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【Web版】毎日家に来るギャルが距離感ゼロでも優しくない  作者: らいと
2:『鳴無亜衣梨は判らない』
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たまには神様もサービス精神を出すようだが違うソウジャナイ

 先日に起きた教室での不破と西住の一件以来、クラスの間には非常に微妙なナニかが漂っていた。


 それは俗に空気と呼ばれるものだったり、暗黙の了解と呼ばれるものだったり、なんなら一周回って喜劇の類の代物である。

 尤も、現状を笑える者がいるとするならば、それは当事者ではない外様、第三者に限られた話。

 しかし外から見ればただの笑い話の種、という事実は間違いない。

 

 なにせ、事は生徒間の色恋沙汰という社会的になんの影響も及ぼさない件に端を発するのだから。


 5月のはじめ――不破満天は西住昇龍にしずみとおりに『太った』という事を理由に教室で盛大にフられてしまう。そんな場面が展開されたのはクラスメイトが多く残る教室の中。


 不破にはそのことを切っ掛けにダイエットの神が降臨。同時に太一に対する疫病神まで同伴させてきたのはいまだに許されざる所業である。ロケランにぶぶ漬け装填してぶっ放してやりたいもんである。


 しかしそれはまた別として、不破はダイエットに挑みこれに成功。しかしダイエットの最中に西住への怒りが鎮火してそれ以上は何事もなく終わる、かと思われた時、先のカラオケ事件を切っ掛けに不破と西住は再び対峙することとなり……


 そこで不破は以前自分がされたことをそのまま、或いはそれ以上の仕打ちでもって西住にやり返したわけである。

 

 クラス内で男女それぞれに強い影響力を持つ2人……不破と西住の関係がギクシャクしてしまった影響で、結果的に教室内は男子と女子のグループでほぼ真っ二つに分かれてしまったのだ。


 不破のことを快く思っていない女子は一定数いるものの、彼女と彼女の属するカースト上位のグループに目を付けられることを恐れてか、積極的に男子と関りを持ちに行くことを控えている様子。


 更に、不破が西住を盛大にこきおろしてしまった一件で、彼のグループが不破を敬遠。その煽りから他の男子生徒も女子全体に対して自然と距離を取るようになっている有様だ。

 

 いつでもどこでも、クラスカーストやヒエラルキーのトップが周囲に良くも悪くも影響を与えてしまう典型例である。迷惑なことこの上ない。


 が、そんな中にかなり特別な立ち位置にいる生徒が一人……


「宇津木、次の英語の課題見して」

「またですか? さすがに自分でやってきましょうよ~」

「めんどい。宇津木がやってんなら別にいいじゃん」

「課題ってそういうものじゃないですって……」

 

 宇津木太一。彼は不破に渋々と言った様子でノートを手渡す。彼女は「サンキュー」とノートを受け取ると、自分の机に戻って内容を写し始めた。


 毎度毎度ノートを強奪されるのはもう慣れたものだ。いや決して良くはないのだが。

 

 それよりも、今は別の問題が太一の身に降りかかっていた。


 ……し、視線が。


 そう。太一は現在、不破から唯一コンタクトを取られる男子として、クラスメイトたちからいらぬ関心を集めるようなってしまったのだ。

 

 全くもって針の筵もいい所である。全員が引き打ちのごとく姑息な距離感で無遠慮な視線をコソコソと斉射してくる。いっそ見るのは構わない。だが隠れるなら綺麗に隠れてほしいもんである。気が散って仕方ない。まるで鑑賞される珍獣のような気分だ。

 

 触れれば怪我をすると言わんばかりにクラスメイトがこちらの様子を窺う。実際に太一の立ち位置はかかなり微妙であると言わざるを得ない。


 なにしろ渦中の真っただ中にある不破と現状で唯一まともに交流している異性が誰あろうこの太一なのだ。


 クラスが男と女でそれぞれの陣営で閉じこもるように双方の出方を窺っている中。ある意味で男性サイド、女性サイド、どちらにも影響を及ぼしかねないという、非常にありがたくないポジションを獲得してしまったわけである。


 しかしながら彼が決して戦争(?)の中立的立場ではないのはここに説明の必要があるだろう。

 

 どちらかと言えば下手に接触を図ろうとすれば現在の均衡を崩す爆弾的存在と言い換えた方がむしろ正しい。

 故にかつてないほど敬遠された挙句、男子女子双方から『どっちつかずの中途半端な奴』という、なんとも理不尽な感情まで向けられる始末であった。


 彼には同性の友人が皆無である。ギリギリで友と呼べるのは不破、それと別クラスの霧崎くらいなもの。


 ここでもし仮に男子側の誰かが太一に接触しようものなら、すぐさまその誰かは『女子に媚を売ろうとしている裏切者』のレッテルを張られた挙句、仲間内からハブられることになりかねない。

 

