甘くない「そういうとこだぞ」もある…
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
ご報告:5キロくらいヒロインの体重を落としました。
注意喚起:ここから、若干シリアスな展開に突入します。数話ほど続きます。ご注意を。
一体いつから、ダイエットが成功したら不破との関係が解消されると勘違いしていた?
事態は思わぬ展開を迎えてしまった。ダイエットを成功させたのにも関わらず、相も変わらず放課後になると不破と霧崎は当たり前のように宇津木家に集まり、日課である例のフィットネスゲームをプレイし始めてしまったのだ。
……なぜ?
その疑問だけが太一の脳内を支配する。脳内メーカーを使ったら面白い結果が得られそうだ。そもそもダイエットさえ成功させれば不破にとって自分など用済みではないのか。スラリとした手足に、同性でも嫉妬を覚えるような魅惑のボディライン。今の不破は以前と同等、或いはそれ以上に魅力的な体に仕上がったはずである。ならばこんな陰キャ丸出しの根暗野郎などさっさと切り捨てて目的の『西住たちへの復讐』を好きなように決行すればいい。
西住の方も不破の方に関心を向けている様子が窺える。5月に『太った』ことを理由にフッた相手が、二か月も経たずに元の体形、いやそれ以上のダイエット成果を見せつけたのだ。
やはり彼女は男性の視線を良くも悪くも惹き付けている。今の不破であれば、以前にも増してアプローチを掛けて来る男が押し寄せてくることだろう。それを見せつけてやるだけで、西住にはそれなりにダメージが入ることは確実だと思われる。
異性からの人気を獲得した不破は再びクラスカーストトップの座へと返り咲き、彼女の失墜を嗤い、バカにした女生徒たちにも一泡吹かせてやれるはずだ。
不破は一種のカリスマ性を秘めている。ただ気性が荒っぽいだけでなく、人を魅了し惹き付ける才能を持っているのだ。故に、もはやこれから彼女の地位が脅かされることはほぼないと思っていいだろう。
だがそんな彼女にもしも欠点……或いは失点ポイントと言ってもいい太一の存在があったのでは、彼女の目的達成は遠回りすることになりかねない。
不破の復讐劇に太一は足枷、邪魔な存在でしかないはずだ。
ならば関係を綺麗さっぱりと解消し、これまで通りお互いに不干渉のまま、本来あるべきそれぞれの立ち位置へと戻っていくべきなのだ。
だというのに……
「はぁ~、つっかれた~……ウッディ、悪いけどシャワー借りるわ~」
「っしゃ! んじゃ次はアタシだな。宇津木、とりま飲みもん用意しといて。冷蔵庫にアタシが買っておいたヤツ入ってっから」
「うん……わかった」
ダイニングタイプのキッチンへ入り冷蔵庫からポカリを2本持っていく。太一はソファに腰掛けて不破がフィットネスを終えるのを待った。体が自然と順番待ちの体勢に入ってしまう。
これが彼女たちの単なる気まぐれなのか。それとも……
……ちょっと、様子を見てみるしかないかな。
習慣化した日常。ダイエットを成功させたからといって、一ヶ月以上も続いた生活が元に戻るということも難しい話と言えばそうなのかもしれない。
とはいえ不破が宇津木家に居候していたのは昨日までの話。今日からはそれぞれの生活に戻っていく。少しずつ会う機会も減っていけばこの関係性は自然消滅するはずだ。
なにせ、太一と不破では感性が違いすぎて、互いにいるだけでストレスになるはずなのだから……
が、
そんな太一の考えはあっさりと裏切られることになる。
一日、二日、三日……そしていよいよ、6月も末……あと数日で7月に突入する段階になっても、不破との関係性はこれまでとなんら変わることなく……
おはようはランニングからおやすみはフィットネス後のシャワー&夕飯まで……時折そこに霧崎も加わって夜まで適当に駄弁っていくというプラスαもオプションして、太一の生活から不破たちの陰が消滅していく気配はいまだ確認できなかった。
陰キャに陽キャのリア充っぷりが過剰摂取されていく。だれかキャ〇ジンを持ってきてくれこのままだと胃もたれしすぎて心肺が停止してしまう。
そして、6月27日の月曜日……その日も、不破と霧崎は太一の家を訪れ、
「ねぇねぇ! ウチ新しい体動かす系のゲーム買ってきたんだけどさ! 皆でやってみよ!」
そう切り出したのは霧崎だ。手には数か月前の発売されたばかりの体感型スポーツゲームのパッケージ。コントローラーを振ったり足に取り付けたりして動きと連動して疑似的に色んなスポーツを経験できる人気ゲームだ。
