彼女との関係はバクである、しかしそんなに悪くない
7月2日の朝。
ホームルーム前の教室で、太一はじっととある機会を窺っていた。
教壇近く、不破が西住たちに鞄一式をぶん投げて各自返却していく。
先日のカラオケで荷物を置いて逃げて行った西住グループに、不破は憤りのまま足蹴りをお見舞いしたりとかなりお冠なご様子だ。
大の男が女子一人だけを残してその場からとんずら決めたらそりゃ怒る。
が、そうなってしまったのは太一の勘違いがそもそもの原因である。強引に動画制作に不破を巻き込もうとしたのは別として、さすがに先日のアレはやり過ぎだったと太一も反省。
西住たちに謝ろうとずっと様子を窺っていたわけである。
これに関しては不破にも相談済みで、彼女曰く、
『別に謝んなくてもいいと思うけど……まぁあんたの好きにすれば』
とちょっと突き放した感じで言われた。
確かに普段から交流のないクラスのイケイケ男子たちの前に立つだけでもなかなかハードルが高いというのに、そこに謝罪が加わるとなれば難易度は一気にベリーハードまで跳ね上がる。
が、自分を変えると決めたからには他人との関りをこれまでのように躱し続けるようではダメだ、と自分を鼓舞する。
なにより後ろめたいことを抱えたままこれから彼らとの学校生活を共にしていくというのもなかなかにストレスである。
それに、不破なら『ケジメはちゃんとつける』と自分の行為から逃げる様な真似はしないはず、という思いが太一の尻を叩く。
しばらくすると、荷物の返却と西住たちの制裁を終えたのか、不破は教室の外に出て行った。嵐のような不破の怒りから逃れられた安堵からか、西住グループはホッとしたような表情である。
タイミングがあるとすれば、今しかない。
太一は椅子から立ち上がり、彼等へと近付いた。
「あの……ちょっといいかな」
「あん? って、宇津木? なんか用?」
普段絡むことのない相手の接近に、西住たちからは若干警戒している様子が読み取れる。
複数の視線に晒され、思わず委縮してしまいそうになる太一。が、彼は一つ呼吸を整えると、
「ごめん!」
とまずは頭を下げた。
が、
「いや、なんで俺らいきなり謝れられてんの?」
と、当然の疑問が返ってくる。
「その、実は……」
太一はバカ正直に昨日カラオケ店で部屋に乱入したのは自分だと伝えた。
そんなことをすれば当然……
「はぁ!? おまっ、ちょっ! ふざけんなよ!」
「あのあと金もなくて俺ら家まで歩いて帰ったんだぜ!?」
「つかなんであそこでお前が絡んでくんだよ!? 意味わかんねぇから!」
と、案の定総スカンを喰らう羽目になった。
「ほんと、ごめん……僕が勝手に勘違いして」
「なんだよ勘違いって……てかさ、お前最近ちょっと不破と仲いいからって調子に乗ってんじゃねぇの?」
「そんなことはないです! 調子に乗るといつも不破さんから蹴り入れらてますから! 乗るに乗れません!」
グループのリーダーが太一をねめつけ、しかし返ってきた返答のあまりの悲しさになんとも言えない表情が浮かぶ。
「いや、まぁご愁傷様……っていや! それは別にいいんだよ! 俺らとしては、どう落とし前着けてくれんのかって話なわけ」
「落とし前……」
たかだか高校生で落とし前とは随分と話が大きい。が、太一としても相手に実害が生じた以上、何もなし、とはいかないだろうとは思っていた。
最悪、数発は殴られるくらいの覚悟はしてきた。
「それじゃあ、何発か僕を殴ってもらってもいいです。それで、どうですか?」
「……だってよ、どうする?」
西住がグループのメンツに振り返る。
「はぁ……まぁじゃあとりあえず思いっきり一発?」
「いいんじゃねぇの。めっちゃビビらせてきたわけだし」
「俺はパ~ス」
「んだよリキ、ノリわりぃなぁ。まぁいいか。そんじゃリキ以外のここにいる全員から一発ずつな」
「ええ~」というクラスからの困惑した声が聞こえてくる。が、誰も止めようとしない。リキこと力也は「ほどほどにしとけよぉ」と手をひらひらと振るだけでいさめる気はなさそうだ。
「取り合えず腹な。歯ぁ食いしばってろよ」
まずはリーダーの西住が指をコキコキと鳴らし、肩を回す。随分と本気で殴るつもりらしい。太一はお腹に力を入れ、殴られる瞬間を待つ――が、
「――だっせw」
という声に太一を含めた西住たち全員の視線が集まった。
と、
「うわぁ、不破さん!?」
教室に戻って来た不破が太一の背中からぎゅっと腕を回して抱き着くように密着すると、顔だけを西住たちに向けてどこか挑発的な笑みを浮かべる。
