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ヘッドロックをだいしゅきホールドとはいわん

 ――そんなわけで、勝負に敗けた太一と時任は、


『う~ん。たいちゃん足やっちゃってるのに追い打ちはちょいかわいそうかなぁ』


 という大井の慈悲の言葉ともに、


『……あんま面白くないけど、二人で日焼け止めの塗り合いでもしてもらおっか。まぁ罰ゲームだし精神的にちょっとダメージ受けてもうってことで。不破さんもそれでいい?』

『もうなんでもいいわ。オラ次の試合行くぞ~!』

『てことで、あーしらこのままここでバレーやってるから。あ、でもちゃんと証拠写真残して送ってね。がっつり保存しとくから。送ってこなかったら追加罰ゲームね。それじゃよろしくww』


 などと、冷静に手の平を返して罰ゲームを伝えて来たわけである。まぁ『パンツにカニ』などというとんでもない企画がもちだされなかっただけまだマシか。

 おそらく本気でシャレにならん事態になる……人体の一部が別の意味でR18指定のモザイク処理が必要なゴア表現まっしぐら。おお~怖い怖い。


 不破は試合が途中で終わって消化不良なのか、早々にメンバーを入れ替えてやる気満々だった。


 ――そして、全身くまなく日焼け止めでテッカテカに塗装されてしまった太一はといえば。


「ふぅ……」


 足をつったことで涼子と入れ替えに荷物番をすることに。

 そしてその涼子はというと、


「でりゃああああっ!」

「きゃあ!」


 なにやら猛烈な殺意を迸らせてアタックを決める霧崎のボールから飛び退いている。


「ちっ……外したか」

「ちょっと麻衣佳ちゃん!? これってそういう競技じゃないでしょ!?」

「うるさぁい! どいつもこいつもウチの周りでぽよんぽよんさせやがってえええ! もうキレた! 全員ウチのボールでぶっ〇す!!」


 チーム分けは不破&霧崎。そして対するは涼子&鳴無と、それはもう一部のビジュアルが過剰演出されたチームとなったわけで……ちょっと動くたびにどっちがボールか分からない躍動感を演出する球状の物体を前に、ついに霧崎がリミットオーバーしちまったわけだ。アクセル全開。殺意の波動と共にバレーボールと完全にシンクロしてやがる。


 そんなわけで、今の彼女は対戦相手の胸部装甲にピンポイントなダイレクトアタックを仕掛けまくるバーサーカーと化しているわけだ。


 ちなみに相方の不破は霧崎のちょっと後ろに陣取っている。今は前に出て霧崎の視界に入るのは危険と判断したようだ。あの不破をもってして警戒させるとは……普段面には出さないが、やはり小さいのがコンプレックスだったりするのかもしれない。


 日焼け止めを塗り終えてこれまたテッカテカな時任は審判として試合に駆り出されている。運動音痴な彼ではあるが、あれでなかなかに目は良いらしい。


 そんわけで一人、荷物番をする太一だが。彼の周囲をグリルと囲むように人避けの結界が展開され、ソレはさながらビーチに出現したミステリーサークルのよう。


 ……なんか、いまだに信じられないなぁ。


 小学校時代からずっと陰キャ街道まっしぐらだった自分が、まさか学校の友人……それも女子たちと海に来ることになるとは。

 人垣の中からも聞こえてくる彼女たちの声。仕事で忙しそうにしていた涼子も随分と楽しそうだ。今でこそ落ち着いたが、姉はじっとしているより動くの好きなタイプである。こういうスポーツも嫌いじゃないし、むしろ肯定派だ……まぁ、現在進行形で殺意をガンガンにぶつけられている状況が、果たして本当に娯楽に繋がっているかはさておいて。

 

「おおっ、すっご。周りぜんぜん人いなくなってんじゃん」

「あれ、ヤヨちゃん?」


 と、物思いに耽っていたところに、大井が手にかき氷を持って現れた。


「留守番ごくろう。足、だいじょぶ?」

「ああ、うん。まだちょっと痛いけど。さっきよりだいぶマシ」

「そかそか。なら良かった」


 彼女は迷わず太一の横に腰を下ろしてきた。


「ほい。ブルーハワイとメロン、どっちにする?」

「えと、じゃあメロンで」

「まいど~。送料込みで1500円ね」

「ええっ!?」

「あはははっ。うそうそ。あーしのおごり。てか今のは『15回払いで』って返してほしかったなぁ」

「?」

「あ、ごめん。分かんないならいいや。てかアレ海ってより山って感じだったか。失敗……まぁそれより食べよ食べよ。これ、昨日のお詫び」


 よく分からないネタ振りをされて首を傾げる太一。そこに気を悪くした様子もなく青いかき氷を頬張る大井である。


「どうでもいいけどさ。かき氷のシロップって色が違うだけで味はみんな一緒なんだって」

「ああ、なんだかそうらしいね。確か色とか匂いとか、味覚以外で味を認識する、とかだっけ?」

「そうそう、そんな感じ。でもさぁ、そう聞くと人ってほんとイメージだけでなんでも判断しちゃうんだなぁって」

「……そうだね」


 本当にそう思う。特にここ最近は。

 ダイエットの成果もあって、顔つきが妙にワイルドな方に(悪い意味で)シフト。そのせいもあって人がほとんど寄り付かない。それどころか現在進行形で絶賛人が避けていく有様だ。実際の中身はこんなプルプルと震える愛らしい(?)小動物だというのに!


