素直になれない女の子が可愛いだって、バカ言えっての
不破が宇津木家に居候し始めてから既に3日。
学校では霧崎にもフォローしてもらいつつ、不破の宇津木家での生活は太一の予想に反して比較的穏やかに過ぎて行った。
が、ここで間違えてはいけないのは『比較的』としっかりつくところである。
いかに足首に故障を抱えていようが不破は不破。涼子のいない間は太一が彼女の相手をしなくてはならない。しかも霧崎と知り合ってからというもの、彼女も毎日のように宇津木家に突撃してくるという流れまでできあがってしまう有様だ。
自宅だというのにまるで心休まる気配がない。むしろ精神力が滅多打ちされてゴリゴリと削り取られていく始末。メンタルへのスリップダメージも大概にしてほしいものである。
「だっはぁっ!? きっつ~! やっばいこれ! 想像以上に鬼きちぃ!」
学校終わりの放課後。例のフィットネスゲームをプレイしているのは霧崎である。リング状のコントローラーを手にそのまま脚を大きく投げ出すようにヨガマットの上で座り込む。額からは汗が染み出し、制服のシャツも汗塗れで色々と透けてしまいそうである。
「マイだらしねぇぞ~w。ほらまだステージ終わってねぇし走れ走れ~!」
「ちょ、いったんタイム……こんなキツイとか思わないじゃん普通。ゲームだよゲーム? なんでこんな汗まみれなんウチ?」
「いやそういうゲームだから」
「うぇ~、やるんじゃなかった~……ウッディ、後でシャワー貸して~……マジで全身キモチち悪いんだけど~」
「は、はい……っと、はい。好きに使ってください。お風呂は入りますか?」
「できればよろ~」
「分かりました」
霧崎からの要望に返事をする際、わざわざ言い直した太一。が、不破は太一にニヤリと意地の悪い笑みを浮かべ、
「宇津木~アウト~」
「ええ!? 今のもダメなんですか!?」
「口にした時点でダメに決まってんじゃん。それじゃデコピン一発ね」
「うぅ~……」
不破は中指に力を込めて太一の額にデコピンを見舞した。「いった~!」と額を抑える太一、それを見てケタケタと笑う不破。
「お~い、二人してイチャついてんじゃね~。こちとらベッタベタのグロッキーだってのに~、良い身分だなちくしょ~」
「は? アホ言うなし。これは教育だから、きょ・う・い・く」
「……」
太一は額を抑えて恨みがましい目線を不破に送った。
しかし彼女はどこ吹く風。どこか勝ち誇った様な笑みを見せて太一を挑発してくる。相変わらずの不破節に辟易しつつ、太一は浴室へと消えていった。
先日。サウナで不破から太一の癖やら仕草やらを指摘されてからというもの、彼女はそれを矯正してやらんと言わんばかりにいらぬお節介……もとい一歩的な攻撃的なスキンシップを計ってくる。
『一回ミスるごとに一回デコピンな』
などと勝手に決められた挙句、太一が言葉に詰まる、言い澱む、姿勢が悪くなるなどした時など、先程のように『アウト』の一言と共に体罰が下されるのだ。
なんとも理不尽な仕様である。早急な仕様変更が求められる案件だ。しかも判断基準が不破というのもまた理不尽極まりない。サウナから始まり一日で平均して5~6回はデコピンを喰らっている。
威力はピリッとした痛みが走る程度だが何度もやられてはたまらない。太一は意識的に姿勢を正す羽目になり話口調にも気を使う日々を送る羽目になっていた。
……あれかなぁ……自分がまともに運動できないからって八つ当たりしてるのかなぁ。
ここしばらくは不破の攻撃性も鳴りを潜めていたのだが、ここにきて妙な絡み方をしてくるようになって太一としては溜息が出るばかり。
太一にとっての癒しはもはやトイレか風呂の二つしかないときた。
静かが恋しい。
なんの憂いもなくだらけられた日常よカムバック。不破がジョギングできないというのに、なぜか毎日のように彼女は太一よりも早く目覚めては彼を叩き起こし、
『せっかく痩せたんだしもったいねぇじゃん』
