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災禍の獣と骸の竜  作者: nauji
三章 一周目 戦士団
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8 戦士団結成

 学院の塀に沿ってしばらく歩く。


 王都の外れに位置してるからか、周囲はやけに草木に覆われている。


 これだけの規模のモノ、ある程度町ができてから造るとしたら、既存の家を壊すか、町外れにでも造るかしかねぇのかもな。


 町中じゃないお蔭で、先んじて誰かに盗られる心配も少なくて済むってもんだ。



「……あ、あのぉ、何処に向かってるんでしょうか?」


「俺は金を持ってねぇ」


「何よ突然。情けない告白しないでくれる」


「だから、事前に行える金策をしといたってわけだ」


「??? 全く意味が理解できません。財宝でも発掘に向かうつもりですか?」


「んなもんの在処を知ってりゃあ、苦労はしねぇんだがな」


「お金なら、お母様から幾らか頂いてるけど」


「わ、わわわ⁉ き、銀貨ばっかりですよぅ! し、しかも帝国製ですぅ!」


「アホか! さっさと仕舞え! 町中で不用意に取り出すな。いらん騒動に巻き込まれるぞ」



 どうせなら娘に直接話せばどうか、とは告げておいたが、んな大金まで渡していたとは。


 ホント、娘のこととなると見境が無いっつうか。


 愛されてんのな。



「それはオマエの金だ。俺が使う道理はねぇ。俺の金は俺が稼ぐ」


「……なら、何でアタシらは連れ回されてるわけ」


「嫌なら先に目的地に向かってもらってても構わねぇがな。場所を把握してんのなら、だが」


「は? 東区に行けってこと?」


「流石に、んな無茶言うかよ。戦士団組合だよ」


「護衛の依頼でもするつもり?」


「んな金はねぇっての。寧ろその逆だ。戦士団を組むんだよ。俺らでな」


「戦士団……魔獣と戦うつもりなのですか?」


「アホか。命が幾らあっても足りねぇよ。普通の依頼をこなして路銀を稼ぎつつ、東区を目指すのさ」


「話が違います。他の場所を見れるよう、遠回りするのではなかったのですか?」


「……俺は言ってねぇぞ。オマエらが勝手に言ってたヤツじゃねぇか」


「む」


「ま、まあまあ、お金はあって困るものではありませんし、依頼内容によっては多少の寄り道をすることになるかも」



 さてっと、位置関係からいって、この辺りにあるはずなんだがな。


 上から見るのとじゃ、随分と勝手が違うな。



「おい、手伝う気があんなら、黒い石を探してくれ」


「黒い石ぃ~? そんな物探してるわけ?」


「──待ってください。まさかとは思いますが、魔石のことを言ってるのではないでしょうね」


「ご明察。何処にも店売りされてねぇから、売った値段が分からねぇんだがな」


「学院から盗み出したのですか⁉」


「盗んだんなら、出る際に捕まってんだろ。うっかり落としたんだよ」



 魔術の授業で魔石を使ったりもしてたからな。


 授業最終日にうっかりしといたってわけだ。


 一番小さいのを選んだし、大して影響もないだろ。



「黒い石って、コレのこと?」


「……み、みたいですね」


「お、見付かったか?」


「即時、学院に返却すべきでしょう」


「おいおい、妙なこと言い出してんじゃねぇよ。その魔石が学院の物だって証拠はあんのかよ」


「なッ⁉ 言うに事欠いて──先程、自分で落としたと言ったばかりでしょう!」


「確かなのは、落ちてたって事実だけだろ。んなことより、さっさと組合に向かうぞ。登録がてら魔石を売れねぇか聞いてみようぜ」



 まだギャアギャアとわめいている一名を無視し、戦士団組合を目指して転進する。






 周囲に比べ、随分と異彩を放つ奇形な建物。


 やたらと横に長い。



「へぇー、此処が戦士団組合だったのね。てっきり倉庫か何かかと思ってたわ」


「王都で暮らしてたくせして、んな程度の認識だったのかよ」