「てかほんと。たいちゃんめっちゃ変わったよねぇ」

「そう、かな?」

「そうだよ。さっきの試合の時もめっちゃ動き回ってじゃん? 正直守備範囲どうなってんの!? って感心しちゃったじゃん。たいちゃんのくせに。ていうかさ、小学校の時とかあーし以外とマジで付き合いなかったじゃん?」

「うん」


 あの時は絶賛、自信を失っていく真っ最中で、徐々に人付き合いがうまくできなくなっていった。声を掛けるのが怖くなり、反応が怖くなり、関わるのが怖くなった……そうしているうちに、いつの間にか独りになって。


 そんな時に声を掛けてきたのが、いま彼の隣にいる彼女だた。

 この子がいなければ太一は完膚なきまで腐り落ちていたかもしれない。

 彼女はいつだって前に出て、手を引いて、外へ連れ出してくれた。伽藍洞になりかけていた彼のウチ側は、彼女が施してくれる色彩豊かなガラス玉で満たされていく。それは紛れもない、充足感だった。

 だがら、彼女がいなくなった時の衝撃は大きかった。思い出(ガラス玉)の詰まった瓶が、砕けそうになるほどに。

 

 彼女が町を出るその日……


『――ねぇ、たいちゃん』


 太一は彼女を見送った。


『わたしたち、たぶんもう会えなくなっちゃうかもしれない』


 引っ越しの荷物が詰め込まれたトラックが恨めしかった。優しく最後の別れを見守る彼女の両親には殺意さえ覚えた。


『だから、お願いがあるんだ』


 少女から紡がれる酷な現実。そしてそれを何一つとして否定できない自分の無力感。

 少女は小さく太一に耳元に頬を寄せる。


『あのね――』


 少女と交わし、太一にとってどこまでも心の奥底に刻まれた、それは約束だった。今は記憶もおぼろげになってしまった、子供の頃の約束……


『それじゃ、バイバイ』


 最後に、少女は太一をぎゅっと抱き締めて――


 以降、太一は自宅に引きこもるようになり……約一年もの間、不登校になったのだ。


「ねぇ、ヤヨちゃん」

「うん?」

「あの時……ヤヨちゃんが引っ越した日、僕……なにかお願いされた気がするんだけど」


 なにか、とても重要で……だけど、思い出せない。


「……覚えてないの、たいちゃんは?」

「その……ごめん」

「そっか~。はくじょうだね~、たいちゃんは~。あーしはしっかり覚えてるのに」

「う……」


 なにも言い返すことができない。太一はかき氷を口に含みながら「ごめん」と俯いてしまう。が、大井はそんな太一を前に、「はぁ」とため息に苦笑を混じらせて。


「いいよ、別に。気にしないで」

「ごめん。その、どんなお願いだったか、改めて訊いてもいい?」

「だから、いいってば。だって――」


 ふと、大井はその瞬間、チリっと痺れるような笑みを浮かべて見せて、


「たいちゃん、あーしのお願い、ちゃんと守れてないもん」

「え?」


 それはどういう……大井の言葉に焦りを覚えるも、それは唐突な彼女の行動に遮られる。


「うりゃ!」

「っ!? ちょっと!?」


 いきなり、太一の首に大井が腕を絡めて来たのだ。しかも流れる様に、太一の頭が大井の胸元に引き寄せられる。そのままかき氷を手にしながらも器用に首を決められる太一。

 不意の接触でドキッとさせらるより前に、ギリギリと首を締め上げられる感触に別の意味で焦りを覚えた。


「ちょっ、零れる! かき氷零れる! ていうか、いきなりなに!?」

「あはははっ! あーしのお願い聞いてくれなかった罰じゃい!? ほれほれ~!」

「ぐえっ!? ちょっ、ヤヨちゃん!?」

 

 首を締め上げられて顔面蒼白。ギブギブと大井の腕を必死にタップ。しかし彼女はケラケラと笑うだけで力を緩める気配なし。少女の柔肌の感触より先に命の危機を覚える太一である。


「いえ~い! たいちゃんにだいしゅきホールドじゃ~!」


 ……絶対違う!


