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【Web版】毎日家に来るギャルが距離感ゼロでも優しくない  作者: らいと
1:『不破満天は優しくない』
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人は停滞を望む生き物である、ならば行動できた人間は最強のはず

 6月30日……日が昇る頃にはすっかり熱も引いていた。部屋の時計は午前5時を指している。起き抜けの思考は思ったよりスッキリとしていた。

 

 病み上がりである我が身を叩き起こして太一はジャージに着替える。時刻は5時半少し前。普段よりも気持ち早く自宅を出る。不破といつも待ち合わせしていた駅前公園に行ってみた。

 

 ……早朝6時。

 

 しかし不和は現れない。10分ほど待ってみる。しかし彼女は姿を見せなかった。思わず気落ちしそうになる心を太一は強引に蹴り飛ばし、今日はもう彼女は来ないものと一人でランニングを開始。


 空は雲が多いものの、隙間からは朝日が差し込んでいた。普段より走る速度を上げる。その視線は真っ直ぐ、前を見据えていた。

 

 

 ε=ε=ε=へ(;`口´)ノ


 

 午前8時。登校した太一は自然と不破の姿を目で探す。しかし彼女の姿は教室のどこにもない。彼女は遅刻の常習だ。まだ来ていないだけの可能性も残っている。

 

 朝のホームルール。担任の教師が教室に姿を見せる。着席した生徒たちを見渡すと、「不破は今日も無断欠席か?」と盛大に溜息をもらした。

 

 一時限目の休み時間……不破、登校せず。

 二時限目の休み時間……不破、登校せず。

 三限目……四限目を終えて、昼休み……


 不破はその日、学校に登校してくることはなかった。

 

 ――月が替わり、7月1日。

 

 不破は相変わらず無断欠席を繰り返しているようだ。

 

 太一はスマホを取り出してメッセージアプリを起動させる。不破とのトーク画面を開き、しかしなんのメッセージも打ち込むことなくポケットに押し込んだ。


『お前からぜってぇ連絡してくんじゃねぇぞ!』


 不破からかつて連絡先を交換した時にそう念を押されている……という理由だけではなく、なんとなくアプリごしではなく、直接彼女と対面して言葉を交わす必要があると太一は感じていた。

 

 しかし、不破は一向に学校に姿を見せない。


 あまり可能性は高くないが、不破の方が今度は太一を避けているのではないか。

 

 普段であれば「まさか」と一蹴してしまう可能性。不破ほどのヒエラルキートップである人種が自分のような底辺を気に掛けるなどありえない、そう考えていたことだろう。

 

 だが今この場に在って、太一の所感などというバイアスの掛かった個人的視点など不要。必要なのは客観的事実のみを俯瞰し状況から不破の行動を考察、自身の今後の動きを思考することである。

 

 しかし仮に不破が自分を避けている、と仮定してみるとこれもなかなかにメンタルに響くものがある。長年培われてきた弱腰が顔を覗かせ、太一に「動くな」と命じて来る。

 

 行動と成果は必ず等価で返ってくる保証などない。行動しなければ得をするとこもないが大きく損をすることもないのだ。


 ……はたしてそうだろうか?


 今ここで動かないことを選択する事が本当に最善の選択か?

 

 あえて言おう。そんなものは行動してみなけりゃ分かりっこない!

 

 その日、太一は昼休み開始と同時に教室を飛び出した。

 

 向かう先は霧崎が所属しているクラスである。太一は自分の能力を低く見積もる傾向がある。が、今回ばかりは自分だけで不破との関係修復を成し遂げるのはかなり困難であることは確かだ。人間関係をこれまで疎かにしてきたツケでもある。

 

 故に、今の太一には協力者が不可欠だった。

 

 目的の教室が見えて来た。中を確認する。霧崎の姿は、ない。

 

 ……そういえば。


 以前、初めて彼女と顔を合わせた時、彼女は一ヶ月近くも学校を休んでいたと聞いた。ここ最近になって登校するようになったのは不破がいたからだ。ならばその彼女がいない今、霧崎が再び学校に来なくなった可能性は十分に考えられる。


 しかも太一は彼女と連絡先を交換できていない。

 

 だが彼女が本当に学校に来ていないかはまだハッキリしない。もしかしたら学食か購買に行ってるだけという可能性もある。それを確認するには目の前の教室に突入して誰かに確認する他ない。

 

 ただでさえコミュニケーション能力が不足している太一にとって、他のクラスへ入り誰かに声を掛けることのハードルがいかに高いかは推して測れるというもの。


 ……変わるって、決めたんだ。それに、


 ここで躊躇しているようではこれから先、不破と対面した時まともに相対できるはずもなし。


 太一は意を決して教室の扉に手を掛け、勢いのあまりバンと大きな音を立てて開けてしまった。


 途端に流れる微妙な空気。突然教室に姿を現した強面男子。緊張でガチガチになった太一の表情は非常に硬く、眉間に皺を寄せる姿は不必要に教室内の生徒たちを威圧した。


「(え!? なに、不良!?)」

「(うわっ、顔こわっ!)」

「(なに、カチコミ!?)」

「(う、動くな。目を付けられたら殺されっぞ!)」


 太一が教室内を見渡すと、全員がそっと顔を逸らす。太一は扉をいきなり派手な音を立てて開けてしまったがために気分を害してしまったのかと不安になる。

 