などと言いつつケツを叩かれ、或いは叩き出され、強制的にジョギングの日課を継続させようとしてくる。
ギャルはもっと適当な生活習慣を送っていると思ったのに、なぜこうも規則正しい生活を彼女から要求されているのだろう。
……でもなぁ。
そう。確かに理不尽を感じずにはいられないが、不破からの要求されていることは見方さえ変えればある意味で太一のためになることでもあるのだ。
話し方の矯正、姿勢の改善、早朝の日課の継続……
本人が望む望まずに関わらず、これから社会に出ていくなら話し方や姿勢は直しておいて悪いという事はない。
ジョギングとて心身を整えたりと健康面で考えれば習慣化する事ができればかなりプラスに働くだろう。
だが、
「せめてもっと優しくしてくれればなぁ」
結局はそこが問題の根幹である。当たりがキツイとどうしても人間反発したくなるものだ。物事の良い悪いに関わらず、感情的になってしまい正しく判断が下せなくなってしまう。
特に不破の態度は太一の神経を逆なでするようなものが多い。
物事の捉え方とは単に自分がどう感じたかで良くもあれば悪くものなる。結局のところ、ただ事実のみをくみ取るなどよほど悟りでも開いてなければ一介の男子高校生にできる芸当ではないのだ。
それに不破が太一をどうしたいのかもわからない。ただ適当な理由をつけてからかっているだけか、本当に八つ当たりでもしてるのか、或いは何かもっと別の意図がるのか……
いずれにせよ、今の太一が思うことなど一つである。
――さっさとダイエット終わらせて彼女たちとの関係に終止符を打つ。
そうすれば、彼女がどんなことを考えていようが関係ない。
泡立てたスポンジを手に、太一は浴槽の汚れを力強く擦り落としていった。
|__(;´・ω・)ゴシゴシ_|
一方、太一が消えたリビングにて……
「はぁ~っ! 終わり~! もう無理たてない~!」
霧崎はゲームを終えてマットの上に体を沈めた。大きく脚を開いた大の字で床に寝っ転がり、彼女の短いスカートは角度によっては確実に下着が拝めてしまう。
「おつかれ~」
「あ~……もうマジで立ちたくな~い」
「分かる。アタシも最初はマジでキツかったし。ほれ」
「あんがと~……キララマジでてんし~」
不破からペットボトルを受け取る霧崎。
ぐびぐびと喉を鳴らして一気に流し込む。
「ぷはぁ……ああ~生き返る~。簡単そうに見えたけどやってみるとやっぱ違うわ~。つかウッディ何気にすごいじゃん。これやってもほとんど息切れてなかったし」
「まぁなんやかんや一月はやってっしな」
「ウチはもういいわ~……」
「三日坊主以下じゃんw。まぁアタシも本気でダイエットしてなかったら速攻でやめてたかもだけど」
「だよねぇ。キララがここまで本気になるのってなんか久々じゃね」
「そりゃやっぱ見返してやりたいからじゃん? 昇龍の奴さ、いきなり『別れる』とか言ってきて、その上まわりに人いる中で『太ったから』とか『ヤッた時に腹が弾んだ』とか言われてさぁ。もうあんときよくアタシあいつのこと殴らんかったって自分のことほめてやりたいくらいだし」
当時を思い出してか不破はクッションをボスボスと殴り始めた。
「まぁね。てか一発くらい殴ってやればよかったのに」
「ほんそれ。失敗したって思ってる」
「だよね。でもよく我慢できたよね。キララって咄嗟に手出るタイプじゃん?」
「おい、人を条件反射で動くみたいに言うなし」
「いやそれ普通に事実だから」
やれやれと首を左右に振る霧崎。不破は見た目のまま直感的に動くことがほとんどだ。興味を持てばどんなことも取り合えずはやってみるがスタンスの行動派。活発で向こう見ずな側面が目立つものの、それが彼女の良い所とも言える。
「でもさぁ、やっぱどんな理由があってもなんやかんやしんどいじゃん、ダイエットとかさ」
「そりゃ楽じゃねぇよ。なんつっても疲れるし」
「だよねぇ……でもさ、こうしてちゃんと続いてるわけじゃん? ケガしてもやれることやってるわけだし」
「まぁな」
不破は霧崎からリング状のコントローラーを受け取る。
