ギャルが2人で終わりだと思った、残念3人目がいるんだよ
※『こちらは次回予告的なアレです』
7月7日――始業前。
倉島教諭は職員室で一人の女生徒を前に不機嫌そうな表情を隠そうともせず対峙していた。
椅子に腰掛けるこちらを彼女は柔和な笑みを湛えて見下ろしてくる。倉島のデスクには提出仮題と反省文の原稿が詰まれていた。
「お前な、これからはもっと慎んだ学校生活を送ってくれよ。俺の立場ってもんがなくなるだろうがよ」
「倉島先生は相変わらずですね。そういうところ、ワタシ意外と好きだったりしますよ」
真っ黒な長髪の下、男を挑発するような美貌を携え、目元の涙袋や黒子のせいか、実際の年齢以上に大人びた印象を抱かせる。左耳に空いたピアスの痕跡。
どうせ職員室を出たら規則などお構いなしにまた装着されるのだろう。制服も盛大に気崩されるに違いない。だがそれは別にいい。
今年になり担任と2学年の学年主任を押し付けられた倉島。
倉島は自分の預かる学年の連中には大なり小なり校則など無視して思い思いの格好で生活『させて』いる。締め付けたところで連中が素直に言う事を聞くことは稀である。ならば干渉は適度に適当に。職員会議や警察沙汰になるような厄介事さえ持ち込まれなければ基本的に見て見ぬふり。それが倉島の生徒との距離感だ。
とはいえ彼の適当なスタンスがあまり教頭らのウケがよくないもの事実。しかし倉島からすればなぁなぁでやり過ごせる上からの小言よりも、生徒の対応を優先させる方がよっぽどこの職場を快適に過ごせると判断している。
が、今年は特に問題を抱えた生徒が自分に集中しすぎていやしないか……自分に辞令を下した連中に物申したいところである。大方嫌がらせの類であろう。面倒事を避けるならその面倒事を押し付けてやれという、どこぞの誰かの意地汚い意志を感じずにはいられない。
そして、現在進行形で倉島は目の前の少女、2年3組所属、鳴無亜衣梨に辟易させられている次第というわけである。
2年に進級してすぐに問題行動を起こした生徒。パッと見た印象からの清楚さとは裏腹に、彼女は倉島にとってある意味では不破満天より厄介な存在という認識であった。
「やめろ。これ以上問題を起こすな俺を巻き込むな。いいか。次同じことんなったら今度は停学じゃ済まないからな」
「は~い」
彼女の軽すぎる返事に倉島は頭痛を覚えた。いつもこうだ、彼女と話しているとキツネにつままれている気がしてならない。フワフワと掴みどころがなく、かつ男を魅了する仕草には質の悪いモノを感じる。
「ほんとに分かってんのかお前……」
「ええ、もちろん。でも……『向こう』から突っかかってきたら、どうしようもないですよね?」
「はぁ……そうなられねぇようにしろってんだよ、ったく」
「ふふふ」
聞いているのかいないのか、鳴無は年齢にそぐわない妖艶な笑みを浮かべてはぐらかす。
「しかしまさか不破よりもお前の方が反省文書くのを渋るとはなぁ」
この鳴無亜衣梨、1学期早々に不破といざこざを起こして二人して停学を喰らった口である。しかし不破が4月中に出て来たのに対し、彼女は6月末まで再三の課題提出も反省文の執筆も渋り、7月に入りようやくこうして出てきたわけだ。正直、既に退学していてもおかしくないところなのだが……そこは大人的な事情が若干絡んでいた、とだけ言っておこう。
「そうは言いますけど倉島先生。ワタシ、あの時の件はいまだに自分が悪いなんて思ってませんので。なのになんで反省文を書かされる必要があったのか、甚だ疑問です」
「お前よく職員室でんなこと言えるな。何度も言ったろ。『喧嘩両成敗』だ」
「それが納得できないんですが……まぁいいです。いい加減家にいると親がうるさくなってきたので。そろそろ年貢の納め時かな、とは思ってましたし」
鳴無はさも心外だと言わんばかりの態度。反省の色は皆無。しかしここで何か諭したところで、彼女の心どころか耳にすら届きはしない。倉島はそんなことよりも彼女……もとい、彼女『たち』がこれ以上の問題ごとを持ち込んでこないことを願うばかりであった。
「そう言えば、きらりんは元気にしてますか。ワタシがいない間、寂しがってたりなんて」
「知らねぇよ。知りたきゃ自分で訊け」
「酷い先生ですねぇ。あの子の担任じゃないですか。喧嘩した生徒たちの仲を取り持とうくらい思えないんですか?」
「知るか。俺はお前らと違って暇じゃねぇの。仲良くしたけりゃ自分でなんとかしろ。ほらもう用はねぇだろうが。さっさと教室に行けこの不良娘が」
しっしつ、と追い払うように鳴無を職員室から追い出した。
廊下に出た鳴無は「失礼しました~」と軽い調子で手を振り、扉を閉めると軽快な足取りで職員室から遠ざかる。