 が、いつまでも突っ立ていたところで始まらない。


「あ、あの……」

「ひっ!」

 

 近くにいた憐れな二人組の女生徒に声が掛ける。教室中が息を飲む。妙にひりついた空気の中、太一は震えそうになる声を絞り出す。


「き、霧崎さん、は……来てる?」

「へ? 霧崎さん?」

 

 直接声を掛けられてちょっと涙目の女生徒は相方に視線を向ける。すると彼女はおっかなびっくりといった様子で、


「き、来てたよ……あ、来て、ました……はい」

「っ!? ど、どこに行ったか分かりますか!?」

「ひぃ! お、教えますからどうか見逃して下さい!」

「なんか良く分かりませんけど教えてください!」

 

 霧崎が学校に来ている事に一縷の希望を見出した太一は女生徒に詰め寄った。しかし一切の余裕のない太一の顔はもはやそれ自体が殺人兵器の威力を持って女生徒の目じりに涙を溜めさせる。


 もはや教室の空気はかなりカオスなことになっていた。


「た、確か……『今日は限定メニュー!』とか言ってたので、多分学食じゃないかと……」

「ありがとうございます!」


 場所が判明するなり、太一は勢いそのままに教室を飛び出した。昼休みは始まって10分。今から走ればすれ違いを避けられるかもしれない。

 

 教室から飛び出した謎の強面男の姿を見送り、詰め寄られた女生徒は「ごわがった~!」と相方に泣きついた。


 それと同時に、教室の生徒たちはほぼ全員、


「(き、霧島が殺される……)」

 

 と、戦々恐々とした。



 (( ;゜Д゜))ブルブル(( ;゜Д゜))ブルブル



 学食は人で溢れかえっていた。購買などもはや生徒たちがやけくそめいた勢いで押し合いへし合いを繰り広げ、戦利品たる総菜パンにパニックホラーのゾンビもかくやという様相で手を伸ばしていた。


 息を切らせた太一は学食内を見渡す。


 と、中庭が拝める窓際の席に黒髪の先に赤いグラデーションを掛けた目立つ容姿の生徒を発見。こんな時ばかりにはあの妙な派手さも役に立つ。


 周囲の喧騒も蚊帳の外に一人座席を占領した霧崎は、学食の日替わり限定メニュー(本日はエビチリ定食)に舌鼓を打っている。


 学食の入り口で太一は思わず二の足を踏んでしまう。先日からの彼女との関係も正直に言ってしまえばかなり微妙だ。険悪というわけではないが、どうにも近寄りがたい。


 しかし、


 ……止まるな。行け……行け!

 

 自分をなんとか鼓舞し、太一は霧崎の下へと近付いていく。


 霧崎の方も太一の接近に気付いたようで「お?」と意外そうな表情を浮かべつつ、


「ウッディじゃん。学食でなんて珍しいね。てか風邪はもう平気なんだ?」

「うん。昨日から、学校に来てる」

「ふ~ん。そっか」


 いつも変わらない笑顔で迎え入れてくれる。だが、どうにも他所他所さも感じられた。

 

「それで、どしたの? 学食にお昼食べに来たん? それとも、なんかウチに用でも?」


 どこか値踏みするような視線が突き刺さる。太一は背中にヒヤッとするものを感じながらも、霧崎の顔を真正面から見やり、


「霧崎さん!!」

「お、おう、なに?」

 

 思わず声を張り上げてしまい、学食中の視線を集めてしまう。


「そ、その! ちょっとこれから! 時間を貰えませんか!?」

「いや声でかい!」

 

 霧島のツッコミも大概でかかったが、彼女は「はぁ」と呆れた表情を浮かべつつ、


「なんの用か知らないけど、別にいいよ」

「ありがとうございます!!」

「いやだから声……」

 

 と、なんとか彼女から了承を貰うことに成功した。

 


 (;-∀-) 人(>ω< )オネガイ!!