 逆もまた然り。


 女子の誰かが太一と仲を深めようとしたなら、そのは身内から『男子に色目を使う卑しい女』として結束力の権化たる女子グループからはじき出されることになるだろう。


 現状で彼になんの憂いもなく接触を許されているのはクラスでは不破ただ一人。彼女のクラス内でのヒエラルキーが限りなく上位であるからこそ許されている行いだとも言える。

 

 しかしそう考えると現在太一と接触できる可能性を秘めた存在は確かに存在することになる。

 

 それは不破が所属しているグループの女子たちだ。


 彼女たちは他の女子グループの中でも頭一つ抜き出た上位者たちの集団だ。その発言力と影響力はかなり強い。

 現在、教室内の男女離別の空気ができあがっていいるのも、ひとえに彼女たちが「西住って意外にダッサい」と声を上げたことが原因の一端であるとも言える。


 顔面偏差値は勿論のこと、学生は特に能力的な高さがモテの基本である。しかし如何にルックス、外見的能力的ポテンシャルが高かろうと、女性にやりこめられているようではその株も暴落するというものだ。

 

 しかも女性は同調という高い共感性を持つため不破グループが西住を『ダサい』とすれば他の女子も『彼はダサい男』と認識を共有してしまうわけで……


 逆に男は女子のそんな態度を、理屈に合わない、と反感を抱いてしまうのだ。

 

 この事態を治めるには、不破と西住が双方に非を認め、互いに抜いた刃の切っ先を鞘に収めるしかないのだが……


 お互いにプライドの塊である。


 自分から折れることはまずありえない。それだけではなく、今の状況では双方とも男子と女子の注目度が高すぎて下手に相手に干渉する動きが取れないというのもある。


 以上の点から、現状ではどう足掻いてもこの事態からの脱却は難しく……太一の胃が常に槍で突かれている現状からは、しばらく抜け出すこともできそうにない、ということでもあるのだ。


 ……クラス替えしたい。


 太一の願いは随分と切実であった。



 ε(´Д`)



 昼休み――


 太一はあまりの居心地の悪さに教室を飛び出した。不破は今日はグループの女子と一緒に昼食を取るらしい。

 これまでなら西住のグループも彼女たちと一緒に集まっていることが多かったのだが。

 今は完全に別々だ。目には見えないが互いの領域の境目がくっきりと分かれているのが分かる。


 太一が飛び出す直前。実は不破から『宇津木、メシ食おうぜ』と誘われてはいた。


 いたのだが……


 ……あの空気の中で一緒にゴハンってのはなぁ。


 不破はともかく、彼女が所属しているグループの値踏みするような視線……あの中に飛び込んでいくなど、自ら剣山を敷き詰めた末に、膝の上に重しを乗せる様なもんである。

 

 6月末に起きた不破との小さな諍い。太一を『友』と言ってくれた不破を前に、自分の無様を晒した挙句に仲違い……


 そんな情けない自分が嫌で、どうにか己を変えたいと行動を起こした。一時は不破との関係も終わりかと思われたが、なんとかギリギリで彼女との付き合いは継続されている。


 が、人間そんな一朝一夕で性格が劇的に変わるはずもなく……


『すみません。今日は学食のつもりだったので』

 

 と不破の誘いを断ってしまった。


『ふ~ん。じゃあ今日はしかたねぇか』

 

 不破の方もとりあえず納得してくれたようなのだが、何度も同じ手を繰り返すわけにもいかない。かろうじて繋ぎとめた不破との関係。それを自分から手放すようなことをしていているようでは、なんのために苦労したのか分からない。


 …とは言ってもなぁ。


 あの面子の中に太一が割り込んだとして、果たして円滑なコミュニケーションがとれるかはかなり怪しいところだ。むしろ全力で場をシラけさせる自信だけなら確実にある。


 人見知りのコミュ障は新しいコミュニティでの立ち振る舞いがわからない生き物なのだ。

 

 しかしながら太一とて先日の一連の出来事を切っ掛けに『行動する』ことの重要性は理解できたつもりだ。


 実際、物事がうまくいくか失敗するかなどやった人間にしかわからないのだ。準備だけ整えて脳内シミュレーションをいくら繰り返そうが、現実でどれだけ役立つかはやった末に判明するというもの。


 要は、グジグジと悩んだり考えたりするよりも脳筋特攻で自爆でもした方が時には得るもんがある、ということである。

 

 そもそも、よっぽどの重大事項でもなければ、大抵の物事などリカバリー可能なのだ。それは先日の不破との件でも証明されている。


 前のめりになりすぎても後ろ向きになりすぎても良くないが。いい塩梅に適当に、『失敗したっていいさ』と流せるくらいでチャレンジなど丁度いい。


 ……うん。せっかく不破さんと仲直りできたんだから、明日はちゃんと。


 今さらと思いつつ、太一は少しだけ気持ちを前に傾ける。


 なんやかんやと、不破との仲を改善させたことが多少は太一の自信になったということか。人間そう簡単に変化することはないが、ちょっとの切っ掛けで大きく前進してしまうこともある。


