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【Web版】毎日家に来るギャルが距離感ゼロでも優しくない  作者: らいと
5:宇津木太一は負けられない
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味方の時は普通なのに敵になった途端クッソ強くなる現象

「―おらっ!!」


 不破が敵陣に突っ込みシュートを決める。

 対戦相手の女子生徒は先輩のはずだが全く遠慮も加減もない。


「ナイシュー!」

「いやキララ一人で前出過ぎだから」

「でもそれで得点できちゃってるんだよな~」


 会田とタッチを交わし、伊井野と布山が苦言を漏らす。

 大井は布山の隣で「パスは不破さんに全部回す感じでよさそうだね」と一人冷静に状況を口にする。


 大井は不破とは逆に少し後方に控えて相手チームが切り込んできた時にそれを阻止する。

 彼女自身バスケの経験はほとんどないが、動けるインドアとしてうまいこと相手の得点を防いでいた。


 会田たちも不破と付き合いがそれなりに長いだけあって息があっている。

 最近は太一たちと過ごす時間も増えて絡みは減っているはずだが、それをほとんど感じさせない連携感。


 正直、大井がいなくともこのチームはうまいこと回っていただろう。


 ……あーしはどっちを応援すればいいのやら。


 大井がこのバスケに散会しているのは布山の勧めもあったからだ。

 学校では趣味が合う彼女とよく話をしている。布山も自分の興味関心のある分野について話ができる相手である大井のことを随分と気に入っているようだ。

 そんな繋がりもあってチームに参戦、無難に自分の役割をこなしていれば彼女たちと一緒に優勝することも可能だろう。


 しかし、今の大井は内心すこし複雑な心境だった。


 ……たいちゃんのチームを応援するならあーしが全力出すってのもねぇ。


 それがあまり褒められたことではないのは確かだが、惚れた相手をあえて全力で叩き潰しに行くというのもどうなのか。

 まさか太一にそんなことを訊くわけにもいかず、


 ……まぁ、状況が仮に不破さんの方に転んでも、あーしとしてはライバルが減るだけなんだけどさ。


 今の不破は太一に対してなかなか複雑な感情を抱えている。

 苛立ちと好感と興味とあまのじゃく。

 もしこの体育祭で不破が太一に勝利したら……


 ……きっと何もない。そう、なにも。


 不破の感情が太一にこれ以上傾くことも、西住との関係改善も、なにも。


 太一はその果てに不破が孤立する未来を描いているようだが、そうなった責任は本人にある。太一には何ら責任はない。

 もし仮にその余波で太一にまで被害が及ぶようなら、大井は自分の持てる手段の限りを尽くして相手を叩き潰して息の根を止めるだろう。


 不破のことも、太一から遠ざける。

 彼にとって害悪になるならたとえ彼女であろうと容赦しない。

 大井の中で既に優先順位は確定しているのだ。


 ……だから、別にどっちが勝ってもいいとは思うんだけど。


 こんなことを考えている自分が嫌になりつつ、


「はい、ごめんね」

「あっ!?」


 大井は相手女子からボールを奪い伊井野へパス。

 既に走っている不破につなぎ、


「しっ!」


 ほとんどフリーの状態からスリーポイントシュートを決め、既に決まりつつある点差に更なる一撃を加えた。


「ほんっとに彼女ってなんでもできるよね~……」


 モデル業にスカウトされた経験もあるルックス、高い運動能力、教科書を読んだだけで平均点を取れる地頭の良さ。

 人を選ぶような性格はマイナスだが、意外と付き合ってみると接しやすい部分もある。なにより身内にはめっぽう甘い。周囲から恐れられる反面、男子や一部の女子からの人気があるのも頷ける。

 粗野な印象と異なり、不破のスペックはやはり高い。


 尤も、実直な反面、ひねくれているところはひねくれているのだが。


 仮に、不破がもっと素直な性格だったなら。


 ……今ごろはたいちゃんと良い仲になってたかもしれないよね。


 相手に弾かれてコースの外に零れそうなボールをひっそりと布山が回収、会田がボールを受け取り不破と並んで相手コートの奥と突き進む。

 

 2年だけでなく他の学年にも広く知られている不破。

 その陰に隠れがちだが、会田たちも派手な見た目の割になかなか動けている。

 今でこそ帰宅部だが、中学校時代は運動部に所属していたこともあるようだ。


「うえ~……めっちゃだるい……」


 ひとり、布山だけでは今も昔もインドア派閥で。この体育祭に向ける意気込みはほぼ皆無だ。

 とはいえ、


「おととと……」


 彼女は全体をよく見ている。

 ボールが流れてきそうなら先回りして相手よりいち早く確保。彼女自身が前に出ることはないが、逆に彼女がいるために相手チームはほとんどこちらのコートまで抜けてくることができずにいた。


