イベント超えたらヒロインとラブコメできるとか…はっ
「――てな感じ。どうどう? ウチもやる時はやるっしょ!」
追試合格ギリギリの解答用紙が広がるファミレスのテーブル。霧崎は自身満々に胸を張ってふんぞり返っていた。
正直この結果でそこまでの自信を発揮できるあたり彼女も随分と神経が太い。
が、
「いやマジで自力? 普通にカンニングしたんじゃねぇの? ……あの絶対に自力だけで追試をパスできないマイが、普通に合格とかありえなくね?」
不破が歯に衣着せぬ物言いで解答用紙を摘まみ上げる。追試試験の設問は不破に聞いた通り、対策プリントをほぼそのまま流用しただけのようだ。初めて目にした太一はちょっと苦笑い。
不破の態度に、しかし霧崎は気を悪くした様子もなく、
「ふふ~ん。なんとでも言えい! 今回のウチは一味違うのだ!」
正攻法での勝利を収めたことにご満悦の様子。
この内容であれば手を抜いても太一なら80点は固い。ハッキリ言って、この出題形式で合格基準ギリギリというのはそこまで誇れるもんじゃない。
が、慣れない早起き、それに加えてランニング……小休止を挟みつつ、朝食もそこそこに追試対策に励む。それを述べ6日以上。
追試は一日で終わるわけじゃない。追試期間中もずっと霧崎は早朝ランニングからの暗記を実施してきたのだ。
自分の努力の結果がこうして身になっているという事実。それは確かなモチベーションに繋がり、霧崎が今こうして胸を張っている理由でもある。
「つか宇津木さ、最近ずっとアタシと走る前に汗かいてんなって思ってたけどよ……ここんとこ毎日マイと二人で走ってたわけだ……」
不破は「ふ~ん」とドリンクバーの中身をグルグルと掻き回しながら、なんとなくジト~っとした視線を太一に投げかけて来る。
「えと……な、なに?」
「ん~? いや、なんつうか……随分とマイに親身になってんだなぁ、ってよ」
「そ、そうかな……?」
太一としてはそこまで特別霧崎に付き合ったという感じはしていなかった。が、不破のどこか含むような物言いに、太一はちょっと居心地悪そうに烏龍茶をストローで吸い上げる。
と、しばらく無言だった鳴無は太一をニヤニヤとからかうように見つめて来くると、
「ていうか、きらりんが自宅に戻ってからすぐにマイマイとお泊りとか。太一君、見た目の割りに……あれ? 見た目通り? まぁどっちにしてもなかなかに節操がない感じじゃない♪」
「ああ確かに。え、なに? もしかして宇津木、マイのこと好きだったりするわけ?」
「ぶふっ!!」
「ちょっおまっ、きたなっ!!」
「も~う、太一君なにやってるの~っ」
「げほっ、げほっ! な、なんでそうなるんですか!?」
口に含んでいた烏龍茶を吹き出してしまう太一。正面の不破と鳴無が咄嗟に席を立ちあがった。
愛も変わらず実に騒がしい。周囲の客からの冷たい視線がプレゼントフォーユー。太一も吹き出したお茶をナプキンでふき取りながら不破と鳴無に抗議の目を向ける。
「ええ~ウッディ、ウチのこと好きな~ん? まじ~?」
「霧崎さんも悪ノリしないでください!」
女子はなぜこうもナチュラルに話題や物事を恋愛方面に舵取りしたがるのだ。
カーナビの行き先が固定化でもされているのか。ルート検索もきっと受け付けないに違いない。
というか霧崎と鳴無からは太一をからかって遊ぼという小悪魔めいた意地の悪さを感じる。わからせ枠なら確実にひぃひぃいわせられるポジションである。が、生憎とひぃひぃ振り回されているのは太一ひとりだけという相変わらずの理不尽っぷり。
どっかに回避性能付きのアクセサリーでも落っこちてないもんか。このギャルたちと関わってからというものほぼ毎日メンタルがサンドバック状態だ。そろそろ中の砂をぶちまけちゃうぞ。
「ま、でもこれでなんの憂いもなくお盆休みは旅行に行けるよね♪」
「それはいいんだけどよ……結局カンニングの準備なんの意味もなかったじゃん」
不破は少し不満顔。結局自分が提案したカンニングは今回使われることはなかった。まぁしかし不正を働くことなく無事に追試を乗り切れたならそれに越したことはない。
