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敗け癖ついてても勝てないのは「悔しいです!」

 さぁ始まりますは男女別チームによる「なんでも言う事きかせちゃうぞ♪」罰ゲーム付きビーチバレー!

 

 対戦カードはこの2チーム!

 どちらも即席、今日限り?


 顔面凶器に鋭利な視線! 見た目だけなら人の2,3人〇してそう! しかして豆腐メンタルな脱陰キャを目指すこの男! 宇津木太一!

 そして隣に並ぶはワカメみてぇな天パにやる気のない眼差し! どっかの緑おかっぱ狂人にいらぬ教示を説かれそう! 脱力系主人公(当社比)! 時任榛輝! 

 野郎が二人並ぶ光景は絵面的に全く美味しくない!

 宇津木&時任、男子チーム!


 対するは――


 モデル業経験あり! シャープな輪郭に健康美を備えた迫力ギャル! 真夏の日差しにけぶる金の髪! 獅子のごとき威風堂々たる佇まい! 不破満天!

 そしてそして! いよいよ最後に紹介するのは――!

 両性もとを虜にする中世的な面立ちは精緻な造形! スラリと長い手足はこの競技の最適解か!? 競技の発案者にして戦犯! 大井暁良!

 触れたら噛み付く最恐ギャルに、やらかしお色気枠疑惑の著しい幼馴染系ギャル!

 不破&大井、女子チーム!


 さぁ両チームコートに入ります。

  

 おおっと男子チームの表情が死んでいる! 勝負前からお通夜モードに突入か!? 絶賛空気が澱んでおります! 

 

 対して不破と大井の女子チーム! ストレッチで筋肉を解して〇る気満々! 水着姿での大胆なウォーミングアップに観客(野郎ども)からはどよめきのアラシ! これは華があります!

 

 ネットひとつ隔ててこの格差! 果たしてこのビジュアル的にもモチベーション的にも激しい落差は勝負にどのような影響を及ぼすのか!?

 

 身体機能的には男性有利なように見えますが?

 しかし太一選手は脱陰キャの一歩を踏み出したばかりのリア充ビギナー。相方の時任選手も、今回相手の大井選手曰く「運動音痴」とのこと!

 

 これは貴重な情報です!

 単純な肉体強度で勝負は決まらない予感!

 逆にイケイケ女子チームにこそ有利なゲーム展開が繰り広げられる可能性濃厚か!?


 目の離せないこのカード! 周囲のギャラリーも熱狂を禁じ得ない!

 

 具体的には男子コートは閑古鳥! 対する女子チームサイドでは男連中がケダモノのごとく大咆哮! ムサイ! クサイ! 暑苦しい!!

 いやしかしよく見れば女性の姿もあるにはあるがごくわずか! 鼻の下伸ばしたカレシに殺意マシマシの眼光を飛ばしまくっております! これは場外乱闘待ったなし! 既にカウントダウンは始まっている!


 男子チーム完全なるアウェー! 果たしてこの逆風の中、勝利を掴むことはできるのでしょうか!?

 だがどちらかというと女子チームもこの野太い歓声に眉を顰める有様だ! 声援がもはやデバフの類! これはある意味で両チームともイーブンと言えるかもしれません!


「うっぜぇ」


 ああっとここで不破選手、周囲の観客に向けて威圧的な眼光を飛ばします! だがしかし! これには一部の野郎ども……いや! なんと女子の中からも見悶える者が続出! なんという魅惑の眼力! これは逆効果だ~! 相方の大井選手もこれには苦笑!


「さて、そんじゃはじめよっか。最初はそっちからでいいよ~。どうせ届かないと思うし~w」


 ボールが大井選手から時任選手へと渡ります! いよいよ試合開始のようです!


 なお! 実況&解説は天の声でお届けしました!

 それでは、はりきってまいりましょう!


