【毎日家に来るギャルが距離感ゼロでも甘くない】:先行プロローグ
お久しぶりです
今月22日から『ギャルゼロ:WEB版』新シリーズスタート予定!
『うぃ~っす! 太一~、あっそびに来たぞ~!』
日曜の昼下がり。マンションの一室。
もはや聞き馴染みすぎる声に、宇津木太一はソファに腰掛けリビングの扉を、鋭い目つきで見つめる。
廊下でダンダンと足音を響かせ近付く気配。扉が勢い良く開かれ、そこから姿を見せるのは一人のギャル……不破満天。
金に染めた長い髪、両耳のピアスはいくつもの鈍い光を反射し、開かれた口内から覗く舌にまで銀のピアスがこんにちは。
肌寒くなってきた11月。満天はスラリとした長身で腰も位置も高く、プロポーションは抜群。程よく張り出した胸に括れたウェストが薄手のニット越しにも見て取れた。
もはや説明不要だろうがあえて言おう。彼女はギャルだ。それもゴリッゴリの。
「あれ? 今日は夕方から来るって話じゃ……」
「ああ、あれウソ」
「ウソ!? え、なんで!?」
ツッコム太一。しかし悪びれる素振りもなく、平然とした様子で不破は太一の隣に腰を下ろす。
すると、じ~っと太一の顔を覗き込んできた。
「あの、なんですか?」
「好き」
「ぶっ!?」
吹いた。
「ちょっ、きったねぇな! 告白してきた女子にツバ飛ばしてんじゃねぇよ!」
「不破さんが急に変なこと言うからじゃないですか!」
「変って何だこら! こちとら真面目に愛の告白してんだろうが!」
……いやこれで!?
諸君。おわかりいただけただろうか?
何を隠そうこの不破満天、太一にガチ恋しているのである。
しかし、
「てか何度言えば分かんだっての! き・ら・ら! 名前で呼べって言ってんだろうが!」
「ぐぇっ!!」
満天が太一の首をホールド、そのままチョークスリーパーを決めてくる。
好きとか言ってるくせにいきなり関節技を仕掛けてくるとかトチ狂っているとしか思えない。
満天の割と大きなパイが背中に当たるもそんな感触楽しんでる暇などありゃしない。
ゼロ距離密着かましてここまで甘くならない触れ合いとか誰得という話である。
そう、この満天、とにかく手が早い。あとついでに口もすこぶる悪い。
性格は苛烈の一言。過去にこれで停学を食らって現在イエローカード状態。
「ったく、反省しろっての」
「ぜぇぜぇぜぇ……な、慣れてないんですから、勘弁してください」
「次に不破なんて他人行儀な呼び方しやがったら本気で落とすからな」
「……」
あの、あなた本当に彼のことが好きなんですよね?
意中の相手にチョークスリーパーを仕掛けた上に、呼び方間違えたらガチで絞め落とすとか言ってくるこの女子あまりにも怖すぎるんだが。
「うし、んじゃ邪魔な連中が来る前に色々とやっちまうか」
「はい?」
「りょうこんも今日はいねぇんだったよな?」
「そうですけど。姉さん、急に地元イベントの仕事が入ったとかで……」
太一には社会人の姉がいる。名前は宇津木涼子。普段の彼女は休日だと家でひとり小説を読んだりサブスクで映画を観たりして過ごしているのだが、今日は生憎と仕事で出掛けている。
「といいますか、ふ……満天さんはなんでこんなに早く家に来たんですか?」
夕方……満天の他に3人の女子も太一の家に来ることになっていた。涼子が夜遅くまで帰ってこないため皆で夕飯を作って食べよう、という話だったはずだ。
というか、そういうふうに提案してきたのは目の前のギャルである。
「べっつに。特別な理由とかねぇっての。アタシはただ、あんたと二人きりの時間が欲しかっただけ」
「っ!」
思わぬ満天のストレートな発言に太一は思わずドキリとしてしまう。
彼女は手も早いし口も悪いが、決して悪人というわけではない。
太一も満天の生き方や考え方には憧れているところがあり、特に最近は彼女と接している時間が長いせいか『なんかキララに似てきたよね』と周りから言われるようになった。
「んじゃ、シャワー浴びっか」
「今からですか?」
さすがに少し早くないだろうか。
なんて思っていたら、
「なにボケっとしてんだよ。あんたも一緒に行くんだよ」
「ホワイ!?」
思わず英語出ちゃったよ。
いやしかしなにを考えているんだこの女。
年頃の男女が一緒にシャワーとかもはやアレでしかない。
いや濁すのはやめよう。普通にエロいことしか想像できん!
「もうアタシ告白してから一週間なんだけど? だってのにまだグチグチ悩んで返事ねぇじゃん。ああもうこれは一発ヤッテ腹を括らせるしかねぇな、って」
「いやいやいやいや!!」
力業が過ぎる!
本当に何を考えてるんだこの女!
いや確かに告白されてからずっとなぁなぁでやってきた太一も悪いけど!
しかしここに来てまさか強硬策に打って出るとは予想外が過ぎる。
……やばい。完全に満天さんのこと舐めてた!
