絶対に後で後悔して〇にたくなるヤツ
さて。胃袋にギガドリル〇レイクが炸裂すること必至のゲームがいよいよ始まろうとしていた。せめて多重攻撃の超〇元突破ギガドリル〇レイクが発動されないことだけを祈るばかりである。次元ごと存在を消し飛ばされそうだ……
このゲームは最大4人プレイ。よって一人あまる計算になるのだが。
「姉さんが買ってきたんだし、最初は僕が見てるよ」
せめもの抵抗にと太一は姉にプレイの順番を譲ってみる。
「なに遠慮してんのよ。いつもは新しいゲームってなったらすぐ飛びつくくせに」
最初のジャブは華麗に躱されてしまった。しかしここで諦めてなるものかと、弟は次なる一撃を繰り出す。
「ぼ、僕はさっきまでずっとゲームしてたし、夏休みでやろうと思えばいつでもできるから。姉さん仕事とか家事でいつも忙しいし、先にプレイしたらって」
ここで姉を気遣ってる風を演出。これでどうだ!?
「別に気を遣わなくていいから。ほ~ら。あんたらのために買ってきたんだから、あんたがプレイしないでどうすんのよ」
「だ、だよね~……」
逃・げ・ら・れ・な・い♪
せめてゲームの渦中に巻き込まれることだけは避けられないかと悪あがきしてみたが……今だけはいらない姉の優しさによって太一のゲームへの参加が決定してしまった。
こうなってはもう腹をくくるしかない。武〇色の覇気でお腹周りだけコーティングできんかな……内も外もカッチカチやぞ。
現在時刻は夜の7時。憎らしいことにいまだ空はうっすら明るい。夏の日差しに夜の帳は居場所を奪われているらしい。なんとなく陽キャに机を奪われた陰キャを思わせる。やはり夏はパリピたちの季節らしい。無窮の空でもその猛威を振るうとは。少しは自嘲して欲しいもんである。「今日はもう暗いから解散」が使えないではないか。
それはさておき問題は目の前で今まさに繰り広げられようとしている友情崩壊デスマッチ(太一視点)である。
おそらく最初の内はゲームの仕様やらルールを覚える必要もあるため彼女たちの意識もそちらへと向くはず。
しかしプレイが進むごとにアイテムの特性やらを理解していき、なにをどするれば相手へ痛烈な嫌がらせができるか分かってくるはず。
そこからが本番だ。
彼女たちは3人とも大なり小なり負けず嫌い……きっと己の勝利のためには手段を選ばない。そうなると相手プレイヤーへの妨害工作フェスティバルが勃発することは確実。
ゲーム画面を超えてのリアルファイトにまで発展するカウントダウンが開始されることだろう。そうなれば空気は最悪。追試対策どころじゃない。
当然お盆休みの旅行に霧崎と鳴無は不参加ということになる。とはいえ実際問題として、それで太一が困るかといえばそうでもない。3人の女子を相手にするより、不破一人だけの方がまだ気は楽だ。
……でもなぁ。
なんやかんや、全員がこの旅行を楽しみているのは太一も分かってる。いつもとは違う帰省に、涼子もどこか浮かれ気分になっていることにも気付いていた。わざわざレンタカーで大型のバンを予約したらしい。
……姉さん、やっぱり全員で行きたいって感じなんだろうなぁ。
正直、人が多い空間は得意じゃない。むしろ苦手だ。が、せっかく企画した帰省旅行に参加できない者が出てくるとなれば涼子はガッカリするかもしれない。
がっ! そんなことよりもなによりも!
「…………」
チラっと鳴無を盗み見る。夏休み直後から宇津木家に遊びに来るようになった彼女。不破を敬愛し、彼女のためなら自分の身をも犠牲にできるクレイジーな女。きっとこの旅行を切っ掛けにもっと不破との仲を深めようと考えているに違いない。
それに参加できないとなれば、おそらく相当に気落ちするだろう。
加えて――
……ここで不破さんとお出かけできないとなると、腹いせに鳴無さんが例の写真をばら撒くかもしれない!!
太一はコントローラーを握る手を震わせる。
薄暗い空き教室で、鳴無に覆い被さってその胸に手を置く太一。そんな状況を鳴無に撮られ、『不破との仲を取り持ってくれなかったらばら撒く』と脅してきたのだ。
とてもじゃないが「追試合格できなかったしお留守番で」などと言えるわけがない!
……なんとかしてこのゲームを無事に終わらせないと!
