抜け駆け上等、出し抜き推奨、恋はいつもフェアじゃない
※あとがきに重要なお知らせがあります※
――大井視点。
やられた!!
体育祭が終わった直後、大井は帰宅の準備を進める傍ら聞こえてきたぶっとんだ告白の声に、まなじりが裂けるほど目を開いた。
口もアホみたいに開いて体がわなわなと震えているのが自分でもわかる。
教室にいても聞こえてきた不破の全力投球告白。
急に太一が教室から飛び出して行き、なんだろうか、と首を捻って見送った直後のことである。
窓に駆け寄り校庭を見下ろす。視線の先には太一がスマホ片手に立っていた呆然とどこかを見上げていた。
大井は限界まで窓から身を乗り出して上へ視線を向ける。
「――『太一』!!!!!
好きだ~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!」
屋上からだ。
彼女は体を引っ込めて教室を飛び出し、東階段へと走る。
しかし階段に着いた頃には教師たちが慌てた様子で駆け上がっていく姿が映った。
加えて何事かと集まってきた野次馬生徒たちによって進路を塞がれ前に進めない。
「――不破~!! お前なにしてる~!!」
男性教師の怒声が聞こえてきた。
バタバタと騒がしい東階段。
大井がひとの波に押されながら階段を見つめていると、踊り場付近に集まっていた教師たちを押し退けるようにして駆け降りてくるひとりのギャルが視界に移り込んだ。
彼女は段数を飛ばして「邪魔だどけ~~!!」と声を張り上げ教師と生徒の壁を蹴散らして廊下に飛び出してきた。
不意に、彼女と目が合った気がした。
不破はすれ違いざま、
「お前にはぜってえ負けねぇ……」
などと言い放ち、教師たちの追跡を逃れるように廊下を駆け抜けていく不破を見送り、大井は再び唖然とさせられた。
大井は髪をクシャッと握り、歪んだ笑みを口元に浮かべる。
本当にやってくれた。
この騒ぎで確実に多くの生徒が不破の宇津木太一という生徒に向けた感情を知った。屋上から告白などといった行為に注目が集まらないはずはなく、これから二人は学校中で噂されることになるだろう。
それこそ、カップルが成立していないにも関わらず、あたかも二人が付き合っているような空気まで生成されてしまう可能性がとても高い。
不破が太一を意識していることは前から分かっていた。
しかし彼女はその感情を否定し、認めようとしなかった。
それでも、仮に自覚してしまえば彼女が突っ走るんじゃないという大井の予想は、最悪な形で現実のものとなってしまった。
「――っ!!」
大井は走り出した。
スマホを手に太一へ連絡を入れる。
今、彼を一人にしてはいけない。
不破のあの暴走列車っぷりから察するに、このまま彼に言い逃れできないくらいの関係性の決着をこのまま行動に移すかもしれいない。
具体的に言えば、エッチである。
屋上から他人の目も気にせず告白なんてできる彼女が、今さら性行為に躊躇するとも思えなかった。
太一を一人きりにして、不破と合流させてはマズい。
女の勘が全力で警鐘を鳴らす。秋穂の時の比ではない。
「ああ~もう!! なんでこうなるかな~!!」
不破が太一に好意を自覚する時が来るかもしれないという予想はずっとしていた。それがそう遠くない未来の話であることも十分に想定していたのだ。
それなのに、こうまでぶっ飛んだ展開になるなど誰が予想できたのというのか。
「『お前には負けない』? 上等よ! あーしだって、こうなったら手段は選ばないんだから!!」
廊下を走り、教室に飛び込んだ大井は、
『……あ、ヤヨちゃん』
「たいちゃん! 今すぐ学校から離れて! 家に帰って! 鍵かけて! 荷物はあとで届けるから! ハリアップ!!」
『え、え~……』
「急ぐ!! マジで!!!」
困惑した様子の太一に、彼女は声を張り上げた。
教室に残っていた生徒たちが何事かとこちらを怪訝に見つめてくるがどうでもいい。
今はそれどころではないのだ。
慌てて自分と太一の荷物をかき集めて教室から駆け出していく大井の姿を見送る瞳。
会田、伊井野、布山の三人は、全員で顔を見合わせ、
「「「ガチ修羅場きた~!!」」」
と、妙にテンションを上げていた。
(゜∀゜)キタコレ!!
