イベントの中には回収したフラグによっては強制イベだったりするもんがある
「聞いたよぉ宇津木~。あんた不破と鳴無んとこ割り込んで『僕の為に争わないで!』とか言ったんでしょ~w なにそれマジでウケるんだけどwww!」
人の口に戸は立てられぬなどとはよく言ったもんだが、昨今のデジタル社会の発展によって人の目と耳までもが情報を受容する速度が上がり、口以上の速さでもって人のうわさが拡散されていく。
便利なぶん余計な情報までもが広く薄くぶわ~っと拡がっていく様はまるでぶちまけられたバケツの水のようだ。
試験のために午前中で学校は終わり。昼前に迎えた放課後の中で太一は不破グループの面々から矢継ぎ早に先日の一件について根掘り葉掘り情報をほじくり返された。
「今どきそんなセリフ漫画でも見ないってwww」
会田に背中を叩かれ笑われる。
まったくもって太一もそれには同感である。
あの時の自分はどうかしていたとしか思えない。動揺していたとはいえもっとマシな発言があっただろうに……あの時の自分をタイムリープの末に殴ってでも止めてやりたい。
学校に登校してからというもの、太一は周りからヒソヒソと、「あ……『俺のために争わないで』の人」などと指さされる始末。
日常に飽きた学生連中にホットな話題を提供してしまった。今SNSを始めたらインフルエンサーとして活躍できるのではなかろうか。
とはいえあのときのことをそこまで後悔しているのかと訊かれたらそうでもない。
太一にとって優先すべきことは間違いなく不破が退学になる可能性を潰すことだった。
それが達成できたなら御の字というもの。
ただまぁそれに自身が噂の的になるという代償を払ったような恰好だ。
帳尻合わせというか因果応報というかトレードオフ?
……とにかく太一の小さな犠牲で事態が解決されたわけである。
しかし言うてもまだ試験期間中である。噂にうつつを抜かす生徒の数は普段と比べてもずっと少ない方ではある。
しかしこれが平時であったらと思うとゾッとする。いったいどれだけの生徒に太一の痴態が晒されていたか見当もつかない。
学生たちはいつだってちょっとした非日常を求めている。だがこちとら不思議の国のウサギさんになった覚えはない。
いっそこんな赤っ恥な噂そのものを穴の中へと葬り去ってやりたいくらいである。
というか不破グループはよほどテストに自信があるのか、それとも全てを諦めているのか(おそらくは後者)、放課後もたむろして無駄話にワイワイと盛り上がる。
しかしていつまでもただ駄弁って校内に残っていると、教師連中から「さっさと帰って勉強しろ」と追い出されてしまった。
不破を先頭にグループの中に太一を交えて昇降口へ。
「なぁどっか遊びいかね?」
などと不破は全員に振り返って提案。「試験勉強は?」などと訊くこと自体愚問。
試験に真面目に取り組むような少女が退学覚悟の喧嘩に挑むわけもなし。
グループ女子の会田や伊井野たちも「いいね!」、「どこいこっか?」、「適当に駅前ぶらついてかね?」とノリノリである。
正直この先で泣きを見る羽目にならなければいいが。まぁ無用な心配であろう。
彼女たちにとっては今こそが最も重要なのであって先に控える苦労など知ったこっちゃないのである。こういうのを向こう見ずという。
しかし太一はそうもいかない。試験の結果に毎度一喜一憂の彼からすればさっさと自宅へ帰宅し少しでも勉強したいところ。
が、ここでそんなこと口にしようものなら場が一気にシラけることは必至。
つまり徹夜コースへの突入不可避というわけである。目つきの悪さにクマまで追加される可能性が高まった。こんなオプション頼んだ覚えはない。
しかし何を思ったか、不破は太一へ向けて、
「宇津木~、どこ行く~? なんでもいいぞ~」
「え?」
などと話を振ってくる。思わず先日のトラウマが蘇った。自然、太一に女子全員の視線が集中する。
「え~と……」
思わず口ごもる太一。女子が喜びそうな行き先など知識にない。そもそも外出することも稀な太一。当然答えに窮してしまう。
が、朝に太一は『鳴無を見返せるほどの男になる』と目標を掲げたばかり。
『主体性とかないの、君って?』
鳴無から言われた言葉が脳裏を掠める。