追試合格への道のりが遠くなる。そして合格できなかったら太一にとっての悲劇が開幕される。
婦女暴行(捏造)発覚、退学、逮捕、前科持ち、ニート、孤独死……
ぎゃあああああああああああ――!!
……絶対、絶対にこのゲームで皆の友情を壊させはしない!
まるで熱血漫画の主人公のようなセリフを胸中で叫び、周りがウキウキとゲームの開始を待つ中、彼ひとりだけ顔面がクソ真面目の世紀末状態になっていた。ひとりだけ明らかに作画がバクっていやがる。
画面に映る可愛らしいデフォルトキャラと軽快なBGMとの対比がシュール過ぎる。まだ対戦も始まっていないのに太一の手汗はとんでもないことになっていた。
そしてついに、ゲームが開始される。
太一の心境は闇のゲームに挑む決闘者のソレである。というか実際このゲームはそこそこ闇が深いと思う。
「すごろくっつってたけど、単にゴールすりゃいい感じなわけ?」
「あ、いえ。このゲームはゴールするよりも所持金を増やして、最後に一番手持ちのお金が多い人の勝ちです。まぁ、人生ゲームに近い感じだと思ってもらえれば」
実際は人生ゲームなどより邪悪な代物である。
「ふ~ん」
「なんとなくイメージはできるけど、ちょっとやってみないと分からないわね」
「だねぇ。ウチもこのゲームぼんやりとしか知らないし」
「じゃ、じゃあ最初は軽くルールとか進め方とかを確認する感じで」
ゲームモードをプレイヤー同士に設定し、一番短いモードを選択。
序盤は特に問題なく進んでいく。サイコロを振って出た目の数だけ目的地に近付いていく。道中で止まったマスで所持金が増えたり、進行を有利に進めるアイテムをゲットしたり、或いはペナルティを踏んで所持金を差っ引かれたり……
基本的な操作からゲームの進行について、4人はひと通り確認していった。アイテムを実際に使って効果を確かめる。ほぼ手探り状態で最初のゲームは幕を閉じた。ちなみに今回はゲーム知識で有利を取った太一が勝者である。
「なんだかちょっと下品な演出が多くないこのゲーム?」
鳴無がそんな感想を漏らす。まぁ確かにお世辞にもお上品ではない演出が多かったのは否めない。小学生男子が大いに喜びそうなネタではあるだろうが。女子高生相手にウケる演出ではないことは確かだ。
「でもそれもなんか面白かったじゃん。ウチは別にそこまできにならないかな」
とはいえ霧崎のように気にしない者もいる。人間色々だ。
「てかこれ別にゴールしなくてもよくね? 適当に金稼いでたら勝ちじゃん」
「まぁ、そういう戦略もアリですかね。でもゴールするとボーナスとかありますし、できれば狙った方が有利なんじゃないかな」
序盤のお試しプレイで各々になんとなくゲームの感覚をつかんだようだ。
今のところは問題なし。全員がゲーム内容の感想を口にしているだけで平和なもんである。
「それじゃ次いってみよっか!」
ムードメーカー的な霧崎の一声で再度ゲームが開始される。
最初のお手軽モードから変更。4人はそれぞれにゴールを目指したり、所持金を増やすなど、自身のスタイルを確立させて再戦していく。
しかし、このゲームの本領はここから本格的に発揮されていくことになった……
――夜8時過ぎ、2ゲームが終了した頃。
「ねぇ、あそこで二人してワタシをウ〇チで進路妨害とか最悪じゃない?」
「は? おめぇ人のこと言えっかよ。人の出目全部1にするやつ連続で使いやがって」
「いやキララもけっこうえぐいことしてたじゃん。どんだけウチらのこと他のエリアにぶっ飛ばすわけ?」
「は? てかマイもビン〇ー神どんだけ押し付けてくんだよ。マジでウザかったんだけど」
「「「…………」」」
「……」
く、空気が……
なんということでしょう。
先程まで緩い雰囲気でゲームを楽しんでいたリビング。初めて触れる新しいゲーム、きっと胸躍るワクワクに迎えられるに違いない。そんな宇津木家の騒がしかったリビングが、匠の手によって胃潰瘍必死の激重ギスギス空間へと大改造。
明るかった照明も、今ではうみね〇のなく頃に登場する洋館のようにほの暗い演出で室内を彩ります。今にも〇し合いが始まりそうではありませんか。
……な、なんとかしないと。なんとか、なんとか。
第2ゲームの開始時点ではまだ場もゲームを楽しめる状態だった。そこに変化が訪れたのは中盤を過ぎてから。
まず最初に不破がプレイヤー全員からアイテムを使って所持金を巻き上げ、報復に霧崎がビ〇ボー神を押し付けた。
不破と霧崎が二人で相手のプレイを妨害しまくっている中、鳴無が着実に順位を資産を獲得。順位を上げていった。『あはっ♪ ワタシが一位!』とはしゃぐ鳴無に、今度は不破と霧崎が手を組んで鳴無に妨害工作を仕掛けていく。
