね」


つたに魔術を使えば、拘束が可能です」


「ああ、生命魔術が使えたんだったな」


「はい」


「なら頼む」



 淡々と準備を始めるエルフ。



「……ねぇねぇ、今の、どういう意味よ」


「あん? 何がだよ?」


「せ、生命魔術は、生物の活性化、または、不活性化を促すんです」



 ああなるほど、コイツは魔術の授業を受けてねぇから分からなかったのか。



「まだ分かんないんだけど」


「え、ええと、例えば植物に使えば、急激に成長させたり、逆に枯らしたりできるんですよ」


「何よそれ、人に使ったらどうなるわけ」


「か、活性化は治療にも用いられていますよ」



 ま、代謝を促すだけだから、やられた側は、すげぇ腹が減るんだがな。


 それに、致命傷なんかは治せやしねぇし。



「完了しました」


「放置して逃げられても面倒だしな。仕方ねぇ、連れてくか。貸せよ、俺が持つぜ。エルフは先導を頼む」


「分かりました。こちらです」






 案内された先は、二階建て相当の崖。


 その下に、天然モノっぽい洞穴があった。



「此処か?」


「はい。人の出入りも確認済みです」



 優秀だねぇ。



「残りは4人って聞いてるが。コイツを除けば、残りは3人のはずだよな」


「生憎と、出入りしていたのは1人だけでした。正確な人数までは分かりません」


「どうするの? 突入する?」


「アホか。中の様子が分からねぇのに、んな真似するかよ。やるなら外だろ」


「丁度いいですし、コレを使いましょう」


「は?」



 何が丁度いいって……。


 確認する前に、勢いよく崖を転がってゆくナニカ。


 当然の如く、音を響かせて。


 転がり落ちたのは、さっきまで運んでた犯人だった。



「決断の前に、まずは相談しろや」


「そんなこと言ってる場合⁉ さっさと動くわよ!」



 エルフと2人して、これまた勢いよく崖を滑り降りてゆく。



「あ、あわわ、どうしましょう」


「2人に任せておきゃ、大丈夫そうではあるが。一応、俺らも行くか」


「あ、あのぅ、崖を降りるんですかぁ?」



 眼前にあるのは、坂というより壁に近い崖。


 探せば迂回路ぐらいあるかもしれねぇが、悠長に構えてもいられねぇ。


 まあ、さっきの野郎よか軽いし、抱えてくか。



「ほれ、暴れるなよ」


「は、はわぁッ⁉ と、ととと、突然何するんですかぁ⁉」



 騒ぐチビ助に構わず、崖へと身を乗り出す。


 おおぅ、結構こえぇな。


 躊躇せずこれを行くとか、アイツら割とすげぇよな。



「うおぉぉぉぉぉ⁉」


「ひ、ひやぁぁぁぁぁ⁉」



 足がいてぇ!


 縮む、縮むー!



「……アンタたち、何か楽しそうね」


「お? おお、もう着いてたか。ほれ、降ろすぞ」


「ふ、ふえええ」



 立てもしないのか、その場にへたり込んでしまった。


 俺のほうがよっぽど脚がガクガクしてるんだが。



「犯人共は……って、もう終わってんのか」


「ええ、アンタたちが叫び出すよりも前にね」


「そ、そうか」



 全く役に立てなかったな。


 流石に情けねぇ。



「……中に人は居ないようです」


「はあ? じゃあ、攫われた人は何処よ?」


「分かりません。問いただすしかないでしょう」


「中には通路とかもねぇのか?」


「はい、すぐ行き止まりです。寝泊まりしている形跡こそありますが、行方が知れるような物は何も」



 一足遅かったってことか?



「あ、あのぅ、念の為、ウチたちも一度中を確認してみませんか?」


「……それもそうだな」


「そ、それでですねぇ。う、ウチもできれば」


「へいへい。連れてきゃいいんだな」


「す、すみません」



 腕に抱えるようにして、立ち上がる。


 と、ジト目で見つめてきた。



「……何だよ」


「べっつにぃー」



 まだ多少脚に堪えるが、快諾した手前、弱音も吐けん。


 よろよろと洞穴に近付いてゆく。



「随分とゆっくり歩くのね。あーやだやだ、いやらしい」


「そ、そそそ、そんなつもりだったんですか⁉」


「ちげぇよ! 放り投げるぞ!」


「ふむ……しばらく離れていたほうが良いですか?」


「アホか。外の警戒を頼む」






 洞穴は、入ってすぐに行き止まりだった。


 横道や抜け道など、見落としようもない。


 寝床に使っていると思しき布の他には、樽や木箱があるぐらいか。


 試しに樽を見てみると、中身は水と酒っぽい。


 なら、木箱は食料ってとこか?


 一応、調べてはおくか。


 積み重なった木箱のうち、手前側の蓋の開いた木箱を覗き込む。



「……妙だな、空箱か」



 食料が入ってたにしては、綺麗過ぎる。


 匂いもしない。



「あ、あの、箱の側面をよく見せてください」


「オマエなぁ、そろそろ自分で立てるだろ?」



 木箱のそばに立たせてやる。



「ど、どうも」



 大きさからして、チビ助が丸まれば、ギリギリ収まるぐらいかねぇ。


 不意に、箱の中に押し込まれている子供の姿が脳裏をよぎる。


 ……中に入ってたんじゃなく、中に入れるための箱か?



「や、やっぱりそうです。こ、この印字、見覚えがあります」


「印字がどうしたって?」


「に、西区にある商会の印字なんです。こ、これも、こっちもそうです」


「商売の内容は?」


「そ、それがですねぇ……分からないんです」


「はあ? 何だそりゃ?」


「こ、この印字の箱を運んでるってだけしか知らなくて。な、中身については誰も知らないんです」


「……箱、全部確かめるぞ」


「は、はい!」






 一番奥まった場所にあった箱。


 それにだけ中身が入っていた。



「──マジかよ」


「じ、獣人の子供……ですよね」



 褐色の肌に灰色の髪と耳と尻尾。


 申し訳程度のボロ布を着せられている。


 チッ、胸糞わりぃ。


 つまり何か?


 商会とグルになって人身売買をやってるってオチか?



「ま、また生きてます!」



 そりゃそうだろう。


 生きてなきゃ意味がねぇ。


 が、それはそれで疑問も浮かぶ。


 たかが木箱、中で騒ぎ出せば外に聞こえるだろう。


 何人を同じ手口で運んだかは知らねぇが、誰にも気付かれずにやれるもんか?


 例えばそう、俺の精神魔術みたく、定期的に眠らせてんなら可能かもしれねぇ。


 外で伸びてる連中の誰か、もしくは全員が魔術師か?



「──気に食わねぇな」



 同じ適性を持った奴が、こんなゲスい真似をしてるってのは、気分が悪い。


 その商会とやらも、気に入らねぇ。


 このまま東区に直行するつもりだったんだがなぁ。


 どうにも、予定を変更することになりそうだ。






ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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