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【Web版】毎日家に来るギャルが距離感ゼロでも優しくない  作者: らいと
2:『鳴無亜衣梨は判らない』
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考え込むのは暇で余裕のある時だ、ならそんな時間は奪ってやればいい

 不破満天はリビングのソファで天井を見上げる。手にはスマホ。表示される画面は霧崎とのトークルームだ。


『マイ

 あの牛〇ッチってどこのクラスだっけ?』

『なにいきなり?

 牛〇ッチって鳴無?

 なら3組じゃない?』

『わかった

 サンキュー』

『え?

 それだけ?』

『おーい?

 キララ~?』

『???』


 簡素なやりとりの記録が残っている。時刻は深夜12時を回ったあたり。

 結局、あの後太一は夕飯を食べ、風呂に入ってそのまま自室へ引きこもった。

 別れ際に『ありがとうございます。明日から、ちゃんとするから』と、それだけを彼は残して扉の奥へ。

 

 涼子もさすがに弟の様子に違和感を持ったようだが、「満天ちゃん。悪いけどあのバカのこと、ちょっと見ててあげてくれない?」と、不破に太一を任せて今回は静観することに決めたらしい。

 或いは、家族ではない人間の方が、今の太一にとっては甘えやすい相手であると直感的に感じ取ったか。

 不破は「うす」と短く返し、涼子の頼みを受け入れた。


 元をたどれば今回の一件、不破に原因の一端がいないとも言い切れない。

 不破と絡むこともなければ、太一が鳴無に目を付けられることもなかっただろう。


 とはいえ、なぜ鳴無がことごとく自分と関わりのある男にちょっかいを掛けてくるのか、その理由は判然としない。


 不破が気に入らないなら直接言いにくればいい。いくらでも相手になってやる。

 絡め手をつかって周り人間に手を出し、不破に嫌がらせをしかけくる。あの女のやり口が不破は気に入らなかった。

 それでいて悪びれる様子もない。まるでこちらの神経を逆なですることを楽しんでいるのではないか。


 結局、最後は感情が爆発して4月に不破と鳴無は取っ組み合い。

 結果は二人とも停学処分。ある意味共倒れだ。しかし不気味だったのは、あの日鳴無は不破を前にしても終始口元に笑みを浮かべ続け、まるで敵意のようなものが感じられなかったことだ。