まさか付き合うまでは手を出しては来ないだろうと高を括っていた。
だが普通こういうのって男女で立場逆じゃない!?
なんで男の太一が女子である満天に捕食されそうになってんの!?
高を括ってたら腹を括る羽目になるとか笑えない。
「おら行くぞ太一!」
「いや待ってくださいもう少し話し合いの余地とか!」
「んなもんねぇ! ていうかあんたが女子に慣れんの待ってたらババアんなっちまうっての!」
「そこまで言います!?」
「いいから来い! なんなら風呂場でハジメても問題ねぇから!」
問題大ありじゃバカちんが!!
やいのやいの、ソファにしがみつく太一と引きはがそうとしてくる満天。
実に近所迷惑な連中である。
さて諸君。陰キャに優しいギャルをどう思う?
絡まれて嬉しいとか抜かせる輩に物も申す。
冗談じゃねぇ!
なにをどうとち狂ったらあんなパーリーピーポーウェーイ系とつるもうなんて思えるのかを問い詰めたい。もはや議論の余地なしギルティ確定ゴートゥーヘル。
あの世で閻魔様に脳みそを斜め45度の角度からぶん殴られることを強くおススメしておこう。
物事を正常に判断できるようになってから生まれなおしてくるんだな。
「いい加減観念してアタシと風呂入れっての~!」
「い~や~で~す~!!」
据え膳食わぬは男の恥とか無責任なことを言う奴に言ってやろう。
女子に本気で喰われそうなシチュエーションとか、普通に恐怖以外の何物でもない。
いや確かに不破は美人である。スタイルもいい。過去にモデルの経験もあるくらいだ。
エロいことできるなら「きゃっほう!」と大喜びできる奴の方が多いかもしれない。
だが太一の脳みそが警鐘を鳴らすのだ。
ここで流れに身を任せたらあとで滅茶苦茶めんどくさいことになると!
――ピンポーン。
リビングもみくちゃやってる二人の耳に、ふとインターホンの音が響いた。
『ねぇちょっとたいちゃん!? いまそこに満天さん来てるよね!? 入るよ! てか入るから!!』
と、いきなり扉が開く気配がしたかと思えば、先ほどの満天など比ではない複数の足音が廊下から響き、
「ああ~! やっぱりいた! ……いやていうかなにこの状況!?」
「うわ~……抜け駆けとかマジ? キララこっす~」
「ふふ……お邪魔します。なんだかおもしろいことになってるじゃない?」
リビングに入って来た3人の女子。
中世的な顔立ちに、色素の薄い髪の女子、夏休み明けに転校してきた太一の幼馴染……大井暁良。
小柄で浅く焼けた肌、黒い髪の毛先は赤く、満天同様にピアスを空けたギャル……霧崎麻衣佳(本名:霧崎麻里佳)。
やけに大人びた黒髪美人、4人の女子の中で最もたわわな胸を持ち、ミステリアスな雰囲気を放つ……鳴無亜衣梨。
「なんか嫌な予感したんだよね~……来て正解だったわ」
「チッ」
「うわ、露骨に舌打ちしたんだけどこの女子」
暁良と満天が睨み合う。
そんな中、麻衣佳が太一に近付いて、
「一応訊くけどさ、まだヤッテないよね?」
「いや~、ヤルッってなんのことでしょう?」
「いや普通にセッ○ス」
「本当にドストレートですね! ヤッテませんよ!」
「ふぅ~……ウッディがチキンで助かった~」
「それ褒めてませんよね!?」
本気なのかボケているのか分からない麻衣佳にツッコム太一。
一瞬にしてカオスになった宇津木家のリビング。
「ちょっとたいちゃん! あーしの告白もまだちゃんと返事してないんだから! 他の子に目移りとかするのはさすがにナシだと思うんだけど!?」
「お前はキッチリ振られただろうが!」
「は~? まだ確定じゃないし~?」
おいやめろ。二人して太一の頭を手で掴んでサンドイッチするんじゃない。
騒がしいリビングで、鳴無は部屋の面子を眺め、観察し、
「……ふふ、ほんと……退屈しないな~」
などと、ひとり蚊帳の外から状況を愉しむように、妖しい笑みを浮かべていた。
女子ばかりの空間。胃がキリキリしてくる太一は思う。
この部屋に来るギャル全員、距離感ゼロのくせに誰一人として甘くない、と。
(☞三☞ ఠ ਉ ఠ))☞三☞ナニヤッテンダ~!!
「――へぇ~、あんだけデブってモデルクビになったくせに、随分と頑張ってダイエットしたじゃ~ん」
別クラスから来襲し満天に喧嘩を吹っ掛けてくる命知らず女子まで登場!?
その名は――「矢井田栞奈」。
果たして、彼女の登場が、太一に更なる波乱をもたらすことに!?
このストーリーは22日投稿スタートする『ギャルゼロ:WEB版』の新シリーズ
【毎日家に来るギャルが距離感ゼロでも甘くない】を投稿する前の導入的位置づけの話になります
※投稿当日は本作【毎日家に来るギャルが距離感ゼロでも優しくない:WEB版】内でも、作品へのURLへジャンプできるリンクを張った告知を「最新話」として投稿しますので、どうぞよろしくお願い致します