「用も無いのに、態々何の建物かなんて調べるわけないでしょ」


「ま、それもそうか。って、いてぇよ! ボコスカ殴るなよ!」


「アナタの認識能力は間違っていないと思います。ワタシにも倉庫に見えます」


「ほらね!」


「いや実際んとこ、併設されてんのは倉庫みてぇなもんだけどな。その辺り、登録ついでに説明してくれんだろ」


「知ってるなら今教えなさいよ!」


「二度手間だろうがよ。組合員のほうが詳しいに決まってんだろ」


「そんなこと言って、ホントは知らないんでしょ!」


「ウザ絡みすんなっての。今日は登録して終わりってわけじゃねぇんだ。依頼もこなして、宿代ぐらいは稼がねぇとな」


「アタシはお金持ってるけどね」


「ワタシも少しならば持っています」


「う、ウチも」


「……悪かったな。俺の宿代のために協力してくれると助かる」


「しょーがないわねー」



 チッ、偉そうに。


 院内で稼ぐ手段が無かったのが悪いんだろうがよ。


 養護院出の俺が、金持ってるわけねぇだろ。


 ……養護院に顔出すなら、なるだけ金を持っていってやらねぇとな。






 デカい倉庫じゃなく、隣の酒場っぽいほうへと入る。



「……寂れてるわねぇ。もっと荒くれ者がひしめいてるってイメージだったわ」


「日が落ちればそうなんだろ。今はどこも仕事中だろうさ」


「へ、へぇー、中はこうなってたんですねぇ」



 がらんとした内部に人気ひとけは僅か。


 左右の壁には依頼であろう紙が無数に貼り出されている。


 手前は机と椅子が乱雑に並び、奥に受付っぽいカウンター。


 背後に酒瓶が並んでいるのは、酒場としての受付なんだろう。


 服着てるし。


 ならやっぱ、服着てないほうが組合の受付か。



「手続きを済ませてくる。オマエらは良さげな依頼でも見繕っといてくれ」



 まだキョロキョロと物珍しげにしている三人を置き去りに、受付へ──。



「それじゃ、説明が聞けないじゃないのよ! アタシも行くわ!」


「知ってのとおり、ワタシは文字は読めません。選ぶのは無理でしょう」


「う、ウチは……」



 とはいかなかった。


 仕方なく、皆を連れて受付へと向かう。



「……依頼かい? それとも登録かい?」


「俺らが戦士団だとは思わねぇのか?」



 無駄に筋肉を見せびらかすような服装をしたオッサンだ。


 しっかし、頭髪と髭の量が反転してるとしか思えねぇ。



「そらぁ、一目見れば分かる。団証だんしょうを着けて無いからな」


「だんしょう? んだよそれ」


「まずは用件を言ってくれないか」


「わーったよ。戦士団登録がしてぇんだ」


「人数は?」


「4人だ」


「……随分とモテるらしいな、にぃちゃん」


「アホか。んな関係じゃねぇよ」


「……なら、精々気を付けることだ。男女の仲で解散するのは、そう珍しいことでもない」


「余計な世話だっての」


「そうかい。魔獣討伐を証明できる物は持ってるか?」


「あー、魔石なら持ってるが」


「ほう……その若さで魔獣を討伐したことがあるのか?」


「ねぇよ。拾いもんだ」


「そういうことか。なら、一般で登録するぞ」


「待て待て。勝手に決めんな。説明しろよ」


「魔獣の討伐依頼をこなすには、専用の許可が必要になる。それがさっき言った、魔獣討伐を証明できる物というわけだ」


「……順序がおかしくねぇか? 討伐してこなきゃ討伐を許可しないってことだよな?」


「討伐の許可が欲しい奴は、ベテランの戦士団に入団させてもらうか、北壁ほくへきで定期的に行われる間引きに参加するんだ」


北壁ほくへきが何だって?」


「間引きだ間引き。定期的に実施されてる。壁の門を開けて、わざと魔獣を中へと招き入れる。予め戦士団が何重にも包囲した上でな」


「……んなことやってたのか」



 北壁ほくへきの所為で東区に魔獣が流れてると思ってたが、一応は数を減らしてはいたんだな。



「それに参加すれば、比較的安全に幼生体を討伐できる」


「魔獣の討伐許可ってのは、成体が条件じゃないのかよ? 幼生体が討伐できようが、成体には敵わねぇだろ」