――霧崎視点。
「……」
霧崎は教室の中で聞き慣れた声が響いてきたことに目を細めた。
「さすがにちょっと予想外すぎないかな~、これ」
教室から好奇心の強い生徒が廊下へ走っていく姿が見えた。
霧崎はそんな彼らを見送り、すぐにスマホを取り出す。
さて、どうするべきか。
太一に連絡を入れるか、それとも不破に連絡を入れるか……
いや、そんなことをするよりも先に、やるべきことがあった。窓を確認して、件の男子生徒……太一の姿を認める。
霧崎はにわかに騒がしくなっていく廊下を抜けて、いち早く校庭に出た。
しかし、すでに彼の姿はなく、霧崎はスマホを取り出して連絡を入れる。相手は思いのほかすぐに出た。
「もしもしウッディ。いまどこ?」
『えっと、家に戻ってます。ヤヨちゃんから、さっさと帰れって…………あの、帰ってよかったんでしょうか?』
「全然OK。むしろ寄り道しないでまっすぐ帰りなよ」
『は、はぁ……分かりました。でも』
「もしキララのこと気にしてるなら、ウチから言っといてあげるから。ウッディも頭グチャグチャっしょ? いいから、ちゃんと気持ち落ち着けなって」
『わ、わかりました』
通話を切る。これでいい。
すると、それから少し遅れて不破が校庭に飛び出してきた。
スマホを耳に当てて「ケイ! わりぃけどアタシの荷物回収しといて!」という声が聞こえてきた。
彼女は周囲を見渡し、誰かを探している様子だ。
まぁ、誰かなんてわかり切った話だが。
「キ~ララ」
「あん? ってマイじゃん。なに? アタシちょっと急いでんだけど」
「ウッディなら家に帰したよ」
「は?」
不破の声の温度が下がったのが分かった。
しかし霧崎は臆さず、真正面から対峙する。
「いや~、さすがにウッディもアレは混乱するって。だからさ、ちょい冷静になれる時間を作ってあげないとじゃん?」
「それ、マイになんか関係あっか?」
「まぁまぁちょっとキララも落ち着こうって」
とにかく時間を稼ぐ。
不破の苛立ちが目に見えて募っていくのを前にしても、霧崎は一歩も引く様子がなかった。
ここで引けば、不破は太一に追い付いてしまう。
だから、
「――お~い、不破~。お前ちょっと職員室までこいや~」
「はっ!? くらやん!?」
「お前はなんど面倒かけりゃ気が済むんだ~? 俺さ~、体育祭でマジグロッキーなの? わかる? 屋上から愛の告白とか青春してんじゃ~ん? 今からみっちりと生徒指導してやっから覚悟しろよ不破~……」
ピキピキとこめかみに青筋が見える倉島。
不破はそのまま抵抗虚しく連行されていった。
霧崎は「頑張れキララ~」と彼女を見送り「ふっざけんな~」と暴れる彼女が見えなくなるまで手を振り続けた。
しかし、あの不破と押さえて連れていけるあたり、倉島という教師もなかなかのものである。
だてに問題児の担任を任されたわけではないらしい。
「ふぃ~……これでとりあえず今日のところは安心かな~」
あのまま放置したら、太一がずるずると流されるまま行くところまで行っていたかもしれない。
あとから色々と面倒なことになりそうではあるが、今はとにかくこれで良かったと考えよう。
「しっかし、キララも無茶するな~。あれ、断られた時とか絶対に考えてなかったっしょ……」
いや、あるいは断られても関係なしだった可能性も……一度や二度の玉砕で諦めるほど、不破という少女は往生際が良くない。
「これ、マジでのんびりしてる余裕なくなったかも」
不破のことを霧崎は良く知っている。
自分の欲しいモノのためにはとにかく全力になるオンナだ。
きっとこれから太一へのアプローチも本気になる。
というか、ただでさえ接点が多い二人がこれ以上距離を縮めるようなことがあれば……
……ウッディも、なんやかんやとキララを意識しているところあるっぽいし。
このままでは、一方的に奪われて終わってしまう。
それは……それだけは、
「絶対に許せないかな~、こればっかりは」
霧崎の目が、恐ろしい本気の色を宿していた。
( ꐦ◜ω◝ )
※※大事なお知らせ※※
突然で申し訳ありません
本作『WEB版ギャルゼロ』は、次回の内容を以って連載を終了させていただきます
今回の『不破の告白』で、本作はひとつの区切りを迎えた、と思っています
以前から、ここで連載を終えよう、と考えていたのも理由の一つとしてあります
しかし、メインヒロインがついに主人公への好意を自覚した、という展開を迎えた直後に、打ち切りのような終わり方をするというのは、納得できない方もいるかもしれません
そこで、作者としては少し時間をいただきまして、以降の内容に関しては読者様の反応を見たうえで『ギャルゼロシリーズ』として別作品での執筆&投稿をしようかと考えています
結論は来年の一月中に出させていただき、こちらの作品に新章へのプロローグだけ投稿、リンクを添付して作品へアクセスできるよう対応させていただきます
こちらと同様の内容を『活動報告』にも掲載させていただきますので、ご意見などございましたらそちらへコメントいただければと思います
誠に勝手ではございますが、ここまで読んでいただいた読者の方たちには本当に感謝しています
『本当にありがとうございました!!!!!!』
とはいえ、まだ一話残っておりますので、どうか最後まで本作をお楽しみいただければ幸いです




