正攻法などしゃらくさい、実力で勝てないなら絡め手を使うまでのこと
はてさてちょっとした親娘騒動もひと段落。
先日から不破も自宅に戻って宇津木家には一時の平穏が訪れた。もっとも涼子なんかは「ちょっと寂しいわね」などと感傷に浸っていたが。
しかしまぁそれはともかく追試まで残り6日。ついに1週間を切ってしまった。ちなみにまったく対策は進んでない。あと3日もすれば本格的に焦りが出始めるだろう今日この頃。
が――その日、太一は朝食を終えてすぐ不破に連行され、学校近くの喫茶店を訪れていた。
「カンニングっすぞ」
開幕から不穏な発言。これには太一も思わず閉口。本日も午後からギャル3人プラス太一の四人で集り追試対策の予定である。
「あの牛チチはまだいいとして。マイはぜってぇ次の追試で合格すんのはムリ」
「い、いやぁ。もうちょっと頑張ってみる方向でいいんじゃ」
「んな時間あんならカンペ作ってた方が確実だから」
「ええ……」
さすがに太一は不満顔。夏休み突入から今日まで必死に二人の勉強を見て来ただけに、ここで不正による合格を目指すのは正直気が乗らない。
「お前、マイがどんだけ勉強できねぇかわかってねぇだろ」
「い、いえ。霧崎さんが勉強苦手のなのは分かってるよ?」
「んなレベルじゃねぇって……いいか? うちの高校は進学校だけどかなりの激甘だ」
去年もマイはさんざん赤点を獲得し長期休暇のほとんどを追試と補修に費やした。しかしである。どうにか脱落者を出すまいと学校側が必至になった結果……なんと最後の追試では教師が問題を逐一解説しながら解かせギリギリ合格させるという強硬手段に出る始末であった。
「マイはそんくらいのレベルで勉強できねぇんだよ……」
「……よく進級できましたね」
「まぁガッコもその辺り必至ってことなんじゃなねぇの」
ある意味では生徒への寄り添い方が過保護な領域と言っていい。もはや対応が小学生へのソレである。
「つうわけで。マイに限ってはテストで合格点とらせんならまずカンニングでもしねぇとムリ、不可能、インポッシブル」
「…………」
言葉がない。確かに霧崎の授業内容に関する理解力のなさは中々のものだと思っていた。だがまさかそこまでとは。太一も唖然とするしかない。
「あの……本当に無理? 追試の合格って35点以上だし。暗記系だけに絞ればまだ……数学だって最悪公式さえ覚えちゃえばどうとでも」
「あのな宇津木。言いたくねぇけどマイ、めっちゃ記憶力悪い。追試対策に配られたプリントあったよな」
「え? はい」
「アタシも一回だけ追試やらされたけどよ……プリントの内容がほぼそのまんまテストの問題になってんだよ」
「はい?」
「つまり、プリントさえ丸暗記できたらそもそも合格とか簡単にできるようになってるってこと。それでも連続で赤点をとるのがマイだ。分かったか?」
「……Oh」
そこまで言われたらもう反論の余地はない。僅かな希望がミサイルに括りつけられてぶっ飛んでいく。挙句の果てに粉みじん。太一はもう頭を抱えることしかできんかった。
「わかったら今日からはカンニングの準備な。あ、りょうこんに言うなよ。ぜってぇ反対されっから」
「言えないって……」
自宅に集まって勉強会をしてるのかと思いきやまさかのカンニングの準備ときた。誰がそんなこと言えるというのか。神経が図太いなんてレベルじゃない。きっとトゥーレの木(世界で最もぶっとい樹)並みの神経回路が必要である。
「でも不破さん。なんで急に追試に乗り気に?」
ついこの前までまったくと言っていいほど霧崎たちの追試に対して無関心だったというのに。いきなりどういった心境の変化であろう。
「……なんつうか……今回は? あんたとりょうこんに世話んなったし? ……りょうこん、今度の旅行楽しみにしてるっぽいじゃん? だから、まぁ………………ああっ! とうにかくそう言う感じだよ! なんか文句でもあんのか!?」
「い、いえ。別に」
「チッ……そういうわけだから。お前もどうやってカンニングすっか考えろよ。ぜってぇ追試パスさせて全員で旅行行くんだからな」
その手段が不正行為というのが如何にも不破らしい。自由という名の規則ブッチ。そこに痺れる憧れる?