「まさか、遭遇したことでもあるのか?」


「東区出身なんだよ」


「……気の毒に、あっちは相当酷い有様らしいな」


「まあな」


「懸念はごもっともだが、登録条件は魔獣の素材の提出のみだ。依頼書には幼生体か成体かは書いてある。あとは自己責任の範疇だ」



 後から文句を言おうにも、死人に口無しってわけか。



「討伐許可が欲しいわけじゃねぇ。一般で構わねぇぜ」


「あいよ。なら4人で大銅貨4枚だ」


「はあ? 金とんのかよ⁉」


団証だんしょうや契約書もあるからな。無料では受け付けてない」


「それだそれ。だんしょうってのは何だよ」


「戦士団が身に着ける証だ。一般なら木製、討伐組なら魔獣の素材に、組合が印字をした物を首から下げてる。ちなみに、印字は登録した区によって違うからな」



 なるほど、それでか。


 確かに、戦士団の連中が、骨やら爪やらを首から下げてやがったな。


 チラリと店内に視線をやれば、数少ない客の首元にも、それらしいのが見える。



「同じ戦士団に所属する者は、同じ素材を人数分で割った物を使用する。もっとも、人数が多過ぎれば、一種類とはいかないがな」


「そりゃ知らなかったぜ」


「納得してもらえたらな結構だ。金は払ってもらえるんだよな?」


「……金はねぇんだ。そこで物は相談なんだが、魔石を買い取ってくれねぇか?」


「魔獣の素材の買取やら加工やらは隣の工房でやってる」


「此処じゃ駄目なのかよ?」


「偽物ってこともある。目利きができる職人に任せるさ」


「わーったよ。ならまたすぐ戻ってくる。用意だけはしといてくれよな」


「期待しないで待ってるよ」






 皆を連れ、今度は隣の工房とやらへ。



「くさッ⁉ あとうるさッ⁉」


「……ワタシは入るのを遠慮させていただきます」


「う、ウチも無理ですぅ~」


「アタシだって嫌よ! アンタだけで行ってきて!」



 そりゃあ、魔獣を解体してるってんなら、ニオイやら騒音ぐらいあるだろうよ。


 鼻じゃなく口で息をしつつ、独りで奥へと向かう。


 工房ってか、やってることは肉屋のソレだ。


 違うのは、肉こそが不要ってとこかね。


 肉、臓器、眼球は山積みに、皮、骨、爪、牙、そして魔石が分けられてる感じだ。


 ……流石に、見ていて気分のいいもんじゃねぇ。


 さっさと魔石を金に換えちまおう。



「よう爺さん! 魔石を売りたいんだが!」


「──物を見せな」



 大声を張り上げてるこっちとは違って、相手はボソボソと口を動かしただけ。


 手の動きから察して、魔石を取り出す。


 握り締められるほどに小さな黒い石。


 手に持つと淡く光りだす。



「ふん、本物ではあるようだが、随分と小さいな。最低額の大銀貨1枚だ」


「あ”? 何だって?」


「大銀貨1枚だ。ほれ、とっと寄越せ」



 ひったくられるように魔石を奪われた。


 代わりに、手の平には大銀貨が1枚載せられる。


 ──ってマジか⁉



「用件は終いか? なら失せろ」



 相変わらず聞こえない。


 追い払うような仕草をしてるのは分かるが。


 ……いや、せめて筆談ぐらいしろよな。


 しっかし、あれだけ小さな魔石1個で大銀貨1枚にもなるのか。


 戦士団登録どころか、当分金には困らねぇぞ。






 悪臭と騒音におさらばする。



「で、幾らになったの?」


「……金の価値が分かってねぇんだろ? 教える意味あんのかよ」


「いいから、教えなさいよ」


「大銀貨1枚だよ」


「……だいぎんか、って何よ」


「ハァッ、だから意味ねぇっつったろ」


「だ、大銀貨というのは、王国製の銀貨のことです。き、金貨や銅貨もあって、それぞれに大小で価値が違います。て、帝国の円形とは違って、長方形なのが特徴です」


「ふーん。お母様から頂いたのは、全部円形の銀貨だったわよね」


「そ、そうです。だ、だから帝国製ですね」



 帝国製だと、それぞれ王国製大貨の10倍の価値になるからな。