 ……何この無駄にハイスぺなチーム。


 現役のバスケ部部員と比べることはさすがにできないが、ちょっと運動ができます、という程度の女子ではほとんど相手にならない。

 

 大井の目から見て、このチームは普通に決勝まで勝ち進むだろうことを、ほとんど確信していた。


「っしゃあ!!」


 不破がましてもシュートを決める。

 得点差は歴然でここから相手チームが巻き返すことはほぼ不可能な領域。


 不破たちは一方的な蹂躙劇の様相を呈しながら、着実にチームで勝ち星を稼ぎ、順当に決勝トーナメント進出を決めていた。



 ( ・᷄ὢ・᷅)و ̑̑ グッ !



 自分たちの試合を終えた太一たちが、不破たちの試合を観戦する。


「キララ相変わらずえぐ」


 試合中の不破を見つめて仲持は頬を引きつらせる。

 西住は腕を組んで不破の動きを観察していた。


 そんな二人の傍らで太一は、


「すごい……」


 思わず言葉が漏らした。

 語彙など必要ない。不破の活躍は他の追随を許さず、烈火を纏った華のような美しさを感じていた。

 

 ワンマンプレイが目立つというのに、それさえも力強い不破という少女を印象するアクセサリーのように見える。


 周囲の少女たちよりも高い身長、靡く金の髪、敵陣を見据える獅子のごとき瞳にどこまでも惹き付けられてしまう。


 ……これが、僕が勝ちたい相手。


 改めて、不破という存在の大きさを思い知らされる。

 彼女がシュートを決めるたびに太一の中心がギュッと鷲掴みにされるような感覚に襲われる。

 

 知らなかった――

 自分がここまで他人に心を奪われることがあるなどと。


 不破には以前から憧れの感情を持っていた。

 しかしそれはいつしか並びたいという願望へと変化し、ついにはこうして勝負を挑むまでに気持ちが膨らんでいた。

 

 それでいてなお、不破の試合を前にしては彼女の圧倒的なプレーに視線を奪われ、離すことを許さない。

 完全な脅威だというのに、今の太一には純粋なまでに称賛しかなかった。


 その上で、


 ――勝ちたい。


 強く、強く、渇望するように。


「キララ、すごいっしょ」


 と、不意に声を掛けられて意識を引き戻される。

 いつの間に近付いて来たのか、霧崎が太一の隣で不破の試合を観戦していた。


「去年もあんな感じで、ほとんど一人で突進して得点稼いでたんだよ」

「霧崎さんは、一年の頃から不破さんと仲良かったんですよね」

「同じクラスだったからね」


 同時から二人とも真面目に授業を受けるようなキャラではなく、遅刻サボリは当たり前。

 学校を抜け出しては街に遊びに行っていた。


「キララはウチと同じであんまし学校行事とかは興味ない方だけど、いざ参加するって決めたら全力だから」

「……分かる気がします」


 ダイエットをすると決めた時も、不破は普段の不真面目な態度からは想像もできないような集中力と粘り強さを発揮して今のスタイルを取り戻した。

 

 以前、偶然にもバッタリと遭遇してしまった脱衣所で目にした彼女の裸身は、見惚れてしまうほどに美しかったのを覚えている。

 

「キララ、今回は前にもましてガチっぽいね。なんか熱気が違うっていうかさ」

「……はい」

「勝てそう? アレに?」

「勝ちます」

「へぇ、即答するじゃん」

「そうですね」


 なにせ、気持ちまで負けてしまえば、勝利を手にできる確率は万に一つもないのだから。


「僕はただ、チームで全力を尽くすだけです」

「そっか……それじゃ、前は選挙で色々とお世話になったわけだし、全力で応援してあげなきゃね」


 バシバシと背中を叩かれる。

 自分が無謀なことを口走っている自覚はある。


 それでも、


 ……負けたくないから。


 不破と西住のためだけではない。自分自身のためにも、太一は、彼女との勝負に勝ちたいという欲求が、着実に大きくなっていくのを感じていた。



 ○≡(º∀º○)

明日、明後日は投稿をお休みさせていただきますm(_ _)m

次回の更新予定は、29日(金)になります

お楽しみに!!

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環境が変えた部分も少なくは無いとしても、 最後は天から降ってきたギフトではなく、 自らの奥底に眠る気持ちを奮い立たせて挑むか… 良い感じに成長しているなあ
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