そこからはもう泥沼だった……
3人は揃って足の引っ張り合いを繰り返す。アイテムを駆使し〇ンボー神をなすりつけ、とにかく相手が嫌がることを徹底的に実行する。
もはやゲームという仮想空間で殴り合っているような有様だった。
そして終わってみれば、こっそりひっそりチマチマと小金を稼いでいた太一がまたしても一位を獲得。ギャル3人組の成績は乱高下を繰り返す荒れっぷり。
これこそこのゲームの真骨頂。
友情崩壊ゲーとして名を馳せ、不動の地位を獲得しているのは伊達ではないという事である。
太一はチラリと背後を振り返る。先ほどまでキッチンのテーブルに座っていたはずの涼子の姿は既にない。
……姉さん、逃げたな。
気持ちは分からなくもない。自分の買ってきたゲームでこんなことになれば居たたまれないのは当然だ。
しかしこんな状況を作った張本人として責任を取ってほしいところである。あとで敵前逃亡で軍法会議に掛けてやろうと太一は固く誓った。
しかし今は目の前のこの状況である。
3人がお互いに睨み合っているこの現状。太一が恐れていた事態がまさに起きてしまったというわけだ。涼子でなくとも今すぐエスケープを決め込みたい。今この場にはなんのエスポワールもありはしない。
画面でにこやかに手を振っているデフォルトキャラたちに今だけは殺意が湧きそうだ。笑ってないでこの状況をなんとかしてくれ。ソフト叩き割るぞこの野郎。
ゲームで一位を取ったというのにまるで嬉しくない。だがここで彼女たちの誰かが一位を取らなくてよかったのかもしれない。現在のヘイトが分散している状況はお互いに膠着状態を生みつつ、全面衝突を回避できているとも取れる。
だがどうする? これはもう楽しくお遊戯という空気感ではすでにない。
ここから勉強に戻りましょう、などとは口が裂けても言えないだろう。こんな雰囲気の中で勉強ができるとしたら逆にそいつの正気を疑ってしまう。
……もうやだ。なんで僕がこんな。
別のゲームで口直し? ダメだ。ただでさえゲームでギスギスしているのだから今は対戦ゲームそのものが彼女たちにとっての導火線だ。プレイと同時に火が着くのは必至。
なら解散して気分を落ち着けてもらう?
いやダメだ。一日で彼女たちが冷静になってくれればいいがどそうじゃなかった時が最悪だ。勉強会に参加しなくなる可能性大である。
……ど、どうしよ~。
今も目の前で、彼女たちは相手の害悪プレイを指摘し合い、口論の真っ最中だ。このままじゃ写真が……ニートの末に孤独死の未来が現実に……
……なんでこのゲーム協力プレイがないんだよ~。それがあれば少しは………………ん?
「……協、力」
小さく太一は呟く。口論に夢中でギャル3人は聞こえていたなかったようだ。
……そ、そうか! その手があった!
なにか思い付いた様子の太一。
……で、でもなぁ……これは…………いや、でも……う~ん……
しかし太一は眉をすぼめて渋面を浮かべる。確かにこの状況をなんとかできそうな策は思いついた。ただ、これを実行した後のことを考えると、思わず行動を躊躇ってしまう……
「あそこで邪魔してくっとかねぇし! いっちゃんウザかったのマイじゃん!」
「はぁ!? なにそれ!? 自分のこと棚上げして言うかそういうこと!」
「そういうマイマイもかなり陰湿なことしてたと思うけど?」
「いやウチよりアイリの方が陰険だったじゃん!」
更にヒートアップしていく3人。目の前で繰り広げられる光景に太一は、
「あ、あの~……」
「「「あん(なに)!?」」」
「ひっ……」
3人に一斉に睨まれる太一。もう泣きそうである。しかし太一は、なんとか勇気を振り絞る。
「その、もっかい、やりませんか? これ?」
「は?」
不破のこちらを射殺さんばかりの眼光にちびりそうになる。冷や汗が溢れて止まらない。クーラーの吐き出す冷気以上に肝が冷える。
一家に一台、不破満天。彼女がいれば夏場でも涼をとるには困るまい。
バンビのように震えそうになるのを堪えて、太一は3人を見渡す。そしてなんと、あろうことか、
「み、皆さん、ゲーム下手ですよね~……僕なんて、さっきなにもしてないのに1位取れちゃいましたし~」
「「「……」」」
燃え盛る火災現場にガソリンをぶちまけたのである。
「宇津木、てめ……ちょっと勝ったからって調子のんなよ……」
「ウッディ、こっそり隠れて陰キャ戦法してただけじゃん」
「へぇ~……言うじゃない太一君……ふふふ……」
……こ、怖い!