「マイそのゲームのハード持ってないのに買ったん?」
「だって別にウッディんちでプレイすればいいじゃん? どうせウチラの家じゃどっちもゲームなんてできないわけだし」
「まぁ確かに」
聞くところによると不破の家はアパートで激しい動きのあるゲームは騒音問題の関係もあってプレイできないそうだ。霧崎の家は戸建てだがゲームの類に対して親があまりいい顔をしないという。ストレスを抱えてまで自宅でゲームをプレイなどしないということらしい。
「んじゃさっそくやってみよっか!」
勝手知ったるなんとやら。霧崎はさっそくソフトを本体に挿し込んだ。もはや太一の意思もガン無視の悪行。しかし子供のようにワクワクと純粋に目を輝かせる霧崎の姿に何も言う事などできない。
プレイ用のコントローラーは二組。しかし霧崎は用意周到に「じゃーん! ウチ専用のコントローラー!」とピンクとミドリのカラーリングが施されたコントローラーまで取り出してきた。
「いやぁバイト代吹っ飛んだ! ぴえん!」
むしろ太一の方がぴえんである。これは完全にこれからも太一の家に入り浸る気満々ではないか。
「うわ、マイってばガチじゃん……アタシも今度買ってくっかなぁ」
「……」
何をとは問うまい。どうせ不破も自分専用のコントローラーを買ってくる気なのだろう。今日は涼子のコントローラーを借りてプレイするようだ。
「皆でできた方がいいよね。あ、『ボウリング』いいじゃん! これやってみよ!」
「アタシはなんでもいいし」
「んじゃこれに決定! ウッディも別にいいよね?」
「うん」
それ以外に返事のしようもない。もはやノリはボウリングに傾むいている。この流れで別の競技を提案できるなら太一の状況はこんなことにはなっていない。
が、なんやかんやと新しいゲームに太一もワクワクしてしまっている口だ。
「へぇ、実際にコントローラーの振り方でボールにカーブかかるんだな。けっこう細かいじゃん」
「みたいだね。でもキララめっちゃ勢い良く振り過ぎてコントローラー吹っ飛ばしそうw」
「は? んな暴投しねぇから。つかマジのボウリングでアタシマイよりスコア上だし」
「いうて僅差じゃん! よっしゃここで大差付けてキララボッコボコにしてやんし! あ、てか今度の休み暇ならスポ天とか行かない?」
「いきなり話題変えすぎ。まぁいいけど人数少なくね?」
「3人いればそれなりに遊べるっしょ」
「え? 僕も行くんですか!?」
「当たり前じゃん? え? むしろ行かないとある?」
「ね~? ウッディさすがにそれはシラケるからw」
……マジで?
あそここそリア充の巣窟パリピの聖地ではないのか。友達がいないボッチが足を踏み入れては決していけない空間の筆頭である。
そこに、太一が行く? インドア派からアウトドア派にジョブチェンする気はないのだが。そもそも彼女たちのノリに太一が乗り切れるわけがない。ここ最近は体が随分と軽い様に感じるが、だからと運動能力が向上したわけではない。
果たして無様を晒す自信なし。しかしてこの誘いという名の強制参加に異を唱えることもまた不可能。週末の行く末に今から気分が重たくなってきた。
「よ~しストラ~イク! えへへ~、これでキララより一歩リード~」
「チッ、調子乗んな。こっから全部決めてやるし」
ゲームはシンプルに倒したピンでの得点を競うモード。変則プレイとしてレーンに多彩なギミックが用意されたモードも存在する。
「え~と、この位置から角度はこうで……ふんっ!」
「おっ! ウッディうまっ! 最初はちょっと外し気味だったのに」
「なんかちょっと感じが分かってきたかもしれません」
「相変わらずゲームだけはうまいよなあんた」
「でももう得点的にここから全部ストライク決めないと敗確じゃん。これはもうウチとキララの勝負だね」
「全部ストライクか……」
順番にそれぞれピンを倒していく。不破と霧崎はスペアをとったり1~2本ほど外したりとお互いに譲らない。
が、ここで太一の猛攻が入る。
「うっそ……ここまで全部ストライク……え? ウッディってこのゲーム初だよね?」
「うわ~……マジか。ここまで来ると逆に引く」
「そこは素直に認めてくださいよ……」
「いやだってなぁ……」
太一は残りのレーン全てをストライクで決めていく。投げ方のコツを掴んでからはほぼ外さない。このまま行けば、不破と霧崎の得点を追い越せる。