背中に感じる重みと柔らかさに太一は先程までの覚悟完了を粉みじんに吹き飛ばされる。
西住グループはぎょっとした表情で不破を見やる。
「なんだよキララ。別にお前に関係ねぇだろ。そいつが殴られて落とし前つけるってんだから別にいいだろうが」
「関係なくねぇから口出してんだろうがタコ。お前らが勘違いさせるみてぇなことすっからこいつがわざわざ部屋入ってきちまったんだろうが」
「はぁ?」
意味が分からないといった顔をする西住。他の男子も軒並み似たような表情だ。
「こいつ、アタシがお前らに襲われるかもしれねぇって思ったんだと」
「んだそれ!?」
「お前らがよっぽどのクソ野郎にみえたんじゃねぇのw」
「なっ!?」
ハッキリとした物言いに西住の顔が赤くなる。他のクラスメイトたちも「なになに?」、「え? 襲うって……」と、部分的に会話を拾われてどよめきと憶測が飛び交う。
「てかさ、昇龍あん時まっさきに逃げたよなw。それにくらべたらまだこいつの方が勇気あるわw」
「ちょ、ちょっと不破さん!?」
ぎゅっと体を余計に押し付けてくる不破。ただでさえ微妙な空気だったところにニトログリセリンをぶっこむかのような不破の暴挙。
しかしなおも不破の煽りは留まるところを知らず、
「それで一人の相手に全員でタコ殴りとかw、マジでだっせぇw! 度量も肝っ玉もクソちっせぇじゃんw」
「~~~~~っ!!!」
西住爆発3秒前。だが不破は最後に、
「あぁ……そっか~、今納得したわw」
特大の起爆剤を投入する。
「アタシが太った理由、アンタのセッ〇スど下手だっからだわw! ガンガン動くだけw! テクゼロw! デートもゴミw! 付き合わされるのうんざりしてきてさぁw、もうイライラしてやばかったもんアタシ!」
「「「…………」」」
不破のあけすけな物言いにクラスの全員がドン引きだった。
「あわわわわわわ」
さすがにこの発言はマズイ。如何にデリカシーに欠ける西住相手とはいえさすがに不破の発言は行き過ぎである。それも公衆の面前で。これは完全に5月のワンシーンが立場を逆転して再現されたようなものである。
太一は恐る恐る西住を見やる。今すぐにでも不破に飛び掛かっていてもおかしくはない。
が、
「俺、今日は帰るわ……」
と、目の前の西住は目端に涙をため、うなだれながら荷物を肩にかけとぼとぼと教室から消えていった。
なんとも悲しい後ろ姿を見送り、不破は振り返ると他の西住グループに、「で、お前らはどうすんの?」と言わんばかりの視線を送り付ける。
だが全員バツが悪そうに顔を背け、その中の一人、リキこと力也が、
「まぁ宇津木も素直に頭下げたんだし、別にいいんじゃね? これ以上やったらマジ俺らダサイことんなるわ」
それでどうやら西住を除いた全員は取り合えず引き下がった。許されたかどうかは微妙だが、ひとまず痛い思いをするのだけは避けられたようである。
『っておい西住、お前今からホームルールだぞ……って、どうしたお前?』
『ぁ、俺、今日は調子悪いんで、帰ります』
『は? お、おう……気を付けて帰れよ』
『うす……』
西住と入れ替えに、倉島が教室に入ってくる。
「え? なにこの空気……てか、お前らはなにくっついてんの?」
教室内の微妙な空気にプラスして、太一の背中に抱き着く格好の不破。状況把握がまるでできない。しかし倉島は持ち前のマイペースさで、
「まぁいっか。お前らぁ、さっさと席に着けぇ。ホームルームはじめっぞ~」
と、あっさりと流されてしまう。
その日は一日中、クラスはなんともいえない雰囲気に包まれ続けることとなった。しかし、その原因を作った張本人はといえば、
「ああ~、なんかめっちゃスッキリした~」
などと開放感バリバリのいい笑顔を浮かべていた。
結局、不破は西住に対し、やられたことを倍にしてやり返すような格好となったわけである。
(;゜Д゜)えぇ……
放課後――
『ごめ~ん! なんかバイトでヘルプ入ってくれって連絡きちゃった! 今日はウチなしってことで!』
ということで、今現在、宇津木家への帰路は久しぶりに太一と不破の二人だけである。
……ど、どうしよう。
普段なら霧崎と不破が勝手に盛り上がってくれているのだが、太一に場を沸かすような会話スキルなどあるはずもなく。
……ち、沈黙が。
なんとも居心地の気分を味わっていた。不破は太一の隣でスマホをいじっている。
ながらスマホは危険なのでやめましょう。
が、そんな注意が太一にできるはずもなく、なにか話題はないものかと貧弱なボキャブラリーから話題を引きずり出そうと必死に脳内検索作業に没頭した。
ふと、通学路の道中にある書店が目に入る。
「あ」