ソファに腰掛けたまま、不破は上半身だけに絞ったフィットネスメニューを選択してプレイし始めた。
「……キララさ、もちっとウッディのアタリ柔らかくしてやった方がいいんじゃない?」
「は? 急になに?」
「いやさ、話きいてるとウッディもキララのダイエットにけっこう協力してるっぽいじゃん? カラオケとか、こないだのサウナとか半身浴とか? 全部ウッディの提案なんしょ?」
「まぁ……そうだけど」
経緯はどうあれ、太一が不破のダイエットに積極的に意見をまとめ行動している事は確かだ。それに宇津木家で世話になり食生活の改善にもかなり助けられている。食事に関しては涼子の存在が大きいものの、それだって太一との繋がりがあってこそだ。
「まぁさ、ウッディもキララがフラれた時に笑っちゃったみたいだけどさ、ここまでしたらそれも帳消しっしょさすがに」
「別に、もうそんな気にしてねぇし」
「だったらもう少し付き合い方変えた方がいいって。ウッディの性格的にたぶんキララの言い方とかかなり気にしてると思うよ?」
「だったらそう言えばいいじゃん。言ってこない方が悪くない?」
「まぁそうだけど……でもそこはほら? 『譲歩』? 的な感じでキララが折れるべきじゃない? こないだだって助けられたんじゃん」
「……なに急に説教してきてんだよぉ。ウザいっての」
「まぁそう言うと思ったよ。でも、キララってば全然『ありがとう』の一言もってないんじゃない?」
「……」
無言で顔を逸らす不破。確かに今日まで車にぶつかりそうなところを助けてもらった礼の一言も口にしてはいない。こういうのは機会を逃すと途端に言葉にするのが難しくなるもんだ。
が、
「いや、でもこないだのサウナんときにそれっぽいことしてやったし」
「え? マジで? なにしてあげたわけ?」
「まぁ、あいつの腕に抱き着いてみたりとか?」
「いやキララがウッディを支えにしただけじゃん」
「胸とか押し当ててやったし」
「それ絶対ウッディのことからかう感じにしかなんなかったでしょ」
「「……」」
お互いに無言の時間が流れた。
が、沈黙を霧崎が破る。
「はぁ……とりあえず無理にとは言わないけどさ、さすがにダサいことにならないようにしなよ」
「うっせ。分かってるよ、ったく」
それっきり、不破はコントローラー片手にフィットネスに意識を逃避させる。
しばらくすると風呂の準備を済ませた太一がリビングに戻ってくる。
しかし部屋に入った瞬間、どうにも彼女らの雰囲気がおかしいことに気付く。だがそこは触らぬ神に祟りなしの精神。スルーを決め込むのが正しいと太一は首を傾げるだけにとどめた。
霧島に風呂の準備ができたことを伝え、入れ替わりに不破と二人きりになる。
すると、
「なぁ宇津木」
「はい、なんですか?」
「あんたってさ……」
妙な間が空き、太一は不破に視線を向けたまま続きを待つ。
と、彼女は少しムッとしたような表情を浮かべ、
「私服、かなりだっぜぇよな」
「急になんの話ですか!?」
本当に意味が分からない。なぜここでいきなり太一の服装に関する話、というかダメ出しが飛び出してきたのか。
「うっせ! 黙って聞けや!」
「はい! すみません!」
「ああ……まぁだからさ……」
ビクビクしつつ、太一は不破を刺激しないようにその場で直立不動になる。
不破は髪を掻いて「ああっ!」を声を上げると、
「アタシの足治ったら、あんたの服買いに行くから! しばらく予定いれんなよ!」
「えぇ!?」
「返事!」
「はい!」
などと、少し頬を赤くして太一を指さし、彼のスケジュールに強引に予定を突っ込んだ。
不破の声は部屋全体へと響き、それを浴室から聞いていた霧崎は、
「あ~あ、ダ~メだこりゃ」
と、呆れながら汗を流した。
ヤレヤレ(´。` ) =3
さぁ!
ここからちょっとづつテンプレートへ突入か!?
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