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【Web版】毎日家に来るギャルが距離感ゼロでも優しくない  作者: らいと
2:『鳴無亜衣梨は判らない』
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良いことがあった時は同時に悪いことも一緒に起きる

 ホームルーム前ギリギリの時間。浮かれ気味に教室へと戻って来た太一。

 しかしまるで彼の内心に冷や水を浴びせんとするキンと響く声が彼を出待ちしていた。室内から出待ち、というのも妙な表現だが……


「お~い宇津木~! どこ行ってたんだよぉ! あーしらずっと待ってたんだよ!」

「せっかく昨日の話の続き聞かせてもらおうと思ってのに全然教室こないし」

「てなわけで~、休み時間は逃がさないからそのつもりで~」


 不破グループ所属の3人組。会田、伊井野、布山が教室に入った瞬間、さながらホラー映画で被害者が得体のしれないナニカにいきなり暗闇へ引きずり込まれるかのごとき勢いで、太一はグループの輪へと連行されていった。


 あっという間に囲まれる太一。

 なんと見事な連携であろうか。ジェット〇トリームアタックかよ。女子高生が黒い〇連星ごっことは恐れ入る。

 太一に女性を踏み台にする度胸はない。つまり回避不可能というわけだ。

 女子にドロップキックを決められると豪語できるメンタルが欲しい今日この頃である。


 思わず太一は不破へと救いを求める視線を送る。

 しかし彼女は「ふん」となにか不貞腐れているかのように顔を背けらてしまった。


 今朝の件が尾を引いているのか、はたまた自分のおもちゃが他の者にあそばれているが面白くないか。或いはその両方か。

 いずにしろ不破の内心など与り知らぬ太一にとっては理不尽なこと極まりない。

 そもそもこうなったのは不破のせいである。彼女が強引に太一と会田たちに接点を設けようとなどしなければこんなことにはなっていない。

 しかしそもそも彼女が行動を起こした切っ掛けははたして誰のせいであったのか。


 結局のところ、二人して自業自得の憂き目にあっているというわけである。


 その点で言えば、会田たちは太一、不破両者の思惑を汲み取った行動ができているというわけであり、決して責められる謂れはない。

 逆に、彼女たちこそ陰キャである太一によく付き合ってくれているとさえ言える。

 不破ほど攻撃的でもなく、ノリさえ合えばきっと良き友人関係を築けるのではないだろうか。


 とはいえ、もしかすると不破にくっつている彼を珍獣扱いして物珍しさから接しているだけという可能性も捨てきれないが……


 まぁどっちにしても太一的にはそもそも『ノリ』こそが鬼門であるとも言えるのだが。


 場のノリとは空気であり雰囲気であり性格の延長線上である。時に『ノリが悪い』などと言う輩がいるが、それは暗に相手と自分のノリの『かみ合わせ』が悪いということ。

 合わないパズルのピースやプラモの部品を無理やりくっつけようとしても上手くいかないのと同じだ。結局形になることがない点では一緒である。


 が、同時に強引に元の形から成形し直して無理やりにはめ込むこともできなくはない。太一が彼女たちとノリを合わせていくとはそういうことだ。

 消費カロリーはバカみたいに高く、労力、費用、時間、いずれもコストをかけねば望んだ成果など得られない。


 あとは本人がどれほどリスクを惜しまないかに掛かっている。


 人が変わるというのは簡単ではないのだ。


 もっとも、太一はまだ幸運な部類である。切っ掛けはどうあれ、動き出す口実に恵まれこうして実際に動けているのだから。

 人間なにかと理由をつけてはやりたいこと、やらねばならないことから目を背ける。そういう風にできている。

 なにを始めるにも、初動こそ厄介なモノはないとうわけだ。

 

