女子のノリは狂気で凶器、扱いを間違えると死
ニマニマと笑う不破を横目に太一は汗が止まらない。
目の前で彼を不審な目で見つめてくる3対の瞳。
クラースカースト最上位、不破の属する女子グループの面々である。
太一から見て右から順に、布山美香、伊井野千穂、そして最後に会田螢。
不破の友人だけあって全員がなかなかに苛烈に派手な見た目をしている。
髪を脱色したり逆に染めたり肌の見える箇所には何かしらアクセサリーを光らせたり。爪詰めで指先を飾ったり……あとはちょいちょいよくわからん謎のマスコットをぶら下げていたり……
もはや校則違反の見本市。さながらデコレーションのフルアーマー。
とにもかくにも居心地が悪くて仕方ない。いつもゲラゲラと声を上げて笑っている姿をよく目にする。なにがそんなにおかしいというのか。
周りの迷惑なんのその、見た目だけで周囲を威圧する様はまさしく圧制者の貫禄。
さすがは不破の所属するグループの女子、ヒエラルキーの上位者たちである。空気にアタリ判定を発生させるなどそうそうできることじゃない。
太一の緊張はもはやピーク。顔は完全に強張り、元から凶悪な顔が無駄にその迫力をマッシマシ。傍から見れば相手をねめつけている様にも見える。
しかし実際は今にも全力でその場から逃げ出したくて仕方ない。膝の上に乗った拳から噴き出した汗がえげつないことになっている。
と、会田が不破に身を寄せ耳打ちする。
「ねぇちょっと。なんか宇津木こっちめっちゃ睨んでんだけど。何なんマジで? つか急に相手しろって意味わかんないから」
「だいじょぶだいじょぶw。こいつガッチガチに緊張してるだけだからw。別に噛んだりしねぇから安心しろってw」
「いやそういう問題じゃねぇし……」
聞こえてんだよ全部。
……僕は犬か何かか。
ある意味太一の警戒心は動物的かもしれないがもう少し言い方というものがあるだろうに。そもそも不破がまともに太一を助けてくれると考えること自体が間違えているのかもしれないが。
それはさておき――
はてさて、なぜこんなことになってしまったのか。ほんの少しだけ補足説明が必要であろう。
が、別に場面転換までして語るべきことなど実はない。要はいつもの不破の無茶ぶりである、というだけの話だ。
昨晩のこと。不破に自分の思いを打ち明けた太一。しかし真面目な話をしていたかと思えば、
『今回キョドッた分、明日ケイたちに絡んでもらうから』
などと一方的に言われたわけで……太一への罰がデコピンという肉体的ダメージから精神的ダメ―ジへと置き換えられただけのこと。
しかし絡むと言っても何をすればいいのかさっぱりである。陰キャボッチをなめないでいただきたい。
他人を前にして何もできずただ硬直することできないという、その一点にかけてなら右に出る者などそうはいない。無茶ぶりも大概にしてほしいもんである。
思わず不破に助けを求める。しかし彼女は相変わらずニマニマしているだけでフォローしてくれる気配なし。あまりにもスパルタすぎる。
「まぁ、頑張れよ」
バシンバシンと背中を叩かれる太一。前に進む決意を固めたはいいものの、さすがにここまで荒療治を受ける羽目になるなどとは想像もしていなかった。
会田たちも困惑気味に太一に視線を集中させる。
……本当に、どうなるのコレ。
まるで不出来なお見合いである。楽しそうなのは現状不破ひとり。太一はせめて、彼女たちに悪感情を持たれるのだけは避けようと、ぎこちなくも愛想笑いを浮かべる。
しかし、そこに浮かんだのはどう見ても人を一人か二人はどこぞの海に沈めていそうなやんちゃしている人間にのソレにしか見えなかった。結局ホームルーム前の時間はなんとも微妙な空気が流れるだけで終了。
先行き不安を抱える滑り出しである。なんならちょっと涙目であすらあった。
(/´Д`)/Heeeeeeeelp!!!!!