 一体全体なにを考えているのか分からない。あの時ばかりは本当に同じ人間を相手にしているのかさえ疑ったものだ。


 気味の悪い女……


 正直なところで言えば、あの女とは二度と関わりたくない。蛇のように陰湿かと思えば霧のように掴みどころがない。


 所感だが、あの女は相手にすればするだけ得体の知れないドツボにはまっていくようで、関りを持たないことがそもそも正しい対処なのではなかろうか。


 だが、鳴無はまたしても不破の領域に踏み込んできた。挙句に身内を弄ばれたのだ。

 太一の性格的にトラウマになったとしても不思議ではない。泣き顔を見せた後、なんとか普通に振舞おうとはしていたが、随所に無理が見られた。

 週明けの学校に、果たして彼は登校することができるのか。


 ハッキリ言ってしまえば、不破としては太一が不登校になろうがどうでもいい。

 不破にとって学校とは『行かされる場所』であって『行くべき場所』ではない。行きたくないなら行かなければいい。

 彼女としては周りの小言がうるさいから渋々通っているだけ。不破にとって学校とはそういう場に過ぎないのだから。


 が、それは別にしても不破は静かに、それでも確かな憤りを覚えてスマホを握る手に力を入れる。


 ……あんのクソ〇マ。休み明けは覚悟しとけよ。


 どれだけ不出来だろうが太一は不破にとって既に身内。関係性の深さに関わりなく、既に彼と自分はつながった間柄なのだ。

 それを、横からしゃしゃり出てきて引っ搔き回された。


 確かに太一は決して男らしいとは言い難い。受動的でそこまで面白みがある人間でもないだろう。


 今回の一件。太一が純粋に女性の求める男子像を演出できなかったことは確かに実際付き合っていたなら問題視もされよう。

 結局のところ男も女も相手に『らしさ』を求める部分は大なり小なりあるもんだ。

 ただ自然体で全部がうまくいくなんてことの方が珍しい。男女づきあいは演出と化かし合いの世界でもある。

 それを知らずただ受け身のまま挑んだなら、それは落ち度だと指摘を受けるのも仕方ない。


 だが、適当に知り合って間もないような、『浅い』太一しか知らないあの女が、彼のことを訳知り顔で語ったという事実は不破にとって面白くなかった。かつ、身内を面白半分に傷つけられたことが我慢ならない。


「鳴無、亜衣梨……」


 不破の漏らした呟きは、まるで赤熱した色が見えるかのようだった。



 (# ゜Д゜)



 月曜日――


 週末にあった出来事を思い返しながらも、しかし太一はことのほか自分の受けたショックが大きくない事実に驚かされた。


 ――先日、日曜日の朝。さすがに普段通りに起床する気力に欠けていた太一の下に、不破が突貫をかまして布団をはぎ取り、強引に彼女によって外へと連れ出され、隣を走らされた。

 

 ここしばらく不破との距離が開いていただけに、彼女の存在が身近にあることを懐かしく感じた。


 しかも彼女、よりによって「オンナに一回フラれた程度でしょげてんじゃねぇぞ! ウジウジしてるくらいだったら走れ走れ!」と、傷心中の太一の傷口に塩どころか塩酸をぶち込むかのような発言をまかして太一を外へと連れ出したのだ。

 それも昨日の今日である。普通ならもっと気を使うなり言い方に配慮するなりあるのではないか。


 しかしそこはさすが不破。そんなことなど知ったことではないと言わんばかりに俯きそうになる太一へ文字通りの意味でケツを叩き(蹴りをかまして)気合を注入。

 今どきこんな根性論を押し付けてくる人間そうはいない。松〇修造だってもう少し加減というものを知っている。不破のアレは完全に太一をしばきにきていた。


 ランニングから帰宅し朝食を終えてからもまぁひどい。なんと外に連れ出されたかと思ったらゲーセンに連れ込まれ状況に思考が追い付く間もなく2000円が吹き飛んだ。

 いつから野口はミスディレクションと瞬〇を覚えたというのか。まさしく気付かぬうちに一瞬で財布から姿を消していた。彼はジ〇ンプ作品に転生でも決めるつもりなのだろうか。色んな意味で落ち着く暇もありゃしない。


 更に午後になった途端に霧崎合流。ただでさえ騒がしかった状況はいよいよもってやけくそめいてきた。フリータイムでカラオケ熱唱。午後6時を過ぎるまでとにかく歌え踊れのどんちゃん騒ぎ。

