毎日家に来るギャルが距離感ゼロでも優しくない
「おい、こら太一……あんた昨日アタシの告白直後に逃げ帰ったよなぁ~、あん?」
人気の少ない校舎裏。目の前で不破満天が鋭い眼光で一人の男子生徒を睨みつける。
鼻先がくっつくかと思えるほどに……いやもはやくっつくほどに距離は近く、しかし背筋に走るゾッとするほどの寒気に宇津木太一は目を逸らした。
「い、いや、ぼ、僕は……別に……」
「はぁ? 言い訳してんじゃねぇよ。ひとがマジな告白したあとに一人で家帰るとかマジでねぇだろうが!」
「そ、それは~……」
不破満天、クラスカーストのトップに返り咲き、ヒエラルキーの最上層を爆走中。気が強く周囲を威圧する鋭い目つきに、がっつり染めた金の髪、更には耳、口を開くたびにチラと見える舌にもピアスを開けたゴリゴリのギャル。
デジャヴュ!!
なんだこれは? 歴史再現でもしとんのか?
不破と初めてまともに言葉を交わしたあの時からもう5ヶ月が経つ。
初めて出会った時は恐怖したか感じなかったが、今では彼女の態度にも慣れて……いややっぱり訂正。
こうして凄まれるとやっぱり怖いですはい。
「ふ、不破さん、あの」
「キララ」
「はい?」
「不破さんとか他人行儀なのナシ、キララって呼べって昨日いったよな?」
「…………キ、キララ……さん」
「……」
すると、彼女は顔を赤くして身を離した。
それでも胸倉をつかむ手を放してはくれないんですね。
苦しいんですけど。
「で? 答えは?」
「えっと、それはやっぱり」
「告白の返事に決まってんだろうがよ!」
「ぐえ」
首が締まる。なんてことだ。一瞬だけ甘くなりかけた空気が瞬時に蒙古タンメンも引くレベルの激辛空間に早変わり。
辛いのが苦手なこの女の口に突っ込んでやろうか。
「マジ、どうなんだよ?」
「それは……」
昨日の夜。
太一は混乱する頭を必死に回して不破への好意について考えた。
それはもう、誰とも連絡を取らず、姉の涼子とも距離を取り、一晩中、夜を通して……
ずるずると考え続けても袋小路の沼に嵌まるだけ。
なにより、屋上からの告白なんて覚悟のいることをやってのけた不破……キララを、必要以上に待たせるのはこの上ないほど失礼だと思った。
だからこそ、太一は全く不慣れな恋愛事情に頭を悩ませ、結論してきたのだ。
「僕は――」
しかし、太一の答えは、
「キ、キララさんの告白に――」
最初からどこか、決まっていたように思う。
「……お答えすることは、できません」
それが、彼が一晩考え抜いた末に出した、キララへの返答であった。
(´・д・`)ごめんなさい・・。
――体育祭とキララの告白という一大イベントを乗り越えて迎えてから数日が経ったある日の放課後。
「あっ!? おいこらてめ! そのはめわざやめろっての!」
「お~。ついにキララさんもはめわざという概念を覚えたんだ~。じゃあ遠慮なく」
「あ、ちょっ!?」
「…………」
宇津木家リビング。
11月に差し掛かろうとしているこの時期、空の太陽は西の彼方へ沈み、夕闇が空を覆う中……彼の家には4人のギャルがたむろしていた。
「アイリってこのキャラばっか使うよね~」
「だってなんかきらりんに似てなくない? やっぱり好きな子使ってる時が一番テンション上がるっていうか~」
「その割にはこの中で一番下手じゃん」
「マイマイ辛辣~」
「…………」
最大8人参加可能な格闘ゲーム。
暇になると始まるようになったゲーム大会。
時刻は19時を回り、背後で涼子がキッチンを忙しく動き回る気配がしていた。
「あの……」
「あん? いまちょっと集中してっから話しかけんな」
「いや……」
