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災禍の獣と骸の竜  作者: nauji
三章 一周目 戦士団
13/97

9 獣人連続誘拐事件

 魔石のお蔭で資金に余裕ができた。


 残金は、小銀貨9枚と大銅貨6枚。


 が、時間にも余裕がある。


 どうせなら依頼を一つぐらいはこなしてみたい。


 あと、チビ助の恰好もどうにかしなきゃなんだが。



「良さげな依頼はあったか?」


「そんなこと言われたって、良し悪しなんて分かんないわよ」


「で、ですよねぇ」


「なら、興味があるのでも構わねぇぞ」


「あの、できれば困っている方を助ける内容が好ましいのですが」


「いやまあ、困ってるから依頼を出しているとは思うぜ」


「そ、それは屁理屈ですよぅ」


「そうねぇ……王都内よりも、外のほうが物騒な感じじゃない?」


「……だな。街道絡みのヤツか」


「そうその憲兵からの依頼。盗賊とか人攫いとか、むしろ憲兵が取り締まるべきじゃないかしら」


「さてな。単純に王都の外は管轄外なのかもな」



 人攫いの被害者は獣人か。


 判明しているだけで、既に複数回起こってるらしい。


 王国で獣人が住んでるのは東区が主だしな。


 気掛かりではあるが。



「緊急性が高そうなのは、人攫いじゃない?」


「それは一大事ではないですか⁉ 急ぎ助けに向かいましょう!」


「待て待て待て。攫われたのが獣人ってことは、犯人は獣人よりも強いってこったろ。初っ端やるには荷が勝ち過ぎる」


「せめて武器は欲しいわね」


「……いや、そういう問題でもねぇ」


「獣人ですか……いえ、命に貴賎はありません。助けるべきです」


「う、ウチも助けたい……です」


「これで3対1、決まりね」


「ハァー、ったく」



 どうせなら手頃な盗賊退治を受けて、ついでに装備でも奪えりや万々歳だったんだがな。


 もしも人身売買でもしてんなら、相当な規模だぞ。


 こっちは魔術師が3人。


 対して、相手の人数は不明、但し獣人を攫えるぐらいには強いってか。


 最悪の場合、人死にもあり得るってのに。


 やれやれだぜ。






 とにかく、装備を整えよう。


 俺はまぁ、素手で良いとしても、防具は欲しいとこ。


 チビ助も防御重視のほうが無難だな。


 主戦力の2人に剣は必須。


 初期投資とはいえ、採算が合わねぇ気がするぞ。



「ふ、ふおぉーーーッ!」



 ったく何処のバカだよ、店内で奇声を上げてる迷惑な奴は。



「こ、コレ、是非コレを買うべきです!」


「──って、チビ助かよ! ふざけんなよ!」



 続いて響いた叫び声に、思わずツッコミを入れてしまった。


 いったい何を騒いでやがるんだ?


 チビ助には服を選ぶよう言いつけておいたはずなんだが。



「アンタねぇ……こんな物買ったって、何の足しにもなんないじゃない」



 アイツにそうまで言わせるとは、よっぽどだな。


 見に行ってみるか。






 耳だった。


 見覚えの無い耳が、チビ助の頭から生えていた。



「……何だそれは」


「け、ケモ耳という素晴らしい商品です! ど、どうですか⁉ に、似合いますか⁉ う、ウチもこれで獣人の仲間入りできましたか⁉」


「落ち着け。声量を落とせ、頼むから」



 何とも頭の悪い商品だった。


 防御のたいを成してやしない。


 服も選ばず、こんなもんに引っかかりやがって。


 …………いや、待てよ。


 犯人は獣人を狙ってるわけだよな。


 この奇抜過ぎる格好は、獣人に見えなくもない……か?


