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たまに食べるハーゲ〇ダッツってめちゃくちゃ美味しい

 一方そのころの宇津木家。


 非常にいたたまれない空気がリビングを満たす。ついさっきまで皆で騒ぎ散らかしていたのが嘘のようだ。

 ソファで顔を覆う燈子。隣では涼子が珍しく対応に困惑した表情を浮かべていた。なにしろ巻き込まれたのは他家の親娘(おやこ)問題。そりゃハイスペックお姉さんの涼子でも対応に困るというものよ。


「私、やっぱりダメですね。全然娘の気持ちがわからなくて……また、怒らせちゃいました。申し訳ありません。太一君にもご迷惑を」

「いえ、それは気にしなくても大丈夫です。こんな深夜に女の子を一人にさせるわけにもいきませんし」


 なんとかフォローしようにも燈子の表情は言葉を尽くせば尽くすほどに沈んでいく。時計を見上げればすでに日付を跨いで深夜0時半。


 ……なにもなきゃいいんだけど。


 さすがに涼子も不安になってくる。不破がどこまで突っ走っていったのかわからない。太一を追いかけさせたが無事に追いつけただろうか。仮に追いつけたとして、あの弟がしっかりと不破をここへ連れてくることができるのか。


 ……でも。


 とはいえ今は太一を信じるほかない。今の不破はそこそこの体力持ち。霧崎や鳴無では確実にスタミナ切れを起こす。今この場で彼女に追いすがれるのは太一くらいなもの。全くもって健康的にダイエットしていはずがこんな弊害が出ようとは。人生ナニが幸いになってナニが仇になるかわからない。


 それに。きっと今自分や燈子が追いかけたところで不破が耳を貸すとは思えない。涼子にも心当たりがある。ああいう心境の時、大人の正論ほど神経を逆なでするものだ。

 きっと自分が彼女に追いついても、燈子と同じ言葉を繰り返すだけになる可能性が高い。

 大人と子供では視点が違う。現在で生きている社会が違うからこそ、子供と大人の意見は食い違う。大人になれば嫌でも学生の頃にああしてれば、などと後悔し、子供にそう思ってほしくないと勉強したり将来を見据えて行動してほしいと願ってしまう。

 

 しかし、それは大人である自分たちに『実感』と『実績』があるからだ。経験という学びが不足した学生に、いくら他者の経験談を語ったところで真面目に聞き入る者は少ない。

 結局のところ、人は自分で経験したことでしか、物事を判断し辛いものだ。


 だからこそ、親と子供でこうしてぶつかり、すれ違ってしまう。それは仕方のないことなのかもしれない。


「難しいですね。私は人の親になったことはありませんけど、ずっと太一の面倒は見てきたつもりです。ですから、燈子さんのお気持ちも少しは理解できます」


 小学校高学年から今まで、宇津木家で太一を最も気に掛けていたのは間違いなく涼子であろう。それ以前に、涼子が親を太一に近づけさせなかった。ひきこもりになっても実の息子を放っておくような親に、弟を任せることは到底できなかったから。


「大学に入って、インターンを経験して……ああ、もっと高校でまじめに勉強そておけばよかったな、って後から思いました。だから、弟にそんな風に思ってほしくなて、色々と小言いっちゃうんですよね」


 涼子は苦笑した。弟への苦言はほとんどが右から左。暖簾に腕押しだった。

 きっと燈子はそれ以上に、娘の世話を焼き、その度に反発されてきたはずだ。


「燈子さん。実は、ずっとあなたにお伝えしようと思っていたことがあるんです」

「……はい」


 なにを言われるのだろう。思わず燈子は身構える。この姉弟にはずっと娘のことで迷惑をかけてきた。文句の一つや二つ言われても仕方ない。

 最近はほぼ毎日のように出入りしてご相伴に与り、足首を怪我した時は仕事でほとんど家にいられない自分に変わって面倒を見てもらった。そして、喧嘩して家出した娘を今日まで居候させてくれている。