全員の視線が物理で殴ってくる。メンチビームで腹パンを喰らってる気分だ。
が、
「そこまで言うならよぉ、もっかいやってやろうじゃねぇかこら!」
「ウッディ、それだけ挑発してきたんだから次負けたら罰ゲームね」
「いいわね……じゃあ次のゲーム、最下位の人は一位の人のいうこと、なんでも聞くってことでどう?」
「上等じゃねぇか」
「異議なし」
ギャルの3人は、全員が見事に太一の挑発に乗り、すごろくゲームは三回戦を迎えることとなった。
……よし、これで。
前準備は整った。後は、
……僕が、どれだけうまく立ち回れるかだ!
今まさに、太一は決死の覚悟でギャル3人に勝負に挑む!
メラメラ(`炎ω炎)9
――そして、およそ2時間後。
「「「いえ~い!」」」
ギャル3人はハイタッチを交わしていた。画面では、不破の操るキャラが1位を獲得したことを示す画面が表示されている。
「宇津木ザッコ! あんだけ大口叩いといて最下位じゃん!」
「ウッディ、ウチらのこと挑発しといてこの結果はさすがにハズイってww」
「さ~て、それじゃお待ちかねの罰ゲームのお時間で~す♪ きらりん、どうするの?」
「とりま下のコンビニでここにいる全員にアイス買ってこさせっかな。ちなみに宇津木の奢りな」
「あ、じゃあウチは雪〇だいふく!」
「ワタシは練〇バーがいいかな」
「ハーゲ〇ダッツ」
「キララ一番高いやつww」
「一位なんだからいいじゃん。味はお任せで」
「……はい」
太一は肩を下げ、財布片手に熱気ムンムンの外に出る。途中、廊下で涼子とすれ違い、「ごめん」と謝られた末に、1000円札を渡された。どうやら罪悪感は感じていたらしい。
さて、なにがどうしてあれだけギスギスしていた3人がハイタッチなんてするにまで至ったのか。
……まぁ、うまくいってよかったよ、うん。
ありていに言ってしまえば、太一は3回戦の間、終始ギャル3人に対して徹定期的に害悪プレイを仕掛けまくったのだ。それはもう、これでもかというぐらい、徹底的に。
進路妨害、所持金強奪、進行遅延、などなど……
取り合えずの考えられる限りの嫌がらせの果てに、太一は3人からのヘイトを自分へと集中させた。
結果、太一はギャル3人から総攻撃を喰らう羽目になった。要するに、彼女たちにとって分かりやすい敵として太一は振舞ったわけである。
更に決定打として、ただでさえ不利な状況になっていたプレイヤーひとりへの妨害工作を念入りに実行。女子の集団心理を利用し、その最下位の人物(今回は不破だった)をフォローするよう他2人が立ち回るように仕向けた。
結果、明確な悪である太一以外であれば、誰が勝っても角が立たないよう調整する事に成功したわけである。
その代わり、今回の一件で彼女たちから……
『宇津木、お前やっぱ陰気だわ』
『ウッディ、さすがに今回のは引く……』
『太一君……あれはちょっとないかなぁ』
という具合に、女子全員の好感度が右肩下がりで大暴落することになった。
が、お前らのさっきの自分自身の映像4K画質で見せてやろうか、と太一は理不尽を感じずにはいられない。
とはいえ、なんとか最悪の事態だけは免れたようだ。最も、この自己犠牲を評価してくれる人間はいないわけなのだが……
姉から渡された1000円札をポケットにねじ込み、玄関の戸を開ける。夜になっても容赦ない夏の洗礼を浴びながら、太一は小さく、
「もう二度とやらない」
と、固く心に誓うのだった。
(´・ε・`)ムムム
念のため言っておきます!
桃〇は最高のゲームです! 是非プレイしてみてね! ただし何があっても自己責任で(笑)!!
作品が面白かった、続きが読みたい、と思っていただけましたら、
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