最恐コンビ(笑)による恐怖演出、いい味出してます
そして話は現在へ――
「……きら、りん?」
鳴無はぼけっとした表情で不破を見やる。薄闇の中にあっても存在感を放つ金の髪。キリッとした怜悧な瞳がおもむろに鳴無へと向けられた。
途端に彼女は「ちっ」と舌打ちして鳴無の脇をすり抜けて宇津木へと近づいていく。
「っ……きらりん! 危ないって!」
咄嗟に彼女の腕を掴んだ。しかし不破は首だけで振り返り、すぐに鳴無の手を振りほどいてしまう。
「別に問題ねぇから。なんかしてくんならボッコボコにしてやるだけだし」
などと拳を握って振り下ろして見せた不破。鳴無はそれ以上彼女を制止することもできず不破を見送る。
その後姿を見送る視界の脇で、ストーカー行為を繰り返していた少年を宇津木が馬乗りになって押さえている光景が目に入った……が、
「ふ、不破さん!? この後ってどうしましょう!?」
太一は近づいてくる不破に振り返りなにやら情けないことを叫んでいる。
しかし不破は「とりあずそのまま押さえとけ~」と軽い調子。ストーカーとなどという犯罪行為に走るような相手を前にしているとは思えない豪胆っぷり。
「っ!? な、なんだお前ら!? てか、どけ! 重いんだよ!」
と、ここにきてようやくストーカーの少年が事態に思考を追い付かせたのか喚き散らし始める。途端に太一はワタワタし始めるが、不破はお構いなしにストーカーの顔のあたりにしゃがみこむ。
「あ? お前……もしかして馬場か?」
「は? え? あっ!?」
「おお。やっぱ馬場じゃん。え? お前ストーカーとかやってんの? うわぁ、マジか。ダッセ~ww」
「き、満天!?」
「あん? 気安くひとの名前呼んでんじゃねぇよこの浮気野郎が」
「え? あの不破さん。この人、知り合いなんですか?」
なにやら顔見知りらしい会話を繰り広げる二人に、太一は思わず問いと投げた。
「おお。こいつ、1年時に他校の合コンで知り合ってさ。なんか話最初の印象的にはいい感じかも、って思って。じゃあ付き合ってみっか? って流れになったんだけどさぁ……したらこいつ。数日で鳴無に鞍替えしやがったんだよ。マジでカス」
「お、おお……」
どう反応していいものか分からず曖昧に返す太一。
「うん。やっぱお前はナシだったわ。てかあの乳デカにフラれたのも当然じゃね? 女のケツ追いますとか粘着質過ぎてガチで引くわ。男ってか人間的にお前と付き合うってのはマジでありえない」
不破は髪の毛先をいじりながらストーカー男を見下すように吐き捨てた。
「宇津木、もういんじゃね。てかこいつの顔見てっとなんか気分悪くなってきたわ」
「なっ!? こ、の……俺だってな、お前みたいなガサツな女とか、こっちから願い下げだっての! お前こそ亜衣梨に俺を取られた情けねぇ負け犬のくせによ!」
が、不破の挑発にストーカー男は食い掛ってしまった。途端、場の空気が一気に底冷えする。一瞬まるで時間が停止したかのような沈黙が辺りを満たす。
「……」
「……」
ストーカー男が吼えた直後、太一と不破から表情が消える。
「おい、宇津木……そいつ立たせろ」
「……わかりました」
「は?」
太一はストーカーをギリギリと後ろ手に拘束したまま、膝立ちの状態にさせる。すると、不破は足をプラプラと揺らし……
「そこまで言ったんだから覚悟できてんだろうなぁ……歯ぁ食いしばれや」
「はぇ?」
不破から漂ってくるただならぬ雰囲気に、ストーカー男はようやく自分が地雷をそれはもう見事にぶち抜いたことに気が付いたらしい。
しかし時すでに遅し。背後を振り返ればそこにいるのは顔面凶器を鞘から抜いて全力で顔を強張らせる太一。
「男としての機能、完全に使いもんにできねぇようにしてやろうか……?」
不破の足がゆっくりと持ち上がる。彼女の視線の先……定められた標的に気付いたストーカ男はさっと顔から血の気を引かせ、
「ま、待って……やめろ……そ、そうだ。もう亜衣梨にも、お前たちの誰にも関わらないから……だから……」
惨めに懇願した。
し・か・し……もちろん――ダ~メ♪
「浮気ストーカー野郎が調子乗りやがって……いっぺん……天国見てこいや!!!」
「――ひぃ!?」
直後――19時を回った公園に、一人の男の切実かつ、強烈なきったない悲鳴が上がった……
ストーカー男、もとい、馬場を抑えていた太一は、彼の悲鳴に連鎖して、股間に強烈な違和感を覚え、きゅっと引き締まったという。
Σ(ー□ー;)~~~~~~~ッッ!!