 が、しかし。行動したから成功する保障もない。或いは、成功するまで続けられるか否か。

 動き始めた人間の、次なる壁というヤツである。

 まったく人生サクセスなイージーモードはどっかに転がっていないもんか。厳しい現実。幸運の神様のうっかりについ期待してしまうというもんだ。


「てかさ、キララマジで料理できんのな! あーしめっちゃビビってさ。訊いたら宇津木んちの姉ちゃんがそういうの得意だってんじゃん?」

「は、はい。不破さんに料理を教えたの、姉さんですし」

「あとさあとさ。宇津木んとこで体動かす系ゲームやってんでしょ? あれってどうなん? マジで効くの?」

「つかさ~。よく朝のランニングとか続くよね~? 私だったら絶対にムリだわ~」


 休み時間の度に。いつもはクラスの中心付近で駄弁っている彼女たちが太一の座席周辺に集まってくる。

 窓際ということもってか外かの涼しい風も同時に求めて集まってきている感じである。


 しかしカーテンを揺らすレベルの風が吹くたびに彼女たちの無防備なふとももがスカートの隙間から「ヨォ!」と軽快にご挨拶。


 思わず視線が吸い寄せられそうになるも、不破からなにやら威圧感マシマシの冷凍光線をプレゼントされて眼球運動も筋繊維もがっちり硬直。


「あっ。そうだ。なんならさ、こんど宇津木んちに」

「おい宇津木、ちょいこっち来い」


 と、布山が太一の机で身を乗り出した瞬間、唐突に不破が太一の腕を掴んで強引に輪の外へと引っ張り出す。


「え? ちょっとキララ、宇津木どこつれてくんよ」

「野暮用。ちょいこいつに話あんだよ」

「ええ、だったらここでいいじゃ~ん」


 不破の行動に批難の声が上がるも、不破がにらみを利かせると途端に静かになった。彼女のヒエラルキーがいまだこのグループ内ではトップであることを物語っている。


 太一は不破にされるがまま教室の外へと連れ出される。今日まで静観していたのというの急にどうしたというのか。太一は首を傾げながら彼女の後に続く。


「あの、不破さ――」

「とりまデコピン3回」

「えっ!?」


 ちょっと待っ――と太一が言い終えるよりも先に、不破は指を弾いた。


「いった~!」


 廊下に響く太一の声。周囲の生徒から視線を一斉に集める。しかし不破は間髪入れず太一の額にデコピンを見舞した。


「っ~~~~」


 額を抑えて太一は涙目だ。ジンジン痺れて熱くなっている。どうにも回を増すごとに威力が上がっているように思えるのは気のせいだろうか。熟練度が数値化できたならきっと彼女のデコピンは相当なことになっているに違いない。


「なんなんですかいきなり~」

「あいつら相手にキョドり過ぎ。あといちいち視線が童貞臭くてキモイ」

「えぇ……」


 童貞に無茶言わんで欲しい。不意のチラリズムに視線が動くのは男の悲しい性である。

 言うほど簡単に制御できるものでもないしあれはもはや本能だ。

 が、確かに女性慣れしていない男の視線は挙動が怪しく映ってしまうのも確かではあるが……


 それにしてもわざわざあの場を連れ出されてまでデコピンを喰らう羽目なるとは。


「あとあいつらを宇津木んちに呼ぶとかない」

「いやそんな話してなかったと思うんだけど」

「そういう流れだったんだよ。てかあいつら押し掛けてきたら全然運動にならなぇから。騒ぐだけ騒いでなんもできねぇで終わる」

「ああ」


 なんとなく容易に想像できてしまった。確かに彼女がいたのではいつものように自宅でフィットネスゲームをプレイすることは難しいかもしれない。


 しかし、


「でも、友達じゃないんですか? そこまで拒否しなくても……」

「あいつらアタシが昇龍とおりにフラれた時だまって見てただけでなんのフォローもしねぇの。おまけにダイエット中はコソコソ遠巻きに見てるだけ。そのくせダイエットうまくったらまたちょいちょい寄ってきたさ、調子よすぎだろ。アタシ、その点はあいつらのこと許してねぇから」