 囮としてなら、使い道はあるかもしれん。


 どうせ外見的特徴からしか、判別などしようもない。


 居場所も分からん犯人を捜すよりかは、犯人のほうから出て来てもらったほうが幾分も楽だ。



「全員分買うか」


「はあぁ~? どうしてそんな意見が出てくるわけ?」


「──どうしたのですか? 先程から騒がしいようですが」


「これを着ければ、獣人と勘違いされる……かもしれん」


「これは……耳、ですよね」


「け、ケモ耳です。も、モフモフです」


「相手を捜すよりも、相手から出て来てもらうんだよ」


「バカ過ぎない?」


「反論は代替案まで出してからにしてもらおうか」


「早期に犯人を捕まえるためとあらば、致し方ないですね」


「これで3対1、だよな?」


「──くッ」



 町中で着けるのには抵抗があるが、街道を歩くぐらいは我慢しよう。


 戦闘で邪魔になるってこともない。


 ただ、4人組を襲ってくるとすれば、相当の手練れか、大人数になるだろう。



「……ねぇ、思ったんだけど、アタシたちって元から耳がついてるじゃない?」


「そりゃそうだ」


「アンタとエルフは、元からある耳を隠さないと、意味ないんじゃない?」


「……それもそうだな」



 俺は短髪だし、エルフ耳は髪から飛び出してる。


 4人組よりも2人組のほうが、狙われる確率は高そうか。



「なら、囮役は二人に任せよう。お手柄だな。買う前に気が付いて良かったぜ」



 そういや、これの値段は……。


 ま、マジかよ。


 こんなちゃっちい物に小銀貨1枚って、ぼったくりだろ。



「な、何の柄がいいでしょうか……くぅ~迷います」


「おいおい、流石に髪色には合わせろよ。じゃねぇと、即バレするだろ」


「……ワタシの分は、購入してはいただけないのですか?」


「高過ぎる。無駄に買う必要もないだろ」


「……そうですか」



 コイツ、もしかして着けたかったのか?



「ま、今の内にでも着けとけばいいんじゃないか?」


「しかし……購入もしないのに着けるのは」


「用が済んだら、アタシの分をあげるわ」


「──ッ⁉ ほ、本当ですか⁉」


「こんなことで嘘なんてつかないわよ」


「で、では白っぽいのを」


「だーかーらー、囮役の髪色に合わせなきゃ意味がねぇんだっての!」






 何だかんだ言って、結構な時間を食ったな。


 そろそろ昼か。



「腹も減ったし、何か食ってくか」


「ねぇ、何で盾なんて買ったの?」


「あ?」


「帝国の騎士なんかは盾を使うって聞いたことあるけど、王国じゃ珍しいじゃない」


「適当な防具として、安かったから買っただけだ。木製だから軽いし、十分に硬い、悪くねぇと思ったんだがな」



 もしかして、王国じゃ人気がねぇから妙に安かったのか?



「う、うううー、可愛くなくなったですぅ」


「前の恰好じゃ悪目立ちしてたんだ、仕方ねぇだろ。あと、町中でその耳を着けるのは止めろ」


「こ、これだけは譲れないです!」


「いいでしょ別に、好きにさせときなさいよ」



 キサマ、さては心臓に毛でも生えてやがるな?


 もしくは難聴なのか?


 今も明らかに目立ってるだろうが!



