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【Web版】毎日家に来るギャルが距離感ゼロでも優しくない  作者: らいと
5:宇津木太一は負けられない
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本気でやれよ、そしたら面白くなるから

 太一と不破のチームは順当に決勝までコマを進めた。

 

 不破は自身の圧倒的な力量を発揮して点を稼ぎ、太一のチームも西住と仲持を軸にした戦術でここまで勝ちを決めてきた。

 

 仲持いわく、今回の体育祭は不破との件が絡んでいるのもあってか西住自身かなり本気で試合に臨んでいる。


 不破と西住のギクシャクした今の関係をどうにか修正する。

 それが太一と仲持の目的。

 

 現状、二人の仲違いが原因でクラスは男女で完全に分裂している状態にある。

 他の学年、他のクラスが男女で女子も男子も関係なく応援に駆けつけている中、自分たちのクラスは女子と男子で完全に分かれて応援している状況が目についた。


 しかし、クラスの内部では秘かに恋仲に発展した生徒たちがいる。

 彼らとしても本来なら相方の応援に駆け付けたり、そうでなくとも周囲の空気に同調して男女関係なく盛り上がりたい層もいるはずだ。


 それが、クラスという枠組みの空気を読んで自粛を余儀なくされている。

 誰かが言いだしたわけでもないし、強制したわけでもない。

 それでも『空気』、『雰囲気』、『暗黙の了解』といった見ることも肌に触れることもない鎖はクラスの行動を一定の方向へと誘導してしまう。


 そしてそれは、本人の意思とは関係ない『やらされていること』なのだ。


 こうしたいのに、ああしたいのに、そうしたいのに……


 太一の目には秘かに漏れ出る彼らの不満が少しだけ見える気がした。

 自分たちの行動を制限する原因に向ける、どこか攻撃的な眼差し。

 女子バスケ準決勝で、クラスの女子たちが不破に対して向ける、発散できずにいる鬱屈した感情が乗った視線……


『いっちゃん最悪なのは、クラス全体でキララを攻撃する流れができるかもしれねぇってことだ』


 以前、仲持と初めてまともに会話した時に出てきた彼の言葉。

 以前、仲持から見せてもらったクラスの秘匿された裏のLINEグループに寄せられた愚痴の中には、不破を名指しで批判する声が大きくなってい現状を見せつけられた。

 

 今のような状況になった大きな要因となった不破という少女。最後の決定打(トドメ)となったのは間違いなく不破の言動だ。


 自分たちの自由な交友関係を制限した張本人。

 だが決して彼女だけが悪いというわけではない。

 太一の勘違い、西住の言葉足らずな上に過激な発言……

 しかし、周囲の生徒たちは不破という少女の言動だけが大きくピックアップされてしまっている。


 それはきっと、最後の西住との喧嘩で不破が彼をやり込めてしまったからだろう。


判官贔屓。


 西住に対するクラスの感情は、どちらかといえば同情に近いものがあった。

 女子の中には彼に対する批判的な意見も多かったようだが、それでも時間の経過で不破へのヘイトだけが蓄積している現状があるのは既に可視化されてしまっている。


 それはきっと、自分たちが男女の付き合いを自粛している中、自分一人が好き勝手に太一という特定の男子と懇意にしているという状況に不満を募らせた結果だろう。


 それでもまだ声を上げないのは、やはりまだクラスの者たちは不破が怖いのだ。

 しかし、個々では恐れる相手も、集団となれば話が変わってくる。

 群集心理……個人ではできないことも、集まればできてしまうようになる。

 

 クラスで男女の分裂が起きてしまった原因である彼女を攻撃しても、それが許されるのだという心理状態に移行し、何も考えることなく、ただ攻撃衝動にかられるまま個人へ向けた武力を行使する。


