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【Web版】毎日家に来るギャルが距離感ゼロでも優しくない  作者: らいと
2:『鳴無亜衣梨は判らない』
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デートの予定ですってよ奥さん、あらいいわね爆死確定じゃない

 早朝のランニング。


 今日も今日とて不破と共に涼しい空気を纏って町内をひた走る。7月に入り随分と気温も高くなってきたが、いまだ早朝の空気は肌に触れればほんのりと冷たい。

 しかしあと少しもすればこの時間から汗ばむ陽気が辺りを包んでいくのだろう。


 学校指定のジャージと、スポーツブランドのロゴが入ったスポーツウェアが並走する太一と不破。

 お互いに慣れたペースをキープし、額に薄っすらと汗を浮かべて足を交互に前に出す。


 始めたばかりの頃は随分とぎこちなかったフォームもだいぶ様になってきた。途中から息切れを起こし死相を前面に押し出してバッタンバッタンと無様な走りを披露することもない。最近はペースも上がり、走る距離も少しづつ増えている。


 着実に身体機能が向上している実感が湧いてくる。

 6月末に計った時から不破の体重も更に落ち、彼女はもうすぐ太る前の状態へと完全に戻るところまで身体が絞られてきていた。

 心なしか依然と比べても肌艶が良くなった気さえする。


 日々の習慣が確実に彼女を良い方へと変えている。この分なら不破が再びモデル業で日の目を浴びる日も遠くない。

 もっとも、彼女にその意思があればの話だが。

 目に見える成果に不破はより一層の習慣継続に力が入る。


 ――が、そんな中にあって、不破は隣で走る太一の様子が妙な点が気になった。


 横目に不破は太一を見遣る。走る速度に問題はなく、難なく不破と並走できている。

 しかし太一はの視線は前を見ているようで、その意識がどこを見つめているのかまるで判らない。完全に上の空。実際時折頭上を仰ぎ見ることもあった。

 ランニングコースの途中にはいくつか交差点があるのだが、危うく赤信号の真っ只中に突っ込み掛けてヒヤッとさせらる場面がいくつがあった。


 その度に不破が太一の首根っこを捕まえて引き戻し、「バカかおめぇは!?」と蹴りを見舞う。

 が、ランニングを再開し少しすると、またしても遠くを見つめる目で心ここに非ずといった様子に戻ってしまう。


「おい宇津木、今日なんかめっちゃぼうっとしてねぇ?」

「え? そう、ですか?」

「そうだよ! 赤信号の交差点に3回も突っ込んでくとかありねぇから! マジで死にてぇのか!?」

「い、いえ、そんなことは……すみません」

「謝んならシャンとしろし……てか、終わったら蹴り5発いれっから」

「ええっ!?」

「当然だろ! 何回フォローしてやったと思ってんだよ!? つか話し方! なんでまたどもってんだよ!?」


 最近は少しマシになってきたかと油断すればこれである。なんだか最近の太一は妙に気が抜けているように思えて仕方ない。

 不破も日常生活をそこまで真面目に生きているとは言い難いため盛大なブーメランではあるが。


 それにしても今の太一は明らかに注意力散漫だ。周りがまるで見えていない。このまま行けば本当に事故を起こしかねない。


「はぁ……っ。ああもうダメ! 今日はもう切り上げっぞ! こんな状態でまともに走れっかよ!」

「すみません」

「いやマジで反省しろし。つうわけで……尻出せ」

「う……はい」


 太一は素直に頷く。確かに自分のせいでランニングを中途半端に切り上げる羽目になってしまったのだ。

 体罰には物申したいがあまり不破の神経を逆なでしても今より状況が悪くなるだけである。

 せめて人目のないところで、ということで、折檻は路地裏でひっそりと……


「せ~の! まず一発!!」


 バシン!!


「いった~~~っ!!」


 いくわけもなく。その日、町には太一の悲痛な声が遠くまで響いていたという。



 ギャァー!∑(;゜Д゜ノ)ノ

 


「うぅ……」

「あらら。大丈夫?」

「お尻、割れそう……」

「それは大変。もしかして横線でも入っちゃうのかな?」

「冗談じゃなくほんとに痛いんですってば~」

「あはは。ごめんごめん。でもそれは宇津木君もちょっと悪い部分があったんじゃない? 相手がいる中でぼうっとされたら誰だって怒るって」

「まぁそうは思いますけど……」


 が、そもそも太一がこうなった原因である当人からそれを言われるのは少し納得がいかない部分もある。

 いまだズキズキと痛む尻を庇いながらホームルーム前の図書室で太一は鳴無と顔を突き合わせる。利用者は彼ら以外なし。


 不破からは今朝の一件で随分と不興を買ってしまったようで、宇津木家の朝食は随分とギスギスしていた。


 しかし涼子は「また喧嘩したの?」と苦笑するばかりでフォローの一つも入れてくれなかった。

 あの微笑ましいモノでも見る視線はやめていただきたい。

 周りからすれば些事のような出来事だろうが太一にとっては相手に悪感情を持たれるだけでメンタルへの会心の一撃が決まるのだ。

 スペ〇ンカーもびっくりの虚弱メンタルである。扱いには最新の注意を払ってもらわねば困る。車程度の段差どころか椅子レベルの段差でも大ダメージ確定。

 神様は太一を世に出す際デバックを怠ったに違いない。


 そんな折、太一のスマホが振動。メッセージアプリの通知を確認。相手は鳴無。アプリを開くと、


『ホームルーム前に図書室で会えない?』

『デートの予定とか一緒に立てよ』


 などと送られてきたわけである。

 思わず朝食の席で椅子を蹴倒しトイレへと駆け込むことになった。不破にメッセージを見られるわけにもいかず……しかし不審な行動を怪しまれたことは確実である。

 