と、なんとも微妙な空気感のところに、喫茶店のマスターである妙齢の女性がトレーを持ってやたらイケメンな表情で近づいてくる。
「なんだい? カップル二人して何か悪だくみ?」
日に焼けた肌、黒い長髪を三つ編みでまとめた女性。喫茶店のマスターである。不破を超える身長は太一と同じか少し低いくらい。その肌の色と相まってなかなかに迫力がある。
しかし口元には柔らかい笑みが浮かび、見た目の割りに威圧感を感じさせない。
「いやカップルじゃねぇんすけど」
「は、はい」
「なんだい。お似合いだと思っんだけどねぇ」
「「違います(ちげぇから)」」
……息ピッタリじゃないかい。とは思うのの、客のプライベートにこっちから踏み込むような真似はしない。
「そうかい。それは悪かったね。はい、アイスコーヒー二つ。それとこっちは店からのサービス」
そういって彼女は小さなバニラアイスを二人の前に置く。
「夏季限定。よかったら食べてって。それじゃ、ごゆっくり」
マスターは手をひらひらと振ってカウンターへと消えていく。
……カッコいい人だなぁ。
スマートな仕草に思わず彼女の背中を見送ってしまう。学園ラブコメならここで黄色い歓声の一つでも上がってそうである。
「んじゃ、とりま今日から全員でどうやってカンニングすっか決めてくからな」
どうやらもうカンニングすることは彼女の中で決定事項のようだ。
太一はアイスコーヒーにガムシロップとミルクを投入。しかし口の中には妙に苦みが残るような気がした。
「あの……」
「あん?」
「一回、霧崎さんに小テスト、やらせてみてもいい?」
白状すると、太一は霧崎のテスト結果を見ていないのだ。テストが終わった直後、霧崎はすぐにテストを廃棄処分したらしい。ちなみに現実逃避ともいう。
そんなわけで、太一は霧崎の実力を正確に把握できるわけではない。
これまで良くも悪くも正攻法で生きて来た太一。不正行為にすぐに頷けるはずもなく、太一は悪あがきをすることした。小テストで霧崎の弱点と得意を見極める。弱点はこの際切り捨て得意な部分を伸ばしてどうにか実力で合格させる。
……そんな淡い期待を抱けていたのは、小テストの結果を知るまでのことであった。
「――えへへ~……」
その日の午後。太一は以前にクラスで配られた課題のプリントをテストに見立てて霧崎と鳴無に解かせた。
その結果は――
「霧崎さん、カンニングしましょう」
太一がぼぼノーモーションで手の平をひっくり返すレベルでガッタガタであった。
鳴無はまぁ平均的。良くなく悪くもない、いたって平凡な点数である。問題は霧崎だ。太一はこれまでのテストで一桁の点数などフィクションでしか見たことがない。それがよもや、ほぼすべての教科で拝む日がこようとは。
霧崎は地方を逃げ回る某伝説のポ〇モンばりに厄介な存在であると、ここにきてようやく太一は思い知ることになった。不破の言葉はなんの誇張でもなく紛れもない事実だったのである。
「だから言っただろうが」
「えへへへ~……」
「これは、わたしが言うのもなんだけど、ひどいわね……」
「えへへへへ~」
霧崎が壊れたレディオみてぇになってやがる。正直笑い事ではないのだが。いっそ太一も笑いたい気分である。
こんなもんどうやってあと6日以内に合格点を取らせろというのだ無茶ぶりも甚だしい。
「んじゃ、予定通りどうやってカンニングすっか考えっか」
そうして始まるカンニング作戦の立案。全てはお盆休みの旅行に全員で参加するために。
これでいいのか女子高生? しかしあえて言おう。人間、時にできないもんはどしたってできないのである。霧崎はそれがたまたま学業と言う学生には致命的な弱点であったというだけの話である。
果たして、これが正しい行為であるかどうかなどという倫理観を置き去りに、太一たちは必至こいてどうやって如何に教師にバレずカンニングするかを話し合った。
テストに合格するために皆で協力し合う。美しい光景ではないか。不正行為に手を染めようとしている点を除けば……
これもある意味、青春してると言えるのかもしれないね。言えないか。てへ♪
(´◉◞౪◟◉)
この物語はフィクションです。
※注意喚起※
皆さん、分かってると思いますがカンニングはダメですよ?
一夜漬けでもいいので実力で勝負しましょうねっ!!
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