「……」


 どうにも華やかに見えるクラスの中心的グループにもなかなか面倒な感情の問題が渦巻いているようだ。

 しかしよく観察してみれば確かに会田たちは不破にどこか一線を引いて過ごしているようにも見える時がある。

 不破に対する罪悪感か、それとも一度は失墜した不破が再びカーストを上り詰めて来たことに対して「面白くない」と内心は不破を良く思っていないのか。


 ……友達って、こんなに難しいものなのかな。


 ただ一緒にいて、駄弁って、笑っているように見えて、その裏ではギクシャクしたモノを抱えている。


『あんた――人間関係にちょっと夢見すぎ』


 不意に、6月末……姉の言葉を思い出した。


「てなわけだから。あそこはアタシのテリトリーだし。あいつらを入れんのは、ない」

「……はい」


 別に、太一はそれで構わない。きっと、その方が彼にとってもいい。

 それは分かっているのだ。なのに、なぜか素直に納得したくない自分がいる。

 あのグループは不破を中心に集まった。

 なのに、その核心である彼女が、自分を取り巻く彼女たちを悪し様に言うのが、ちょっとだけ悲しい。


「あとさ」

「え?」


 唐突だった。不破の表情が、これまで見せて来たどんな感情ものとも違う色を帯びて、太一に詰め寄ってきた。


 思わずキスされてしまうのではないかと錯覚しそうな距離感。眼前にまで迫ってきた彼女の瞳は……しかしそんな甘い気配など微塵もなく、どこか殺伐とした、強烈な威圧感を孕まていた。


「あんた、最近ちょいちょい放課後とかにどっか消えてっけど……どこ行ってんの?」

「っ……!?」


 心臓を鷲掴みにされたかのようだった。不破は、気付いているのか。自分が、誰と会っているのか……


『あの子とはちょっと色々あったからね』


 初めて彼女と連絡を取り合った時に書き込まれたメッセージ。

 なぜ今、あの書き込みを思い出してしまったのか。不破はまだ太一が誰と会っているのか知らない……いや、それどころか、人と会ってることすら知らないはずだ。


 なのに、なぜこうも核心を抉られたかのように、心が落ち着かないのだろう。


「え、と……ちょっと、友達と遊びに」

「友達? 誰それ? マイ?」

「そ、そうじゃなくて……昔の……そう、中学時代の友達!」

「へぇ……」


 ……な、なんですか、その目。


 まるで太一の嘘を見透かしているかのような視線。

 まるで、分かってるけどまだ続けさせてやる、と言われているような、そんな目。


 口の中がカラカラに乾いていく。喉も張り付いて、言い訳を考える頭さえ正常に働かない。


「あんた、アタシら以外の友達、いたんだ?」

「は、はぃ……」

「ふ~ん。そっか……アタシはまたてっきり、オンナと会ってんのかと思ってたんだけど」

「そ、そんなことっ」


 太一の顔が強張る。不破はそれを見逃さない。


「あんた、嘘へっただな」

「な、なんで嘘って」

「あんなぁ……あんた全部かおに出てかっら。態度も、なにか隠してます、って分かりやす過ぎ」


 太一は思わず口元を隠す。

 しかしそれこそが決定的である。不破は呆れたように息を吐き、鋭利な視線を持ち上げて太一を見上げる。


「宇津木、鳴無と会ってんな?」

「っ!?」

「やっぱりか……鳴無亜衣梨……あんのクソ〇ッチが……」


 不破は声に怒気をのせ、まるで吐き捨てるように彼女の名前を口にした。



 (# ゜Д゜)ガクガク:(◦ω◦`):ブルブル

さてさてオモシロ……きな臭い感じになってきましたねぇ!

いきなりハードモードな展開に巻き込まれた主人公の運命や如何に!?


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[一言] 安易な嘘は本当に後悔するぞ… そのあたりのけじめは後でつけてもらうとして、とりあえず対ビッチ戦が楽しみ
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