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【Web版】毎日家に来るギャルが距離感ゼロでも優しくない  作者: らいと
2:『鳴無亜衣梨は判らない』
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ラブの神が下りてきた(?)、しかしこれはやり過ぎだ

「宇津木君……宇津木君的にはワタシって、アリ?」

「ア、アリ、って……それは、あの……どういう意味で」

「判らない? それとも判ってて訊いてる? 君って意外と策士? どういう意味か、なんて……それを、女の子に言わせたい人なのかな?」

「ち、ちがっ! そういうことじゃなくて」

「別にいいよ。それを君が望むなら、ちゃんと言ってあげる…………君さえよければ、ワタシと――」


 人形のような、吸い込まれそうな彼女の瞳。艶めかしい唇から、決定的な言葉が紡がれようとした瞬間、


『――ぁ――っ――――』

『ぇ――――――っ――』


 不意に、教室の外から男女のものと思われる声が聞こえて来た。声の調子はどこか弾んでおり、音は徐々にこの教室に近付いてきているように思えた。


 すると、少し慌てた様子で鳴無は「こっちっ」と太一の手を掴み、なんと教壇の中に彼を押し込み、自身も空いた空間に滑り込んできたのだ。当然二人の体は密着状態に。


 突然の事態に太一は訳も分からず目と頭を白黒させて狼狽え、「ちょ、ちょっと鳴無さ――」と声を上げそうになったところを、「しっ、静かに」と口に指を当てられ先を遮られる。


 彼女の体のいたるところにが当たって太一はパニック一歩手前。

 しかし鳴無は教壇の外に意識を向けるように耳を澄まし、太一の口に指を当て続ける。

 ここ最近は不破と霧島の過激なボディタッチで免疫がついてきたかと思ったが、存外そうでもなかったようである。


 こちらの脚の間に収まった鳴無は太一の胸に頭をくっつけ、見下ろせば彼女のつむじが。

 かなり狭い空間に、これまたかなり強引に体を押し込んでいるため非常に息苦しい。

 腹部のあたりに柔らかい感触。危うく意識が全集中してしまいそうになる。まさにギリギリの極致。


 いったい何が起きているのか。その疑問を問い質す間もなく、教室の扉が音を立て、しかしどこか潜むように開かれた。


「よかった。誰もいないみたいですね」


 男の声が聞こえて来た。しかしそれは生徒のものではない。どこか成熟された大人の落ち着いた声音である。


「あの、立花たちばな先生……いいんでしょうか……教師の私たちが、こんなところで……」

「よくはないでしょうね。でも、ボクとしてはもっと、瀬名せな先生と――」


 どうやら教室に入ってきたのは学校の教師らしい。二人のことは太一も知っている。瀬名は数学、立花は社会科を担当している教師だ。

 だが、どうにも二人の様子がおかしい。妙に浮足立っているというか、落ち着きがないというか。

 

「……まさかと思って咄嗟に隠れちゃったけど……あの噂……本当だったんだ」

 

 二人に意識を向けていた太一の耳に鳴無の呟きが入ってくる。相変わらず全身密着状態だが、太一の関心はむしろ外の二人に向いていた。


「あの……どういうことですか?」

「それは……あとで説明するね。ていうか、きっとワタシが言わなくてもすぐに分かるわ」


 お互いにだけ聞き取れるギリギリの声量。教壇の外では、教師2人が何か話している声が聞こえてくる。太一たちほどではないが、2人も声を忍ばせている。まるで外を警戒しているかのように。


 直後――


「ン――」


 太一は聞き慣れない色のついた音を拾い上げる。そこから始まったのは、学校という空間においてはあまりにも場違いな応酬を示すかのような、艶のある協奏曲の披露であった。


「はぁ……立花、せんせい……っ……」

「はい……好きです……瀬名先生……んっ――」

「っ!!!!????」

「…………」


 怒涛の如く押し寄せて来る情報の嵐。鳴無との件もいまだ処理しきれない中、新たに投入された予測不能の事態。それは太一の頭をから思考力を吹き飛ばすにはあまりにも過剰すぎる威力を秘めていた。


 ……なになになに!!?? この外でいったいなにが!!!???


 なにがというよりナニである。もはや言い訳のしようもない。太一は現在、教職員同士の秘め事の最中に居合わせてしまっているのである。

 まさしく天然秘宝館。それも完全にのぼせ上がったように熱く痺れるような環境音付きである。

 とてもじゃないが年頃の男女に聞かせていいもんじゃない。


 傍から見れば呆れるばかり。生徒たちに道徳を説く側の教師がまっさきに色にうつつを抜かすとは。とはいえ教師も所詮は動物。

 人間三大欲求にはそうそう抗えないということの証明を身を以って体現してくれているのかもしれない。

 そんわけあがあるかイチャつくならよそでやれ、ここはラブホじゃねぇんだよクソが。


 しかしこれは完全にツミである。出ていくに出ていけない。盛り上がる男女の共演。

 しかも相手は教師ときたもんだ。仮にここで両者が顔を合わせたならばその気まずさはとても口で表わせるもんじゃない。

 ハッキリ言って過呼吸を起こす自信がある。


 が、こんな状況だというのに鳴無は冷静に状況を見守っているように見える。


 彼女はなにを思ったか、教壇から少しだけ身を乗り出す。太一はギョッとするも、鳴無は黒板の下に零れたチョークの欠片を拾い上げ、そのまま教室の扉に向けて放り投げた。チョークの欠片は扉にぶつかり、カタンという小さな音を立てて床に落下。