「はぁ……ったく、なんで俺がこんなこと……」


 ぐだぐだ言いながらも構える時任。なんやかんと付き合は悪くない脱力系男子である。別名、巻き込まれ体質ともいう。


 ルールは試合開始前に大井から確認。

 とはいえこいつは遊びの範疇、かつ初心者もいる中で細かいルール設定などあるはずもなく。本来のビーチバレーでは原則反則であるオーバーハンド、手のひらでのプッシュといったプレーもアリ。

 基本3セットのところ、チームをローテーションさせて試合をすることを考慮し、1セットで21点先取した方の勝ち。なお2点リードも今回はなしということになった。ただし7点獲得するごとにコートチェンジを行う。

 

 ようは、とにかく相手コートにボールを叩き込んでいち早く21ポイント取れば勝利、というとだ。


 ……風があるな。


 本日は快晴。海風はやや強め。先ほどから突発的に砂を巻き上げる強風が吹き抜ける。これは適当にサーブしてもあらぬ方向へと飛んでいきそうだ。あるいは風の影響をものともしない弾丸サーブを叩き込むか……


 配置は太一がネット前でブロッカー、サーバーに時任。対する女子チームは男子チームから見て左に不破、右に大井となっている。


 太一は正面を見据え、不破が構える。ニヤニヤする大井を前に、時任はボールを宙へ放ち――


「ぐぺっ!?」

「あ」


 何やら数分前の光景を再現するような声。

 時任のサーブは、運動音痴という情報を裏切る勢いで打ち出され、なんと相方である太一の後頭部に突き刺さった……

 

「あはははははっw! 絶対そうなると思ったww! やっばい! 予想通り過ぎてマジでウケるww!」


 大井が腹を抱えて大爆笑。開幕一発目からのフレンドリーファイア。よもやこの男子、刺客か?

 思わず両目をガン開きにしてゴゴゴゴゴと背後を振り返った。


「悪い。わざとじゃねぇから。その目やめて、マジで」


『我輩の辞書に不可能という文字はない』で有名なかの英雄、ナポレオン・ボナパルトは言った……

『真に恐れるべきは有能な敵ではなく無能な味方である』と。


「あはははっ……まぁ今のはノーカンってことにしてあげるからさ、もっかいサーブやってみれば? いいっしょ不破さん?」

「まぁいいけど……次ミスったら交代だかんな」


 そんなわけで2回目のサーブ(やり直し)。時任のボールは放物線を描くように相手コートへ――


「どぅえっ!?」


 飛ぶことはなく……まるで磁力に引き寄せられるかのように、またしても太一の頭部へとぶっ刺さった。


「あははははははっwww!」


 大井がビーチに膝つき手を何度も振り下ろしての大爆笑。不破も口を押えて「ぶっ」と吹き出しす始末。周囲の観客ギャラリーからも笑いを堪える者が続出した。


 ズキズキと頭部に走る痛みに、さすがの太一は珍しく相手へ詰め寄った。


「わざとですか? わざとなんですか? わざとなんですね?」

「いや偶然。マジで、神に誓って。だからその顔で迫るのやめてお願い」


 サービス権が不破たちに移る。

 今度は左に太一、時任が右のポジションにつく。

 サーブは不破。彼女はボールを頭上高く放ち、


「うらぁ!!」


 威勢のいい掛け声と共にジャンプサーブを放つ。ぐっと足が沈み込む不安定な足場にもかかわらず力強い一球。

 相手コートのほぼど真ん中へと放たれたボール。位置的には時任の方が近い。それは本人も自覚しているのか、体を滑り込ませてアンダーハンドでレシーブ――


「ぐほっ!」

 

 ボールは見事に太一へ飛んだ。ただし頭上ではなく真っ直ぐ、一直線に、弾丸ごとく顔面へ。

 もはや親の敵と言わんばかりの正確さで味方の頭部を狙い撃っているとしか思えない。誰が味方に対して適切なヘッドショットを決めろと言った。ここが軍隊なら一も二もなく銃殺刑ものである。

 なるほどやはり彼は女子チームがこちらに送り込んだタレット(支援砲台)に違いない。


「…………」

「…………」


 これには太一も言葉もなく、時任を全力の眼力で見つめてやった。時任も言い訳不能に顔を背ける。


 ……こ、これは。


 サーブに続いてレシーブミスによる失点……この時点で不破たちに2点を与えてしまった。


「っぷ、くくく……やばい……たいちゃんの顔がブラックホールんなってる……ぷぷw」


 特等席から珍プレー鑑賞をしていた大井は口を押えて太一を指さす。


「おいお前ら~。まさか一発もこっちのコートにボール返せねぇで試合終了かねぇよなww」


 そして、口角を持ち上げて挑発的な笑みを浮かべてくる不破。


「んじゃ、もっかい行くぜっ!」


 またしても不破のサーブ。彼女の派手好きな性格が如実に表れた豪快なジャンプサーブ。

 破裂するような音と共にボールはコートの左端……太一たちから見れば右側……へ。つまり、時任のカヴァー範囲である。


 が、


「ごへっ!」


 迎える体勢はまたしてもアンダーハンド。しかし今度は太一ではなく、なんと自分の顔面目掛けてボールを跳ね上げるというある意味で離れ業をやってのけたのである。時任は衝撃のままに背中から砂浜に倒れ、コートの外へと虚しくボールが落下した。思わず太一も「ええ……」と声を上げてしまう。