「ワタシは王都の地理に疎いのです。お勧めの食事処はありますか?」



 コイツはコイツでマイペースだな。


 剣を帯びても、僅かも動きが乱れないのは流石だが。



「外出はしてても外食はしてねぇからなぁ。金無かったし」


「アタシもさっぱりね。テキトーでいいんじゃない?」


「う、ウチのお勧めがありますよ」


「お、ならそこにしようぜ。案内してくれよ」


「は、はいです」






 確かに美味かった。


 が、値段も高かった。


 所持金が当初の半分を切った。


 ってか、使った金のほうが、報酬よりも多いんだが。



「割に合わねぇ」


「あ、あのぅ、美味しくありませんでしたか?」


「いや、美味かった。美味かったが、高かったんだ」


「男の癖に、ケチ臭いわねぇ」


「性別は関係ねぇだろ」


「なら、アンタがケチ臭いだけね」


「腹ごしらえが済んだのですから、すぐにも救出に向かうべきでしょう」


「そう慌てんなっての。何処行きゃいいか分かってんのか?」


「む」


「犯人は最低でも一人は生け捕りが条件だ。でなきゃ、攫ったモンの行方が分からねぇしな」


「監禁されているわけではないのですか?」


「知らねぇよ。だが、もういねぇ可能性だってあんだろ」



 いない理由は幾つか思いつきもする。


 人身売買、強姦、虐待、殺人、どれも胸糞の悪い話だが。



「って、おいおい、町中で殺気迸らせてんじゃねぇよ。憲兵が飛んでくんぞ。余計に時間食っちまうだろうが」


「なら、さっさと王都を出ましょうよ。で、どっちに行けばいいわけ?」


「あのなぁ……依頼書読んでなかったのかよ。東だ東」


「ちゃんと読んでたわよ。だから、東がどっちかって聞いてんの」


「ハァーッ」



 遠からず、迷子になるんだろうな。


 集合場所でも決めとくか。



「おい、もし王都で迷ったら王宮まで行け」


「はあぁ? 何よ突然」


「おうきゅう、とは何ですか?」



 エルフさんよぉ……マジに言ってんのか?



「アレだアレ。あの山っぽいとこに建物が見えんだろ。王宮ってのは、王が住む建物って意味だ」


「ふふん。お母様は宮廷魔術師でもあるのよ」


「……それは凄いことなのですか?」


「──プッ」


「笑った? ねぇ、今笑った?」


「とにかく! もし迷ったら王宮へ向かうこと。いいな?」


「おいコラ待て、逃げるな!」






「いてててて……殴り過ぎだろ」



 事を起こす前に、負傷したんだが。



「何故、彼女はあれほど怒っていたのでしょうか」


「アイツの母親は王宮に勤めてるんだよ。いや、勤めてんのは魔術局なのか?」


「ふむふむ、それで?」


「いやだから、オマエがボケた反応するから、つい俺が笑っちまって。それでキレてたんだろ」


「ならば、アナタが悪かったのですね。彼女を叱責するべきか、迷っていたところでした」



 時折馬車が通り過ぎるものの、人通りは無い。


 2人に例の耳を着けさせ、街道を先行してもらっている。


 俺とエルフは二人から距離と取り、街道脇の草むらに隠れながら付いて行っているわけだが。


 区の境は植生がまま残ってるから、視界が極めて悪い。


 街道脇ぐらい、伐採したほうがいいだろうに。



「流石に日の高いうちは動かねぇかもな」


「……いえ、そうでもないようですよ」


「マジか。提案しといて何だが、こんな手に引っかかるもんかね」


「無駄口は終いです。一人でも逃がせば、住処を変えられるかもしれません」


「わーってるよ」



 見える限りじゃ、前後に2人ずつ。


 左右の草むらにも潜んでる可能性がある。



「ワタシは道の反対側に移動します」


「ああ──ってもう居ねぇし」



 足が速いだけじゃねぇ。


 物音一つ立てもしねぇんだから、恐れ入るぜ。


 さてと、俺も急ぐとするかね。






「──グヘッ⁉」


「弱ッ、アンタたち、本当に人攫いの犯人なわけ?」


「クソッ、どういうつもりだ⁉ まさか別クチか⁉」


「わ、わわわッ」



 街道の連中は残り3人か。


 こっちの草むらに潜んでたのは1人だけっぽいが。


 確かに、やけに弱い。


 俺ですら、魔術を使うまでも無く昏倒させられたぐらいだしな。


 人攫いじゃなく、盗賊のほうだったか?