体育祭の翌日、キララの告白を断ったはずの太一だが。
「キララさん、重いんですけど……いえ、それ以前に」
彼女は今、ソファに腰掛けて太一の頭をテーブル代わりにするように体重を完全に預けてきていた。
というか、身長がある分彼女の胸が太一の頭に乗っかり、その両足は彼の肩を跨ぎ、ぎゅうっとホールドされていた。
「これは、ちょっと恥ずかしいと言いますか」
「あんたはもうちょっと女に慣れるとこから始めねぇとダメってこないだ言っただろ。これくらいで意識してんじゃねぇよ」
胸やら太ももやらとにかく女性の柔らかい部分が密着くる。意識するなとかどんな無茶ぶりだ。それ以前にこんなもん付き合ってるカップルだってもうちょい意識するわ。
加えて、
「霧崎さん」
「マイカ」
「……マイカさん……そろそろ足が痺れてきたんですけど」
「我慢してね~……ていうかもう何度目? ちゃんと名前で呼べし」
「……」
太一の胡坐を組んだ脚の上。霧崎……マイカがまるで座椅子にでも腰掛けるように太一に身を預けている。
しかも、ゲーム中のためコントローラーを握るために彼女に腕を回すような格好になってしまっていた。
先程からずっと顔に触れる彼女の髪の毛。シャンプーの甘いに匂いがしてまったくゲームに集中できない。
そして、
「あの、ヤヨちゃん……それと鳴無さんも、なんでこんなくっつく必要があるんですか?」
「ええ~、ちょっとなんでみんなは名前呼びになってるのにワタシだけ苗字なのかな~。アイリでいいっていったじゃ~ん」
「あーしは別にこうしたいからしてるだけ。別にイヤじゃないんでしょ?」
「いえ、すっごいコントローラー握りにくいんだけど」
「じゃあもっと密着しないとね~」
鳴無……もといアイリと大井……こと暁良が、太一の腕に自分の腕を絡ませて限界以上に密着してきていた。
両サイドからガッツリと触れてくる二人の胸。
羞恥を覚えるより先に太一は頬を引きつらせることとしかできない。
いったいなんでこんなことになっている。
状況だけ見て羨ましいとか抜かす連中にこの状況からもたらされる居心地の悪さは伝わるまい。
さっきからマイカが腰の位置を微調整するたびに股間が刺激さ、キララが身を乗り出せば頭の上に乗っかった二つの重量物の感触がダイレクトに脳へと伝達。
おまけに両サイドを二人の女子挟まれ半身どころかほぼ全身を女性の体に包まれているこの状況……ハッキリ言って異常である。
先日、不破の告白を断った太一ではあるが、彼女を相手にただ『ごめんなさい』、『わかった』で話が終わるはずはなく。
『ダメ』
告白を断った太一にキララが返した言葉は、まさかの否定形であった。
断ることをまさか断られるとは思わなんだ。
しかも、キララは太一に告白してからというもの……
『太一、弁当』
彼の分の弁当を用意(これまではずっと涼子が作っていた)してきたり、
『ねぇキララ、今日さうち等と駅前に』
『悪いけどパス。太一、帰んぞ』
『ふ、不破さ、』
『キ・ラ・ラ』
他の誘いを断って太一と腕を組んで帰宅してみたり……ちなみに、登校時も普通に密着してくるため注目が集まる集まる。
『たいち~! 背中流してやんぞ~!』
『ちょぉぉぉぉぉぉぉ~~っ!?』
全裸で太一が入ってる風呂に突撃をかましてみたり……おい前の羞恥心どこに置いてきた。
とまぁ、そんな感じで、これまでと変わらないように見えて、微妙に変化した距離感で接してくるようになった。
太一がキララに抱いている感情は『憧れ』だ。
それはとても強い羨望……不破満天という少女は、常に太一の前を歩き、その背中で彼を引っ張てきた。
女性に使う言葉ではないかもしれないが、太一は彼女を、ずっとカッコイイ存在として見ていた。