土曜日のデート。結局太一は終始鳴無についていくだけでまるで自分の意見を口にすることはなかった。
自分の意見など、と卑屈になって、何も口にせず他人任せにしているのは楽でいい。なにせ責任をほぼ相手に押し付けることができるのだから。
しかし、本当にそれでいいのか。自己の意志を示さないなら人形と何が違う。鳴無から『思考放棄』と言われても仕方ないではないか。
答えを出さない太一に会田たちは怪訝そうに首を傾げる。まったく自分とタイプの違う相手。
あるいは『え~? それはないってww』と笑われるかもしれない。
が、失敗も『できない』人間に、成長などないと心得よ。
太一は「あの」と遠慮気味に、バクバクと怒涛の如く押し寄せるストレスに心臓を鳴らしながら、口を開いた。
(¯ω¯;)エートォ…
「……で、ここか?」
「う、うん」
不破たちの視線の先。そこには赤の下地に黒の達筆な筆文字で『拉麺』と書かれた看板……もはや、語るまい。
「確かになんでもいいとは言ったけどよぉ……」
「う……ダメ?」
「女子を連れて来るシチュじゃないねぇ」
「ニオイとかけっこうキツそう。アリナシなら、ナシかなぁ」
「あーしはアリだよ~。イベントとかん時なら普通に食べるしね~」
会田、伊井野は苦笑。布山は一人でぼや~っと看板を見上げている。
太一としては外出先で唯一自分がよく利用する施設を案内したつもりだったが、正直あまりウケはよろしくなかった様子。
華の女子高生を連れてラーメン屋というのもナンセンス。男子を誘うノリで連れて来るような場所ではない。
よっぽどラーメン好きならワンチャン可能性もあるが、基本的には選択肢としては下策の部類であろう。
これが男女二人きりのデートイベントなら赤点飛び越えて即落第待ったなし。
空から女の子が落ちてこようものなら手が届かずそのまま地面に激突コース確定。要はフラグブレイカーの類である。
とはいえ太一に女子が喜びそうなエリアの知識などあるはずもない。
せめてひねり出したのがこのラーメン屋。味はそれなり値段も手ごろ。腹をすかせた思春期男子の胃袋なら確実にフックできること間違いなし。
しかし彼の隣にいるのはギャルっとした女子4人。いい男への道のりは随分と遠いらしい。なんなら水平線の先に見える夕日の方がまだ近いまである。
「まぁまだメシ食ってなかったしいいけどよぉ……これでマズかったら宇津木ケツにタイキックな」
「はい……」
罰がいささか重すぎるような気がしないでもない。
しかし会田は「まぁでもたまにはいいじゃん。ウチらだけじゃあんまこういうとこ入んないし」と前向きな発言。
「だねぇ。てかもう腹減って別んとこ探すのもって感じだしねぇ」
伊井野もなんやかんとここでの食事OKなようである。空腹に飯テロは最高の説得材料だったらしい。
結局5人はぞろぞろと店内へ。赤を基調とした壁に天井付近の角に設置されたテレビ。
時間帯もあるのかテーブル席は満杯。太一たちはクラシカルスタイルの油に汚れたカウンター席から注文を飛ばして品を待つ。
周囲はほとんど男性客。女性客は不破たちを除くと二人だけ。
カウンターの向こうで頭髪が旅立ったおっさんがねじり鉢巻きで右へ左にと忙しく調理に走っている。あとは給仕のおばちゃんが二人、これまた配膳やら会計やらで忙しそうに駆け回っている。
待つこと10分弱。シンプルな中華そばにチャーハン、みそ、焼きそばと不破たちは全員バラバラ。太一も五目中華そばを注文。
箸に手が伸びるよりも先に全員の反応が気になってチラと様子を窺う。
お気に召さなければタイキックともなればそれはメシどろこではない。
果たして太一の尻の行方や如何に――
「う~ん、たまにはこういのもいいかも」
「意外といけたしね。店ん中入った時はさすがに汚くて『ええ~』ってなったけど味は悪くなったし」
「あそこは当たりだと思うよ~。宇津木、サンキュ~」
「ど、どうも」
どうにか『不味い』という最悪の事態だけは回避できたらしい。不破も「まぁまぁ」と言いながらしっかり完食していた。お尻へのおしおきはどうにか免れたようでひと安心。
ダイエットを始めてから久しぶりのカロリー爆弾。
緊張のせいかまるで味が分からなかった。財布から消えた800円がなんとも虚しい。
しかし今回は幸運に恵まれたらしい。とはいえ反省点は浮き彫りになった。