旅行に行くにしても後ろめたい気持ちを引き摺ったままより何倍もマシである。
だが、不破相手にそんな正論が通じるかと言えば、
「んだよ人がせっかく骨折ったってのによぉ。てか正攻法だけてやるんなら最初から言えや。時間の無駄だろうがよ」
「いやぁ……まぁカンニングも自力での回答も、どっちも保険を掛けておいたってことで」
「……」
ぶっす~と唇を尖らせる不破に太一は苦笑。そんな彼に彼女はやはりジト目を向けて来る。さすがに霧崎も「たはは……」とバツが悪そうだ。
すると、
「てかさ、最近宇津木アタシに隠し事多くね……? この牛チチん時も会ってたの秘密にしてやがったしよぉ」
話題の矛先が追試から太一の行動に変わった。確かに鳴無の一件以来、不破にはちょくちょく秘密を抱えていたように思う。とはいえそれは人であれば当然のこと。なんでもかんでも話さにゃならんわけでもない。むしろそんな口の鍵がぶっ壊れた人間の方がよほど質が悪いというもんだ。
が、どうにも不破は太一の隠し事が面白くないご様子。
「あは~。きらりんってば、お気にの子が他の娘とこっそり会ってたのが気に食わないって感じなのかな~?」
「はぁ!? んなわけあるか! おめぇみてぇな色ボケ脳みそと一緒にすんなや!」
「あははっ、きらりん顔ちょい赤くなってるじゃ~ん」
「~~~~~~~っ!! こん、のっ――ッ!」
「いった!? ちょっと~、乙女の頭に頭突きとかマジないから~」
「あぁぁ~、色々うぜぇ……」
打撃を放った方もくらった方も二人して額を押さえている。ゴスッとなかなかに鈍い音がしたような気もしたが大丈夫だろうか……
というか相変わらず不破は色々と物理に対する信頼度が高すぎる。もう少し自嘲して欲しいもんだ。周りの客もドン引きである。
「たは~。キララってやっぱ独占欲強めだよねぇ。なんやかんやウッディに所有欲出しちゃってんじゃん」
「そっちも一発いっとくか、あん?」
「ちょちょちょ、タンマタンマ!」
「遠慮すんなし。首にキツイの一発入れるだけだから」
不破が霧崎をジロリと睨んで手刀を数回スイングして見せる。「ウ、ウチ飲み物とってくる~」と、霧崎は猛獣の視界から逃れるように、中身が半分以上も残ったグラスを持って席から離脱。
人体の急所を遠慮なしに狙いに行く不破はまさしく獰猛な肉獅子か虎である。それでいて気まぐれな性格とか、もはやまんまである。
「ったく……」
不破は鼻を鳴らしてグラスの中身を一気に煽った。氷も頬張りバリボリと嚙み砕く。実にワイルド。サバンナでもきっとたくましく生き残るに違いない。
「はぁ……あ、てか宇津木。あんたこないだのゲームの罰ゲームよぉ」
「えっ!?」
急にねめつける様に不破から水を向けられてビクッと反応する太一。さながら無防備に森を歩いてたところをベアトラップに引っ掛かった小動物のよう。文字通り噛み付いてこんばかりの不破の眼光は物理的に太一を委縮させる。
「結局コンビニアイス全部ママが買ってきただけで、宇津木なんの罰も受けてなくね?」
「あっ、いやそれは……っ」
「ああ、確かにそうかも」
不破の頭突きから回復した鳴無が同意してきやがった。もうしばらくの間悶絶していればいいものを。
というかっさきから不破の標的があっちにいったりこっちにいったりと節操がない。ヘイト管理の仕様がガッバガバである。
そもそもなぜ追試を合格したというのにこうもプンプン丸されにゃならんのだ。
「どうすっかなぁ……あ、ここの支払い宇津木もちにすっとか?」
「ま、まぁそれくらいなら」
どうせドリンクバー4人分の支払いだけである。野口さん一人の犠牲で不破の怒りが収まるなら安いもんである。
だというのに、
「ええ~、せっかくだしもうちょっと面白いのにしようよ~」
鳴無がいらぬ一言を発した。
「はぁ? う~ん……じゃあケツバット」
「きらりん。発想がちょいちょい男子……そういうのじゃなくて! もっとこう、太一君が面白おかしくひどい目に遭う感じのヤツ!」
「鳴無さん!?」
……ぼ、僕。なにさせられるの? これほっといてほんとに大丈夫なの!?