そして――しばらく時間が経ち。結果的に太一がどうなったのかというと……
「ねぇねぇ、宇津木ってマジでキララと付き合ってんの? 最近ずっと一緒じゃん?」
「てかさ。最近めっちゃ痩せたよね。なに? なんか特別なダイエット的なやつとかやってんの?」
「ああそれ気になってた。ねぇなんか痩せるコツとかあるん? あたし最近ちょいヤバくてさぁ」
「そういや別クラスの霧崎とも仲いいよね~。どっちが本命とかあったり~?」
「キララから聞いたよぉ。西住たちにジェ〇ソンコスで突貫したんだってw。写真ないの!? 写真!?」
3時限目の休み時間。太一は不破グループの女子3人にガッツリと囲まれ質問攻めやらボディタッチ込みの激しいスキンシップやらに晒されていた。
もう捲し立てるわ捲し立てるわで会話と思考が追い付かない。もはやコミュニケーションのジェットコースター状態。右に揺さぶられたかと思うと今度は左へ。息つく暇もないとはまさにこのこと。
あっちを立てればこちらが立たず。こっちで話せば次はあっち。生真面目な太一は彼女たちからの問いかけの全てに応えようと目を回していた。
しかしこんな状態にあっても不破は太一に助け舟を出すこともなく、むしろただ気味が悪いほど静かに4人のやりとりを観察していた。
一時限目の休み時間から、少しづつ受け答えを繰り返すうちに、会田たちは太一の性格や挙動を的確に見抜き、
『あ、こいつ相手なら絡んでも問題なさそう』
と判断されたようで……そこに不破の知り合いであるとことも手伝って、2時限目の休み時間からはもはや太一に対する遠慮は完膚なきまでに吹き飛んでいた。
「あ、てかちょい前にさ、宇津木とキララが市民プール入ってくの見たんだけどさ」
「え? マジ? 二人きり?」
「そそ」
「え~、なにそれもうガチで付き合ってんじゃん二人とも~」
が、この発言に不破の眉がピクリと反応する。
「そういやさ。昨日キララどこ泊まったん? うちら全員断っちゃたみたいだし、ちょい気になってんだよね」
「あ、そうそ~う! ごめんねキララ~! 昨日はパパが珍しく家にいてさ~……ちょい人あげんの厳しくて~」
「別に……てか、しばらく宇津木んちに泊めてもらうことになったから」
「「「えっ!?」」」
会田たちが一斉に興味を引かれたように不破と太一に詰め寄ってくる。
体が密着するほどの距離感。薄着かつ着崩された制服の隙間からチラチラと肌色が覗く。目のやり場がかなりクレイジーなことになっていた。
「ええっ!? なになに!? キララってば宇津木と同棲してんの!?」
「西住と別れてから速攻で乗り換えか~……さすがに手が早い~」
「ねぇねぇ? もしかしてさぁ、キララが一気に痩せたのって、やっぱ夜も激しい運動とかしてたりとか? ほら。ホルモンぶんぴつ? とかいうの? アレでけっこう痩せるっていうしさぁ」
「はい!?」
いつぞやの霧島も言っていた『男女のまぐわい』で実施するダイエット。不破が太一の家に居座っていることが何か勘違いを生んだらしい。
「ち、違います! 僕と不破さんは全然そういうんじゃないですから!」
顔真っ赤状態で太一は手を全力で左右に振って否定。しかしその反応を見て会田が太一の肩に手を回しぐっと顔を寄せてきた。まるで新しいおもちゃを見つけた子供ように表情がイキイキとしている。
「え~別に隠さなくてよくない? てかさ、一つ屋根の下で男女が一緒に寝泊まりしてさ、なんもないとか普通にないっしょw」
「だよねぇ~w」
「いえですから本当に~!」
なんとか否定するももはや話を聞いてくれる様子ではない。なにやら彼女たちは完全に、頭の中を乙女脳にして太一と不破の関係を強引に色恋に結び付けようとやっきになっているようだ。
それでもなんとか強引に否定しようとすると、
「いやそれはさすがにシラケるし」
などとちょっと笑ってない目で言われてはそれ以上強く出れない。カーストトップと底辺のパワーバランスは不破の存在があっても揺るがないようである。泣いていい?
それからも、あることないことやたら根掘り葉掘り情報を引き出そうと密着してくるギャル3人。もはやどう対応するどころの話じゃない。
……女の子って、すっごい怖い。
想定していたような拒絶こそなかったものの、彼女たちのギャル特有のノリは太一にとってもはや狂気の類でしかなかった。
せめてもの救いは、現状での彼女たちとの絡みが休み時間の10分間に限定されていたことであろう。
が、あまりにも濃密すぎる時間は、太一にとってひたすらに疲れるだけの代物であった。もはやしぼられ過ぎてボロ雑巾もかくやという有様だ。ダイエットは既に終わったのではなかった。全く持って碌なもんじゃない
が……そんな中。不破がやらたと静かに、しかし妙に不機嫌そうにしていたのだけが気になった。
(ー"ー;)イライラ
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