 いわゆる――いじめの始まりだ。


 それは決して許されることではない。クラスの者たちもそれは理解しているだろう。

 だが、それは自分たちの行動がいじめに該当していると気付ければの話だ。

 人間というのは自分の行動を正当化する生き物だ。

 他人から『ソレは間違っている』と指摘されても否定の感情が先に湧き、認めることは滅多にない。


 群集心理は思考能力も低下させる。自分のしていることを客観視できなくなるばかりが、正しいことをしていると勘違いさせることも珍しくない。


 他人が他人を攻撃できる正当性など、よほどでもない限りあるはずもないというのに……


 太一は恐れている。

 不破がクラスで孤立する未来が、すぐそばにまで迫っている現状がある事実を。

 焦りもある。

 故に、不破を穏便に説得するという選択を捨てて、勝負という形で彼女に行動を促す選択を採った。


 ……だから僕は、


 ――敗けられない。


 未来は分からない。もしかしたらただの勇み足かもしれない。それでも仮に動かないまま不破の身に不幸が降りかかるかもしれないのなら――


 ……笑われてもいい、考えすぎと呆れられてもいい、罵られてもいい、バカにされてもいい。


 それでなお、太一は憧れの存在に降りかかる火の粉を前に、全力を尽くすと決めたのだ。


 さぁ、いよいよ体育祭も大詰めだ。

 バスケの試合も残りひとつ、決勝を残すのみ。


 体育館、ネットで男女の試合を区切った左右のコートで、太一と不破のチームは同時進行で試合を繰り広げる。


 泣いても笑っても、これが最後だ。


 試合前、ネット越しに太一と不破の視線が僅かに交差する。

 しかしお互いに声を掛けることはせず、すれ違うように自分たちの試合に向けてコートへ入る。


 そして――決勝戦が始まる。



        カーン!

 ( º( ºω( ºωº ) VS ( ºωº )ωº )º )



 太一、不破の対戦相手はどちらも3年の先輩。

 運動部を中心としたメンバーで構成された運動能力の高いチームである。すでに大会も終わりほとんど生徒が引退している。

 これまでのチームは不破や太一と対峙した時点で怯む生徒も珍しくなかったが、さすがに決勝まで勝ち上がってきただけあって彼らは各クラス内でもカーストトップに位置する生徒たちである。

 さすがに顔を見ただけで臆してくることはない。

 逆に、3年を押し退けて決勝まで勝ち進んできた後輩たちに厳しい視線を向けてくる。

 

 ――太一視点。

 

 対戦相手の中に明らかにひとり、頭一つ抜きんでた身長の生徒が交っている。

 

 190に届く長身、ワックスでツンと逆立てた髪型に巌のような顔つきもあいまって圧が凄まじい。

 いわく、彼はサッカー部の元部長で今は引退、ポジションはキーパーだったらしい。

 なるほど最後の砦としてこれだけ頼もしい存在もそういない。

 対峙しているだけで上から押さえつけられるようなプレッシャーに襲われる。


 彼だけではない。

 目立つ存在の影に隠れがちだが他の生徒たちの顔つきも堂々としたものだ。

 体操服の上からも分かる引き締まった体はサバンナの肉食獣を彷彿とさせるしなやかさと力強さを感じさせる。


「…………やっべ三崎先輩ガチで睨んでくんだけど」


 仲持が頬を引きつらせる。

 彼もサッカー部所属で、三崎と呼んだキャプテンとは顔見知り。

 しかしどうも会話からそこまで親しいという間柄でもないようだ。


「よぉリッキー。まさかお前のクラスと決勝とかマジで意外だったんだが。お前、別に部活とか真面目に取り組むタイプじゃねぇだろ」

「まぁちょい色々ありまして……」


 目を逸らしながら仲持は頬を掻く。

 

