お一人様の自由だった週末よ、さらばアディオスまた逢う日まで
事前告知:
陰キャコーディネート回ですが、
文字数が膨大になったので前後編で分かれてます。
なぜかは知らないが不破からいきなり服のダメ出しをされた。
その末の結果がこれである――太一は駅ビルという名の人外魔境へと連行されてしまったのだ。道行く人も並ぶテナントも何もかもが輝かしい。まるで日陰者を寄せ付けまいとする神々しいまでのサムシングが太一の目を潰しにかかっているかのようだ。
今日は花金。週末前日。誰もがウキウキ心がハッピー、なんなら魂だってはっちゃける、一週間で最も俗人の心が浮かれる曜日である。なおほぼ全てのサービス業とブラック企業は除くぞ、まったくこの世は世知辛い。これぞまさしく格差社会。
明日に控えた休みに心躍らぬ者などいないだろう。その前日である金曜日は学校が終わればそこから休日が実質スタートしたと言っても過言ではない。誰もが週末の予定に思考をトリップさせて脳内麻薬がドッバドバ。既に思考は最高最強。誰にもこの熱いパッションは止められない。
惰眠を貪ってよし、趣味に一日中費やすもよし、恋人がいるなら好きにイチャツキ大爆発(こちらの発言に下ネタは含まれておりません)。
超エキサイティングでフリーダム。今ならきっと空だって飛べるはず。
――が、先にも述べた通り全人類が週末前日を楽しめるかといったら、そんなことなどがないのが辛い現実である。光あるところに影はあり。誰でもいいから全方位斉射できる間接照明を持ってきてくれ。全ての民に安息を。綺麗ごとと言いつつも、誰もがそれを望むのだ。
そして、ここにもまさに一人、両手に鉄アレイみたいな花の女子高生を携えた少年が、駅ビル見上げてこの世の終わりを迎えたような表情を浮かべる。
彼にとっては終末前日。
煌びやかなショウウィンドウが戦火に見えてしかたない。
太一の両脇を固める女子2人、不和と霧崎。陰キャの目潰しキラキラ空間な駅ビルが、この時ばかりは黄昏戦争の舞台のようにしか映らない。ならば太一の両脇に座する彼女たちは戦女神の類であろう。もっとも神聖さなど欠片も感じられるはずもなく、まさしく死神としての側面に全振りした鴉といった表現がしっくりくる。ヴァルハラでも奉仕そっちのけでこちらを足蹴にしてくるに違いない。
虜囚のように太一は2人に導かれるまま駅ビルへと突入。ふわりと拡がるリア充臭にめまいを覚える。
「とりまどっから回る?」
不破が案内板を前に霧崎と店の相談を始めた。
「予算厳しいしCUでよくない? それともユニトロでも行く?」
「どっちも似たり寄ったりだし適当に見て回ってそれっぽくコーデしてみればよくね?」
「じゃそれで。いつものショップは寄ってくの?」
「時間があればでいいんじゃん? 目的はこいつの服なんだし。あ、それと靴も適当に見に行くか」
「だね。じゃ、ウッディ。これからウチラの着せ替え人形ってことで、よろしく!」
「あ、たしかドングも入ってるしコス用のスーツとかグラサンとか買って着せてみね?」
「ああっ、それいいじゃん! ウッディ無駄に似合いそうだしw!」
「……」
なんなんだこれは……
太一の内心に応えるならどこぞでありがちな陰キャコーディネート回である。最も、これがお気楽デートイベントなどでないことはお察しの通りである。或いは太一が女子2人のおもちゃにされる罰ゲームイベントと言い換えてもそう間違ってはいないはずだ。
もはや太一のメンタルポイントは真っ赤を通り越してゼロである。そこに死体蹴りを喰らっている気分だ。
太一は数日前のことを思い出す。
この、どこのアホたれが用意したか分からないイベントのフラグが立ち上がった瞬間のことを――
(>A<)アウチ!
