水着回が毎度サービス回になるなんて思うなよ
「で、できまし、た……」
翌朝。朝の雀がチュンとなく頃に、太一はくずおれるようにほぼ徹夜で考えた不和のダイエット計画が書かれた紙を手渡した。
「お。一日で作ってきたんだ。どんな感じなん?」
興味深そうに不和は太一の手からA4サイズの紙を受け取った。
「うえ。なにこれ。けっこうメンドクサ……つかなんか運動よりほとんど食生活について書かれてね? ダイエットっつったら普通は運動じゃねぇの?」
「僕も最初はそう思ってたんですけど、実際に調べてみたらほとんどが最初に食生活の改善についてのことが書いてありまして」
主だったところでは糖質制限である。クッキーやケーキといった甘いものはもちろん、甘みのつよいスポーツ飲料も極力摂取を控えた方がいいらしい。
冷たい飲み物もアウトということで、ただの水ではなく白湯、あとは烏龍茶や緑茶が脂肪の燃焼や吸収を抑制してくれる効果が期待できるためダイエット向きと言える。
他にも日常的に食べている米やパンなどの炭水化物は糖質に変化するため避けるべきだ。甘くないから糖質がないわけではないということである。
逆に肉や魚に含まれるタンパク質は筋肉を生成し基礎代謝をアップし太りにくい体作りに貢献してくれる。とはいえだからといってなんでも食べていいわけではなく、調理する際の油にも気を使わなければならない。
食事制限ダイエットと一口に言ってもその効果を理解できていなくては意味がないのである。
太一は即席の知識をなんとか不和に説明し、まずは運動より食生活の改善が重要であることを伝えた。
「あの~、不破さん……ちょっと、いいですか?」
「あ? なんだよ?」
「そ、その。ふ、不破さんが、その……あの……」
「チッ……あのさ、いちいちそうやってキョドるのやめてもらっていい? なんか見ててムカついてくる」
「ご、ごめん……」
「……ほんとキモい。で、なに?」
「えっと、不破さんが、ふと……えと、体重が増えた、原因って……」
「あ”あ”ん!?」
「ひぃ!? ご、ごめんなさい!」
鷹に睨まれた小動物のように縮こまる太一。しかし目の前にいるのは間違いなく彼にとって獰猛な肉食獣のソレと変わりない。
とにかくちょっとしたことですぐに威圧感たっぷりの視線と声で応じてくるものだから胃に悪いこと悪いこと。
緊張で今にもスクリュードライバー並みの勢いで腹から背中までを穴が貫通しそうである。
「ああくそ! いちいち謝んな! お前のその態度見てるだけでほんと腹立つ!」
「ごめ、あ、いや、その……」
「……もういい。で、なに?」
彼女の方が背が小さいはずなのにやたらと上から見下ろされているような気分である。
「あ、あの……不破さんの、体重、が増えた原因って……も、もしかして、急に食べる量が、増えた、とか……ありませんか?」
体重、増える、などの激昂ワードを小さく、ボソリと囁くように言葉にする。それだけで太一は嫌な汗が噴き出て仕方ない。
が、
「知らねぇよ。いつの間にかこうなってたんだっつうの。特になにかバカみたいに食った記憶もねぇし」
「そ、そうなんですか?」
「お前、あたしが嘘ついてるとか言いたいわけ?」
「そ、そんなこと! ただ、やっぱり太るのって、原因があるので……それが分からないと、えと……リバウンドすることも、あるかなって」
せっかく体重が減って理想のスタイルを取り戻せても、元に戻っては意味がない。太一は一刻も早く不和の呪縛から解放されたいのだ。
体重の増減を繰り返していたのではいつまで経ってもカノジョから逃げるなんてできるはがない。最悪、イライラを募らせた彼女がどんな仕打ちをしてくるか。考えるだけで不安に全身が爆散してしまいそうである。
「不破さんは、えと……結構、『色々』と体を動かしてたみたいなので、やっぱり、食べる量が増えたのが、一番の原因だと、思うん、ですけど……」
「……」
不和は太一を一瞥して「チッ」と癖のように舌打ちしつつ、自分の行動を振り返るように腕を組んだ。
と、なにか思い当たる節でもあったのか、顔を上げて表情を歪ませた。
「…………はぁ、マジ? それじゃこのデブの言う通り……うそ、ガチで最悪なんだけど……」
太一は眉間に皺を寄せて悪態をつく不和にビクビクしながら、「や、やっぱり、なにか、あるんですか?」と控えめに訊いた。