「なにこいつミッチーの知り合い?」

「部活が一緒ってだけな」

「ふ~ん」


 ミッチーこと三崎の視線に合わせて他の先輩たちの視線が仲持に集まる。

 彼は居心地悪そうに顔を逸らした。


「ふぅ……」


 そんな中、太一はひとり呼吸を整える。

 相手は先輩。しかも見るからに正確にアクが強そうな面子が揃っている。


「はぁ……まぁなんでもいいけどさっさとおわらっせぞ。せっかくマチとのんびりできっかもしれないと思ったのに決勝とかダル過ぎ」


 すると、3年の中で一人、気だるそうに耳の穴をほじる生徒が心底めんどくさそうに後ろへ下がる。


「ヤギ、ウッザ。ここでカノジョいますアピールとかマジでお前ないわ」

「ええ~。だって別にここで勝ったからってなんもねぇし。それならカノジョといちゃついていた方がマシじゃん」


 ヤギこと柳津やない。テニス部に所属していた。テニス部の後輩女子と交際中。この軟派な見た目に反して意外と一途らしい。


「でもしゃあねぇ。後輩に負けたとかマジでないし、そんなわけだから、適当に負けてくれっと面倒なくていいんだけど?」


 などと、柳津の発言に西住は青筋を立てる。

 しかし、そこで前に出たのは、


「すみません……」

「あ? うぉっ、んだよお前」


 これまで後ろに控えていた太一が前に出る。

 正直、この手の相手には関わりたくない。

 目をつけられてあとあと面倒なことにもなりかねない危うさがある。

 それでも、太一は自身の試合に挑む心境から言わずにはいられない。


「こっちも、負けられない……負けられない事情があるので、勝ちたいと思ってます」


 緊張から眉間に皺が寄る。

 確かに他の生徒たちと比べて太一の顔面をそこまで恐れない彼らだが、力の入った表情はもやはヤ○ザのそれに近い。


「……別に好きにすればいいんじゃねぇの」


 柳津が頬を引きつらせる。

 すると、三崎が太一の前に立って見下ろしてくる。


「あんまし調子にのんなよ」

「……適当に試合を流そうとしている先輩たちに負けるとは思えないです」


 めちゃくちゃ怖い。

 ハッキリ言ってなんでこんな喧嘩腰で相手をしないといけないのか分からない。

 先輩だの後輩だの面子だのプライドだの。


 きっと彼らとしても2年生に舐められて面白くないだろう。威嚇してくる眼光はそのまま暴力のようである。


 しかし――


 不破の圧の方が、もっと恐ろしい。

 彼女の怒りをまともに受けてきた太一は、真っ直ぐに三崎と視線を合わせる。


「おい宇津木」


 と、不意に西住に肩を組まれる。


「んなガチになんなよ」

「ちょ、西住く、」

「どうせ、俺たちが勝つんだからよ」


 そう言って、挑発的な笑みを浮かべて太一と共に三崎たちを睨み据えた。


「う~し、そんじゃ場も温まったところで試合はじめっか」


 と、2年の学年主任である倉島がボールを手に現れ、両チームの間に立った。

 どうやら先程までの様子を遠巻きに観察していたらしい。止めに入るでもなく、良い性格をした教師である。


「喧嘩すんのは結構だが問題は起こすなよ~。俺がダルいから」


 そして本音も隠さない。

 

 ジャンプボールは西住と三崎。

 こうして改めて並ぶと三崎の身長がどれだけ高いのか分かる。


 ――そして、


 ピィーーーーッ!!


 ホイッスルの音と当時に倉島の手からボールが宙へと上げられる。


 最初にボールに触れたのは……三崎だ。


「っ!!」


 西住は体格の差で跳ね飛ばされ、後ろへと下がる。

 相手チームに渡ったボール。

 先輩の一人が一気に加速して太一たちのコートへ一気に駆ける。


 速い。


 これまでとは明らかに足の速さが違う。

 準決勝でも相手の技量や脚の速さはあった。

 しかし今回の相手はそれよりもさらに巧みであっという間にゴール下に入り込まれてしまった。


 クラスメイトの二人は先輩に対して遠慮気味なのかブロックが弱い。


「まず一点――」


 と、先輩が悠々とゴールにボールを放つが、


「ん”っ!!」

「はっ!?」


 そこに、太一が割り込み相手の放ったボールを叩き落とした。

 明らかに後輩チームを置いてきた自信があったところに割り込まれた衝撃で驚愕の表情を浮かべる先輩。


 フリーになったボールを仲持が確保。


「トオリ!」


 西住に合図を出して二人で前に出る。

 太一もその後を追って走り出した。

  この戦いは先輩たちに勝てればいいわけではない。

 不破が決勝で負けるわけがない。そんな甘い予測は最初からしてている。

 ならば、もう一つの勝負である、獲得点数での勝負も乗ってくることになる。


 ――勝つ!


 先輩にも、そしてなにより、


 ――不破さんに!



 ╭( ・ㅂ・)و ̑̑ グッ !

そろそろ太一がなんでガチで勝ちたいのか忘れているかもしれないと思い出し描写追加しました

思ったより文字数が増えたので、明日に不破サイドの試合状況を投稿します!


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