学生の罰ゲームになぜこんなにも心臓が破裂しそうな状況になっているんだ。しかし加減という名のブレーキが見事にぶっ壊れているこのギャル相手に常識的な判断を望むというのがそもそも間違いか。
「そうねぇ……う~ん……………………あ」
と、なにを思い付いたのか頭上に豆電球を灯して鳴無が不破に向き直る。
「ねぇねぇきらりん、ちょっと思いついたんだけどさ。今度の旅行、海とか川とか行くってことになってたじゃない?」
「あ? だから?」
「そ・こ・で~……太一君にワタシたち3人の水着選びさせようよ!」
「「えっ!?(は?)」」
太一は愕然、不破はそれのなにが面白いの? といった反応。
「こいつに水着のセンスとかあるか? つかそれでなにが面白くなんだよ」
「大丈夫ダイジョウブ。絶対に笑える展開になるから」
こちとら現在進行形で笑えたもんじゃない。
霧崎が「なになに?」と戻ってきた。鳴無はすぐに彼女にも罰ゲームの話を説明して聞かせる。
「おおっ、いいじゃんいいじゃん! ウッディに水着選び! 面白そう!」
「でしょ?」
「アタシはわかんねぇなぁ……てか罰ゲーム軽くね?」
「ふふ……案外そうでもないかもよ」
「???」
鳴無の意味深な表情に不破は首を傾げる。不破からすれば、単に太一の好みに合わせて自分が着せ替え人形にされるような光景しか思い浮かばないのだが。それはむしろ男子的には罰ゲームというよりご褒美に近い。
が、不破の考えをよそに太一は頭を抱えている。
……み、水着……? 僕が? 皆の? 無理ムリむり!!
思い出されるのは夏休み前に鳴無と入った水着ショップでの一幕だ。あの日に色々と手痛い目に遭ったのはまだ記憶に新しい。正直軽くトラウマになりかけている。
だというのに、あのどこまでも日陰者に優しくない光の国へとまた行かなくてはならないというのか。ギラつく太陽を模した照明はさながら弾丸の軌跡であり、インドアな根暗共にヘッドショットを決めんとする陽気なスナイパーなのである。
加えて、今回はギャル3人の水着を自分が選ぶ? なんの冗談だという話だ。
ここで問題になってくるのは、太一に水着の知識がないというだけではない。女性の水着というのは、それすなわち男にとっては性癖と言っても過言ではないのである。
チラと太一は発案者の鳴無を盗み見る。彼女は敏感に太一の視線に気が付くと、口角の端をくっと持ち上げた。
……お、鳴無さ~ん!