太一の自宅での基本スタイルはTシャツにハーフパンツだ。外出するときでも履き古したゆったりサイズのジーンズに襟がくたびれたシャツが基本装備である。色も黒や茶、紺などの暗色系のみ。
今日は不和が太一の家で世話になり始めて4日目の朝。まだ軽い痛みはあるようだが若さ故の回復力か、足首の腫れはほとんど引いている。
不破は太一の部屋に押し入り彼の持つ数少ない服を並べさせて盛大に溜息を零した。太一は部屋の主であるにも関わらず、床に正座してビクビクと不破の様子をおっかなびっくり窺っている。
「だっさ……ていうか、ここまでいくとむしろ不潔」
登校前。自室で始まったファッションチェック。ブルー、ネイビー、黒の3本のパンツ。黒、茶色、紺、グレーのシャツ。どれもくたびれ具合が目に付く。パンツは膝や裾周りが擦り切れて生地が薄くなりテカテカしている。シャツやTシャツも襟は形が崩れ、全体的に皺が目立つ。相当前からまともに服を買ってない証拠が漂っていた。
「あの~、なんで急にこんな……」
「うっさいちょっと黙ってて」
「すみません」
ピシャリと言葉を遮られて小さくなる太一。不和は考え込むように顎に手を当てていた。その立ち姿が妙に絵になる。
……はぁ、今度は一体何なんだろう。
先日、急に「服がダサイ」と指摘され、今朝になって「あんたの持っている服改めて確認するから」と部屋に突撃を仕掛けられた。あまりにもゲリラ的すぎてまったく対処のしようもなく、太一は言われるがままに部屋に服を拡げさせられる羽目になったわけである。
「ああ、やっぱダメ。どう組み合わせてもダサいイメージしか沸いてこないし。それ以前にこれ買ったのいつだよ? もうぼぼぜんぶ雑巾じゃん」
そこまで言うか、と思いつつ、太一は改めて拡げられた服を見渡す。
……確か、最後に服を買ったのって、1年前くらいだっけ。
中学を卒業した直後だったか。新生活を始める前に上下一式、パンツとシャツを一着ずつ買った記憶がある。
それ以外は、ほぼ中学の時からかなりヘビロテして着まわしているものばかりである。
かなり大きめのゆったりサイズのため、成長してからも問題なく着ることができてしまった。故に新しく服を買う必要はないと今日まで来てしまったわけだ。
不破は眉間にしわを寄せて部屋を出ると、今度は玄関に視線を下して太一のこれまた黒いスニーカーを注視した。
こちらは服以上にボロボロで悪い意味で年代物感が出ている。
せめてもの救いとして臭いこそしないものの、ロゴは擦り切れ踵は潰れ、靴の中も長い期間を経て黒く変色していた。
「……」
不破はもはや無言。腕を組み太一の部屋に戻ってくる。彼女は我が物顔で椅子に足を組んで腰掛けると、
「0点超えてマイナスだわ」
一方的に採点結果を発表してきた。理不尽だとは思うが、確かに目の前に展開された衣服は着る者の印象を全力で貶めることに特化した代物ばかり。人間他人の内面なんて実際どうでもいい。人は見た目が100%なのである。
不破は太一の衣服を写真に撮ると霧崎に送信した。
『なにこれ?
朝っぱらから廃棄物の写真送ってくんなし』
霧崎からの返信は容赦がなかった。
『いやこれ宇津木の私服』
『マッ!?』
恐れおののくアホ面イグアナのスタンプが一緒に送られてくる。
『正直前から着てる服ヤバイとは思ってたけど…
これはさすがにないわ…』
太一が見ていないのをいいことにボロクソの感想を送り合う二人。
当の本人はいつまでこのままでいればいいのかと首を縮めて待機中だ。
『やっぱ服一式買わせねぇとダメだわ
なんか一緒にいるのがかなりヤバイ感じしてきた
つうわけで、今週の金曜予定空けといて』
『別にいいけど…
てかウチいる?
二人でよくない?』
少し間が空き、
『二人きりで服買い行くとかない
付き合ってるわけでもねぇのに
つかあいつとカップルとかマジで無理』
『ああハイハイ
そういう感じね
それじゃとりまバイトもないし予定は空けとく』
『おう
じゃあ金曜な』
『りょ』
と、霧崎から敬礼するイグアナのスタンプが送られてきたのを最後に、二人のやりとりは終わった……かと思ったら、
『でもさぁ
キララがカップル意識するとか
これはもしやウッディにもワンチャンあったりw』
『シネ』
不破はリアルゾンビのスタンプを張り付けてスマホをポケットに押し込む。
数回にわたり霧崎から抗議のメッセージが届くが不破は全てスルーした。彼女は整えた髪をガシガシと掻いて、
「おい宇津木!」
「はい!」
「金曜! 服買いにいくから! ぜってぇ予定入れんなよ! 入れたらぶっ飛ばす!」
「え? それって、昨日言ってたヤツですか? あれ本気だったんですね」
「そうだよ! いちいち訊くなし鬱陶しい!」
「ええ……」
なにやら今回は輪をかけて理不尽に怒りをぶつけられている気がしないでもない太一であった。
(ー△ー;)エッ、マジ?!!
陰キャコーディネート回!
全編という名の導入編です!!
明日にこの続きを投稿します!!!
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