「うっしゃ3点目!」

「マジあーしら絶好調! てかチームに戦力差ありすぎたかな、これ?」

 

 ゲーム開始直後からこの有様。太一は既にゲームの勝ち目が非常に薄いことを悟り始めていた。


「さ~て、もう完全に勝負ありっしょこれは。罰ゲーム、なにしてもらおっかねぇ……」


 邪悪な笑みを浮かべて器用に指先でボールを回す不破。

 寒気さえ覚える彼女の表情に太一の脳みそが警戒アラートを全力で響かせる。


 ……まずい。不破さんのあの目……負けたら絶対にろくでもないことやらされる!


 何度も言うが、『真に恐れるべきは有能な敵ではなく無能な味方である』。


 よもや、今日知り合ったばかりの大井の婚約者が、ここまで運動音痴のポンコツだとは! 確かに事前に話は聞いていた。だがここまで芸術的なまでの珍事を連続発生させるなどとは予想外もいいところではないか!


「さ~て、んじゃさっさと終わらせてやっか!」

「っ!?」


 思考もままならないまま、不破によって3球目の弾丸サーブが放たれる。

 今度はコートの中央からやや太一より。


「ぬぉっ!?」


 太一は組んだ手を前に突き出しなんとかボールを跳ね上げる。


「お、ようやく拾ったな。で? そっから?」

「くっ」


 太一は時任を見遣る。彼はオーバーハンドの体勢でボールを迎え入れようとしていた。

 さすがにこれなら勢いのまま味方を撃ち殺すなんて事態にはなるまい。というかもしこれで先ほどと同様の軌跡と威力でボールが太一を狙ったら、それこそ彼のポンコツは物理法則さえ凌駕することになってしまう。

 そんなどっかの超人テニスみたいなことになった日にはこの世の終わりである。


「っと」


 が、さすがは世界の物理さん! そこまでの奇行はさすがに許さなかった模様。ボールは無事に宙へと打ち上げられた。そうこれこそバレーの正しい形である。最も……これがまともに太一の方に放たれていたらの話ではあるが。


「ちょぉぉぉぉっ!?」


 ボールは時任の右斜め後方、太一の立つ位置とはほぼ真逆。コートの外へとふんわり飛翔。

 太一はビーチの砂を撒き散らして必死に駆ける。なんなら勢いそのままにボールへダイブをまかした。

 

「うおっ!? たいちゃんマジか!?」


 そしてなんと、ギリのギリではあるが、なんとかビーチの砂に触れる前に、腕を滑り込ませてボールを跳ね上げることに成功。

 これには一瞬、観客からも「おおっ」と声が上がった。


 しかし頼りなく放物線を描くボールは、ゆるやかに女子チームのコートの中へと吸い込まれていき、


「絶好球!!」


 こんなチャンスを不破が見逃すはもなく、それはもうド派手なスパイクを叩き込まれることになった。


「やるじゃん。正直あのバカみてぇなボール拾われるとか思わなかったし。まぁそれでも点はアタシらのもんだけど」

 