「──ギッ⁉」


「──ガッ⁉」


「攫った者は何処ですか? 白状せねば端から斬り落としてゆきますよ」



 っと、エルフが一瞬で2人を倒したか。


 昏倒させた一人を引き摺りながら、街道へと姿を現わす。



「ひぃッ⁉」


「他のは生きてるかぁ?」


「剣の腹で殴っただけよ」


「ワタシは斬り捨てました」



 首をバッサリやってんなぁ。


 こりゃ、助かりそうにねぇな。



「な、何なんだよテメェらはよぉ⁉」


「黙れ。質問するのはこっちだ、オマエじゃねぇ。取り敢えず、武器は捨てろ」


「ガキが、ふざけ──」



 必殺の一閃が首へと吸い込まれてゆく。



「おい待て!」



 咄嗟に盾で剣を弾く。



「……悪人を庇うなど、どういうつもりですか」


「口を割らせなきゃなんねぇんだ、口の数は多いに越したことねぇだろ」


「少ないほうが手早く済むでしょう」


「個別に尋問すりゃ、証言の精度も上がるだろうが。あと、テメェもさっさと武器を捨てろってーのッ!」


「──ゲフッ⁉」



 脇腹に回し蹴りを見舞う。


 短剣を取り落としたのを確認し、素早く顔面を盾で殴り飛ばす。



「ブゴッ⁉」



 っと、これで完全制圧かねぇ。



「ちょっとぉ! 全員のしちゃったら、話聞き出せないじゃないのよ!」


「気絶してるほうが、魔術の効きがいいんだよ」



 俺の適性は精神魔術。


 こういうのには向いてる。



「なあ、憲兵を呼んで来てくれよ。チビ助と……まあ、オマエでいいや。頼むわ」


「それが人に物を頼む態度なわけ⁉」


「オネガイシマス」



 チビ助が一言も喋ってねぇし、顔色も随分と悪い。


 こういう場面には慣れてないんだろう。


 斬り殺してみせたエルフと一緒に居るのも、あまり良くはないだろうしな。


 街道を足早に戻って行く2人を見送る。



「街道に放りっぱなしも邪魔だな。脇に退けておくか。おい、エルフも手伝えよ」


「ワタシはまだ納得していません」


「んだよ。俺らは戦士団であって、憲兵じゃねぇんだ。殺すのは手段ではあっても、目的じゃねぇだろうがよ」


「一度でも道を違えた者は、容易く道を踏み外します。悪人に情けは不要でしょう」


「そいつはご高説どうも。だがよ、オマエも俺も、コイツらの目的は知らねぇよな」


「悪人の目的などと、知る必要があるとは思いません」


「殺された家族の復讐だったらどうだ? 行方知れずの獣人を捜してたとしたら?」


「あり得ません」


「そうかぁ? ま、今のは無理矢理過ぎたかもしれんがね。相手にだって理由や目的ってのがあらぁ。戦いになった以上は自分たちの命を優先するのは構わねぇ。が、過剰にやり過ぎるのは止めとけ」


「何故ですか?」


「殺せば否が応でも恨みを買う。それはつまり、俺らが狙われる理由が増すわけだ」


「我が身可愛さに、悪人を許すなどできません」


「仲間のことは考えねぇのか? オマエが殺せば殺すほど、それこそチビ助だって狙われかねんぜ。独りでいるところを狙われでもすりゃあ──」


「ワタシの行動が皆を窮地に追いやる、と?」


「仲間を助けるためってんなら止めやしねぇ。だがな、独り善がりな正義感を振りかざすだけなら、何度だって止めるぜ」


「……脇に避ければいいのですか?」


「あ? ああ、通行の妨げになるからな」


「分かりました」



 まだ納得したって雰囲気じゃねぇな。


 とはいえ、あれだけ躊躇なく殺してみせるんだ。


 コイツにとっての命が、どうにも軽過ぎるように思えてならねぇ。


 今後とも、注意しとかねぇとな。


 世の中、全部が全部、分かり易い悪人ばかりとは限らねぇんだ。


 悪人に見える善人、善人を装った悪人、色々とあんだろう。


 殺しちまった後じゃあ、取り返しもつかん。


 恨むなら魔族や魔獣だけにしといてもらいたいもんだ。






ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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