人間は理性の生き物だ。本能を内に隠し理屈とか道徳観とか倫理とかそういった社会常識のもと人間として生きる術を身に着けている。
その最たるツールはやはり言語であろう。他者と意思を共有し情報を伝達するために人間は複雑な音の並びを幾重にも組み合わせて外へ発信する。
しかしこの言葉という代物。前にもちょっと似たようなことを語ったがなかなかに厄介な代物だ。
個人が内に抱えた感情を100%相手へ伝えるにはどれだけの語彙を持ってしても完全とは言えず、おまけに事実とは全く異なる事象でもあっても、言葉として表に出した途端にあたかもソレが真実なのだと世界に嘘を吐くことだって可能なのだ。
まぁ何が言いたいのかというと、要は言葉とは必ずしも真実のみを伝えるツールではない以上、それだけに偏ったコミュニケーションでは本人の意思を代弁するにはいささか不足というわけで……
そうなると人間という知的生命であろうと時には動物のように、本能のステゴロによる肉体言語で語るほかなくなる瞬間というのもあるわけで……
めっちゃ短く要約すると、言ってわからない相手には態度で示すしかないよね、テヘッ♪ ということである。
『次にアタシらの前に姿見せてみろ。今度は……潰す』
不破はストーカー男の馬場の髪を鷲掴みにして持ち上げると、顔をぐっと寄せて肝を完全に委縮させるドスの効いた声を吐いた。
もはや姐さんの貫禄。黒の着物とか着せたらめっちゃ似合いそう。というかに似合いすぎてヤバいまである。
キ(ピー)マを押さえてガッツリ冷や汗の少年は、不破に脅され、更には自分を見下ろすやたらと眼光の鋭い男の存在に完全に戦意喪失。
心をポッキリついで股間も蹴り折られ這う這うの体で逃げ出した――それがつい先ほどの出来事。
――そして現在。
「――いやぁ♪ なんかすっごいことんなってね。おかげでけっこう面白い写真撮れたしww」
と、さっきまでいなかったはずの霧崎がスマホ片手にニヤニヤしていた。
「マイ、マジで足おっせぇ。つかいたなら手伝えし。ナニ一人でこっそり隠れて撮影会とかしてんの?」
「いやいや証拠写真とか動画とか必要じゃん? あのバカがまたなんかしてきた時のためにさ」
「あんだけやられてまた来るかよ」
「さぁ……でも用心だけはしとくべきじゃん……あの手の輩って、自分が悪いことしてる、なんて自覚とかないんだからさ……」
そう語った霧崎の目は口元に浮かぶ笑みとは対照的に全然笑っていなかった。不破の放つ赤い怒気とは違う、黒く滲むような凄みに、太一は思わず息を飲む。
人間は自分の全てを正当化しようとする側面がある。どれだけ他人に害を及ぼそうが完全な反省などしない。
心のどこかで、『そうは言っても』と自己の中にこうなったのには理由があり、完全に自分を悪とする気持ちにはならないのである。
故にこそ人は衝突するのだ。
「まぁでもさ。これでちょっとは落ち着くんじゃない?」
「だといいんですけどね……」
「つか、なんか脚に変な感触残ってる気がして気分最悪なんだけど。速攻で風呂入りてぇ」
「あはは……」
ストーカーも撃退し和やかムードの太一たちである。が、
「ねぇ――」
不意に放たれた小さな一声に、全員の視線がそちらへ集中する。
公園の入り口付近で、ぽつんと一人立ちすく鳴無。彼女は困惑しているような怒っているようなどっちつかずの表情で3人を見つめている。
いや……彼女がとりわけ視線を送っていたのは、不破だった。
「きらりんさ……なんで、ここにいるの……?」
心底疑問、といった様子で、彼女は小さく呟いた。
「もしかして、助けに来てくれたとか?」
まさかと思いつつ、訊いてみた。本当に助けに来てくれたのか。だとしたらなぜ?
ついこの前も、不破と鳴無は衝突したばかり。彼女がこの場に駆け付けてくれたことが、いまだに信じられない。
「別に。アタシはお前があの腐れファッ◯ンに(ピーーーー)されようが、(ザーーーー)されようが、(ワッショイ!)なことんなろうがどうでもい良かったんだけどよ……つか、お前がストーカーされってとか、昨日まで知らなかったしな」
「あ」
そうだ。不破には自分がストーカー被害にあってることは話していない。
この件を知ってる人間は、自分を含めれば先ほどの馬場と、もう一人……
「アタシはただ、宇津木がお前を助けるとかクッソ意味わかんねぇこと言い出したから監視しに来ただけだし」
「はい……?」
鳴無は目をぱちくり何度も瞬き、今度は太一をじっと見つめる。
太一とて、不破同様に鳴無を助ける義理なんてなかったはずではないか。
むしろ、逆にこの事態を歓迎していてもおかしくはなかったはず。
しかし太一はげんなりとした様子で、
「別についてこなくても良かったじゃないですか……そんなに信用ないんですか僕……」
と抗議した。
「いや前科あるし普通に信用とかムリじゃね? つか一人でこいつんこと助けに行くとかまだ未練とかあんのか、とか色々気になんじゃんやっぱ」
「ウチはなんとなく面白そうなイベントだったからねぇ。実際面白かったしww」
「えっと……意味、分かんない」
不破の疑問は当然である。太一はなぜ鳴無を『助ける』などという考えに至ったのか。
「君、ワタシに何されたのか、ちゃんとわかってる? 期待させるだけさせて、捨てられたって自覚ある?」
ハッキリとした物言い。鳴無からの視線を受け、太一はなぜかバツが悪そうに苦笑した。
「はい。ちゃんとわかってます。正直、鳴無さんにされたことは、ちょっと怒ってますし」
「だったら、」
「でも」
太一は鳴無の言葉を遮り、
「僕はただ……自分のために行動しただけといいますか……それに」
「それに?」
「なんとなくなんですけど、鳴無さんは不破がさっき言ったみたいなことされなきゃいけないくらい、悪い人には見えなくて」
「……なにそれ?」
まるで分かった様な口を利く太一に、鳴無の視線がわずかに鋭くなった。
しかし、普段から不破に睨まれ続けたせいか、鳴無の眼力の前にも太一は「え、と」と更に言葉を続ける。
「これは、僕の勝手な想像なんですけど……鳴無さんが不破さんに近付く男にちょっかいをかけたり、横取りしてきたのって、全部――不破さんのためなのかな、って」
「っ――!?」
太一の言葉に、鳴無はもちろん、不破と霧崎までもが反応した。
(。´・ω・)?
ふぅ…またつまらぬものを蹴ってしまった…
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