 砂に小さなクレーターを穿って転がるバレーボール。

 サービス権の移動はなく、またしても不破のサーブが突き刺さる。


 太一と時任はコントのようなチャッ〇リンの喜劇の様な、或いは爆笑動画みてぇな奇天烈なボールの動きで観客たちを沸かせ、


 最初の7点を完全に不破たちに奪われてコートチェンジとなった。


「ちょっと~あーしマジでなんもしてないんだけど~。てか不破さんすごくない? もしかしてビーチバレーとかガチ目にやってたりする?」

「いんや、毎年夏んなるとダチと来てやってただけ」

「そんであんだけ跳べるってどんな脚してんだし。でも不破さん背丈あるもんねぇ~。こういう競技向いてんじゃない?」

「かもな。全然負ける気しねぇし」


 出会ってすぐにこうも打ち解けるとは。ギャルのコミュニケーション能力の高さよ。

 対して、男子サイドはどうかと言えば、


「次、僕がサーブ打ちます」

「おう……いやほんと悪い。俺、昔っからこういうのダメなんだよ」

「いえ……」

「……」


 コミュニケーション能力が欠乏した者同士の距離感。共通の話題を見つけることもなく、二言三言事務的に話して終了。完全に沈黙。

 女子チームの移動に合わせて追随すつ観衆ギャラリーからは、もはやネタ枠のような視線を向けられる始末だ。


 が、


「――罰ゲームどうする?」

「う~ん。海パンの中にカニ仕込むとか?」

「鬼畜じゃんw。でもリアクションは取れそうw」

「あとは……適当な女子グループ相手にナンパやらせてみっとか?」

「ああ……面白そうだけどたいちゃん大丈夫? 秒で通報されんじゃない?」

「ん~……じゃあスイカ割りの標的代わりに砂に埋めてみるとか? ああでもやっぱパンツにカニの方が――」


 耳に入ってきた不穏な会話に野郎二人の動きが止まる。


「なぁ……あれ、冗談だよな?」

「いえ、多分半分くらい本気だと思います」

「「……」」


 ……やべぇ×2


 コートチェンジの僅かな時間。このままでは割とシャレにならないレベルで身の危険を感じた太一は、先程のプレーからどうすればこのゲームに勝てるかと必死に考え始める。


 不破はやると言ったら絶対にやる女だ。

 あの罰ゲームも本気で実行される可能性が普通にある。


 つまり、思考停止してやられっぱなしのギャグ要員でいられる余裕など、端からなかったのだと思い知る。だが、


 ……どうする。時任さんのギャグボール(アレじゃないよ)に逐一対応してたら絶対に勝てない。


 普通にやっても分の悪い勝負だというのに、相方が珍プレー発生器というこの上ないハンディキャップ。いっそメンバーチェンジを申し出たい。

 が、初対面の相手に「下手なので変わってください」などと言えるはずもなく。


 サーブの配置についても太一はしばらく思考を巡らせる。


「おおい! 宇津木はやく打て~!」

「は、はい!」


 しかし不破に急かされ条件反射的に動いてしまい、アンダーハンドでサーブを打つ。時任ほどではないしろ、太一も最近まではまるで運動などしてこなかった人間である。

 ジャンプサーブはもちろん、一般的に見かけるようなフローターサーブだって打てやしない。


 放物線を描いて相手コートに放たれたボールは、ちょうど大井の前に飛んでいき、


「お、ようやくまともなラリーきたし――ほっ!」

「そんじゃ、どんだけやれっか見せてみろよ――ほいっ!」

「お任せ!」


 レシーブでボールを受けた大井は不破に繋ぎ、ネットギリギリにトスを上げて最後に大井が決めにいく。


「うりゃ!」


 不破ほどではないが確かに砂浜を蹴ってのスパイクを叩き込んでくる。


「っ!」


 が、


「うぉっ!?」


 太一はサーブ直後から前に出て、偶然にもコートど真ん中に放たれたスパイクを拾うことに成功。軌道はめちゃくちゃではあるが、それでもボールは確かに上に上がった。


 ……これ、もしかして。


 この時、太一は気づく。


 自分なら、ギリギリでコートの大半をカヴァーできるのではないか?

 この宇津木太一、瞬間的に爆発的な加速力を発揮する事がこれまでに何度かあった。

 初めての不破とのランニング遅刻し逃走した時、不破がカラオケでにゃんにゃんされそうになってるのではと勘違いした時、不破と鳴無が一触即発の空気になった時……

 いずれも、当時の太一は一時的に驚異的な加速を見せていた。

 先程の、時任の珍プレーでほぼ逆サイドに飛んでいったボールもギリギリで拾うことができたほどだ。不破たちにとってはカモネギなボールを返すことにはなったが、それでも。


 ……これはもう、僕がコートに入ったボールを取るしかない!


 それで得点に繋がるかは怪しいがこちらのミスで失点するという事態だけは最低限避けられる。

 勝利の活路はなんと奇策でも何でもない根性論という事が判明。

 だがさすがにコートの全てを守り切るのは不可能。


 太一はすかさず左側に移動。そこはちょうど不破と対角になる位置。


 中央のラインから時任のいる左の端のアウトラインギリギリまでを脳内で線引き。そこから少しでも右に飛んできたボールは全て太一が処理する。左側にボールが行ってしまった時は事故扱い!