そして不破の番。彼女は真剣な表情で位置取りし、フォームを確認するように数回振って準備を整える。
「ぜってぇ敗けねぇし」
意気込み、コントローラーを振りかぶろうとしたその時、
「そういやキララさ、最近キララママとはちゃんと会ってんの?」
「はぁ!?」
不破は盛大に暴投し、ボールは一直線にガターへと吸い込まれていく。
「ちょっといきなりなんなんだし!? 妨害とかウザ!」
「違う違う。いやさあ、ここしばらくキララってばずっとウッディんちにいたじゃん? 普段からあんま二人して時間合わないのに、余計に会えてんのかなぁ、って思って」
「はぁ? 別にマイに関係ないじゃん」
「うん。まぁそれはそうなんだけど……でもさぁ、その様子だとちゃんとキララママと顔合わせてないっしょキララってば。ってことは、そろそろ来る頃かなぁ、って」
「ちょ、やめろしそういうこと言うの。こういう時に限ってほんとに来たり――」
ピンポーン。
と、不意にマンションのインターホンが鳴った。不破はビクリと反応し、霧崎は「え? マジ。ウチってばエスパ―目覚めちゃった?」などとニヤついている。
太一は不破の奇妙な反応に首を傾げながら、応答ボタンを押して来客を確認する。
「あ、ちょっと待て宇津木!」
「はい、宇津木です」
不破の制止もそのままに、太一はマイクに呼びかけてしまう。
『あ、お久しぶりです。満天の母の燈子ですが、そちらに娘はお邪魔してないですか?』
なんと、来客は本当に不破の母親である燈子であった。
「はい、うちにいますけど」
「おいこら宇津木!」
『そうですか……あの、入ってもいいですか?』
「あ、どうぞ」
「うつぎ~~!」
さっきからなんなのだろうか。不破は太一の肩をガックンガックン揺さぶり、霧崎は笑いを堪えて口元に手を当てている。
しばらくすると、燈子が部屋の前まで上がってきた。
「宇津木さん、急に押し掛けてごめんなさいね。あ、これお土産です。つまらないものですが、涼子さんと食べて下さい」
「はい、わざわざありがとうございます」
「それで、あの、満天は……?」
「ああ、はい。ちょっと待ってくださいね。不破さ……っと、き、満天さ~ん!」
目の前の相手も不破だと思い直し、満天の名前を呼ぶ。女子の名前を下で呼ぶことに羞恥を覚えつつ、太一はリビングに声を張り上げた。
…………
静寂。不破は確かにリビングにいるはず。しかし顔を出してこない。これはいったいどうしたことか。太一が首を傾げる中、『ちょっ、やめろ!』という声が聞こえて来た。
すると、リビングの陰から不破が押し出された。どうやら隠れていたらしい。
彼女の背後で霧崎が楽しそうな表情で不破の背中に手を当てている。どうやら霧崎が不破の背中を押したようだ。
太一を挟んで親娘の視線が交差する。
直後――
「満天ちゃ~ん!」
「っ!!??」
太一を撥ね飛ばし燈子が不破へと突進。まるで本場のアメフト選手もかくやという見事なタックルを不破に決めて見せた。
「うごっ!」
不破の鳩尾に燈子の頭部が突き刺さる。娘というボールを抱えて宇津木家の床にトライを決めた。床が凹むからやめてくれ。しかし見事な一撃である。あれなら本場でも通用するのではあるまいか。
「満天ちゃ~ん、寂しかった~!」
「いってぇよママ! つかハズイ! 離れろ!」
「ようやく家に帰ってきたのに! 満天ちゃんってばいつも家にいないか寝てるかのどっちかだし! お母さん寂しいよ~!」
「だ~! ママ仕事は!? つかもう遅刻確定じゃん!?」
「あ、それは大丈夫よ。今日は有給とっちゃった♪」
「はぁ!?」
「ね、ね? だから今日くらいはお母さんと一緒にいて? おねが~い!」
不破の腰にしがみ付いて駄々っ子のような姿を晒す燈子。以前に会った時とまるで印象の異なるその豹変ぶりに太一は目を白黒させることしかできない。
「あらら~。ついにこうなちゃったか~」
リビングから霧崎が出てきた。
「あの、これは一体……」
「ああ、これ? キララママってね、キララのこと大好き過ぎて、しばらく会わないと禁断症状出ちゃうんだよね~。あんな感じで」
「……」
なんだそれは。不破は禁止薬物か何かか。そうでなければ猫のマタタビであろうか。いずれにしろ触らぬ神に祟りなし。アレには触れないのが賢い判断である。
「ああもう! 分かった! 帰る! 今日は帰っから! それでいいんだろ!」
「ありがとう満天ちゃん。ついでに一緒にお風呂入って~、一緒のお布団で寝ましょ」
「それやったら本気で家出すっから、マジで」