「多分……お前の言う通り、最近のあたし、結構たべてたかも、しんない……」
コンビニのお菓子、町で屋台を見かければ脂っこいもの、甘い食べ物も飲み物もなんの制限も設けないまま自然と購入しては口にしていた。更には味の濃い食事に手を出す機会もかなり増えていたような気がする。加えて体の変化、とくに動くのが億劫になってきたと実感し始めた時には、運動すら「パス」と言ってまともにしなくなっていた。
「多分、それです……ね」
「はぁ……ああくそ! で!? だったらなに!?」
「い、いえ! よ、要するにですね。不破さんは元々体は動かしてたので、適度に運動して、食生活さえ改善させれば、すぐに痩せると思い、ます……」
「あ、そ。で、毎日こうしてランニングしてるわけなんだけど。それと併せてここにある、なに? 肉とか魚? あと野菜を中心に食えって?」
「は、はい。でも、その、朝のランニングは、いいんですけど……」
「なに?」
「不破さん、もしかしてちょっと――膝とか痛めてませんか?」
(¬_¬) ジーーーッ (^▽^;)
「で、ここなわけ?」
「は、はい」
太一と不破は、放課後に地元の市民プールを訪れていた。
一度学校で解散し、自宅から水着一式を回収し再びここに集まった。
「多分、急に増えた体重に体がついていけてないんじゃないかと……走り終わるたび、膝をさすってましたよね?」
「え? なにお前ひとのことずっと観察してたわけ? うわ引くんだけど、普通にキモイ」
散々な言われようであった。もしこれが他の、例えば西住とかが相手であれば「見てんなよ~」と明るくじゃれ合うような掛け合いで済んでいただろう。相手で態度が変わるなど珍しいことじゃないが、やはり理不尽を覚えずにはいられない。
「き、キモイかは、別によくて、ですね。とにかく、水泳は全身運動に効果的みたいですし、足腰の負担も少ないので、いいかな、と」
「とか言ってさ、お前があたしの水着を見たいだけじゃねぇの?」
「え? いえそれは別に、ぐえっ!?」
「即答とかマジでムカつく」
容赦ない蹴りが太一のお尻に突き刺さった。お尻をさすりながら「なんで」と涙目で訴えるが、不破はさっさと施設に入ってしまった。
利用料600円を払い、それぞれに水着に着替えてプールサイドで顔を合わせる。
さすがに、不破もこの場にビキニなどの際どい水着を着てくるようなことはなかった。学校指定のものとは違うが、一般的な競泳用水着のようだ。背中が大きく開いたデザインだが、エロスよりも健康的な印象を与える。
「……なんだよ」
「いえ、なんでも」
水着の隙間からはみ出した贅肉が生地に乗っかり、もはやその健康的な見た目さえ台無しである。世の中なんと世知辛い。初心な男子高校生の心をこれでもかともてあそぶとはなんと神も罪深いことをするものだ。
しかし以前に見せてもらった不破のスレンダー時代の写真で、今の水着を着ていたならきっとそのプロポーションに太一は確実に赤面していただろう……有り体に言って、『これじゃない』。
クラスの女子と一緒にプールに来ているというのに、この妙な虚しさというか残念具合は一体どうしたことであろうか。
「あの、不破さん。取り合えず、ピアスは外した方がいいですよ」
「チッ。分かってるよ。少し忘れただけだろうが。いちいち口うるせぇな」
何とも言えない微妙な気分になりながら、太一と不破は入念にストレッチを実行してからプールに入り、体を慣らしつつ適当に泳いだ。
「え? ちょっとうわっ、おぼぼぼぼぼぼっ!」
「あははっ! だっぜぇ!」
途中で不和が、悪戯に太一の足を引っ張って水中に引きずり込んでみたり、上に乗っかってきて沈めてみたりとやりたい放題な場面もあって監視員に注意されたりもしたが。
なんやかんやと、プールで多少は浮かれたのか、不破は普段の不機嫌な態度を引っ込めて、1時間以上プールでの運動(遊び)に興じていた。
。。ヘ(。`・з・)_。゜:・o・。ヘ(・`∀・´*)水シ永
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プールでのヒロインの行為は作中演出であり、実際は非常に危険な行為です!
真似は絶対にしないでください!!
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