「「っ!?」」


 途端、先程まで保健体育の実演授業を披露していた教師2人が慌ててお互いの身を引き剥がす。


「た、立花先生……だ、誰かいるんでしょうか?」

「どう、でしょうか」

「あの、取り合えず今日は、この辺で……その、キスだけ、という話でしたし」

「そ、そうですね。すみません、我を忘れてしまって」

「いえ……その、戻りましょうか」


 キスだけとかそういう問題でもない気がするが、あのまま行けば確実にイクところまで……ヤルところまでヤッテいたのはほぼ確実。

 二人はそそくさと、しかし周囲を警戒しつつ、空き教室から姿を消していった。


 太一と鳴無は、淫行教師の足音が完全に聞こえなくなったころを見計らい、盛大に肺から息を吐き出した。


「な、ななな、な……」


 もはや言葉もない。鳴無は扉を見やって苦笑を浮かべた。


「さすがにびっくりしたね。あの二人、実はできてるんじゃないかって噂でね。こっそりここで会ってる、って話は聞いてたんだけど……まさか本当だったなんて」


 呆れているやら面白がっているやら、鳴無は太一を見上げてくすくすと笑っている。

 しかし太一はそれどころではない。現在進行形で鳴無と密着しているだけでなく、先程までオトナの情事の一角を耳で聞かせられたのだ。


 脳みそが変な物質を過剰に分泌。もはや過剰摂取オーバードーズ状態。全身の血の巡りがかなり早い。薄っすらと汗すら浮かんでくる。


「ふふ……それにしてもすごいタイミングね。まさか、こんな時にあんな場面に出くわすなんて……これ、ある意味かなり面白い状況だと思わない?」

「お、面白いって……」


 そんな風に考えられる余裕などない。というか今はなにを置いてもまずこの狭い空間から外にでるべきである。随分と無理な体勢と鳴無の体重を体で受けていたせいか、足やら腰やら背中が痺れて仕方ない。


「と、取り合えず、出ませんか?」

「そうね。さすがに息苦しくなってきたし……と」


 鳴無が先に教壇から這い出す。腰を屈めて、彼女は太一に手を伸ばしてきた。


「ありがとうございます」


 その手を取って、太一は教壇から出ようとした……が、太一の痺れた足がもつれて大勢を崩す。


「うわぁ!」

「きゃあ!」


 腕を引いていた鳴無も巻き込んで二人して床に倒れる。

 しかしながら、なんという神様の悪戯か。鳴無は仰向けに、太一はまるでのその上に覆い被さるような恰好になってしまう。


 傍から見たら、完全に太一が鳴無を押し倒している現場のできあがりであった。


「あらら」

「す、すみません! これはっ」

「分かってるから落ち着いて。それより、あまり大声出しちゃうとさっきの先生方に見つかっちゃうかもよ?」

「っ」


 太一は慌てて自分の口をふさぐ。今のこの状況を見られたら言い訳は不可能。この学校はそこまで恋愛にうるさくないが、この体勢はさすがにシャレにならん。


 が、動揺で目を回す太一の下で、鳴無は「ふふ」と笑みを湛える。

 すると、彼女は太一の首に手を回してきた。まるで恋人に甘えるかのような仕草。首

 に触れたひんやりとした感触に太一の意識も視界も全てが眼前の少女一人に向けられる。


「さっきは、本当に驚いたね。まさか先生方のあんな場面に出くわすなんて……少し、ドキドキしちゃった……」


 彼女の発言に先ほど耳にした大人同士の語らいを思い出す。言語ではなく触れあいという質量でもって語られる一種の情熱。そこにまじる淫靡な気配は年頃の、ましてや初心な太一にはあまりにも刺激的過ぎた。


 そして、自分の下で甘くさえずるように言の葉を紡ぐ少女の存在は、より太一の脳から正常な思考を簒奪していく。


「あんなもの聞かされたら、こっちだって平静じゃいられなくなっちゃうじゃない……」

「そう……ですね……」

「うん……宇津木君……ちょっとだけ、訊いてもいい?」

「なん、ですか?」

「不破さんのこと、君は異性として、好き?」

「それは……」


 咄嗟に言葉に迷う。正直、不破に抱く思いは憧れが強い。絶対的な自分への自信、行動力、胆力、精神力。彼女の持つ魅力に、太一が惹かれているのは隠しようのない事実。しかし、


「よく、判りません」

「そう……でも、判らなくていいわ」

「え?」


 首に回された腕に力が入る。


「ねぇ、宇津木君……」


 ぐっと引き寄せられるように近づいてきた彼女の顔は、毒々しいまでに美しかった。


「よかったらワタシとキス、してみたくない?」


 ……キ、ス?


 太一の思考は、その一瞬完全に機能停止を起こし、すぐにリブートするも今度はカッと顔と頭に熱を覚えて声を上げてしまう。


「え? ちょっ! 鳴無さん、本気ですか!?」

「もちろん。宇津木君さえよければ、ね……」


 怪しく濡れる鳴無の瞳。そこに映る太一の顔は、ただただ困惑に塗れていた。


「どう? あんな暴力女より、ワタシの方がよっぽど、あなたを大切にしてあげるわよ……ふふふ」


 だから――ワタシを選びなさい。


 静かな空き教室にで、少女の声が太一を揺らす。もはや痛みすら覚えるほどに早まる鼓動。彼女と自分の呼吸する音、鼓動が刻むリズムだけが、太一のセカイを満たす。


 音の無くなった空間で、太一は彼女と見つめ合った。



 ドキドキ(*゜д゜*)

今回はちょい過激!

はてさてどうなるこの先は!?


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