 太一など少ないレパートリーの引き出しからせっせと曲目を引き出し入力、音を外して笑われたり「へったくそ~w」と揶揄されたりと散々な有様だ。


 しかし気分が沈む間もなくギャル二人は太一を巻き込み全く知らない曲でデュエットしろなどと無茶ぶりしてくる始末。

 さすがに霧崎あたりは曲が始まる前にイヤホンを共有して事前に歌詞や音程を予習させてはくれたが……付け焼刃で歌い切れるほど太一に音楽の才能などあるわけない。


 しかし距離感が近い。とにかく近い。不破も霧崎も太一の肩やら腰に手を回して大熱唱。よもや酒など入ってはいまいな。

 まさか珈琲やコーラで酔っぱらう特殊体質なのか。ノリノリにはっちゃけすぎて夕方に帰宅した時にはぐったりだ。


 だというのにまだまだ元気な不破たちはフィットネスゲームからパーティーゲームと本当に太一を休ませない。日々の生活習慣で培った体力が無駄に彼の体を稼働させる。


 騒がしい夕飯、騒がしい夜。霧崎が帰宅していったのは午後9時をまわろうかという時間帯。

 あれだけ遊び倒しておいて名残惜しそうにしていたあたりが恐ろしい。オールになったらいったいどんな目に遭わされることやら。


 太一はもう鳴無のことを考えるどころか思い出すことも困難なほど。ようやく一人になれた湯船の中でもあまりの疲れに思わず寝落ちするところであった。


 ベッドに入った時にはもう限界。頭を使う暇もなく太一の瞼はネオジム磁石もびっくりの強度でぴったり張り付き、翌朝まで目を覚ますことは一度もなかった――


 ……結局今朝も不破さんに強引に走らされたんだよなぁ。


 姉などその光景を前にニッコリしながら二人を見送る始末。ただ、太一としても、姉がなにもこちらの事情を訊いてこないことは助かった。

 さすがに今回の一件は家族に話すのは色んな意味で躊躇われる。なけなしのプライドなれど、太一だって女性に遊ばれた、などとは話たくない。そう言った意味では、涼子の対応はありがたかった。

 不破もどうやら口をつぐんでくれたらしい。意外と要所での口は堅いようだ。


 学校に登校し、さすがに一人考える時間ができると思わず鳴無のことを思い出すこともある。

 しかしなんとも間が悪いというかなんというか。今の時期は夏休み前の定期考査が控えているときた。

 つまるところ授業内容に上の空でいることは成績の死を意味する。必然的に目の前の事項に集中せざるを得ない。


 人間余計なことを考えるのはいつだって暇なときである。これはある意味、太一にとってはタイミングが良かったとも取れるのかもしれない。

 今回ばかりは神も太一を不憫に思ったか、定期考査という嬉しくない逃げ道を用意してくれたらしい。


 しかし太一にはそれとはまた別に気になることがひとつ。


 ……今朝の不破さん、なんかちょっと口数少なかったなぁ。


 5月から今日まで不破のことは常に目にして来た。だからといって別にそれほど不破のことに詳しいなどとは言えないが。

 それで言えば今朝の不破は明らかに絡みがマイルドであった。静か、と言ってもいいほどだったのではないだろうか。


 今は昼休み。しかし教室を見渡してみても不破の姿はない。彼女は鐘が鳴るなり乱暴に教室の扉を開いて教室から出て行った。


 不破グループの会田や布山が「どったの?」と訊いても、「野暮用」とだけ短く返答し姿を消した。


 それから10分。太一は購買でツナサンドとパック牛乳を購入。袋片手に居室への帰り道、ポケットの中でスマホが振動した。

 取り出すと霧崎からのメッセージアプリ越しに通話が入っていた。珍しい、とうかこれまでメッセージでのやりとりしかしてこなかったのだが。


 はじめての通話にもたつきながらも太一は通話ボタンをタップした。


「もしもし?」

『あっウッディ!? 今どこ!?』

「さっきまで購買にいまして。今戻り途中で」

『今すぐ中庭向かって! 直行! 全力ダッシュ!』

「はい?」


 いきなり中庭へ行けという霧崎の発言。ノイズがかった受話器の向こう側の声はひどく慌てた様子。


『キララが鳴無のこと連れ出してったんだよ! あの様子はガチでマズい……最悪キララ、退学処分なんてことにも』

「っ!?」

『とにかく急いで中庭! ハリアップ!!』

「は、はい!!」


 なにがなんだかわからないまま、太一は来た道を引き返す。霧崎と通話を繋いだまま、彼は廊下を全力で走り抜けた。


 ……不破さんが退学って、なんで!?


 事態に思考が追い付かないまま、太一はとにかく不破の下へと急いだ。

皆さんお待ちかねぇ!!(G〇ン風で)

遂に相対する因縁のギャル!

霧崎から一報を受け中庭と走る太一!

ギャルたちが散らす火花の行方は!?

太一は果たしてどう動くというのか!?


作品が面白かった、続きが読みたい、と思っていただけましたら、

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また、どんなことでもけっこうです。作品へのご意見・感想もお待ちしております。

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