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【Web版】毎日家に来るギャルが距離感ゼロでも優しくない  作者: らいと
2:『鳴無亜衣梨は判らない』
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自分にだけ甘えてくれてると思ってたペットが、他の人に懐くとなんか…

 放課後――学校最寄りの喫茶店。


 学生行きつけの人気店。店長の趣味かやたらと漫画が多い。しかし昔の渋いタイトルが列挙しており今どきの学生向けとは言い難い。

 しかしコアな漫画ファンからはなかなかに好評なようだ。それ以外にもなかなかに写真映えするメニューが多く女性ファンの獲得に成功している点もこの店に人気が出た理由のひとつである。


 夫婦経営らしく、今は奥さんとバイトの女子2名ほどで店を回しているようだ。

 ちなみに、ここの奥さんがなかなかの美人と評判で男性客は彼女目当てでここを訪れているとかいないとか。


 不破満天は窓際席に陣取ってぶすっと頬杖をついていた。親の敵と言わんばりにアイスコーヒーをぐゃちゃぐちゃとかき混ぜる。

 視線は窓の外。唇を引き結んだ表情からは明らかに苛立ちが見て取れた。


「キララさぁ、うちのこといきなり拉致ッといて一人でぶすっとしてんのやめろし~」


 対面の席で霧崎は大きくため息を漏らす。放課後になった途端不破から連絡が入りそのまま……


「てかキララが仕掛けたんじゃん。そんでウッディがケイちんたちとなんかいい感じになったからってキレんなし」

「別にキレねぇし」


 などと言いつつ、グラスに刺さったストローを乱暴に氷へ突き立てる。


 どう見てもキレてんじゃん……と霧崎は注文したカフェオレをストローで吸い込む。場の空気も手伝ってあまりおいしくない。

 別に愚痴ってくるわけでもなく、ただイライラを黙ってまき散らす。面倒くさい友人に霧崎は「はぁ」と再度のため息。


「なにがそんなに気にくわないの? むしろよかったじゃんウッディが皆と絡めて。まぁうまくやれたかは別にして、悪い雰囲気じゃなかったんしょ?」

「うんまぁ」


 実際、宇津木は随分とわちゃわちゃしつつも、ギリギリ会田たちと会話できていた。おそらくダイエットという女子が食いつきやすい話題のネタがあったことが大きいのだと思われる。

 が、それ以外は不破と一緒にダイエットに挑んでいたという話がおかしな方向へとシフトし、内容が色恋沙汰へと変化。勝手に太一をダシにして盛り上がった、といった方が正しい。


 太一そっちのけで憶測で物を語り、あることないこと捲し立てて大いに彼女たちははっちゃけていた。

 その合間に太一をからかってみたりとなかなかに好き放題していた印象ではあるものの、場がシラケて空気が悪くなる、という事態だけは避けることができた。


 正直、太一にしてはうまくいきすぎな展開である。だが本来なら喜ばしいことではないか。

 どんな形であれ、太一が不破や霧崎以外の誰かと絡むことができたのだ。

 この経験が後々の彼の糧になるかもしれない。


 場をセッティングした功労者であるはずの不破。しかし表情はこの結果にむしろ不機嫌全開である。


「キララさぁ、もしかしてウッディとられたとか思ってる?」

「はぁ!? んなわけねぇじゃん! あいつが誰と仲良くしたって勝手だし、アタシがいちいち口出しするもんじゃないじゃん」

「え~……でもだったらなんでそんな不機嫌なだし」

「知らねぇし。ただなんかこう……ちょいイライラするっつうか……」

「それいつから? ウッディがケイちんたちとよろしくやり始めてからないん?」

「……」


 最後はだんまりである。不都合なことがあるとこうして黙るくせは昔からだ。

 しかしこの沈黙はある意味致命的だ。自分の感情を言外に示したようなもんである。


 最も、これは霧崎の見立てではあるがどうにも色恋に関するものとは違う気がする。いうなれば、先ほど霧崎が彼女に言ったような、お気に入りのおもちゃをとられた、という感情の方がしっくりくる気がする。


 或いは、自分にだけしか懐いていないと思っていた飼い犬が、他の相手にも尻尾を振るようになってしまいモヤモヤする感じ。


 要は、そういうことである。


「も~う。そんな顔するなら最初から皆にウッディのこと紹介すんのやめときゃよかったじゃん」

「うっせ」

「どうせウッディが盛大に失敗すると思ってたんでしょ~。んで、キララはそれでなんか面白い感じになるとか期待してさぁ……でもあてが外れて思いのほかウッディが皆と仲良くなっちゃって面白くない、と」