 

 霧崎の食事を待って向かったのは校舎裏。

 

 昼休みは半分を過ぎている。しかし太一は、仮に授業に間に合わなくとも霧崎に協力を取り付けるつもりでいた。


「それで、こんなとこにウチを連れてきてどうすんの? あ、もしかしてアイの告白――」

「僕、不破さんと仲直りしたいんです!」

「せめて最後までボケさせてよ……てか、なに小学生みたいなこと言ってんの? 仲直りしたいなら勝手にすればいいじゃん」

「はい……その通り、なんですけど……」


 冷静な霧崎の切り返しに思わずしどろもどろになってしまう太一。霧崎はそこを見逃さず畳みかけて来る。


「……あのさ」

「はい」

「そもそも、なんでキララと仲良くしたいわけ? ウッディさ、別にキララのこと好きでも何でもないって言ってたよね?」

「そう、ですね」

「なら別に仲良くするメリットってなくない? こう言っちゃなんだけどさ、ウッディとキララって正直そんな相性いいって思えないんだよね。ウッディって根っからの陰キャだし、不破もあの性格じゃん? ぶっちゃけさ、一緒にいたってお互いに疲れるだけだと思うんだけど?」

「それは……」

「てかさ、ノリの会わない相手とずっと一緒ってキララも迷惑なんじゃない? ウッディもキララにブンブン振り回されて正直キツかったっしょ?」

「……」

「……」

 

 無言の時間が過ぎる。予鈴が鳴った。もうあと5分で授業開始である。霧崎の言葉に太一は押し黙ってしまった。彼女の言い分は正しい。人には合う、合わないがある。それはどうしようもないことだ。確かに太一に不破のノリは激しすぎてついていくだけでもやっとだ。

 

 だが――今日まで曲がりなりにも彼女と行動を共にし、彼女の掲げるダイエットの目標を達成させたのだ。

 

 当然太一一人の功績ではない。涼子の貢献も今回の結果に多大な影響を及ぼしているのは確かだ。それでも、太一とて先日まで不破に食らいつき、一緒の時間を共有してきた。


 誰であっても、その事実だけは否定させない。


「はい……僕は、不破さんが苦手です。あのグイグイ来るところも、勝手に突っ走っていくところとかも、正直疲れるって思います」

「だったら」

「でも! 僕はそれでも! 不破さんとまた、一緒の時間を過ごしたいです! 友達として! 朝に走ったり、ゲームしたり、ご飯を食べたりっ!」


 今の太一の精一杯。自己に閉じこもらず、どうしたいのかを口にすること。それが彼の限界。しかし、これは確かな一歩でもあった。


「それに……えと……多分! 不破さん一人だと、また太りますよ!? 不破さんが太った原因知ってますか!? なんかイライラして暴食を繰り返したからって言ってたんですよ!? 不破さん、いつもちょっとしたことで怒るじゃないですか!? 誰かが見てないと、また際限なく色々食べまくって、こんな感じになっちゃいますよきっと!?」

 

 などと捲し立てて、太一はスマホに保存されていた不破が最も太っていた時の写真を表示した。ダイエットの成果を確認する比較目的で持っていた写真である。それを他人に晒す。本人がもし近くにいたら色んな意味で顔面真っ赤必死の行為である。


 しかし霧崎は「うわぁ……」と写真を前にドン引きしていた。

 

 果たしてそれは太一の写真暴露という蛮行によるものか、もしくは写真に写る友人のあられもない姿に対してか。いずれにしろひどい表情である。

 

「せっかく綺麗になったのに、またこんなんですよ!? いいんですか!? 嫌ですよね!? 僕も嫌です! またダイエットに付き合わされるより不破さんとなんでもいいので遊びたいです! そういうわけなので! 霧崎さんには不破さんとの仲直りに協力をお願いしたく! ここにお呼びした次第です! どうでしょうか!?」

「えぇ……」


 困惑の表情を浮かべる霧崎。しかし言いたいことは言った。後は彼女の返事待ちである。


 既に授業は始まっている。沈黙の校舎裏。果たして、霧崎は後ろ髪を掻きながら、


「……いやぁ、うん。キララも大概自己中なところあるけど、ウッディも大概だわ」

「え? あの……それは」


 霧崎は盛大に呆れた、と腰に手を当てるポーズを取りつつ、口元をニヤニヤさせながら太一に顔をぐっと近づけて来た。思わずビクリと反応してしまう太一。先日の不破といい霧崎といい、異性に対する距離感が本当に近い。


「おk。ウチにできることなら協力してあげる」

「っ! あ、ありがとうございます!」

「でも条件がひとつ」

「え? そ、それは……」

 

 指を立てる霧崎。その表情は、ニッと人好きするような可憐な笑みで、


「さっきのキララの写真、ウチにも回して♪」

「え?」

「別にいいっしょ♪ にしし」

「……」

 

 太一は冷や汗を流す。先ほどの写真が霧崎に渡ったらどうなるか……きっと、写真を使って不破を盛大にからかう。そんな未来が容易に想像できる。

 

 そして、写真の流出先など一つしかないわけで……


「あの、ちゃんと不破さんとの仲直り、協力してくださいね」

「あはっ♪ 当然じゃ~ん♪」

 

 太一は思った。絶対に選択を誤った、と……



 (・∀・)ニヤニヤ

さぁ反撃(?)の時は来た!

次回、や・ま・ば!!


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