 正直、いくら頭を下げても足りない。どんな言葉をかけられても、全て受け入れよう。燈子は膝の上でキュッと拳を握った。


 しかし、涼子の発した言葉は、燈子が想定していた自分への苦言などではなく、


「燈子さん。ありがとうございます」

「え?」

「満天ちゃんと関わって、最近の弟はだいぶ変わってきたんです」


 限りなく受け身で、ずっと殻に閉じこもっていた弟が、不破を接していくうちに、少しづつ自分を外に出すようになってきた。まだまだおどおどしたり、なにかあるとおろおろしてしまう頼りなさが目立つものの……最近の太一からは、明確な自分の意思のようなものが感じられる。


「あの子は根暗で、去年まではずっと一人で……学校から真っ直ぐ帰ってきても、ずっとゲームばっかり……誰とも関わらないまま、高校も卒業しちゃうのかな、って。けっこう心配してたんです」

「……」

「でも。満天ちゃんと一緒にダイエットを始めて、色んな所に連れまわしてもらって……もう目を回すくらい、家の中も外も騒がしくなって」

「……申し訳ありません」

「えっ、あ、違います違います! 別にそれが悪いって意味じゃなくて……むしろ、そうして満天ちゃんと一緒に、色んな事を経験させてもらったんです、あの子は」


 太一にとっては初めての連続で、息つく間もなくて。体形も変わって、服も選んでもらって、髪型も決めて……全て、不破がいなかったらありえなかった変化だ。


「満天ちゃんは、高校でできた初めての友達で、初めて喧嘩した相手で……それで、弟が自分で初めて『関係を続けたい』、『自分を変えたい』って思わせてくれた相手なんです」


 涼子は燈子に向き直り、三白眼の瞳を柔和に細め、


「満天ちゃん、確かにちょっと過激なところはありますが、根っこはとても優しい子だと思います。それはきっと、燈子さんの愛情を、きちんと受け取って育ったからだと、私は思います」


 太一は、そういった親の愛をほとんど知らずに育ってしまった。せめて自分だけは、と弟のために心を砕いてきたつもりだが。歪んでしまった性格に影響を当たるには、不破のように真っ直ぐ、強引なくらいぶつかってくるような相手の方がちょうどいい。


「ですから、燈子さんがダメなんてことありえません。それでいったらうちの両親なんてダメダメのダメ。親失格です」


 涼子が語る中、燈子は再び両手で顔を覆った。指の隙間から小さく嗚咽が漏れている。涼子は口閉ざし、ぬるくなったお茶を入れ直した。


「はぁ……ごめんなさい。なんだか歳を取ると涙もろくなっちゃって」


 目を腫らして燈子は苦笑する。時刻はもうすぐ深夜1時をまわろうとしていた。


「あの子たち、大丈夫かしら……」

「大丈夫ですよ。太一なら……ああ、まぁ。警察に見つからなければ……まぁ、うん」


 姉の目をふっと明後日の方を向く。今の太一は初対面の相手には威圧感だけはばっちりな顔立ちをしている。もしも警邏中けいらちゅうのポリスメンに見つかったら職質確定であろう。


「てか、二人ともスマホ忘れてるし……連絡いれらんないじゃん」


 霧崎がテーブルにポツンと取り残されたスマホを見遣る。


「さすがにそろそろ探しに行った方がよくない?」


 時計を見上げながら鳴無は提案する。或いは二人とも話がこじれている可能性もある。不破は中々に頑固だ。太一のあの性格では無理に連れ帰ることができるとは思えない。


「1時過ぎたら私と燈子さんで探してみるわ。二人はもう遅いし、家で待ってくれるかしら? もしかしらすれ違いになっちゃうかもしれないし」


 現在12時52分。さて、果たして太一は不破を連れて帰ってこれるのか。


 と、全員で二人のことを考え始めたタイミングで、


「――ただいま~」


 玄関から太一の声が聞こえて来た。4人の視線が一斉にリビングの外へと移動する。


 廊下と部屋を隔てる戸が開くと、


「満天ちゃん!」


 太一の後ろに、バツが悪そうに顔を背ける不破の姿もあった。どうやら、無事に彼女を連れ帰ることに成功したらしい。霧崎と鳴無は内心で驚愕する。不破を太一が連れ帰ってきたこともそうだが、あの不破が太一の言葉に従ったという客観的事実。それがなにより二人には意外だった。