彼女は確実に全開のデートイベント(偽装)の時の様な意地悪い思考を働かせていることは明白。いや罰ゲームなのだから当然と言えばそうなのだが。
「まぁまぁウッディ。別に変な水着選んでもドン引きされるくらいなんだからさ! 気楽に直感で選んじゃってよ!」
「あと、ワタシたちに直接好みを聞くのはルール違反ね♪ あくまでも、太一君が自分で、ワタシたちに似合う水着を選ぶってことで。ていうか太一君さ、今日までさんざんワタシたちの私服見てきたんだし、好みのイメージくらいはできてもらわないとね♪」
「チッ……あんま変なもん選びやがったら罰ゲーム追加すっかんな」
「そ、そんな~……」
ここにきていきなり思考推理ゲームが始まろうとは。霧崎の追試を手伝っていたはずがなぜこんなことになっているのか。そしてその手伝った相手も一緒になって恩を仇で返す勢いなのはこれ如何に。
「さて、善は急げ。さっそく水着、見に行こっか」
鳴無が伝票をサッと手に取り立ち上がる。割り勘での支払いを済ませて一行は照り付ける太陽の下へと躍り出た。
ウキウキ気分の鳴無と霧崎、どこかあまり気乗りしない感じの不破、そして塩を振りかけられたなめくじのように陰気な雰囲気を醸し出す太一。
ふゆふゆと揺らめくような、遠方に見えるおぼろげな景色を見上げ、太一は思わずため息を漏らす。
……まぁ、どうせ皆、僕のセンスになんて期待してないだろうし。
それなりに考えつつも適当に、ちょっと怒られたり笑われたりすることを覚悟して乗り切ろう……
などと、そんなことを考えていた彼の隣に並ぶように、鳴無がゆらりと近づいてくると。
「君ってさ、ほんときらりんに気に入られてるよねぇ……ムカつくくらいに……」
「え?」
「ふふん♪ きらりんじゃないけど、ほんとに変な水着選んだり、なんにも考えないで適当なことしたりしたら……例のあの写真、ネットにアップしちゃうから♪」
「!?!?!?!?!?」
太一の耳元で呟きを漏らした直後、鳴無はスマホを取り出して底意地の悪さを隠す素振りもなく脅迫してくる。
咄嗟に太一の顔面がこの熱気の中にあってサッと青ざめた。この女……まるでこちらの思考を読んでいるのでは、というくらい的確に太一の逃げ道を塞ぎにきやがった。
「せめて努力賞くらいは取れるように頑張ろうね~? た~い~ち君♪」
ひとを魅了する魔性の笑み。太一は不破のジャッジを待たずに罰ゲームの中に更に罰ゲームが追加オーダーされかねない事態に頬を引き攣らせた。そんなもん注文した覚えはない。しかしこの女相手にクーリングオフなんて生易しい良心など期待できそうもない。
なぜ太一の周りには、こうも優しくないギャルばかりが集まってくるのだろう……
「でも、君だって悪いことばかりじゃないでしょ? だって――」
「っ!?」
不意に、鳴無は太一の腕に絡みついてくると、
「ここにいる皆が、君の選んだ水着を、着てあげるわけなんだから……ふふ」
そのどこまでも怪しい笑みの奥に底は見えず、太一は夏の暑さも、彼女から伝わる体温もどこか遠く……まるでヒヤリとするモノが内側を這いまわってくるかのようだ。さながら精神的な触手プレイ。色んな意味で気色悪すぎる。
「おい――おめぇら往来でイチャついてんじゃねぇよ!」
「ぎゃふん!(なんでっ!?)」
「きゃあ! もうきらりんひどい~」
「ふんっ……あちぃ中で暑っ苦しいもん見せんじゃねぇっての」
鳴無とは反対方向に並んできた不破からケツに蹴りを入れられた。ファミレスからここまで妙にピリピリしている不破。
不破といい鳴無といい、いやはや全くもって、
……理不尽だ。
その一言に尽きるというもんである。
(-"-; …
読者の皆様、年末は楽しんでますか?
本作の本年度の投稿はこれにて最後!!
次回の更新予定は新年の夜明け!!!
1月1日を予定しております!!!!
今年は皆様のおかげで本作の書籍化が決まり、現在は編集様と一緒に書籍化作業に励んでおります!
どうか来年も、皆様とは変わらぬお付き合いをさせていただければ幸いです!
それでは皆々様!! 良いお年を!!!!!
作品が面白かった、続きが読みたい、と思っていただけましたら、
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