「満天ちゃんのケチ~」
アレが親子の会話か? 色々とぶっ飛んでいるというか、やけくそめいているというか。
「ね? キララママって可愛いでしょ? 娘LOVEすぎてちょい引くけどw」
「ああ、え~と……」
そんなもんどう答えろってんだ。肯定しても否定してもカドが立つ質問はやめてほしいもんである。
しかし、涼子があんな感じで太一に接してくる場面を想像すると……
「(ぞぞぞ)」
なにかおぞましいものが脳裏に映った様な気がした。
結局、不破は母親を引き摺るように宇津木家を後にするとことになった。娘が台風なら母親も負けず劣らずのタイフーンっぷりである。
最後に『お邪魔しました。太一君、いつも満天と仲良くしてくれてありがとう。それと涼子さんにも、後日改めてお礼に窺います、と……そうよろしくお伝えください。では』などと、不破を抱えたまま大人な対応を見せたところで既に彼女のイメージは原子レベルで木っ端みじんである。
「いやぁ、久しぶりに見たなぁあそこまで壊れたキララママ。よっぽど寂しかったんだねぇ」
「あ、あはは……」
乾いた笑いだけが込み上げてくる。
太一は実の母親との関係はどうにも微妙だ。ああして愛を全面に押し出してもらえることを羨ましいと思わないでもない。とはいえ、あそこまで人目を憚らず、となってくるとどうなのだろうと考えてしまう。
リビングに戻り、太一と霧崎は「せっかくだから」とゲームのプレイを再開させる。種目はボウリングからフットサルへ。
巨大な球を互いのゴールへと叩き込むスポーツゲーム。
しかしシュートなどは手にしたコントローラーを振る角度で変化する仕様である。
「あ、そっちはずるい! あぁ~スタミナたんないし~!」
「いやずるいって言われましても……あ、ゴールです」
「くっそ~! もう一回!」
珍しく霧崎と二人きり。なにげに初めてではなかろうか。霧島の性格故か、そこまでギクシャクすることなくプレイは順調だ。
しかし意外と負けず嫌いな性格のようで、何度敗北しようと太一に勝負を挑んでくる。体を動かしているからか少し汗ばんでいた。
「てかさ、前からちょっと思ってたこと訊いてもいい?」
と、不意に霧崎がゲーム中に問い掛けてきた。
「? 別にいいですけど」
「そ? んじゃ遠慮なく。ぶっちゃけさ、ウッディって――キララのこと好きなん?」
「はい!?」
太一から素っ頓狂な声が上がった。コントローラーの挙動も盛大に空振りした。
「いやさ。なんていうか……巻き込まれたって割りには色々とキララの面倒見てるわけじゃん? だからまぁ、そういうことなのかなって」
「な、な、な……ち、ちがっ」
涼子に続いてまたしても太一の気持ちを勘違いしてしまいそうな相手が増えそうな予感に、太一は、
「違います! 僕は不破さんのこと、なんとも思ってないですから! そもそも、僕なんかと不破さんじゃ釣り合いませんし、住む世界からして違い過ぎて好きになるとかそういう以前の話です!」
「あ、やっぱ? だよね~」
「え?」
思いがけず返ってきた、霧島の明るく、そしてドライな反応に太一は面食らってしまう。
「いやさすがにね? ウッディもなにげ色々と頑張ってるな、とは思うけど、キララと釣り合うかって言われるとそれは、ってなるじゃん?」
「そ、そうですね」
「そうそう。だいたいさ、自分なんか、とか言ってる相手と付き合うのって疲れるじゃん? なんていうかさ、相手にただ肯定されたがってるみたいな感じ? それってさ、ただの依存じゃん? ぶっちゃけさ」
「…………」
柔らかく、切り口鋭く、霧崎の言葉が心臓を抉る。
「まぁ、でも良かったよ」
「な、なにが、ですか?」
「ウッディがちゃんと身の程を弁えてる、ってとこ」
「はい……ありがとう、ございます」
どう応じていいかわからなくて、太一は俯きがちに、そう言った。そんな太一を前に、霧崎は小さくため息を漏らしながら、
「…………なんで、そこでお礼とか言っちゃうかな……ほんと、そういうとこだぞ」
ゲームの手は、二人とも止まっていた。
やはり、不破も、そして霧崎も……ギャルは陰キャに、優しくない。
改めて、太一は思い知らされた気分だった。
(´・ω・`)
『突撃のキララママ:※そんなタイトルではない』!
いかがでしたでしたでしょうか!?
この作品はハッピーエンドです! ハッピーですから!!
↑(作者全力でネタバレ…)
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