 燈子は不破に駆け寄った。いきなり飛び出したことを叱責するより先に、「大丈夫?」と訊くあたり不破への愛情の深さが見て取れる。

 そんな様子を前に、涼子は太一たちに目配せすると、


「燈子さん、皆で少し出てきます。満天ちゃんとゆっくりお話ししてみてください。満天ちゃんも、お母さんともうちょっとだけ、素直に話し合ってみて」

「……っす」


 ぶっきらぼうに目を逸らしながらも、不破は小さく頷いた。


「さて、それじゃ太一、あと皆も、ちょっと出ましょう。近くにおいしい居酒屋さんがあってね。奢ってあげる。今日だけ特別。あ、でもアルコールはダメだからね」


 涼子に促され、4人は揃ってリビングを後にする。涼子、太一、鳴無と続き、最後に霧崎が外へ出る。

 

「キララママ」

「うん?」


 直前、霧崎は燈子へ耳打ちするように、小声で語りかけた。


「二人なら、絶対大丈夫だよ……だって、ちゃんとした親娘だもん」

「え? ……うん。ありがと」

「それじゃ、頑張ってね」


 それだけ残し、霧崎は涼子たちの後を追った。


「マイ、なんだって?」

「頑張って、だって。いいお友達ね」

「……いちいちお節介なんだよ、あいつ」

「もう、この子は」


 燈子は苦笑する。他人の家で、娘と二人きり。妙な感覚だ。それでも、久しぶりの親娘水入らず。


「アイス、買ってあるの。食べない?」

「……食べる」

「なに味?」

「ハーゲ〇ダッツ。クッキークリーム……」

「ふふ……あなた、ほんとそれ好きよね」

「わりぃかよ」

「ううん。それじゃ、一緒に食べよ。なんだか、久しぶりね」

「……」


 深夜に、二人でアイス。せっかくダイエットしたというのに、これではまた太ってしまう。が、今はそんなこと、どうでもよかった。太ったら、また宇津木たちを巻き込んで運動を増やすなりすればいい。


「満天ちゃん。お母さんに聞かせて。あなたの、気持ち」

「…………アタシは――」


 その後どうなったのか、太一たちは知らない。だが母と娘の話し合いは、どうやら無事に着地点を見つけることができたようだ。

 結局その日、宇津木家には霧崎、鳴無、そして不破親娘が泊まることになった。


 ちなみに、燈子が夜明けと同時にマンションのベランダでどこかに連絡を入れているようだった。後から聞いた話によると、それ以降、燈子は仕事を週に1日だった休みを2日に増やしたそうだ。

 

 ――そして翌朝。


「満天ちゃん! 今日ね、店長さんがお休みしてもいいって♪ だからね、久しぶりに二人でお出かけしよ? ね? ねっ!?」

「だぁぁぁぁぁっ!! ママ暑っ苦しい!!」


 いつぞやも見た、超ハイテンションで娘に大好きアピールをしまくる燈子の姿がそこにはあった。なんでも、これまでほとんど有給を消化せずに残りまくっているらしく、昨今の事情も相まって「消化しろ」とのお達しだそうだ。

 

 これにて、不破の宇津木家での居候も終わり。各々、それぞれの生活へと戻っていく。


「満天ちゃ~ん!」

「は~な~れ~ろ~っ!」


 娘大好きオーラ全開で不破に抱き着く燈子。


 結果、不破を除く全員が苦笑する事になったのは、言うまでもない。



 # ・△・)▽<,,)♡スキィ♡

めっちゃ体がかゆい!

真面目な話を書き過ぎたのか!?

次回、追試に向けて再始動だぜ!!


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