 さすがに今日は不破と一緒に登校、という雰囲気でもなかったため、太一は一足早く家を出た。


 学校についたのは朝の7:50分。普段より少し早い程度。太一の通う高校の図書館は校舎西側の比較的閑散としたエリアにポツンと存在している。

 利用者もそこまで多くはなく、いつ来ても人気はまばらだ。秘密の話をしたり、こっそり会ったりするなら以前の空き教室の次におあつらえ向きと言える。


 とはいえ人が全くの皆無というわけでもないので、秘密を共有する際はそこを注意する必要があるだろう。

 とはいえ人目がわずかでもある分、先日のような色事に耽るような不埒者の存在はほばないと思っていい。

 その点で言えば、不慮の事故を回避できる選択肢だと言える。


 しかも今は人の姿がない。委員会の人間もこの時間まで仕事があるはずもなく、年配の女性がひとりカウンターで業務をしているのみ。まさに密会の絶好機。


「さて、それじゃあまり時間もあまりないし、ささっと週末の予定を立てちゃおっか」

「っ……そ、そうですね」

「ふふ。緊張してる? もしかし宇津木君、女の子とこういうことするの、初めて?」

「う……はい」

「そっかそっか。それは光栄。ワタシが君の初めてのひとになっちゃうわけだ」

「~~~~~っ! は、初めてって……」


 この鳴無、わざと太一が恥ずかしがるように話している節がある。

 いや、このにやけた表情。明らかに確信犯である。男性経験はそれなりに豊富そうな彼女のこと。初心な反応をする太一の姿が面白くて仕方ないのかもしれない。


「あははっ。ごめんごめん。反応が可愛くてつい、ね。ワタシ、気に入った相手にはちょっといじわるしちゃうみたい」


 またそういう恥ずかしいことを平然と口にする。しかし経験値的に太一には歯が立たない相手。顔を赤くして手の平で転がされる。が、それがどうしてかそこまで不快には感じない。


「と、とりえず! 日付から決めませんか!?」

「そうね。でも宇津木君、ちょっと声大きいかな。ほら」

「え? あ」


 鳴無の指さす先に振り返ると、そこにはカウンターで口に指を当てて微笑む女性の姿があった。太一は思わず平謝り。しかし太一の顔を見ても怯えないあたり、肝が据わっているのか、或いは人を見る目がある人物なのかもしれない。


「ふふふ……」

「笑わないでください」

「ごめん。でも君、本当に面白いね。ますます気に入っちゃった」

「すぐそうやってからかうんですから」

「今のは本心なんだけどなぁ……って、ちょっと時間使いすぎたね。まずは日付だけでも決めちゃおっか」

「は、はい。それで、週末ってことなんですけど――」


 気恥ずかしくも、太一はこれ以上からかわれたくない一心で鳴無と週末の予定について話し合う。時間も押している中、お互いの予定を確認し、都合のいい日時を合わせる。


「それじゃ、土曜日の11時に一回駅ビルの喫茶店に集まって、隣町でデートってことで。向こうについたらそのまま昼食ってこといいかな? あっちの駅に着く時間を考えると、ちょっとだけ早めのお昼になっちゃうけど」

「僕はそれで大丈夫です」

「うん。お昼時ピッタリだと逆に入り辛いからね。少し時間をずらした方が、後にも時間が取れるかなって」

「な、なるほど」


 その後も、デートなど経験のない太一は鳴無の発案にそのまま頷くだけの作業が続いた。

 少し意外だったのは、てっきりデートイコール映画のような分かりやすいスポットに行くのかと思いきや、「お互いの趣味がまだよくわからないし、2時間も拘束されて面白くなかったらその後の時間が虚しくなっちゃうから」と候補からは真っ先に外された。


 確かに、興味もない映画を延々と、それも金を払ってまで観たいとは思えない。

 最終的に、今回は相手を深く知っていくためのデート、ということで、隣町の駅ビルの中でお互いに気になったお店を適当に回ってみるという事になった。


「これならお互いに何が好きか知れるでしょ? それにどっちも楽しめると思うんだけど」

「はい。いいんじゃないでしょうか」

「よかった。ふふ……土曜日が楽しみ♪」

「僕も……その、楽しみです」

「うん♪」


 女の子と二人きり。隣町でデート。不破の時とは違う、確かな高揚感と、ほんの顔が熱くなる緊張。


 女子と過ごす、『正しい』デートイベントのドキドキ感。


 目の前で微笑み彼女を前に、太一は思わず、


 ……僕、もしかして本当に、鳴無さんと。


 などと、ほんの少しの未知への恐怖、そしてそれ以上の期待が、胸の内ですくすくと育っていくのを感じていた。



 (∀`*ゞ)エヘヘ

更新が遅れてしまい、申し訳ありません。

無事に体調も回復しました。


今回はデート回を想定していたのですが、

間に少しシーンを差し込む必要性を感じ、

新規で話を執筆させていただきました。

デート回突入まで、もうしばらくお待ちください。

(具体的には2話ほど)


作品が面白かった、続きが読みたい、と思っていただけましたら、

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また、どんなことでもけっこうです。作品へのご意見・感想もお待ちしております。

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― 新着の感想 ―
[一言] この一連の話が終わるまでに尻が無くなるか16分割ぐらいされてそうな気がする…
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