 銀貨だからまだいいものの、金貨だったら大変なことになってたぜ。



「もう一度受付に行って、戦士団登録を済ませるぞ」


「結局、お金は足りたの?」


「ああ、足りてるよ。ったく、学院が全部無料ってのも考えもんだな」


「そうなのですか? ワタシにとっては大変ありがたい制度に思えましたが」


「そりゃ、俺にとってもありがてぇよ。弊害として金勘定のできない奴がいなけりゃ、もっと良かったって話だよ」


「ワタシもできませんが」


「……だろうな。当分は俺かチビ助が管理したほうが良さそうだが、二人もちゃんと覚えろよ?」


「お金が無くなったら、また訪ねるようにってお母様が」


「自活しろ自活! 親に甘えんな!」



 ったく、貴族ってのは皆、こんな感じなのかね。


 足音も荒く、再び酒場っぽい屋内へと入る。


 脇目も振らずに奥へ。



「金は用意できたかい?」


「ああ。ほらよ」


「魔石は本物だったのか。良かったな」



 そりゃそうだ。


 魔術の授業で使ってた物だしな。


 偽物なわけがねぇ。



「それじゃあ、この書類に目を通して、承諾できたら全員分の指印を頼む。ちなみに、二枚あるからな」


「しいんって何だよ」


「指にこの墨を付けて、紙のこの場所に押し付ければいい」


「……そんなんでいいのか?」


「指の皺は、人によって形が違う。偽造できん優れものなんだよ」


「へぇー、知らなかったぜ」


「一応言っておくが、指印は全員分ズラして押してくれよ。重ねたら意味が無い」


「ああ」



 っと、何々……。


 あー、うー、い、いかん、硬い文章だと目が滑る。


 が、他はチビ助ぐらいしか内容を把握できねぇだろうし、俺もしっかり読んどかねぇとマズい。






「ねぇ、墨で指が汚れたんだけど」


「そりゃそうだろうな」


「洗いたいんだけど」


「こりゃ、配慮が足りなかったか。カウンターの隣にある扉を進むと、手洗い場がある。そこを使ってくれ」


「酒場があるんだから、水ぐらい置いてんだろ?」


「もちろんあるとも。有料でも良ければね」


「そうかよ」


「教えてくれてありがと。じゃ、手を洗ってくるわ」


「ではワタシも」


「う、ウチも」


「ああ。行ってこい行ってこい」


「一緒に行かなくていいのか? 汚れたのは同じだろうに」


「こんなもん、服で拭えば済む」


「……まあ構わんがね。くれぐれも、書類は汚してくれるなよ」






「二枚とも問題なさそうだな。一応、この紙にも書いてあったが、口頭でも伝えておくことが一つある」


「あん? まだ何かあんのか」


「戦士団は国の要請を最上位命令として行動する。もちろん、拒否権は存在しない。極端な話、戦争に駆り出される可能性もある」


「しいん、ってのを押させておいてそれかよ」


「ちゃんと読まなかったのか?」


「読んだ読んだ。命令後の解散は受け付けないってのも分かってるよ」


「帝国との戦争は起きないだろうが、北壁ほくへきへの派遣はあり得る。魔獣討伐するつもりが無いなら、情勢の変化には気を付けておけよ」


「お、おう」



 割と気のいいオッサンだな。



「これが団証だんしょうだ。無くすなよ。再発行は当然有料だからな」



 首紐に赤い印が刻印された木片が人数分渡された。



「あとはこの用紙の一枚も持ち歩くように。他の地区の組合を利用する際、必要になるからな」



 一枚貰えるのかよ!


 内容を暗記する必要はねぇのかよ!



「依頼を受ける際は、壁に貼った依頼書の番号を受付に申告するように。間違っても、依頼書を剥がして持っていくなよ」


「き、気を付けるぜ」



 あ、あぶねぇ。


 聞いてなきゃ、やらかすとこだったぜ。



「これで最後だ。戦士団結成おめでとう──死ぬなよ」


「ありがとよ」






ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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