 夏の海、白い砂、うら若き男女が浜辺でヘッドロック……男女での絡みが青春だというのなら、きっとのこのワンシーンも青春の一ページに違いない。



 (꒪ཀ꒪*)グッ



「ふぅ……ちょいきゅうけ~い」


 メンバーを入れ替え数試合。霧崎がメロン&スイカ殺戮マシーンと化して八面六臂の大活躍。

 だがさすがに狂ったテンションで試合を決め過ぎたのか、今は完全に燃え尽きてビーチで真っ白になっていた。海をおぼろげに見つめながら「巨乳シネ巨乳シネ巨乳シネ」と呪詛っている真っ最中だ。


 ぶっ続けの試合。さすがに疲労も見え始めた頃に競技はいったん中止。不破は乾いた喉を潤そうとパラソルに戻る。


「……だぁ、くそ」


 戻り足の最中、思わず一番最初の試合を思い出して砂を蹴る。


 ……あんにゃろ。どんな反射神経してんだよ。


 ボケ要員としか思えないパートナーを抱えながら、それでも異様なまでに不破たちのボールに食いついて来た太一の姿を思い出す。

 

 ちょっと前まで鈍足を絵に描いたような肥満だった太一に、攻撃のことごとくを拾われた。あの一連の動きには、さすがの不破も驚かされた。


 そう、驚かされたのだ。自分が、あの太一に。


 正直、あのまま試合が続いていたら、結果はどうなっていたんだろうか……


「……ふん」


 不破は隆起した砂を蹴る。どうも最近、自分の方が太一に振り回される場面があるな、と思い至り、


 ……はっ、調子のんなし。


 パラソルについたら、不意打ちに水着のままくっついてやろうか、などと企んでみる。ちょっと前のサウナでも随分と面白い反応をしていたし、今回もまた挙動不審レベルのきょどりを引き出して、例のデコピンを見舞いする。


 なんて、八つ当たりな計画を思い描き、ちょっとだけ気分良くなって足を速める――


 と、


『いえ~い! たいちゃんにだいしゅきホールドじゃ~!』


 遠目に、パラソルの影でじゃれつく太一と大井の姿が視界に入った。手には今にも器からこぼれそうなかき氷。色気なくプロレス技をかける大井に、今にも落ちそうな太一。


 ……んだよ。ずいぶん楽しそうじゃん。


 馴れ馴れしい距離感。不破も相手に遠慮するような性格ではないが。なんとなく知り合ったばかりの女と見知った男子が絡んでる光景に軽くモヤる。


 これは、クラスで不破のグループ女子と太一が絡んだ時にも感じた感覚とよく似ている。

 

「チッ……」


 まただ。この意味もなく妙にイライラする感じ。正体も掴めずフワフワで、だというのにやたらと絡みついてきて鬱陶しいこの感情。


「――こんにちは」

「あ?」


 不意に声を掛けられて振り返る。さっぱりとした印象の優男。見た目の清潔感にも気を遣った、いかにもモテる雰囲気を漂わせる男がそこにいた。


「なに?」

「さっきの試合見てたよ。お姉さん、すごい運動神経いいんだね」

「……」

「実はさ、三日後にここでビーチバレーのちっちゃい大会があってさ。お姉さんさっきの試合すっごく強かったし、けっこういい線いくと思うんだけど。まだエントリーできるし、ウチのチームで一緒に出場とかどう? あ、別に今すぐ決めなくてもいいからさ、良かったら連絡先とか――」

「うぜぇ」


 手慣れた様子の相手に、不破は持ち前の怜悧な瞳を凄めてひと睨み。真夏の炎天下の中、局所的に氷点下を迎えたかのような、ゾクリと寒気の走る視線。


「今ちょいイライラしてっからさ。マジでそういうの他所でやれや。てか失せろ」

「あ、あはは……ご、ごめんねぇ……それじゃあ!」

「チッ……」


 優男風のナンパ野郎は、不破の露骨な嫌悪と怒気にさっさとその場から逃げ出した。彼以外にも、不破の外観に惹かれた憐れな男連中が、彼女の「話しかけてくんな」という雰囲気オーラを感じ取ってそそくさとその場を去って行く。


 不破は踵を返し、波打ち際にしゃがみ込んで涼を取る鳴無の背後から忍び寄り、


「はぁ~、温いけど気持ち――」

「どーん」

「きゃあ!?」


 その背中をドンと突き飛ばして顔面から海水にダイブさせた。


「うぇ~、しょっぱ~……え、なになに? ってきらりん?」

「…………はぁ~」

「え? なんでワタシ今溜息つかれたの?」

「やっぱお前じゃ反応薄くてつまんねえわ」

「は? なに? これ、ワタシ怒っていい? いいとこよね?」


 不破から絡んでくるのは鳴無的には歓迎できることではなるが。今のはちょっといただけない。というより意味不明である。

 なにかよく分からない絡み方をしてくる不破を、鳴無は怪訝に見遣った。



 ( -᷄ω-᷅ ).。oஇ

はい!

海終わり! ナンパシーン? イヤこの面子なら逆に返り討ちやろ。うちの不破さんが太陽バックに○○フィンガー決めちゃうぞ♪ ちなみにそういうシーンはまた別の機会に!

最近投稿頻度下がってて申し訳ない! 頑張りますので! ちゃんと頑張って書きますので!!!

よろしくお願いします!!!!


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