「いやだってさ。こないだまで陰キャ全開だったくせしていきなりケイとかチホとかにくっつかれてデレデレしはじめるしよぉ。調子に乗ってるって思うじゃん普通?」

「いやそうなるよう仕向けたのキララじゃん。ウッディむしろ頑張ったじゃん」


 とはいえ実際はただグループ女子たちから盛大におもちゃにされただけなのだが。

 正直、あれで太一に度胸がついたかどうかは怪しいものである。

 むしろ、あの苛烈なまでのノリを前に臆病風に吹かれた可能性の方が高そうだ。


 月初めにジェイソンコスでカラオケルームに突入するというだいぶぶっ飛んだ行動に出た太一だが、今のところそれで彼の中身が何か決定的に変わったとうことではない。


 相変わらずの陰キャムーブはそのまま。不破や霧崎が積極的に絡みに行かねば基本的に受け身の姿勢であることがほとんどだ。

 とはいえようやく受け答えくらいはスムーズにできるようになってきてはいるため、まったく成長の兆しがないとまでは言わないが。


「てか今日ウッディは? 一緒じゃないの?」

「知らね。なんか用事があるとか言って速攻で帰った。とりま家のカギは借りてっからマンションには入れる」

「あぁ。そういやキララ家出中だっけ。今回はなんでキララママと喧嘩したわけ?」

「べつに……昨日帰ったらテスト勉強はしてるの、とか聞いてくっから、してねぇ、って言ったらさ。めっちゃ小言かましてきて『このままじゃ留年する』とか言うからさぁ……」


『だったら学校やめて働くし』と、不破は母親にそう言ったらしい。

 途端に珍しく燈子の語気が荒くなるほど叱られ大喧嘩に発展。結局母親の出勤時間が迫っていることもあり喧嘩は途中で強制終了する羽目になったが、不破はそのままの勢いで家を飛び出し、今に至るというわけである。


「別に勉強とかしなくていいじゃん。数学も理科もどこで使うってんだよ」

「うんまぁ確かにね。でも珍しいね。キララママがそこまで怒るのって」

「もうめっちゃキレられて意味わかんねぇし。だらだらガッコ行ってるくらいなら働いてた方がマシだし。金にもなるし。でも勉強しても一円にもならねぇじゃん?」

「わかる。ウチも一学期の最初はそんな感じだったし」

「今は?」

「キララとウッディの絡みとか面白イベントあるのに見逃せないじゃん」

「おいこら見せもんじゃねぇぞ」

「いいじゃん別に。こうして愚痴とか付き合ってあげんてじゃん。ここの支払いとか割り勘のくせに。そう言うならせめて奢れし」


 やいのやいの。静かな喫茶店に女子高生2人の賑やかな声が響く。不破も最初と比べて苛立ちも収まってきたように見受けられる。


 と、二人の座るテーブル席に一人の女性がクッキーが数枚入った器を持ってくる。


「ん? あの、これ別に頼んでねぇすよ」


 不破が相手を見上げる。そこにいたのは不和を超える身長のがっつり日に焼けた妙齢の女性だ。

 長い黒髪を三つ編みでまとめ、怜悧な瞳にシャープな輪郭を持つ迫力のある美人。彼女こそここの喫茶店を経営する夫婦の奥さんであり、実質的なマスターでもある。


「これはあたしからのサービス。そのかわり、もうちょい声のトーンを落としてくれるかい? 静かにしてたいってお客もいるからさ、頼むよ」


 と、彼女は片目を閉じて不破たちにそう願い出た。周囲を見れば、少し居心地悪そうにしている数人の客の姿があった。


「あ、すみません。ちょい騒ぎ過ぎました」

「っす……」


 霧崎が「たは~」と謝罪し、不破が少し頭を下げる。マスターは二カッとやたらイケメンな笑みを見せて、「うん、素直でよろしい。ゆっくりしてってね」と去って行った。


 なるほど。彼女目当てでここを訪れる客がいるという噂が流れるのも納得だ。あれは男も、そして時には女すらも魅了されてしまう者がいるだろう。


「あはは~、怒られちった」


 言いながら、霧崎は奢りだというクッキーをかじる。ザクッとした食感のハードクッキー。甘さ控えの上品な味わい。この喫茶店の人気メニューの一つである。


「お、うまっ」

「だねぇ~」


 硬めのクッキーとカフェオレが合う。霧崎に勧められて不破も試しにひとかじり。どうやら彼女もその組み合わせを気に入ったようだ。


 喫茶店らしい緩やかな時間が流れる。


 が、ふと思い出したように、霧崎は表情が少し険しくなった。


「ああそうだ。キララにちょい話しておいた方がいいかなってのがあったんだ」

「ん? なに?」

「うん。もしかするとウッディにも関わってくるかもな感じなんだけど」

「は? なんであいつ?」

「うん……キララさ、覚えてる? 一学期のはじめ。キララがめっちゃ激しく喧嘩して一緒に停学になった相手いたじゃん?」

「は? ああいたな。あの乳デカ女。ひとのオトコを横から何人も何人も『かっさらってた』クソ〇ッチ」

「ああ~、まぁうん」


 不破も大概男遍歴はなかなかに派手だと思うものの、面倒になりそうなので適当に相槌を打つ霧崎。


「って〇ッチかどうかじゃなくて。その彼女……『鳴無亜衣梨』が、停学あけてガッコに戻ってきてるっぽいんだよ」

「……へぇ」


 途端、不破の目つきがより鋭利さを増し、アイスコーヒーの氷を、ガツンとストローで再び一突きした。



 (・д・)チッ

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