 かなり無謀かつ無茶なプレー。しかしもはやこれしかない!

 幸いにして不破も大井も時任をピンポイントで狙えるだけのコントロールはない。


「時任さん!」

「っ!」


 頭上に上がったボールを時任に託す。彼は不格好ながらもトスを上げ、案の定明後日の方向にボールを打ち上げ、あろうことか相手のコートへ――


「うっしゃ次はアタシ!!」


 嬉々としてカモネギボールに食いつく不破。

 しかし、


「なっ!?」

「!?」


 突如、海から風が吹いた。おかげでボールは僅かに流され、不破のスパイクは不格好なまま放たれること。


「――」


 ポコンと間の抜けたボールはコートの外。まさしく、神風!


「だぁぁぁっ、くそっ! これあんの忘れてた!」

「ドンマイ! まだ1点じゃん」


 ボールを回収し、太一は次のサーブに備える。コートチェンジ前より風が出ている。

 相変わらずのアンダーサーブ、しかし風により軌道が逸れて


「わっととと!」


 大井が危なっかしい挙動でボールをトス。さすがに繋げられないと直感したのか、不破がギリギリでボールを拾ってなんとか返す。


 太一は全力で脚を動かしボールの落下地点へ駆ける。女子チームよりも不格好に、泥臭い挙動でボールを掬い上げる。


 ――そこから始まったなんとも格好のつかないラリーの応酬。


 しかし、


「――っ」


 不破と大井が返す縦横無尽な軌跡のボールを、太一は全身砂まみれになりながら、それこそ右に跳び左に跳び、前にダッシュし後ろに転がり、なんとか捉え続ける。


 瞬間的に爆発的な加速で砂浜の上を駆ける強面男子。時折事故エリアにボールが吸い込まれたり、あらぬ方向にボールが飛んでいくことはあるものの。


 太一のボールに対するその執念じみたセーブに、観客たちの中からも「けっこう頑張ってんじゃね?」と小さな称賛が漏れ聞こえてくる。


 が、今の太一の頭にあるのは、


 ……パンツにカニはいやだパンツにカニはいやだパンツにカニはいやだ!!


 という不破たちによる理不尽な罰ゲームへの恐怖だけである。現状、コートに吹く風でボールの軌道がメチャクチャになり、ミスを誘発される不破たち。それにより太一たちの得点となり、この段階で5対11。


 勝つ事よりも負けない事。そんな思いだけで太一は無駄に体を酷使させ、鬼気迫る形相でボールを追わせていた。


 観客側へ太一が走る度に悲鳴が上がる。こっちに来るなと無常に叫ぶ。

 ゲームは太一の死に物狂いなセーブでなんとか成り立っていた。


「ちぃ……また風! 鬱陶――しいっ!」


 不破のスパイク。しかし


「っ!」

「はっ? いやちょっとマジか!?」


 そこにまたしても太一が滑り込む。これには不破も思ず声が出た。正直今のは決まったと思っただけに驚きを隠せない。


 しかも今度は何と、彼は足でボールを跳ね上げたのだ。

 基本、バレーは体のどの部分でボールに触れてもいいルールになっている。つまり、足だろうがどこだろうが球が砂に触れさえしなければいいのである。まさしく執念、いやもはや怨念!


 が、


 ぴきっ――


「んぎいぃぃぃぃっ!?」


 ここにきて、ついに太一の体が限界のサインを訴える。

 ええ……彼も頑張ったのですが、最後に足を使ったプレーで、太腿が思いっ切りツリました。


 砂浜の上で「んぎょぉぉぉぉぉ~~~」と悶える太一。

 この時点でゲーム続行は不可能。交代要員ナシ。


「ああ……これは、あーしらの……勝ち?」

「って、ことじゃね?」


 最後まで試合を継続させることすらないまま、なんとも締まらない幕引きで勝負は決着を迎えることになってしまった。


 ……いや、見てないで助けて。


 放置プレイされる太一は、最後にそんなことを思ったそうだ。



 (゜ロ゜)ギョェ…!

申し訳ありません。

海回、バレーのシーンが思ったより長くなってしまい、

もうちょっとだけ続くことになっちゃいました…

次回こそ最後です。ほんとです。信じてください!


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