そうだ、と咄嗟に思いついた。
「不破さん」
「ん~?」
呼びかけるも不破はスマホから顔を上げない。しかし太一はそれに構わず、
「少しだけ、付き合ってもらえませんか?」
「は?」
ようやく顔を上げた彼女の顔には、「なんだこいつ?」といわんばかりの表情が浮かんでいた。
「まぁいいけど」
意外とすんなりついてきてくれた。彼女も丸くなったもんである。もっとも、鋭利な岩の角が取れたところで殺傷能力に些かの変化があるかは怪しいところである……
不破を伴って書店に入る。ここは本だけでなく、一部にゲームコーナーも設置されている。
太一は「すぐに戻ります」と言って、店内を走って行ってしまう。
「んだありゃ?」
と、首を傾げつつ、不破は雑誌コーナーで立ち読みを始めた。
しばらくすると、太一は手に店のロゴが入った袋を手に戻ってくる。
「お待たせしました」
「別に。それ何?」
「あ、これは……え~と」
なにやら言いづらそうにする太一。不破は例のごとく『アウト』の言葉と共にデコピンムーブに入ろうとすると、
「これ! 不破さんに!」
「は?」
と、急に太一から袋を渡される不破。おかけで勢いを削がれてしまう。
「なにこれ?」
と言いながら、不破は袋の中身を取り出した。
それは、太一の家でよく遊ぶ際に使う、ゲームハードのコントローラーであった。紫と黄色のカラーリング。以前、霧崎が太一の家に持ち込んだものの色違いである。
「その、必要かな、と思いまして」
「ふ~ん」
コントローラーを見下ろしながら、
「なんか色微妙」
「ええ……」
なんとなく派手な不破のイメージに合うと思って買ってきたのだが、どうやら不評だったらしい。
が、太一が気落ちしかけたところに、
「てかさ。これ渡すって、ようはアタシといつでも遊びたいって、そういうこと?」
不破から意地の悪い笑みが向けられ、太一は「う……」と思わず言葉に詰まってしまう。
が、どう取り繕おうとそういうことである。
「ふ~ん、そっかそっか。そんなにアタシが好きか~」
「ええ!? ち、ちがっ!」
「あははっ! キョドりすぎ! マジでウケる!」
周囲の迷惑なんのその。不破の笑いが店内に木霊する。太一は羞恥で今すぐ隠れたい気分だ。
「まぁでも、ありがたく貰っとくわ。返せって言われても、もう返さねぇからな」
「はい、どうぞもらってください」
「うし! じゃあ帰ったらさっそくこれで遊んでみっか!」
微妙などと言いつつ、不破はコントローラーを子供のような期待した目で見つめていた。
……なんだか複雑な気分だけど、まぁ、よかったのかな。
自宅に戻り、不破は自分のコントローラーでフィットネスゲームに興じ、姉の涼子が帰ってきてからは、
「あっ! ちょっ! りょうこんそれズルっ!」
「ふふん。これは戦略っていうのよ」
「だぁぁ! 宇津木こっちくんなし!」
「無茶言わないでください……」
3人でゲームをプレイする……最大8人対戦可能、相手を場外に吹っ飛ばすのが爽快な対戦格闘ゲームである。
「ていうか不破さん、僕に寄りかかるのやめてください! 重いです!」
「はぁ!? 重くねぇし! ダイエットしたんだから、な!」
「あぁ! 不破さんそれこそズルいですよ!」
不破はソファの上から、床に座る太一の体に腕を回して妨害してくる。だというのに、涼子は咎めるどころかケラケラと笑っているだけだ。
ふと、太一はすぐ顔の横で、勝負に一喜一憂する不破を横目に、
……なんか僕の生活、ほんとバグって来てるよなぁ。
などと、しみじみ思うのだった。
(;^ω^)( ゜∀゜)
皆様!! ここまでお付き合いいただき!!!
本当に!!!! にありがとうございます!!!!!
正直、ここまで読んでくれた方たちは紛れもなく勇者だと思います!
優しくないギャル!
なろう界隈じゃ多分『敵』であることがほとんどじゃないでしょうか!?
そんなヒロインでしたし! 何なら主人公は徹頭徹尾なよなよです!!
それでも読んでくれたんですから本当に感謝の言葉しかありません!!!!!
ありがとう!!!!
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作品が面白かった、続きが読みたい、と思っていただけましたら、
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また、どんなことでもけっこうです。作品へのご意見、感想もお待ちしております。
※連続投稿はここまで!
新章を書き溜めてから改めて投稿を再開します!!
目安は2~3週間くらい!