「さぁ~て。教室に行く前のちょっと情報収集しておこっかなぁ」
移動しながら首もとを圧迫していたシャツのボタンを大きく開き、スカートの丈を短くする。ポケットに忍ばせていた十字架のピアスを取り出すと、彼女は左耳に着けて満足そうに胸を張る。
「待っててねぇ、き~らりん♪」
7月7日、今日は七夕。一年に一度、星の海で別たれた恋人が再会する日。
が、どうやら甘く切ないラブロマンスような再会が訪れるかは、現状ではひどく怪しいと思わざるを得ない――
いっそ、再会の果てに殴り合いの取っ組み合いが繰り広げられかねない気配さえ漂っているかのようだ。
(´∀`*)ウフフ
時は遡り、7月7日の早朝――
先日から再開された不破とのランニング。そこに、
「だっはぁ~……ねぇ、なんでウチまでこんな強制労働させられてんだよ~」
ぶうたれる霧島も加わって、朝の爽やかな時間に彩りを添える。
ガッツリ染めた金髪、朝日を反射させるいくつものピアスを耳で光らせる不破満天。ランニング中、普段は背中に流している長髪を、今は邪魔にならないよう一括りにまとめている。彼女が口を開くたびに、舌のピアスがチラとその存在を主張してくる。
不破の隣で、息も絶え絶えに並走する霧崎麻衣佳。黒い髪の毛先に赤いグラデーションを掛け、もみあげの隙間からは赤いピアスが覗く。
二人とも、着ているのは自前のスポーツウェアだ。そんなゴリゴリのギャル二人を後ろから眺めつつ、太一は学校指定のジャージに身を包んで足を動かす。
……僕も自分用のウェアとか買った方がいいのかな。
などと自分の格好を気にする太一。不破との関りを持って以来、これまで無頓着だった服装を気に掛けるようになった。
「しぬ~、しんどい~……」
「おらおらガンバレw、元運動部~w」
「それ、中学んときの、話っ……現役で走ってるお前らと、一緒にすんな~」
ぜはぜはと息を切らす霧崎。しかしフォームはしっかりしている。ブランクがある割には2人についてくるあたり、それなりに体力はあるらしい。
「ひとの秘密勝手にバラした上にからかってきた罰だし。しばらくマイにもアタシらのランニング付き合ってもらうから」
「そ、それはあん時に謝ったじゃ~ん。てか人の可憐なお尻にタイキック入れといて、まだしごくとか鬼か~。ウッディ、タスケテ~」
「あはは……がんばってください」
「役立たず~!」
太一は笑ってごまかすことしかできない。不破は上機嫌で霧崎を煽りながら並走する。
ちなみに、あの後霧崎の不破の(太った)写真が渡ったことを知った彼女から折檻を受ける羽目になったのはいうまでもない。
不破は二人のスマホを奪った挙句、データを綺麗に抹消。が、霧崎も太一もクラウド上にデータがそのまま保管されていたりする……自動バックアップって便利だね。
不破にバレた時がまた怖い気もするが、勝手に送信されてしまったものは仕方ない。
太一は意図せず、霧崎は確信犯。これは青春の一ページという名の爆弾が、思い出補正というフィルターというかバイアスを掛けられて保存されただけに過ぎない。
それはそれとしてこの霧島、ツッコミを入れながらでも走れているあたり、意外と余裕があるのではなかろうか、と思う太一である。
朝の静けさを盛大に破壊しながら、3人は町内を走る。5月にあった不破と西住の破局に端を発したダイエット。それも終わり、今は自主的に体型維持のためこうして走っている。
それに付き合わされる霧崎を憐れに思いつつ、今日も太一はこの妙にバグっているように思えて仕方ない関係性に苦笑するしかない。
不破と霧崎の掛け合いをBGMに、日課となったランニングを消化していく。
==へ(;≧皿≦)ノ オニ~!
が、この数時間の後――
「ねぇ、宇津木君……よかったらワタシとキス、してみたくない?」
「え? ちょっ! 鳴無さん、本気ですか!?」
「もちろん。宇津木君さえよければ、ね……どう? あんな暴力女より、ワタシの方がよっぽど、あなたを大切にしてあげるわよ……ふふふ」
人気のない空き教室。カーテンも閉め切られた薄暗い空間で……太一はその日知り合ったばかりの第三のギャルの上に覆い被さり、彼は下からこちらを見上げて来る妖艶な笑みに翻弄されていた――
(((( ;゜д゜))))アワワワワ
※『申し訳ありません』※
こちらは連載再開ではなく、
次回予告的なナニカです。
第3のギャル!
こちらの続きは9月16日から連載予定です!
現在鋭意執筆中!! 乞うご期待!!!
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