 太一の現状がどちらなのか未だ定かではなく、今後の彼の行動しだいといったところだろう。結果とは往々にして後出しなのだ。どんなに用意周到に準備しておこうが未来の結末は蓋を開けるまで確定しない。俗にいうシュレーディンガーの猫である。


 うまくいく保障も、失敗する保障もない。


 まぁ、『やりたいことがあるならとりあえずやっておけ』ということだ。


 太一にとって、現状で優先されるのは不破との関係性を守ること。まったく、ダイエット中は彼女との関係解消を願っていたというのに、なんとも滑稽な話ではないか。


 しかし、そうして予期せぬ事態が日常に転がっているからこそ、人生はどうしようもなく、辛く苦しく――面白い。



 \\٩( 'ω' )و ////



 数日ぶりの学食は相も変わらず混迷を極めていた。


 券売機の前は人の群れで溢れ、奥に見える購買はもはや怒号が飛び交う戦場の様相を呈している。


 完全に出遅れた。


 太一が学食を訪れたタイミングは些か遅すぎたと言わざるを得ない。食欲モンスターである成長期真っ只中の彼らにとって飯とはまさしく奪ってでも獲得しなくてはならない代物なのである。


 太一は「う~ん」とあの人波にもみくちゃにされてまでお昼にありつくべきかどうかを思案し、


 く~……


 と、鳴いた己の腹に「はぁ」と諦めの心境を抱き券売機の列へと歩を進めた。


 ……これは食べ終わる頃には昼休みギリギリかなぁ。


 次に学食を利用する際はもっと早めに動こうと小さく反省。憂鬱に眉根を寄せて列へと近付く。


 すると、不意に前に並んでいた見知らぬ女生徒が太一に振り返った。

 途端、彼女は「ひっ」と喉を鳴らしそそくさと列から外れ、それに気付いた前の生徒がドミノ式に太一の存在に気付き列からズレる……まるで不格好なパフォーマンスのように券売機の列から人が消え失せ、太一はさすがに困惑する。


 生徒が左右に散った結果、彼の前は完全に開いている。なんというか、陳腐なモーセの海割り現象の出来上がりであった。


 太一は左右に視線を揺らすも誰も券売機に近付かない。「いいのか?」と首を傾げつつ、おそるおそる券売機の前に立ちメニューを確認。


「あ……」

 

 思わず声が出る。いつもは競争率が激しすぎて入手困難、一時は校内で転売まで横行した過去がある超人気日替わりメニュー、『地元牛の煮込みシチュー定食』が売れ残っていた。


 太一は再び左右を見渡す。なんとなく視線を感じるような気もするが、文句もないなら購入して問題ないという事だろう。


 それに、定価800円が倍以上の1800円で発売された事もあるレアメニューに在りつける機会などそうはない。これを逃してはしばらく食べられるかも怪しいというもの。

 

 太一は財布を取り出そうとポケットに手を突っ込み、


「――あ、今日はかなりすいてるんだ」

「え?」

 

 背後から聞こえた声に思わず振り返る。


「ん? 日替わりまだ残ってるなんて珍しい。ラッキー♪」


 そこにいたのは、黒い髪を背に流した妙に大人びた印象の女生徒だった。彼女は太一の脇からにょきっと顔を出すと、スカートのポケットからクシャクシャの1000円札を取り出すなり券売機に押し込み、日替わり定食のボタンをプッシュ。


 ほぼ真横。傍から見ても見目の整った容姿の持ち主。身を乗り出してきた少女の体が触れて太一は思わずドキリとする。


 ガコンと音がして落ちて来た券を彼女は回収すると、チラと太一の方を一瞥してそのまま立ち去っていく。


 あまりにも堂々と順番を飛ばされて呆気に取られるしかない。


 が、そんなことよりも、


「ああっ!?」


 太一が再び券売機に向き直ると、SSSレア級の日替わり定食のボタンには『売り切れ』の悲しい四文字が躍っていた。


 少女との予期せぬ接触イベントの代償にしては些かレートがあってないように思える。神様は相変わらずその辺りの調整が適当なようだ。


 全くもって、ソウジャナイだろ、と言いたくなる。


 

 Σ( ̄ロ ̄lll)ガーン

連・載・再・開!!

予告通り、本日より作品の連載を再開します!!

現われし第三のギャル!! 果たして彼女が主人公にもたらすものとは!?


作品が面白かった、続きが読みたい、と思っていただけましたら、

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また、どんなことでもけっこうです。

『このヒロイン痺れるぅ!』、『主人公もっと頑張れぇ!』、「ラブ要素はまだかっ!?」

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