……もうちょっとお店とか調べとこ。
圧倒的情報不足。とりあえずタウン誌でも買って地元の施設や人気の店くらいは脳みそに入れておくべきか、と太一は更なる出費の予感にため息必至。
とはいえ必要経費と割り切るしかない。先月の服の代金を前借りした件も含め、懐だけがまるでニブルヘイム状態である。
……バイトかなぁ。
いよいよ社会労働から目を背けてはいられないらしい。ようこそ社畜の入口へ。
不破達は次の行先について検討中。すると太一のポケットでスマホが振動。取り出すと姉からのメッセージ。
『悪いんだけど家のもの買い出ししといてくれる?』
という内容の下に買い出しのメモ。なかなかに品数が多い。中にはトイレットペーパーやら洗濯洗剤など日用品も含まれているためなかなかに重労働になりそうな予感。
どうやら渡されたダイエット資金でこれらの品々を買ってこいというお達しらしい。
しかしメモ欄の下層部分にちゃっかりコンビニスイーツも紛れ込んでいる。
『どうせあんた今日は試験で早上がりでしょ?』
『てなわけでよろしくね』
『あとトイレットペーパーとか洗剤だけど』
『今日はスーパーじゃなくて薬局の方が安いらしいからそっちで買ってきてね』
あの姉は弟の試験勉強を考慮してないのだろうか。或いは太一の学力を信頼してるのか。
どっちにしろ太一からすれば面倒事を押し付けられたという思いしかない。
「あの、すみません」
取り合えず不破達に事情を説明。スーパーやらドラッグストアやら果てはコンビニまで回ることになりそうなので太一はここで離脱する旨を伝えた。
「ふ~ん。なんか手伝う?」
と、珍しく不破が名乗り出る。居候まがいのことをさせてもらってる手前、さすがに気を遣っているようだ。意外と律儀。
「たぶんこれくらいなら僕一人で大丈夫だから。不破さんは気にしないで皆と遊んできてください」
ここ最近不破にもなかなかストレスな日々が続ていた。こういう時にガス抜きしてもらわねば太一への当たりが強くなる。むしろ積極的に遊んでもらった方が太一としては助かるまである。
「それじゃ、僕はここで」
「お~。宇津木またなぁ」
「じゃ」
「ラーメン美味しかった~。また明日ね~」
4人に見送られて太一は手始めに最寄りのドラッグストアへ向かった――
('ω')ノ
不破達と別れてから時刻はもうすぐ4時を回ろうとかという時間帯。ドラッグストアからスーパーへと回って買い物が終わるころには結構な時間が経っていた。
手にはトイレットペーパーにスーパーの買い物袋。最後に近くのコンビニで涼子希望のスイーツを購入すればミッションコンプリートである。
肩に学校の鞄を担ぎ片手にはトイレットペーパーやら日用品の入った袋。もう片方の腕には食材の詰まった袋をぶら下げている。
スマホを確認しながら買い忘れがないか確認しながらコンビニを目指す。
腕に袋の持ち手が食い込んでちょいと痛い。ダイエット資金の7割ほどが吹き飛んだ。これは後で補填されるのだろうか。そうでなければ今月は金欠でかなり大ピンチになるのだが。
その辺り涼子が考慮してくれていることを祈るしかない。
しかし随分と買い込んだものである。もはやちょっとした重装備状態だ。
「え~と……」
太一はスマホのメモに目を落としながら通路を歩く。姉が御所望のコンビニスイーツの名前をネットで検索。
どうやら夏季限定のチーズケーキらしい。個数は3つ。おそらくは涼子と不破、そして太一の分も買ってい来い、ということらしい……
本当にそうだよね? 独り占めとか、ましてや太一だけハブとかないよね? 頼むぞ姉。
「お菓子とか久しぶりだなぁ」
などとスマホ片手に呟きながらコンビニ近くの四辻に差し掛かる。
と、不意に角から姿を見せた人物と危うくぶつかりそうになってしまう。
ながらスマホは本当に危険なのでマジでやめましょう。
「す、すみません!」
「いえ……って、君」
「え? あっ」
咄嗟に声が出る。ぶつかり掛けた相手はなんと、鳴無であった。
汗(・ω・;)
作品が面白かった、続きが読みたい、と思っていただけましたら、
『ブックマーク□』、『評価☆』、「いいね♪」をよろしくお願いいたします。
また、どんなことでもけっこうです。作品へのご意見・感想もお待ちしております。