そんな彼女が、自分を好きになった。
憧れの存在に認められたような気がして、嬉しくないわけじゃない。
それでも、太一にとってキララは恋愛対象ではなかった。
しかし、キララはそんな太一の言葉を聞いても、
『知らねぇよ。アタシは自分の好きって気持ちを優先するだけだし。あんたが"まだ”アタシのこと好きじゃねぇってなら、無理やりにでも好きって気持ちにさせるだけだから』
それは、いつの日かされた、暁良からの宣戦布告を彷彿とさせた。
『てか、アタシとしては告ったあとにあんたをそのまま押し倒しても良かったんだからな!』
肉食系が過ぎる。
彼女は太一を指さし、
『覚悟しろよ。ぜってぇ逃がさねぇから』
などと、ちょっと顔を赤くして宣言してきたのだった。
……う~ん。
「だぁ! このっ……よし! このままぶっ飛ばす!!」
「はぁっ!? ちょっとちょっとそれはズル……ああ~!?」
「うっしゃアタシの勝ち!!」
いつものように、しかしいつもとは違う日常の中。
西住との関係を決着させ、次なるステップを踏み出したキララは、太一への強い好意を持って、今日もアプローチを続けている。
「おい太一! アタシとダッグであいつらボコすぞ! 負けたらシメるから本気でやれよ!」
ぐりぐりと、こめかみに彼女のコントローラーが抉り込む。痛いからやめれ。
「アタシらが勝ったら一緒に風呂入って背中流してやるよ」
「は~いキララそれアウト~」
「イヤならそっちが勝って太一と入ればいいだろ」
「へ~、じゃあそうさせてもらおっかな~。あーし、次はマジで手加減しないから」
「え~? じゃあワタシが勝ったらきらりんとお風呂でえっちとかアリってことで~」
「シネ、牛ちち」
「ひっど~い」
「あの、僕の意思は?」
同級生と同じ風呂とか冗談じゃない。
確実に気まずくなれる自信がある。
これは、アイリを勝たせるのが全てを丸く収める最善と太一は判断した。
「アイリさん、一緒に勝ちましょう」
「おいこらてめぇ、なんでアタシじゃなくて牛ちちに協力しようとしてんだよ!」
「いたたた! キララさんコントローラーでうめぼしやめて!」
本当に、変わった。
不破満天という少女に出会い、太一の生活は一変した。
太一はこれまで出会ってきた少女たちに囲まれながら、
……やっぱり僕の生活、ほんとバグって来てるよなぁ。
ついでに、
……毎日家に来るギャルが、距離感ゼロでも優しくない、ってどうなんだろう。
などと、しみじみ思うのだった。
ワァ───ヽ(*゜∀゜*)ノ───イ
to be continued……
この内容を持ちまして、本作『WEB版ギャルゼロ』は宣言通り最終回となります
まずは、ここまで読んでいただいた皆様に、最大級の感謝を!!
しかし、皆様お気づきの通り、作品の最後は『了』ではなく『to be continued』です
はい、先日のあとがきから、皆様から続編に関するお声や、ここで中断することに関する厳しいご意見を頂戴しました
そこで、本作はタイトルを変え――
『毎日家に来るギャルが距離感ゼロでも甘くない』
として、来年の4月に新規作品として連載を再開することを決定しました
とはいえ、本作についてはワタシ自身が色々と思うところもあり、少し先の連載となってしまうこと、どうかご容赦いただけますと幸いです
まだ回収しきれていない内容が色々とありますので、次のシリーズで全て書き切ればと思っています
連載開始については、ワタシの『X』や『活動報告』にて告知させていただきますでの、どうぞよろしくお願い致します
それでは、改めて本作を読んでいただけて、ありがとうございました!




